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「2.5GHz帯の追加割当はUQ」、一部報道で孫氏怒りの会見
(2013/7/25 21:46)
「10MHz幅ずつの割り当てになればイコールフッティングになる。総務省からそう言われて申請した。そこへ明日、突然、臨時の電波監理審議会が開催されると聞いた。一部でUQに決まったと報道され、審議会が開催されていないのに出来レースなのかと総務省へ聴きにきたら、どうもそのようだ、という感触を得た。国民の財産である周波数を、総務省内の数名の人間が主観で、サマリーシート(要約資料)だけ見て決定する、そのプロセス自体がおかしいのではないか。これに対して我々は不服審判、あるいは行政訴訟を検討する」
「KDDIには、総務省の元幹部が天下りしている。KDDIと総務省に癒着があったかと疑わざるを得ない。密室の判断で、主観で点が付けられる。これを改めなければ日本は近代社会になれないのではないか」
25日午後、憤りをあらわにして、総務省への抗議を終えた孫正義氏が報道陣に向けて、冒頭語った内容だ。
新たに割り当てられようとしている、2.5GHz帯の免許について「UQコミュニケーションズに割当」との一部報道を受け、孫氏が報道陣の質問に答えた。高速データ通信サービス(Broadband Wireless Access、BWA)を展開するWireless City Planning(WCP)の取締役COOである宮川潤一氏も囲み取材に参加した。
「総務省から10MHz幅にしましょう、と言われた」
孫氏と宮川氏によれば、今回の抗議までは、以下の経緯を辿ったという。
現在、UQとWCPが利用する2.5GHz帯はいわゆるBWA、つまり高速ブロードバンド用の周波数帯とされている。UQではWiMAX、WCPではAXGP(TD-LTE互換)という異なる通信方式を用いるが、どちらも時分割(TDD)方式に分類できる。WiMAX側は次世代の方式としてTD-LTEと互換性のある方式を採用する方針で、両社ともにTD-LTE準拠のサービスになる見通しだ。
今回、新たに利用できる帯域が20MHz幅(場合によっては10MHz幅を2社)、追加されることになったが、音声通話に利用しても良いかどうかは議論されておらず、携帯電話とは違うサービスという位置づけになっている。
割当に対する立候補の受付は5月24日~6月24日に行われた。この申請受付より前の段階として、総務省では昨年11月に事業者からの要望をとりまとめ、今年4月にパブリックコメントを募集していた。
こうした中で、ソフトバンク側では、今回割当予定の計20MHz幅に対して、10MHz幅を2社に、あるいは現在、2.5GHz帯を持っていないNTTドコモへ優先的に割り当てれば、平等な競争環境になると考えていた、という。事実、昨秋の希望調査の段階ではWCPは10MHz幅の割り当てを求めていた。
その後、パブリックコメントの前に総務省側との話し合いの中で、ソフトバンク側が「10MHz幅にしてイコールフッティング(平等な環境)になる」と総務省へ申し入れた。パブリックコメントでは、総務省から10MHz幅の申請のほうを優先する、という見解が示された。実際の申請では20MHz幅にすることもソフトバンクでは検討したが、総務省内の現場側のスタッフから「ソフトバンクが10MHz幅ずつでフェアにしよう、と言い出したのだから10MHz幅にしてください。10MHz幅ずつにすれば大丈夫だから、UQとうまくやってください」との話があったという。
この話を裏付ける証拠は残っていない、とのことだが、事前にソフトバンク側で考えていた方針と合致することもあって、申請では10MHz幅を求める形にした。それでも申請を提出する1日前に、UQ側が20MHz幅で申請するのではないか、という情報を把握し、宮川氏から孫氏にも報告したものの、総務省の話を信用しようということになった。
申請は6月24日に締め切られ、7月下旬にも認定される見込みだった。昨日(7月24日)の昼には、総務省側に対して、最終的な要約資料(サマリーシート)を校正。そして翌25日になると日経新聞に「UQへ割当」と報道され、宮川氏は朝一番で総務省へ乗り込み、総合通信基盤局長と談判して、報道が否定されなかった、という。
総務省“木で鼻をくくったような対応”?
