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IIJと東大、プライベートLTEの活用に向けた実験
1枚のSIMでシームレスに
2019年6月5日 17:01
プライベートLTEとパブリックLTEをシームレスに
プライベートLTEは、大手キャリアとは別に、自社専用で運用できるLTEネットワーク。実験では、TD-LTE方式に基づく無線通信技術「sXGP方式」を採用して、1.9GHz帯を使う形でプライベートLTEのサービスエリアを構築する。
プライベートLTEの圏外エリアは、IIJがフルMVNOとして提供するLTEサービスでカバー。こちらは“パブリックLTE”として、1台の端末がパブリックLTEとプライベートLTEをシームレスに行き来できるようにする。
LTEとWi-Fiの良いとこどり
IIJでは、スタジアムやショッピングモールといった施設内、あるいは工場など法人の事業所などで、一部のユーザーの端末だけがアクセスできるようにするといった利用シーンを想定している。
プライベートLTEを使うことで、パブリックLTEが混み合っている場合に、プライベートLTE経由で繋がりやすくするほか、企業内通信のような閉域ネットワークでの活用、はたまた病院内のIoT機器の現在地確認などが可能になる。
プライベートLTEは、これから本格的な商用化を迎える新技術であり、免許不要の帯域でも利用可能になると見られる。そのため、月額利用料のようなコストも一般的な携帯電話よりも安くなると期待されている。
あわせて大容量・大量接続・高信頼性といったLTEならではの性能を活用できる。実験を進める東京大学の中尾彰宏教授とIIJのMVNO事業部副事業部長の安藤宏二氏は、「Wi-FiとLTEの良いとこどりができる」とそのメリットをアピールする。
実験でのチャレンジは「1枚のSIM」
いわゆる自営ネットワークの一種であるプライベートLTE。そのままでは、プライベートLTEとパブリックLTEは自動的に切り替わらない。
通常のLTE用のSIMカードと、sXGP用のSIMカードの2枚を装着できるスマートフォンであれば、ひとまずシームレスな使い方は可能になるが、IIJと東大では「2枚のSIMを運用するのはユーザーにとって負担が大きい」と判断。実験を通じて、1枚のSIMカードでシームレスに利用できることを目指す。
仕組みとしては、IIJの認証データベースで、パブリックLTEへ接続する際に用いる認証情報を格納する。この認証データベースへ、プライベートLTEが設置される東大側からアクセス。
東大側とIIJ側の両方で認証情報を共有することで、端末がパブリックLTEとプライベートLTEの両方に繋がるようにしている。
東大とIIJを結ぶインターフェイスは、標準化されている規格とのことだが、その仕様を含む基地局装置はまだ販売されていないとのこと。今回は汎用サーバー上に、ソフトウェアでパブリックLTE側の基地局機能やコアネットワーク機能を構築して実装した。このソフトウェアは、フランスの大学が立ち上げたオープンソースの「OpenAirInterface(オープンエアインターフェイス)」を元にしたものだという。
MVNOでも自前の基地局、いずれは5Gでも
実験のきっかけとして、中尾教授は「Wi-FiとLTEを併用することで、両者の良いとこどりをして、適材適所、効率良く運用できると期待している」と説明。
中尾教授は「ソフトウェアの基地局の可能性を追求したい」とも語り、今後の展開として、プライベートLTE内に、複雑な計算処理をスピーディに行えるサーバーを設置する、いわゆるエッジコンピューティングと取り入れることも可能と説明。さらにその先として、ネットワークにAI機能を取り入れ、障害の予測やセキュリティの高度化などを視野に入れる。
MVNOとして、大手携帯電話会社からネットワークを借り受けるIIJとしては、プライベートLTEを構築する際に自前の基地局を展開できるようになる。これは、IIJが加入者管理機能を扱う装置(HLR/HSS)を自社で手がける、いわゆるフルMVNOとしての能力を持つからこそ実現できることだという。
IIJ取締役CTOの島上純一氏は「これからは自ら基地局を持っていく。MNO以外の基地局との連携が可能になっていく。コンピューティングリソースと繋ぐのがIIJの作るモバイルネットワーク」と意気込みを見せる。さらには、5Gでもプライベートネットワークの構築が用途のひとつと目されていることから、今回の実験の成果を5G時代にも活かしていく。