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JCOMがGeminiをコールセンター業務で活用、エージェント型AIで業務支援

 さまざまな場所での活躍が期待されている生成AI。データをまとめるのが上手い特徴を活かし、Webの検索や、社内資料を横断した検索などへ活用されている例も見られる。

 そんななか、ケーブルテレビやBS放送などを手がけるJCOMでは、ユーザーからのさまざまな声が集まる「コールセンター」の業務にグーグル(Google)の生成AI「Gemini」やデータセンター基盤「Google Cloud」を活用している。業務支援ツールに生成AIを組み込む形で活用されている。どのように活用し、成果を上げているのだろうか?

ユーザー接点でAIを活用

 JCOMでは、全社で生成AI活用への取り組みを進めている。最も活用が進んでいるのが、カスタマーセンター領域とマーケティング領域だといい、解像度の高い顧客理解や感情分析、パーソナライズされたマーケティングなどさまざまな部分で活用を進めている。

 とりわけ、ユーザー接点となるカスタマーセンターにおいてAI活用が進んでおり、顧客対応や応対履歴の確認やユーザーの問い合わせ内容に応じた応対判断や、通話終了後の要約機能、オペレーター業務改善に向けた評価や改善といった部分でAIを活用している。

 1日に記者向けに行われた説明会でJCOMカスタマーリレーション戦略部長の荒井平八郎氏によると、これらのAIツール群を「JAICO」(社内公募で決定)と呼称し、現在1000人以上のオペレーターにより活用されている。月間20万件以上の要約データを生成し、月間1500時間の業務時間削減効果があったという。

JCOMカスタマーリレーション戦略部長の荒井平八郎氏

JAICOの機能

 JAICOの機能として「ユーザー情報レコメンド」、「ナレッジレコメンド」、「ユーザー満足度、応対品質評価」、「通話履歴要約」機能が挙げられる。

 「ユーザー情報レコメンド」機能は、コールセンターや現地作業など直近のユーザー接点を把握できる機能。たとえば、利用料金の滞納が発生している際はその情報を表示し、応対へ役立てているという。「ナレッジレコメンド」機能は、ユーザーとの会話の中から問い合わせの意図を識別し、オペレーターに対応する資料を提示するなど、次の対応をサポートする。「ユーザー満足度、応対品質評価」機能は、ユーザーとの通話品質を評価し、オペレーターの対応品質向上を図るもの。「通話履歴要約」や応対内容を要約し、分析データとして扱いやすい形のものを保存する。

JAICOのイメージ
「ナレッジレコメンド」機能
「ユーザー満足度、応対品質評価」機能

 これらの機能により、生産性の向上と履歴内容の均質化を図っている。荒井氏によると、従来のオペレーターによる履歴保存では、オペレーターにより品質がまちまちだったというが、JAICOでオペレーター依存がなく、全件統一した履歴を残せるようになったという。

 また、これらの機能は、グーグルの生成AI「Gemini」を使って実装している。従来は人の力で通話内容を分析していたが、AIを活用しリアルタイムで解析できるようになったため、たとえば「急に大量の問い合わせ電話があった」場合も、どういう理由で急騰しているのかをリアルタイムで分析でき、スピード感を持って対応できるようになる。

感情分析

 開発当初は想定していなかった機能として荒井氏は「感情分析」機能を挙げる。これは、履歴要約の部分で、ユーザーが電話を掛けてきてすぐと終了する前の感情を3段階で分析する。ネガティブ→ポジティブと前向きな感情の変化になるような応対を目指すことで、ユーザーの満足度向上をねらう機能になっている。

 これまでは、ユーザーアンケートによる満足度評価を指標としており、電話全体の3%程度しか評価できていなかった。AIによる評価では、これを実質全数評価できることになり、「真の“顧客の価値”を有意義に出せる」と荒井氏は評価する。

