ニュース

「LINEヤフー」生成AIを社内外で活用推進へ、年間売上約1100億円増を狙う

 LINEヤフーでは、個人向けサービスを中心に16の生成AIを活用した機能を提供しているほか、同社の社員向けに生成AIツールを開発し、生産性向上に寄与しているという。

 実際に、どのような形で生成AIを活用し、効果をあげているのだろうか。

自然な形で生成AIを使う世界に

LINEヤフー 上級執行役員 生成AI統括本部長の宮澤 弦氏

 LINEヤフー 上級執行役員 生成AI統括本部長の宮澤 弦氏は、現在の日本について、生産年齢人口の減少により、労働力低下が予想され「GDPを維持するのも大変な状況になる。一人一人が働けるようにAIで補っていくしかない状況」と指摘する。

 一方で、宮澤氏は「AIを最も身近に使えるパートナーとなる」とし、ユーザーが直接生成AIを使おうと思って使うのではなく、サービスの裏側で自然に利用されるスタイルが望ましいのではという。ヤフーがインターネット黎明期でサービスを展開していたが、これも宮澤氏は「インターネットを使いたくてではなく、さまざまな便利なWebサイトへアクセスするためにYahoo! JAPANにアクセスした」と、生成AIをユーザーが自然に使う中で、ユーザーのニーズを満たす身近な存在にしていきたいと思いを語った。

生成AIの活用推進サイクル

 28日時点で16のサービスで活用している生成AIについて、同社では「生成AI活用推進サイクル」として意識しながら取り組みを進めている。

 まず、利用環境の整備として、生成AIを使う範囲などを決める。活用するためのガバナンスや社員の教育などを実施し、事故のリスクを抑える範囲決めを行う。

 そして、開発環境の整備を実施し、社員の生産性効率化のための業務活用、実際のユーザーに提供しているサービスに実装する流れを1つのサイクルとして回している。

 同社では、2021年にAI倫理に関する基本方針を策定し、ChatGPTをはじめとした生成AIブームの中、OpenAIと契約し2023年7月からOpenAIのAPIを活用している。

グループ横断のAI組織

 同社では、「新しく革新的な技術」といった“大きなうねり”が出てきた際、全社横断的にリサーチし方針を決めるように動いているという。生成AIの場合も、生成AI統括本部を立ち上げ、全社から100名近く社員が集結し、集中して取り組みを行っている。

 また、ソフトバンクやグループ会社といった社外とのアセット連携も進めている。

 社内で生成AIの取り組みを行う際には、先述の統括本部が集中的に問い合わせを受け付け、発生するリスクや守るべきガイドラインの制定などを行うという。

ガバナンス

 同社では、AI倫理基本方針として、8項目の方針を制定。外部有識者も交えて、この方針を遵守しながら利活用を行っている。

 とはいえ、AIに関する情勢は「週ごとに世界の動きが変わる」と指摘。日本でも、AIに関するガイドラインやルールは常に変わっていくとした。

 社内では、生成AIを利活用する際は、一定の知識やルールの遵守をさせるべく、テストに合格した社員でないと利用できないようになっている。宮澤氏は「インターネットのプロでも、生成AIのプロではない」とし、情報漏洩リスクや権利侵害などのリスクや、生成AIを有効に活用する上でのプロンプトなどを学習し、試験するという。

活用基盤

 同社では、先述のOpenAIのほか、グーグル(Google)など、世界で優れているLLM(大規模言語モデル)を複数使える環境を整備している。宮澤氏は「自分たちの開発を待って世界の潮流に乗り遅れてはいけない」とし、今後、AWSやMicrosoft AzureといったほかのLLMの契約も調整しているという。

 実際に、業務活用しているものとして、独自のUIで全般的な業務支援を行う「LY ChatAI」や、コーディングを支援する「GitHub Copilot」を稼働させている。それぞれ生産性が約7%、約10~30%改善しており、今後社員の使い方も上達することで、これ以上の生産性改善も期待できる。

 セキュリティ面においても、サービス利用での学習には使われないようになっているほか、ログを収集し不適切な使用がないかモニタリングを実施している。

 また、生成AIの「真実ではない情報をもっともらしく出力する」特性を抑えるため、社内データベースなどと組み合わせて正しい情報を出力させるRAGツールの開発を進めており、業務の自動化や効率化の実現を図る。

実際のサービスへ活用

 先述の通り、同社の個人向けサービスを中心に16サービスで生成AIを活用している。

 たとえば、Yahoo!検索では、2023年10月より、段階的に生成AIによる回答を実装している。また、Yahoo!フリマでは、出品時に「売れやすい説明文」を提案するサービスを提供しており、利用者の90%が満足し、新規ユーザーのうち17%が利用している。

 Yahoo!知恵袋では、昨年11月に2カテゴリーを皮切りに、全体の2/3に拡大してAIが回答する。AIの回答では、ユーザーからのベストアンサー率が60%となっており、この数字は、人間のトップレベル回答者のベストアンサー率以上だとし、ユーザーにも受け入れられているという。

 なお、AI回答に適さない質問の98.9%を除去しているほか、プロンプトエンジニアリングを行い、納得感のある回答ができるように調整しているとしている。

 LINEのサービスでも「LINEオープンチャット」でのメッセージ要約や生成AIが回答する「LINE AI Q&A」、2月21日にリリースした対話形式のAIアシスタント「LINE AIアシスタント」などで活用を進めている。

 このほか、法人のリスキリングニーズに対応する形で、生成AIを含むAI活用人材育成プログラムを法人向けにも提供する。

 これらを含め、生成AIを日本で一番活用している会社となることを目指し、売上を年間約1100億円増、生産性改善額で年間約100億円を中長期的に見込む。

自社のLLMに固執しない体制に

 同社やソフトバンクでは、独自のAIやLLMの開発を進めている。宮澤氏は、自社のものを優先したり必ず使うということがあるか? という問いに対し「世界同時にすごい数の研究が行われている。過剰に自前主義をするのは危険、2024年だけでもさらに大きな規模の言語モデルが開発される。世界を見ていかないと、見誤る」とし、今後も自社だけにこだわらず、さまざまなAIやLLMを使用することを示唆した。

 LLMについても、「サービスやユーザーが好みのAIを選択できるというのも面白いのではないか」と、今後も検証を進めていくとした。