2.5GHz帯の追加割当では、新規事業者を優先する一方、既存事業者だけとなれば、どちらが優れているか比較することになっており、その基準も示されていた。
その比較基準とは「認定から4年後の人口カバー率が他社より大きいこと」「屋内エリア化、および高速化技術の導入などが優位であること」「既存の携帯電話事業者以外のMVNOに対して、利用をより促進すること」といったものだ。
こうした中で宮川氏は「彼らが作るネットワークと我々のネットワークで、伝送速度などで、他の機関に科学的に評価して欲しい、と今日は申し上げた」という。
孫氏は「当局からは木で鼻をくくったような対応。明日、審議会でなされてその上で決めるなり、再審議というのが本来のプロセスだと思うが、それを待たずに決まってるようだ。何のための審議会なのか。総務省の事務方が挙げた内容を形式的に承認するだけの形式的な存在ではないか。どれほど通信業界の知識を持った人か、どれほど熱意を持って審議をしているのかすら、僕にはよく分からない。審査を受ける両社が公開討論で、互いの主張を、報道などを通じて国民の目にさらして、十分な議論があって、というプロセスでなければおかしい。
ソフトバンクは一度、ボーダフォンジャパン買収前、総務省へ行政訴訟を行ったが、その後、公開審議が何回か行われるようになった。しかしここ数年、そういったことが行われなくなり、密室で決められるようになった。行政訴訟しなければ懲りないのではないか。そんなことでは悲しいではないか。携帯の電波は1億人が使う、国民の財産。プロセスをあらためるべきではないか」と語った。
宮川氏は「かつてはUQとウィルコムに割り当てられた。当時、ウィルコムはソフトバンクグループではなかったが、その後会社更生という状況に陥った。またTDD方式を用いるというアイピーモバイルにも免許が割り当てられたが、アイピーモバイルも倒産した。(今回UQに割り当てると)3度目になりますよと総務省へ申し上げた」と続けた。
今回の経緯を経て、孫氏は「これならオークションのほうがいい」とも述べた。
MVNOへの提供状況は「形式的なもの」
現在、UQ、そしてWCPのネットワークを利用するMVNOの事業者数はUQのほうが圧倒的に多い。一方、WCPはソフトバンクモバイルとTOKAIネットワークしかいない。しかし、総務省の事前調査によれば、UQとWCP、あわせたMVNOの利用数は全体の96%、そのうちMNO、つまりKDDIやソフトバンクモバイルが利用する回線は73%を占める。つまりは、MVNOの大半が、携帯電話事業者のスマートフォンなど、ということになる。
孫氏は「それは形式だけ。実体はほとんどKDDIグループが使っている。形式を整えるだけではいけないのでは」と苦笑しながら指摘した。
孫氏「癒着を疑わざるを得ない」
さまざまな癒着があるに違いない、我々はそう思わざるを得ない――そこまで言い切った孫氏は、「(KDDIに“天下りした”)元電波部長が特命渉外担当であり、誰と渉外するのか、総務省と渉外するのだ、僕はまったく理解できない」と批判。こうした状況は、米国であれば、天下りした人材のメールのやり取りが全て調査されるはずではないか、とも指摘した。
提出した資料に対して、総務省からネットワーク設備の見学など、何らかの調査があったかどうか、宮川氏は「あるわけがない。少なくとも今日現在、両社のトラフィックがどれだけあるか(総務省は)知らないんだから」と回答した。
UQはもっと汗をかけ
宮川氏は、UQのネットワークにはまだ改善の余地があり、収容効率を上げられると述べる。
