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「メルペイあと払い」はユーザーの利用動向で“信用”を創り出す

 メルカリの100%子会社で決済サービスを提供するメルペイ。2019年2月からサービスを提供してきた中、今年4月には、「メルペイあと払い」という機能が追加された。

 一見するとクレジットカードのようなサービスながら、クレジットカードとは連携できず、「メルペイあと払い」は同社独自の仕組みによって実現したという。9月4日、メルペイでは記者説明会を開催、同社執行役員CBOの山本 真人氏が導入された背景と、実装を裏付ける考え方や仕組みの一端を紹介した。

メルペイの山本氏

メルペイあと払い とは

 メルカリでのショッピングや、他のWebサービスでの支払い、あるいはリアル店舗での支払い時に、メルペイの残高がなく、チャージの手続きをせずとも、一定の金額内であればその場で決済を進められるというもの。支払いは、翌月で、いわゆるクレジットカードに近い形で利用できるサービスだ。

 メルペイあと払いでショッピングすると、毎月一度、実際に支払い、清算する必要がある。このとき、メルカリの売上金を充当する方法のほか、コンビニエンスストアでの清算や、Pay-easyというサービスを用いるATMでの現金清算、銀行口座を登録することによる口座振替(清算手数料300円)という手段を選べる。

 また特徴的な機能として、「利用上限金額」を設定できることが挙げられる。これは、ユーザー自身が「ここまでは使ってOK」という金額を決められる機能。毎月○万円までしか使いたくない、といった使い方になり、山本氏は「財布における現金がどれだけ減ったかわかる感覚を、アプリ上でも実現した」と説明、メルペイにおける安心・安全な利用環境のひとつと位置づける。

メルカリとメルペイ

 フリーマーケットアプリとして、ユーザー同士での取引を仲介してきた「メルカリ」は、サービス開始から6年、ユーザー同士での取引の売上金は、年間5000億円に達している。

 これまでは、メルカリ内で物を売り、そこで得た売上金は、同じくメルカリ内でのショッピング代金として充当できた。そして、メルカリ以外のサービスやリアル店舗でも売上金を使えるようにするものとして、今年2月にローンチしたのが「メルペイ」。まずはNTTドコモのクレジットブランドである「iD」に対応し、iD対応店舗(約90万カ所)で利用できるようにした。その後も対応店舗を拡充し、現在では約135万カ所で「メルペイ」でのショッピングが利用できるようになっている。

 「メルペイは、(メルカリでの)売上金を内外で使えるサービスであり、金融機関のチャージが不要なまま、いわばチャージレスで使える。これは大きな特徴だと思う」と山本氏は語る。

時間を買う使い方

 メルペイあと払いの用途として、メルペイ クレジットデザインチーム プロダクトマネージャーの石川佑樹氏は「投機的な使い方」と「消費的な使い方」があるという。このうち後者の消費的な使い方は、ショッピングそのものだが、メルカリの売上金を持っている人でも、その売上金以上の買い物をする際などに、チャージレスで使える便利さが受けて利用は広がっているという。

 もう一方の「投機的な使い方」とは、メルカリあと払いで「体験」や「時間」を先取りするような使い方だと石川氏。一例として紹介された大学生の利用シーンでは、旅行へ行くために、旅行先で楽しめるよう浴衣など何らかのアイテムを買うための手段として「メルペイあと払い」が活用されている。旅費はなんとか工面したものの、さらに買い物を進めるには資金が必要であり、そのためにアルバイトを増やすとそれだけで夏休みが終わってしまう。そこで「メルペイあと払い」で先にアイテムを手にして、旅行を楽しんだという形だ。

 石川氏は、ユーザー自身が手にするまで時間が必要なスキルや体験を「あと払い」によって先取りすることは「時間価値を重視した、投機的な使い方」と紹介する。

石川氏

 クレジットカードではなく「メルペイあと払い」のニーズの背景として石川氏は、スマートフォンの普及が大きいと指摘。クレジットカードの発行は紙の書類での手続き、あるいは店頭での手続きが主流だったが、スマートフォンがここまで広がったことで、手のひらで手続きを完結したいというニーズが高まってきていると分析し、「メルペイあと払い」の設計を進めた。

メルペイあと払いの「信用」

 ショッピングのタイミングでは手持ちの現金や、金融機関の口座預金が減らず、毎月まとめて支払う形としては、一般的にクレジットカードが利用されている。ユーザーがクレジットカードを初めて手にする際には、金融機関による勤続年数や家族構成などを踏まえた一定の審査が行われる。

