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KDDIらの「未来の都市」パビリオンには180万人以上が来場、大阪・関西万博で残したもの
2025年10月13日 06:00
10月13日、いよいよ大阪・関西万博が閉幕する。開会前にはチケットの売れ行きが不安視されることもあったが、日に日に人気が高まり、終盤には毎日20万人を超える来場者が詰めかけた。
携帯電話に関わる企業では、NTTグループが単独でパビリオンを出展したほか、KDDIが日立製作所とともに「未来の都市」パビリオンのなかでシアターなどを展開していた。万博最終週、本誌は「未来の都市」パビリオンの担当者にこれまでの手応えを聞いた。
取材に応対したのは、「未来の都市」パビリオン副館長で2025年日本国際博覧会協会(万博協会)の大畠亮介氏とKDDIブランドマネジメント部で「未来の都市」パビリオンのKDDI・日立製作所運営責任者の室伏宏通氏の2人。
未来を考えるパビリオン
KDDIや日立製作所など12社1団体が共同で取り組んだ「未来の都市」パビリオン。このうち、KDDIが日立製作所とともに展開した2つのエリアのうち、「Mirai Theater」(ミライシアター)とは、2035年という近未来からのSOSを受け取った来場者が、スマホで選択肢を選んで、未来の課題を解決するというもの。
もう一方の「Mirai Arcade」(ミライアーケード)では、ゲーム感覚で社会課題を解決できるというもの。シアターとあわせて、未来を担う人材である子供に向けたものと言える。
このうち「Mirai Theater」では、来場者が自分の望む未来に投票し、それに沿った内容が投影されるという仕組みが用いられた。スマートフォンを使った投票システムであり、選択肢の内容は遠い未来ではなく、「これ知ってるよ」「もうすぐ来るよね」と感じられるようなものだった。
これは「未来の都市」が「10年後の未来(2035年)」という設定であり、地に足のついた未来を見せたいというコンセプトがあったためだ。
そこで、まだ見ぬ空想上の技術ではなく、今ある技術を組み合わせると実現できることをポイントとしていた。来場者自身が主体となって未来を考えるという点を重要視していたことから、KDDIと日立によるシアターながら、両社の名前は示さないことも意図されていた。ちなみに投票とは言え、来場者の属性データは取得していない。
会期前には予想できていなかったこと
大阪・関西万博の開幕に向け、「未来の都市」はおおよそ4年ほどかけて準備を進めてきた。室伏氏によれば、準備中には、万博をテーマパークのように捉える人が多いだろうと予想し、「未来の都市」もエンターテイメントに寄せる方針だった。
しかし、始まってみると、実際には学びを求めてくる来場者が多いという発見があったという。
そこで、「未来の都市」内にある「Mirai Theater」(未来シアター)に入る前に待機する部屋(前室)では、来場者向けに流す映像を、技術の紹介やテキストを用いた説明を盛り込んだものに変更した。
さらに来場者に対するアンケートによると、滞在時間は、30分~1時間以内が最も多かったという。ほかの海外パビリオンが30〜40分程度のところが多く、「未来の都市」の滞在時間は比較的長い方であると考えられている。ちなみにリピート率は、初来場が78%となり、2回目以降の来場は2割程度だった。
未来の選択(投票結果)の傾向は?
シアターで提示された選択肢は「未来の食と健康」などの選択肢への投票が実施された。その集計結果を見ると、たとえば「未来の食と健康」では、健康なライフスタイルをすぐ見つけられるようにするという「ヘルスケアシティ」を選ぶ回答がほぼ半数(49%)を占めた。
一方、ほかの人と離れていてもいっしょに食事を採れる「シンクロシティ」といった回答は選ばれにくい傾向があった。
室伏氏は、よく選ばれた回答は、生きるために必要な健康や学びが含まれていること、一方、選択数が少なかった回答は「今、普通に幸せな人に対する、さらに楽しみポイント」といった付加価値的な要素に近かった、と解説。現実を生きていく上での課題意識の結果が回答に反映されたとの見立てを示した。
来場者
ちなみに、「未来の都市」パビリオンとしては、会期中180万人を目標としていた。取材時点の10月8日には182万人に達しており、会期中には190万人に届くかどうかという状況となった。
目標を上回る結果ということであれば、順調だったと言いたくなるところだが、“中の人”にとっては、計画通りに進めるための工夫が必要だったという。
そのひとつがロケーション、つまり「未来の都市」パビリオンの場所だ。
大阪・関西万博全体では、東ゲートと西ゲートという2つの出入口がある。「未来の都市」は西ゲートからほど近い位置ではあったが、会場全体で見るとほかのパビリオンからは離れていた。東ゲートから入場する人にとっては遠く、いくつもパビリオンを訪れたい人からすれば、ルートから外しやすい場所とも言える。
そのため、西の端にある「未来の都市」パビリオンは集客のための工夫が必要だった。そのための取り組みのひとつは、万博キャラクター「ミャクミャク」が横に寝そべる像を、西ゲート近くの風の広場へ設置したこと。
「未来の都市」パビリオンでも、12社が参加していることから、それぞれの企業からの発信を強化。さらには、もともと予約者のみ受け付けていたところ、空いている時間帯は予約なしの人も受け付けるように変更するなど改善策を打ち出し、集客につなげていった。
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「未来の都市」のレガシー
このほか、「未来の都市」の特徴として、団体予約(特に学生や学校関係)が非常に多い点が挙げられる。会期初めの4月、5月頃の段階で、会場内の団体予約数でナンバーワンになっていた。
KDDIでは、「未来の都市」パビリオンが未来に向けた人材の育成に貢献できることを目指していたとのことで、室伏氏は「子供たちが自分で未来を選択する、という機会を提供できたことは、今後の未来づくりに繋がるのではないか。今回の展示にして良かったと思っています」と今後への期待を示した。
シアターの後に用意された展示コーナーでは、未来のトラクター、水素を生成する船などが展示されており、わかりやすく未来の姿が示された。KDDIと日立によるシアターとアクションゾーンは、単に通信技術を強調するだけでなく、「未来をどう作っていくのか」という形を示すものであり、「未来の都市」に参画した各社が提示する近未来は、万博らしいワクワク感を感じさせると同時に、今の課題も考えさせる内容だった。
今春、KDDIの代表取締役社長へ就任した松田浩路氏は、科学に目覚めたきっかけが1985年のつくば万博だったと語る。
副館長の大畠氏は、会期を通じて「万博」に対する認識が改まったという。万博のシンボルのような存在ともなった「大屋根リング」の周辺は、海外各国のパビリオンが集結。世界の縮図であり、万博が時代を反映するプラットフォームという点で面白みを感じたのだと語る。
万博がもたらすそうした環境は、「時代を捉えたサービスの紹介」や「万博で展示する意義」を深く掘り下げることにつながった。そうした場のひとつである「未来の都市」へ多くの学生・子供たちが来場したことは「大きな財産であり、大阪・関西万博のレガシー(遺産)になるだろう」と語っていた。
















