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ソフトバンクのネットワーク仮想化技術――GPU vRANで低遅延サービスを基地局で提供

GPUが得意とする並列処理性能に着目

 5Gまで商用化された携帯電話の通信技術。その品質を日々、維持しながら、携帯電話会社が目指す進化の方向のひとつに「モバイルネットワークの仮想化」がある。そのメリットや課題はいったい何なのか。

 今回、ソフトバンクの先端技術本部が進める「vRAN(仮想無線アクセスネットワーク)」を取材した。

5Gにおける次世代サービスの取組み

 同社先端技術推進部先端技術開発課長の堀場 勝広氏は、vRANの前に、同社の5G世代のサービスを知っておいてほしいという。

 堀場氏によると、ネットワークの仮想化によって、MEC(Multi-access Edge Computing、マルチアクセスエッジコンピューティング)などを基地局に置くことができ、「5Gならではの低遅延を生かしたサービス」をより「低遅延」で実現できる可能性があると指摘する。

 この、MECのサービスの一つに、クラウドゲーミングサービス「GeForce NOW Powered by SoftBank」がある。

 同サービスは、クラウドゲーミングサーバーで高負荷な映像処理を行い、映像データのみを低遅延でスマートフォンなどのデバイスに転送することで、これまでゲーミングパソコンでないとできなかったゲームを、手元のデバイスでプレイできるサービス。

 また、メディア向けに「Broadcast as a Service(BaaS)」サービスを開発している。これは、クラウドサーバー上で映像の編集を行い、クラウドサーバーから映像を配信するもの。「クラウド上のAIが顔にモザイク処理をかける」といった処理を実現できるほか、編集者が遠隔地にいても作業できる。

 また、自動運転技術に取り組む、同社先端技術戦略部先端技術NW課の朝倉 慶介氏によると、自動運転やリモートコントロールにも、5Gの低遅延性が生かされているとコメントする。

 同社の先端技術開発本部では、このほか地上に基地局を建てられない地域を空からエリア化する「HAPSモバイル」の取り組みや、岐阜大学と共同で、超小型アンテナによるBeyond 5Gや6G通信の実証実験などに取り組んでいる。

ソフトバンクのネットワーク仮想化への取り組み

2018年からソフトバンクもvRANの検証を始める

 ネットワーク仮想化については、楽天モバイルが「完全仮想化」として取り組んでいるが、堀場氏によると、ソフトバンクも手をこまねいていたわけではないという。

 ソフトバンクでは、既に4G LTE基地局を全国に数多く展開していたため、5Gの基地局でvRANが実現できるのか、2018年から検証を進めていた。

 なお、この検証と並行して、NVIDIAと「GeForce NOW」の開発検証を進めていたため、この後NVIDIAのGPUをnRANに活用する話が舞い込んだとのこと。

モバイルネットワーク仮想化の流れ

 モバイルネットワークの仮想化は、いわゆる交換機の役割を担うCORE側からスタートした。COREの仮想化に続き、基地局側のRAN側にも仮想化の流れが起こった。

 基地局で電波や通信を管理するRAN部分を仮想化したものを vRAN という。

 RANの中でも、電波を飛ばす「RU (Radio Unit)」と信号処理を行う「BBU(Base Band Unit)」と大きく2つの部分がある。堀場氏は、vRANでは BBUにおける信号処理の仮想化が難しい と指摘する。

vRANの世界情勢

 vRANに関しては、前述の通り楽天モバイルの採用や米国ベライゾンの商用ネットワークへの採用などが進んでいる。

 これと並行して、オープン化の流れも進んでいる。これまでの機器をソフト化するのが 仮想化 といい、違うメーカー同士の機器でも繋げられるようになるのが オープン化 という。

 ネットワークのオープン化は、世界のネットワーク事業者やチップメーカーなどが参加している「O-RANアライアンス」で定義されている。

 堀場氏によると、ネットワークのオープン化は、機器調達の幅が広がるだけでなく、機器のホワイトボックス化にも繋がることが期待できる。

vRANのメリットとデメリット、4GのvRAN化を断念した理由

 堀場氏によると、vRANのメリットは、「設備の削減」「オペレーションの自動化」「ベンダー依存の解消」「サービスレベルの向上」「MECとの融合」「安価なハードウェア」があげられるという。