「今年3月に(総合通信基盤)局長に(KDDI会長の)小野寺さんが足繁く通っていると聞いていた。しかしUQが50MHz幅、WCPが20MHz幅になると商品力であまりに差が出る。まずは3セクターで吹いている電波をやり繰りしながら、SFNに切り替えるべきではないか。UQは横着すぎるのではないか、汗をかいてくださいと。ソフトバンクモバイルも2GHz帯もLTE化するのに行き場所がなかったが、1カ所ずつ切り替えという作業を1年かかって進めて、この9月に完了する」(宮川氏)
たとえば30MHz幅を1つのアンテナから発射してエリアを構築する場合、長距離を10MHz幅、近い場所を20MHz幅とすると、キャパシティは一気に3倍になる、とも述べた宮川氏。ちなみにWCPではマイクロセルでアンテナを設置。セル(基地局がカバーするエリア)を小さくして、たくさんのセルが重ね合っている形にしており、基地局とユーザーの距離が短くなればスループット向上を図っている。また無線を司る設備はNTTの局舎に置き、アンテナと光ケーブルで結んでいるとのこと。これは東京のような光ケーブルが張り巡らされた地域だからこそ実現できているという。
ユーザー数、2年もあれば1000万になる
UQのほうがユーザー数が多い、という点についても、2年あればWCPも十分なユーザー数になると宮川氏は自信を見せる。
TD-LTE対応機種では、次世代のiPhoneでのサポートが噂されているが、宮川氏はそこまでは触れず「Androidだけではなく、さまざまなAXGP対応機種を準備しているから」と語った。
宮川氏、訴訟も辞さず
25日朝、総合通信基盤局長の吉良氏へ詰め寄ったという宮川氏は「報道は本当か」と尋ねたが否定されず「(局長は)にやっと笑った」と話す。24日に提出した資料については吉良局長は読んでおらず、明日(26日)には最終決定というのはプロセスが横着すぎる、と憤慨した。
宮川氏は「今回だけは許せない。日本のためになるわけがない。たとえ個人ででも行政訴訟を行う。大臣、副大臣が不在というこの時期に、数人が部屋の中で決めた。我々にはそれをひっくり返す権利がない。数カ月、集中してきたが、静かにやろうと言われてきたのでマスコミにも開示してこなかった。最初はもちろんWCPとして訴訟を行う。今回、こんな割当をしても、イー・アクセスへの割当が期待される1.7GHz帯の割当のことがあるから、訴訟はないだろう、という噂も聞こえてきたが、そんなつもりはない。一回一回が真剣勝負」とも述べていた。
なお、孫氏が強く透明性を求めていたのに対して、宮川氏はイコールフッティングを最優先としているという。
同氏は「明日決めるのではなく、せめて事前に予定されていた7月末、来週に電波監理審議会を開催してほしい、WCPにも反論の機会をと求めたが、『明日やる』と言い切るから、それは上から目線過ぎないか、事業者を馬鹿にしていないか。許認可事業をやっている会社のCTOがここまで言うと、次の免許割当に影響するかもしれないが僕は刺し違えようと思っている。ダメだったらCTOを降りる」と決意を示した。
総務省によれば、26日の審議会は午後から開催される予定。事業者側は出席せず、UQ、WCPのどちらへ電波を割り当てるかと諮問されるとのこと。
宮川氏は「(WCPが)落ちるという結果が明日出るだろうが、24日の夕刻に要約資料が提出されて、26日決まる、という強行突破をするなら困る、ということで今回文書を提出した。しかし回答する義務はないという話だったので、『それはおかしいと思う、これから我々の主張が3月15日、パブリックコメント、今回の決定と、全てイコールフッティングを主張してきたが、海外を含めて日本の総務省がおかしいという話になったときに、僕は吉良局長がおかしいと主張していく』と本人に伝えてきた」とした。
囲み取材の終わり際、報道陣に対して宮川氏は「明日ひっくり返るとはこれっぽっちも思ってない。これだけ騒いでもダメなものはダメだろう。でも言わないと、同じことが繰り返される。こんなやり方は許せない。絶対おかしいんだから」と笑いながら語っていた。