 一方、メルカリを多く利用するメインユーザー層は、20代、30代と比較的若い。「既存の審査では、信用が少ない。(クレジットカードなど)サービスを受けられないことが発生しているのではないか」(山本氏))としてメルカリ自身がユーザーに対して“信用”を付与する形にすることで、「メルペイあと払い」を実現している。

 では「メルペイあと払い」の信用を生み出しているものは何か。それは、メルカリや、メルペイの利用動向だと山本氏は語る。

山本氏
「メルカリではサービス開始から6年、月間1357万人に利用されている。ユーザーは売買どちらの立場にもなり得るため、メルカリ側はユーザー側からの行動情報を多く得られる。たとえばいつまでに発送するのか、丁寧なコミュニケーションができるかわかる。我々は“約束履行能力”と呼んでおり、どれくらい約束を守れる人なのか、信用できる人なのか、AIなどを組み合わせて判定している。メルカリが保有する(ユーザーの)行動/利用実態/実績は特徴的だと思う」

 メルカリで売買せずとも、アプリを起動することだけでも利用の一環と見なし、ユーザーの行動データのひとつとして扱う。またプライバシーを侵害するようなデータの活用はできるだけ避けているという。もしメルカリやメルペイを一度も使ったことがなければ、上限額が低くなることもあるが、山本氏は「信用度がわからないから一律で5万円と設定することは、信用を背景とする企業としては無責任で、そういう姿勢にすべきではない。ユーザーのことをわかりきれない場合は、上限額が低くなることはあるが、1000円でも使っていただけることで信用度の判定軸として、(上限を)上げていければいいと思う。これは今後の改善ポイント」と述べ、同社の方針ながら今後修正する意欲を見せた。

 ユーザーの行動をもとに「信用」を創る大前提として重要な仕組みのひとつが本人確認。オンラインで本人確認が完結する「eKYC」に対応しており、スマートフォンひとつで手続きを進められる。

 そしてもうひとつが不正取引を防いだり、マネーロンダリングへ利用されたりしないための対策。具体的な手法の開示は控えたが、さまざまな手口を防ぐため取引を監視しているほか、一部ではAIでの検知も導入している。

 さらに重要な点として、山本氏は、2年以上前から「月イチ払い」というメルカリ内のサービスを展開してきたことを挙げる。これは「メルペイあと払い」のベースとも言えるサービスで、ユーザーの行動履歴や傾向といったデータをもとに、どういった形で判定するか、ノウハウを蓄積することに繋がった。これにより、ユーザーの信頼度をより正しく測定できるようになり、いわゆる不良債権となる割合も想定を下回っているのだという。

 「メルカリ」ではクレジットカードを登録できる一方、「メルペイ」はクレジットカード非対応。これはメルペイがメルカリの「売上金」をもとに設計されているためのようで、山本氏は「メルカリの売上金は銀行口座へ出金できる。(もし現行の仕様のまま)クレジットカードでチャージできるようにすると、信用枠を現金化できてしまうが、それはNG。クレジットカード自体を競合とみているわけではない」と説明する。

 またクレジットカードを持てない人に向けたサービスなのか? という問いには「支払いが難しい方に使わせる意図はない。もしそうするなら、利用実態などを用いずに、申し込みがあれば一律で(信用枠を設定し)使えるようにするし、そうしたサービスも実際に存在すると思う。メルペイとしては、『信用にもとづいて使えるようにする』という思想が明確にある」とも語っていた。

 9月18日には、2回目となる大規模イベント「MERPAY CONFERENCE」が予定されており、そこで「メルペイ」に関する新機能が発表される予定。今回、信用についての説明となったが、山本氏は「信用スコアを算出してユーザーに伝える、第三者へ提供するといったことは想定していない。何点かという一律的な指標で信用の有無を表明するのは、ある種、危険性があると思う」と説明し、信用スコアそのものをサービス化することはしないとコメント。

 またメルカリとメルペイでは「オープンネス」というコンセプトを掲げ、サービスを説明する際には「経済圏」「囲いこみ」といったワードは一切使っていない、と山本氏。現時点では規約の同意などを含めて信用データの外部提供は難しいものの、環境が整えば、パートナー企業と連携する考えはあるとした。