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楽天モバイルが神戸で取り組む「5G×ドローン×AR」の観光体験とは? 実際に現地へ行ってきた

 港湾都市として古くから栄え、異国情緒あふれる雰囲気で観光地としても人気を集める兵庫県神戸市。サッカー・Jリーグに所属するヴィッセル神戸のホームタウンであり、神戸駅から南へ10分ほど車を走らせると、本拠地のノエビアスタジアム神戸が姿を現す。

ノエビアスタジアム神戸。この日は曇天だったが、幸いなことに日中は雨が降らなかった

 楽天モバイルは、ここノエビアスタジアムを訪れるサポーターに、神戸をもっと好きになってもらうための試みを開始した。“第4の通信キャリア”として2020年4月に携帯電話事業を本格的にスタートさせた同社が、楽天グループ傘下のヴィッセル神戸や神戸市と共同で取り組む。

 その内容は、神戸の人気スポットであるメリケンパーク・ハーバーランド周辺を、スタジアムの中から疑似的に観光できるというもの。現在は実証実験が実施され、将来的なサービス開始も見すえた検討が進む。

ハーバーランド。神戸ポートタワーは改修工事中で、シートがかけられている

 そしてこの試みは、最新のテクノロジーをふんだんに盛り込んだものとなっている。

 最近になってますます注目度が高まりつつある印象の「ドローン」や「AR」と、高速・低遅延などを特長とする5G通信をかけあわせた観光体験の内容とは? 今回、現地を訪れて取材した。

取り組みの内容と背景

 楽天モバイル 5G本部 ビジネスソリューション企画部では、5G通信を活用して社会課題の解決や新規事業の創造を目指す。

 これまでの実績として、ヴィッセル神戸の選手の3D映像を5Gで配信するといった取り組みなどが挙げられる。また、サッカーだけでなく、大学の授業や歯科治療など、5G活用のジャンルは多岐に渡る。

 そして今回は、楽天モバイル、楽天ヴィッセル神戸、神戸市の3者が連携して、試合観戦に新たな付加価値をもたらす。観客はノエビアスタジアム内からドローンを遠隔で操縦し、神戸市の観光を疑似体験できる。

 日本代表の快進撃が記憶に新しいカタールW杯の影響もあってか、今季はヴィッセル神戸のホームゲームの来場者のうち、3割程度が新規客になるという。

 来場者に神戸の魅力をもっと知ってもらいたいという思いで、今回の企画は2022年9月ごろに着想を得た。今年に入り、3月には実証実験を実施。先行して2家族が体験を楽しんだ。

 体験の提供にあたっては、まず、ハーバーランド側でドローンを設置。ドローンが飛行して空から撮った映像にARコンテンツを合成し、ノエビアスタジアムへ伝送する。

 スタジアムの観客はその映像を観ながらドローンを操縦し、ディスプレイを通じた観光とドローンの操縦体験が同時に実現する……というしくみだ。

まずはハーバーランドでドローンの飛行をチェック

 ハーバーランドで飛行するドローンは、DJIの「Mavic 2 Pro」。ハッセルブラッドによる1インチのCMOSセンサーを備え、2000万画素の撮影性能を有する。

 データの送信などに使う5Gの電波は、ルーターでキャッチ。ARコンテンツの合成などを担うパソコンが有線でルーターに接続されており、5Gを活用する。ノエビアスタジアム側へ大容量のコンテンツを送るうえで、5Gの高速性などが発揮される。

 また、ドローンのコントローラーはWi-Fiでルーターに接続されている。本来であればコントローラーも有線接続が理想的とのことだが、取り回しなどを考えてWi-Fiになったという。

パソコンのスペックについて、「レンダリングにおいてある程度(のスペック)は必要。ゲームほど凝ったものではないため、ハイエンドモデルでなくても問題ない」
ドローンのコントローラー

 スタジアムでのドローンの操作がうまくいかない場合などに備え、ハーバーランドにドローンの操縦担当者が配置される。

 また、ドローンの飛行は「レベル2(目視内の自立飛行)」となる。海上では監視用の船も運行し、安全な飛行体制が整えられている。

ドローンを監視するための船も運行する
ドローンはハーバーランド上空を飛び回るが、この動画では離陸後に真上へ飛び、そのまま下がって着陸する

いざ、ドローンの操縦を体験

 ノエビアスタジアムの観客席には、映像視聴用のiPadと、ドローンの操縦に使うコントローラーを設置。ハーバーランド同様、ドローンを操縦する一般客の横にスタッフがつき、操縦をサポートする。

 「操縦」と言うと難しく聞こえるが、実際に体験したところ、意外とシンプルだと感じた。ゲームのようなイメージで、コントローラーの左右のスティックを倒して高度調整や回転操作をする。特別な知識や技量は求められず、誰でも楽しめるようなかたちになっている。

 ただ、万全に整えられた体制のなかでドローンが飛ぶ様子をハーバーランドで見ていたこともあり、なぜか勝手に緊張感をおぼえてしまったのは事実。スタッフの方には穏やかな口調でガイドしていただいたが、手に汗握る(?)操縦体験となった。

 実際、筆者が体験している途中に、ハーバーランド側の強烈な風で一時的に操作が難しくなる場面も。ヒヤリとしたが、すぐにノエビアスタジアムからハーバーランドへ操縦権を移していただいた。安全で楽しい体験を提供するために、運用システムが整えられているという印象を受けた。

 体験する人に対しては、ハーバーランド周辺の映像を楽しんでもらうのはもちろん、ゲーム性のあるコンテンツも用意する。

 映像内に出現するアイテムボックスから、シャツなどのオリジナルグッズが現れ、プレゼントとして実際に後日受け取れるというものだ。たとえばヴィッセル神戸のチームユニフォームなどは、来場者にとっては垂涎の的になるのではないだろうか。

空撮映像にARコンテンツが合成され、観光情報などが提供される。AR広告として、スタジアム外での広告枠拡大につながる活用も検討していく
アイテムボックスから現れたチームユニフォーム。「ゲーム性が高すぎると観光に集中できなくなってしまうので、そのあたりのバランスは課題」という
ゴール(体験終了)を目前にした状態

今後の展望

 楽天モバイルは今後、スタジアムにおける実際のサービス提供も含めて検討していく。形態としては、観戦席にドローンの操縦体験オプションを付与して提供するかたちなどを想定する。

 ただ、今回の体験で準備されたドローンは1機のみであり、3月の実証実験でも2機にとどまっていた。現時点では台数に限りがあるのが実情で、ビジネスとして成立させるためのプライシングなどは引き続き検討していくという。また、ハーバーランド側での電波干渉の防止も含め、ほかにも課題はあるようだ。

 とはいえ、3月の実証実験では「子どもが前のめりになってドローンの操縦を楽しんでいた」という声もあったとのこと。ユニークな可能性を秘めた新サービスの開始に期待が高まる。