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LINEが描くAI時代のユーザー体験とは

 LINEのAI製品やソリューションに関するカンファレンス「LINE AI DAY」が8月5日まで開催されている。

 初日となった29日の基調講演では、LINE 取締役の舛田淳氏が登壇。LINEが掲げるビジョンは「Life on LINE」と同氏。朝、起きるときのアラームや通勤中の音楽、飲食店での決済など、生活に関わるさまざまな要素をLINEでサポートすることが「Life on LINE」。

LINE 舛田氏

 これを実現するために重要な考え方が「デジタルトランスフォーメーション(DX)」だ。単純にデジタル化すればDXということではない。「インターフェイスの話に終止することがよくあるが、LINEが目指すのはもっと先の話」だと舛田氏。

 同氏が指摘するDXの要点は、プロセスや体制、ルールなどをデジタル化していくこと。そうやって初めてDXが成し遂げられるのだという。

 加えて、DX自体がゴールなのではなく、それはあくまで「手段である」という舛田氏は、デジタル化という変化をどう作り出していくか、顧客の体験価値をどうつくるのかがポイントと指摘する。「AI」と「データ」の2つがDXを達成するために重要な要素だ。

LINE BRAINとLINE Clovaは「LINE CLOVA」へ統合

 LINEはAIを用いたプロダクトとしてスマートスピーカーの「Clova」を2017年に市場へ投入。LINE 執行役員 AIカンパニー カンパニーCEOの砂金信一郎氏は「スマートフォンに限らず、さまざまなデバイスでユーザー体験をより自然なものにするため研究開発を進めてきた」と語る。

LINE 砂金氏

 2019年、LINEのAI技術を他社に提供する「LINE BRAIN」が発足して以降、OCRやチャットボットなどさまざまなソリューションをのべ280社へ導入。一例として、厚労省では今般の新型コロナ対策の中で、同社のOCRやAIコール機能が利用されている。

 また、上述のLINE BRAINと、LINE Clovaを統合、新たなブランド「LINE CLOVA」を立ち上げる。「LINEが目指すのは『ひとにやさしいAI』」と砂金氏。

 人の仕事を奪うだとか、効率化のみを目指すものではなく日頃、生活や業務の中で面倒と思うことを肩代わりしてくれる、というAIの実現を目指したいと目標を語る。

 新ブランド立ち上げに伴い、これまで提供してきたソリューションや製品名も「Clova」が「CLOVA」と大文字になるなどいくつかの変更が実施される。

AIは何をどのように解決できるのか

 基調講演の後半では、出前館 代表取締役社長の藤井英雄氏、LINE ヘルスケア 代表取締役社長の室山真一郎氏、LINE Pay 代表取締役社長の長福久弘氏が登壇。

 フードデリバリー、医療、金融と事業領域が大きく異なる3社。それぞれ特有の課題を抱えているようだ。砂金氏の「AIで解決できそうな課題をお持ちの方」という問いには一斉に手が挙がる。

 出前館 藤井氏は、「飲食店店舗のデジタル化」を課題として挙げる。アルバイトやパートタイマーが主力となる飲食店では、あまり難しいステップを踏まずにDXを達成したい、というニーズがあるという。予約・キャンセルの受付けや店舗の案内などを調理や接客の合間にこなさなくてはいけない。そうした中で、藤井氏は「LINE AiCall」には加盟店から熱い眼差しが注がれているという。

 LINE ヘルスケア 室山氏は、医療研究などにおいて統計を分析するために、AIが活躍できる場があるだろうした上で、コンシューマー向けのソリューションについての課題を例示する。同社が進めるオンライン相談において、患者1人ひとりの症状や悩みなどを的確に認識、その上で個人に最適化された返答ができるAIの必要性を説明。人間がやれば、的確な応えを返せても、コストやスケールの問題が大きい。最終的に対面のコミュニケーションは残しつつも、医療の価値を拡張できる可能性があると語る。

 LINE Pay 長福氏は、eKYC(オンライン本人確認)の重要性を挙げる。法規制が厳しく、イノベーションが起きにくかった金融においてeKYCの存在は大きい。スマートフォンがあれば、簡単に送金・出金できるが、一方で懸念される不正利用や悪用などの可能性を抑えつつ、簡単で便利なサービスやソリューションを提供していきたいとした。

CLOVA Note(仮)の登場も

 「LINEのAI技術は、あくまで自然なユーザー体験のために特化したもの」と砂金氏。特に、日本語環境に特化した音声領域やOCRに特化して基礎研究や応用したプロダクトの開発を進めていくと語る。

 LINEがAIに力を入れている理由として砂金氏は「将来的に経営環境が変わった場合にAI技術の価値がより重要なものになっていく」ためと説明。

 今後の予定として、「CLOVA Note(仮)」を紹介。会議の自動議事録作成ツールの開発が進行中であることを明かした。年内には価格やリリース時期を案内できるとした。

 砂金氏は、「実際に現場でどういう課題があるか、ユーザーが何に困っているかを把握した上で、AIの価値を実際の業務に落とし込む力を大事にしている」と自社のポリシーを語る。「LINEが多くのリソースをかけて開発し、社内外の業務で洗練されていくAI技術に期待してほしい」とコメントした。