ケータイ用語の基礎知識

第794回:MulteFire とは

免許不要電波を利用するLTE-A互換技術

 「MulteFire」(マルチファイア)は、LTE/LTE Advancedをもとに、免許不要の周波数帯/出力の電波を使って通信するシステムです。

 主に5GHz帯の電波を使用することが想定されています。MulteFireは基本的には小電力での通信で、基地局がカバーするエリアは小さいものになります。無線免許を持っていない企業でも、手軽にLTEと親和性の高いシステムを構築・運用できることになります。

 これまで携帯電話ネットワークを構築するのは、それなりの規模で投資をする事業者です。無線免許も大手の携帯電話事業者が取得していました。

 しかし、全国的なネットワークを築くのではなく、必要な敷地内だけ、それも免許不要の設備や電波を利用するのであれば、ネットワーク構築に必要なコストは携帯電話ネットワークのそれに比べるとぐっと小さくなります。

 たとえば病院やオフィスビル、事業所の構内だけで、内線用のネットワークを構築するといった場合です。

 MulteFireは、スマートフォンによく搭載されているチップセット「Snapdragon」シリーズの開発元としても知られる米クアルコムが開発した技術です。2017年現在、クアルコムとノキアが創設メンバーとなり、エリクソン、インテルなどが加盟する業界団体「MulteFire Alliance」が設立され、MulteFireの仕様を策定したり、製品認証プログラムを確立したりするといった活動を行っています。

 最初の標準的な仕様であるRelease 1.0の正式版は、2017年1月、メンバー企業に対して公開されました。主な技術概要を公開したテクニカルペーパーも広く一般に公開されています。

シームレスにMulteFireと従来のLTEを利用

 MulteFireの特徴は、免許不要な電波を使いながらも、技術的にはLTE-Advancedそのものであるため、シームレスにMulteFireと携帯電話のLTEネットワークを利用するシステムが構築できるということです。

 免許が必要な電波を使うLTE/LTE-Advancedの規格としては、2016年3月にRelease 13が標準として公開され、現在Release 14が検討中です。一方、MulteFire Release 1.0は、Wi-Fiなども使用している免許不要周波数帯の電波で、おおまかに言えば下り通信はRelease 13のLTE-Advancedの技術を、上り通信に関してはRelease 14まで含めた技術要素も用いて通信できるようにしたものなのです。

 そして、このMulteFireのネットワークの構築方式としては、MulteFireで構築したネットワークから直接IPネットワークに接続する「ニュートラルホストネットワークアクセスモード(Neutral Host Network Access Mode)」とMulteFireネットワークから従来の携帯電話網に接続し携帯電話事業者の構築したデータ通信のネットワークにつなぐ「PLMNアクセスネットワークモード」を利用することも可能になっています。

MulteFire Release 1.0テクニカルペーパーより。図1(左)はPLMNアクセスネットワークモード、図2(右)はニュートラルホストネットワークアクセスモードの概念図。従来の携帯電話網(PLMN)に接続することも、またMulteFireから直接IP網につなぐようなネットワークの構築どちらも可能。LTE の技術はどちらのモードでも柔軟に利用可能だ

 「PLMNアクセスネットワークモード」は、たとえば携帯電話事業者が無線LANの周波数帯を使って携帯電話のネットワークをさらに強化するというような利用の仕方もできます。PLMNとは、“地上公共移動通信ネットワーク”を意味する「Public Land Mobile Network」、つまり、携帯電話事業者のネットワークとほぼ同じ意味です。

 現在実現している仕組みとして、たとえばスマートフォンのLTE通信では2GHz帯のエリアから、800MHz帯のエリアに移動したとしてもハンドオーバーでユーザーには意識をさせずに自動的に使用周波数が切り替わります。一方、PLMNアクセスネットワークモードでMulteFireネットワークが構築されていた場合、MulteFire対応端末は、携帯キャリアの電波から、免許不要の電波へシームレスに切り替える、というようなことができるのです。

 ユーザー認証方法やセキュリティに関しても携帯電話の仕組みをそのまま利用できます。つまり、ユーザーが誰なのか、SIMカード内の情報によって担保され、ネットワークが切り替わったことがユーザーにはわからないような仕組みにできます。同じく免許不要の電波を使う現在のWi-Fiと携帯電話のネットワークでは別々のユーザー認証設定が必要になるのとは大きく違います。

 また「ニュートラルホストネットワークアクセスモード」では、携帯電話のネットワークを使用しないようにできます。その場合でもSIMカードをもとにしたユーザー認証といった技術を使えます。

 MulteFireは、LTE仕様をうまく取り込んだがゆえに、「マルチ」なネットワークの構成方法が選択できる、少し面白い技術なのです。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)