 ソフトバンクでは、このうち「MECとの融合」を重要視している。vRANは、機器の上で「vRANやコア機能のソフトウェア」と「MECのアプリケーション」を同居させられれば、「5Gの低遅延性」を発揮できるサービスが提供できると考えている。

 一方で、これまでソフトバンクがvRAN化に踏み切れなかった理由としては、「基地局数と収容効率」「所有する周波数の多さ」「5G対応の難しさ」が壁になったとコメント。

 新興の通信事業者を遥かに凌ぐ膨大な基地局数と、ソフトバンクが利用している7つの周波数すべてをvRAN化するには、電力とスペースの面から難しかったという。2019年度に行った実際の検証では、専用装置でBBU1台あたりの収容局数は144局に対し、アクセラレータを使わない汎用サーバー(vRAN)では6~12局にとどまった。電力についても、専用装置は1局あたり6Wに対して汎用サーバーでは30W、同等の性能で比較すると、専用装置では900Wで済むのに対し汎用サーバーでは1万800Wと大きく水を開けられている。

 また、4Gよりも太い周波数帯域幅を利用する5G通信では、4G以上に信号処理のリソースが必要となるため、4G LTEにおいては、現行と同等性能のvRAN化は断念した。

GPUの登場

 これまで、vRANにおける信号処理アクセラレータは、FPGA(field-programmable gate array、回路設計できる集積回路)の独壇場だったが、近年GPUが台頭してきている。

 2020年にNVIDIAがvRAN向けGPUを発表、NVIDIAがO-RANアライアンスに加盟したことで、同GPUもO-RAN準拠のインターフェイスとして組めるようになった。

 チップセット間の位置付けとしては、CPUはなんでもできるが消費電力が多く速度もおそい、対するASICは特定の計算しかできないが効率やパフォーマンスが良い。FPGAとGPUはCPUとASICの中間に位置付けられる立ち位置にいる。

 FPGAは、多様な計算が可能で効率もよいが、違うソフトに入れ替えたり次世代のチップに入れ替えたりした場合、回路設計をし直さなければならないのに対し、GPUはソフトを変えたりチップを入れ替えるだけで済むメリットがある。

 また、違うソフトウェア同士(vRANとMPCなど)を並行して動かしたいとき、FPGAはその都度回路の再設計が必要だが、GPUは最大8つに分割して処理できる。

GPU vRANの性能検証

 ソフトバンク先端技術推進部先端技術構築課の渡邊 智郎氏にると、ソフトバンクではGPUによるvRANがどのようなメリットがあるか、性能検証を実施した。

 性能検証では、符号化や復号化、誤り訂正、電波に乗せるサイズの計算など、負荷が重い部分の検証を行った。

性能検証の条件
検証結果

 信号処理時間の結果は、「Uplink MIMO」と「Downlink MIMO」ともに5G基準を余裕で満たしている。

 また、通常レイヤーを増やすとその分指数関数的に伸びる処理時間が、GPUの場合そこまで大きな伸びは見られなかった。これは、GPUが並列処理を得意とする特性が現れたものではないかと考えられる。

 消費電力に関しても、並列処理がうまい特性で、レイヤーが増えても、消費電力の増加が抑えられている。

 また、GPU cardの消費電力では、平均値のほか最大値と最小値も計測している。結果によると、最小値はいずれのレイヤーも低い電力に抑えられている。この最小値は、使用していないときのいわゆる待機電力を表す数値であり、だれも基地局を利用していない場合、低い待機電力で基地局を維持できることを表しているという。堀場氏によると、日中と夜間など利用頻度の差が大きい基地局において、「使ったぶんだけ電気を消費する」ことは、通信会社としても都合がいいとコメントする。

 同検証結果でGPUを利用したvRANは、MINOの増加に対応でき、並列処理性能を生かしてMECなどさまざまなアプリを同居、並行処理ができると期待できる。

 また、堀場氏は、クラウド分野や自動運転、エッジAIなどの分野で、NVIDIAと連携を図れるとの考えを示した。

【追記 2020/10/29 18:25】
技術的情報を補足追記いたしました。