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総務省、上空150m以上の携帯電波利用や5G通信を解禁へ

 総務省は、地表からの高度150m以上の高さでのスマートフォンなど携帯電話ネットワークに接続するデバイスを利用可能とすることや、現在はFDD-LTEのみとしている上空での通信方式に、5Gを加えることなどを含めた、情報通信審議会 情報通信技術分科会 新世代モバイル通信システム委員会の報告書を公表した。

 総務省では、2022年11月11日~12月12日までの間、広く国民から意見を募集するパブリックコメントを実施している。

背景と経緯

 携帯電話システムは、地上利用を前提に基地局を整備しているため、携帯電話をドローンやヘリコプターなどに搭載して上空で利用すると、同じ周波数の電波を使う他の基地局と混信が発生し、地上の携帯電話の通信が途切れるなどの影響を及ぼす。

 このため、飛行台数を監理して上空での携帯電話使用を認める「実用化試験局制度」が2016年7月に導入された。

 この手続きには、事前準備を含めて通算で2カ月程度の期間が必要なため、昨今のドローン利用拡大に伴い、手続きの簡素化や運用開始までの期間短縮が求めらてきた。

 こうした背景により、地表からの高度150m未満の空域では、800MHz帯、900MHz帯、1.7GHz帯、2GHz帯の周波数帯をFDD-LTE方式などの通信方式で、変調方式や帯域幅などその他の技術条件を満たす場合に限って、Webサイト経由などの簡単な手続きで、利用申込から1週間程度で利用許可を得られる簡素化された制度が2020年12月よりスタートしている。

 一方で現在では、救急・防災期間のヘリコプターでの携帯電話利用、ドローンを活用したインフラ設備点検、ヘリコプターの動態管理、気象情報や上空映像のリアルタイム伝送、空飛ぶクルマの技術検証など、高度150m以上の空域における携帯通信の利用ニーズが顕在化しつつある。

 たとえば、高度1000m~1500m程度を飛行するヘリコプターは現在、航空用無線や衛星通信を主な通信手段としているが、地上と同様に携帯電話のネットワークを利用すると、低価格・大容量・高速な通信環境が整備できるようになり、安全性の向上や業務効率化が期待されている。

 また、新たに上空で5G方式の通信を利用可能とすることで、高速・低遅延通信が必要となる空撮映像中継などにおけるドローンの利活用が期待されている。実際のユースケースとして、欧州ではOrangeの5G通信対応ドローンによる港湾監視システムや、国内でもKDDIが2022年4月に実施した、国内ゴルフ大会のドローン空撮映像を生中継するなどの事例が紹介されている。

上空利用拡大に向けた共用検討

 報告書では、地表からの高度150m以上で携帯電話を利用した際に発生する、地上携帯電話ネットワークへの影響や、携帯電話と同一または隣接する帯域を使用する他の無線システムとの共用検討への影響について評価検討を行った。

 同報告書は、報計算機シミュレーションの結果から、高度150m以上で携帯電話を利用する際の地上ネットワークへの干渉影響については、上空端末用の送信電力制御を行うことで回避可能と考えられるとまとめた。

 また、高度150m以上の上空における通信品質については、高度が上がるほど上空の端末から地上の基地局への上り回線の品質が劣化していくが、上空サービスの品質と地上ネットワークへの干渉影響を回避するためのトレードオフについては、携帯電話事業者が自ら判断することで、自社における最適な設定を行うことが必要とされた。

 携帯電話の周波数帯と同一または隣接する周波数帯を使う無線システムへの影響については、高度を150m以上にあげることによって大きな干渉量増加は発生しないが、極軌道衛星地上局については、高度25mの時に2dB程度マージンを超過する場合があるため、何らかの対応が必要とした。

 これらの結果をまとめて、150m以上を含む上空での携帯電話利用については、利用可能な周波数を従来と同様の800MHz帯、900MHz帯、1.7GHz帯、2GHz帯とすることや、上空で利用される移動局(スマートフォンなどの端末)は、上空利用に最適な送信電力制御機能を有することが技術的な条件とされる。

上空での5G利用

 今回の報告書では、高度150m以上での5G利用は周波数によって利用の可否が異なると判断している。

 具体的には、700MHz帯、1.5GHz帯、3.4/3.5GHz帯については、他システムとの共有が現実的に可能か慎重に検討する必要があるとした一方で、800MHz帯、900MHz帯、1.7GHz帯、2GHz帯については、既にLTE-Advanced方式で上空利用が認められており、送信電力制御によって5G方式で利用する場合を含めて、既存システムとの共有は可能とされた。

 また、TDD方式を採用する2.5GHz帯と3.4/3.5GHz帯の上空利用における遠方補足問題は、高度150m以上の最適な送信電力制御が適用された場合は、この問題を回避可能であるとの結果が得られた。

 その他、TDD方式における全国5Gやローカル5Gの上空利用については、新たなニーズが示された際に技術的条件の検討を実施する方針が示された。