生成AI活用の目指す姿

 JCOM上席執行役員CX・マーケティング部門長の野橋亜弓氏は、生成AIの活用について「ユーザーに近い部分からスタートし、バリューチェーン全体に波及していきたい」とコメントする。同社のユーザー接点は、コールセンター以外にもユーザー宅への設備工事などで技術スタッフが訪問するシーンなどにもある。そういった際に、生成AIがスタッフにトラブルが起きないようなアドバイスができるものが期待される。

JCOM上席執行役員CX・マーケティング部門長の野橋亜弓氏

 最終的には、ユーザーと生成AIが直接つながり、ユーザー満足度向上を図ることが考えられている。野橋氏は、同社のユーザー構成を「50歳以上のユーザーが多い」とし、スマートフォンでの入力や複雑な操作をせずに直接声で会話しながら「オススメコンテンツを紹介する」など、エージェント型AIの開発を考えているという。

アクセンチュアとグーグルの役割

 JAICOの開発には、アクセンチュアの支援のもと、グーグルのGeminiやGoogle Cloudを活用して進められた。

 アクセンチュアのテクノロジーコンサルティング本部アソシエイト・ディレクターの脇坂龍峰氏によると、同社内にはさまざまなAIの専門家が在籍しているという。AIを中心に扱う組織が立ち上げられており、さまざまな領域のAI専門家がいるほか、グーグルとのアライアンス関係をグローバルで構築しており、グーグルの新しいソリューションをいち早く利用でき、トラブル発生時も迅速に対応できると話す。

アクセンチュアのテクノロジーコンサルティング本部アソシエイト・ディレクターの脇坂龍峰氏

 JAICOの開発にあたっては、JCOMの業務支援システムの中に組み込まれる形で実装された。これまでのシステムと同じようなUIとすることで、スタッフが親しみやすいものとなっている。システムの裏側では、APIを新設し、視聴率情報からユーザーの応対情報などさまざまな情報を取得し、Geminiに渡して生成している。Geminiの活用には、最適なプロンプトの作成が欠かせないが、脇坂氏は「プロンプトの調整に約6カ月間かかった」とし、意図していない回答やハルシネーションの防止などを図るべく、試行錯誤を重ねて精度を上げたという。

 より正確な回答を導き出すため、プロンプトだけでなくGeminiが参照するデータの構造自体も工夫を重ね、AIが理解しやすいようなものとしている。

 データセンター基盤となるGoogle Cloudでは、生成AIを活用したソリューションを組み立てやすいよう、さまざまな機能を備えている。Google Cloudデータアナリティクスソリューションリードの高村哲貴氏によると、同社では「AI最適化プラットフォーム」を提供しており、さまざまなレイヤーのソリューションを組み合わせて、企業それぞれが持っているデータや用途に合わせたAIソリューションを、少ない負担で開発できるという。

Google Cloudデータアナリティクスソリューションリードの高村哲貴氏

 また、AIソリューション開発を支援するエージェント型AIも用意している。膨大なデータを処理するデータサイエンティストを支援するものや、機械学習のアルゴリズム作成を支援するものなどを用意している。専門家のタスクを効率化することで、より多くのソリューション、ユースケースを創出できると高村氏は語る。あわせて、専門家ではないユーザーが、ちょっとした機械学習を簡単にできるようになる「データ活用の民主化」にも貢献できると話す。

 高村氏は、JAICOの事例について「これだけの規模で本番活用して実績を上げられているのは稀有。ソリューションで生まれる価値が省力化だけでなく感情分析など1つのデータ分析の中で多くの価値が生まれている先進的な事例」と評価。JCOM荒井氏は、生成AI活用の目指す姿について「生成AIで削減できたリソースはほかの業務に振り分ける。デジタルで解決できる業務は増えてくるが、人でしか対応できない業務が完全にはなくならない。ユーザーの年齢層が高いので、人の手で手厚くサポートすることが重要」とし、今後はAIの手を借りながらも、人間による人間らしい対応を継続する姿勢を示した。

左からアクセンチュア脇坂氏、JCOM野橋氏、荒井氏、Google Cloud高村氏