ニュース

NTT、大規模なデジタルツインを目指す新子会社「NTT AI-CIX」を設立へ

NTT AI-CIX代表取締役社長に就任予定の社家一平氏

 NTT(持株)は23日、連鎖型AIサービスを展開する新会社「NTT AI-CIX」(NTTエーアイシックス)を26日に設立すると発表した。研究開発からサービス提供まで一気通貫で行う会社で、AIによる業界横断の最適化推進を目指す。

“連鎖型AI”で社会を最適化

 さまざまな業界がある中でも、業界同士は物流など繋がる要素がある。たとえば、小売であれば、製造する会社と小売店、小売店に卸す卸業者があり、それぞれ物流で繋がっている。「NTT AI-CIX」では、これら全体のデータをもってAIによる最適化を目指し、AIモデルの開発から実装までをワンストップで提供する。

 これまでもNTTでは研究開発(R&D)のなかで同様の取り組みを行っていた。都市開発の分野では、ビルの人流データから空調の調整を自動化することで省エネ性能を高めるソリューションや、電力需要の予測などでAIを活用した実績がある。

 一方で、NTT AI-CIX代表取締役社長に就任予定の社家一平氏によると、これまでの体制では一部で制限があったという。新会社を立ち上げて事業を進めることで、より業界、企業に踏み込んだ開発と実装ができると、新会社設立の意義を説明する。

NTT AI-CIX代表取締役社長に就任予定の社家一平氏

 新会社では、企業個々の最適化や業界全体の最適化から発展し、業界を横断した最適化へ取り組む。企業個々のデータを集め、業界共通のAIモデルを巻き込んで最適化を目指す。同社では、業界のAIモデルを特化型AIとしており、特化型AIを掛け合わせた“連鎖型AI”で、全体の自動化を進めるという。

今後取り組みを進める領域

 今後取り組みを進める領域として「流通サプライチェーン全体の最適化」と「農産物のサプライチェーン最適化」、「空調の最適化」を挙げる。

 流通サプライチェーンについては、先述の通り製造と卸売、小売などのポイントがあるサプライチェーンを全体で最適化する。たとえば、小売が持っているデータを活用すれば、製造の最適化が図れるとし、相互にデータを共有し業界横断の効率化を目指す。

 流通サプライチェーンの最適化にあたっては、ディスカウントストアなどを展開するトライアルカンパニーとの取り組みが紹介された。商品棚の画像を解析して欠品を極力減らすなどAIの力で現場改善をすることで、さまざまな効率化を図っている。

トライアルでのAI画像解析事例

 農産物についても、直接消費者に届くものよりも、小売を経由するルートが多勢で、小売の需要に対して全国により効率的な生産物の配送が求められているという。特に、物流業界では2024年問題など課題が多く、より流通の効率化が求められており(社家氏)、特定の業界にとどまらず全体での効率化を目指す。

 空調の最適化は、ビル内の人流データから今後の人の流れをシミュレーションし、実際の空調運転に活かすソリューション。たとえば、人の滞在がない時間帯に空調の運転を減らしたり、逆に人流が活発になる時間帯に合わせて空調をあらかじめ稼働させて適温にしておくことで、来訪者の快適性を向上させたりする。

AIによる空調最適化(シミュレーション)

他社とのデータ共有は進むのか?

社家氏

 企業の中には、「他社の効率化のために自社データを共有したくない」「データを提供すれば自社が損するのではないか」と考える企業があるかもしれない。

 社家氏は、「どのデータが(自社にとって)損なのか、どれが共有するメリットがあるのか、わかっていない場合が多い」と指摘。コンサルティングのなかで、データを仕分けしていくことで、少しでもメリットを享受してもらい、成功体験を重ねることで、共有データを増やしていけるのではないかとした。

デジタルツインの考え方

 “連鎖型AI”という考え方は、デジタル空間で現実世界をシミュレーション(予測)し、現実社会にフィードバックさせる“デジタルツインコンピューティング”と似た概念だと社家氏は語る。今回の新会社では、これまで実施できていた“業界ごと”“業務ごと”のデジタルツインを発展させて、横断して具現化することを目標の1つに掲げる。

 設立時点では、それぞれの企業の課題をヒアリングし、課題解決に向けてAIモデルを収集、データを掛け合わせて効率化を進めるプラットフォームの提供の流れでソリューションを提供していくが、今後の展開としてAIモデルを洗練させてパッケージ化することも検討されている。また、人流データなどNTTグループが持っているデータについても、利用できるものがあれば、必要に応じて活かしていくとしている。

新会社概要
社家氏