ニュース

ベンチャー発、LTE通信するスマートロック「T!NK」

11月9日より賃貸向けに展開

tsumug 代表取締役社長の牧田恵理氏

 ハードウェアベンチャーの株式会社tsumug(つむぐ)は、東京・秋葉原の「DMM.make AKIBA」にて発表会を開催。スマートロック「T!NK(ティンク)」を発表した。当初は賃貸事業者向けに販売し、2018年8月以降を目処に一般販売を開始する。

 「T!NK」は、既存のシリンダー錠を置き換えて設置するスマートロック。物理的な“鍵”は用意せず、解錠手段としてスマートフォンアプリやNFC、FeliCa、パスコードロックなどを利用する。特徴は鍵を開けるための権限をリアルタイムに管理できること。ユーザー毎に異なった解除コードを設定でき、誰がいつ利用したかを把握できる。

 「T!NK C」はシリンダーに設置するロック部(室内部)と、ドア外部に取り付ける認証部(室外部)で構成。スマートフォンやICカードをかざして解錠したり、4桁のパスコードを入力して解錠する。「T!NK E」は、認証部とロック部が一体となった製品で、マンションなどの玄関扉のシリンダー錠に置き換えて設置する。

T!NK C(ロック部)
T!NK C(認証部)
T!NK C(ロック部)
T!NK C(認証部)
T!NK E

 スマートフォンアプリには、鍵を開ける機能のほか、家族や友人、恋人との鍵共有、ワンタイムキーの発行などの機能を搭載。アプリからリアルタイムで入退室の権限付与が可能で、利用者ごとに違ったパスコードを設定し、誰が利用したかを識別できる。入退室履歴は1週間保管される。

 解錠時には管理者のスマートフォンに通知される。解錠に何度も失敗した場合や、ドアを蹴られるなどの異常を感知した場合は、警告の通知を送る機能も搭載する。

 通信機能としてロック部にeSIM内蔵の「sakura.io」対応のLTE通信モジュールを搭載。LTE Cat.1をサポートする。ロック部と認証部の端末とはBluetoothで接続する。

 ロック部はサムターン回しを困難にするクラッチ機構を搭載し、物理的な対策にも配慮。アプリから解錠する場合は、認証部を通さないため、認証部の端末を持ち去れた場合でも解錠できる。

バッテリーは容易に取り外しできる構造

 バッテリーは2個を内蔵し、交換しながら充電できる形にした。1個あたりの容量は4000mAhで、1日10回程度の解錠で約1カ月間利用できる。専用充電器はUSB出力を備えており、モバイルバッテリーとしても利用できる。

 2個のバッテリーの残量が両方とも無くなった場合に備え、非常用電源を搭載。非常用電源ではLTEは利用できないが、Bluetooth経由で10回程度の解錠に対応する。なお、非常用電源を使い切った場合は、修理扱いとなる。

 「TiNK C」のロック部の大きさは約69×144×30mm。認証部の大きさは約73×92×35mm。「TiNK E」の大きさは約73×92×35mm。IPX5相当の防噴流設計となっている。

 ハードウェアはtsumugが設計し、OEMにより製造される。量産にあたって、シャープより量産化技術の支援を受けている。サポートにおいてもシャープのグループ会社と協力し、全国の鍵製品取り扱い店で提供できる体制を整えるとしている。

【お詫びと訂正 2017/11/13 14:17】
 初出時、防水性能についてIP4x相当と記載していましたが、正しくはIPX5相当です。お詫びして訂正いたします。

当初は賃貸物件で展開、一般販売は2018年8月以降

 ドアに設置する「T!NK C」と集合住宅の玄関に設置する「T!NK E」を11月9日より法人向けに販売する。アパマンショップが販売パートナーとなり、同社の賃貸物件を中心に展開していく。

 一般ユーザーの発売は2018年8月以降となる見込み。一般販売時の価格は4万9900円となるが、不動産事業者などの販売パートナーには本体を無料で提供する。初期費用は9800円(工事費別)で、月額利用料金は500円~。

 tsumugは2021年までに「T!NK」の国内目標を100万台と定め、賃貸事業者から順次展開していく。2018年1月に米国で開催される展示会「CES 2018」では、API連携に対応したT!NKのディベロッパー版を発表する予定。今後の展開として、宅配便の不在時配達や集荷、家電などとの外出時の電源連動、高齢者や子どもの見守りといったオプションサービスを検討。また、指紋認証と顔認証で解錠する認証端末も開発中としている。

 また、同社はメルカリグループのソウゾウとも提携。ソウゾウが展開予定のシェアサイクル「メルチャリ」のロック機構の開発を担当する。

きっかけは、別れた彼氏に不法侵入されたこと

 tsumug 代表取締役社長の牧田恵里氏は、「最高の安全で安心を生み出す未来の鍵を作るため、tsumuguを立ち上げた」と紹介。

 その上で、スマートロックについて、「アプリで“スマートに開ける”というのが本当に鍵の未来なのか?」と問いかけ、鍵を開ける機能だけでは不完全だと示唆した。牧田氏が目指したのは、「いつ誰が開けたのか把握できるスマートロック」だ。

 そのきっかけになったのは、牧田氏自身の別れた彼氏に不法侵入されたという経験があったこと。鍵を貸していた間に複製されたのだという。牧田氏は「物理鍵はいつ複製されたのか、誰が使ったのかを知るすべが無い。こうした物理鍵をなくしたいと思い、T!NKを開発した」と語った。

孫泰蔵氏「社会のあり方そのものを変える可能性がある」

 同社は発表会にあわせて「スマートロックに未来はあるのか?!」と題したパネルセッションを実施。同社の事業パートナーや投資家ら7名が参加した。パネラーはtsumug代表取締役社長 牧田恵里氏、さくらインターネット株式会社 代表取締役 田中邦裕氏、アパマンショップホールディングス 代表取締役社長 大村浩次氏、シャープ 研究開発事業本部 オープンイノベーションセンター 所長 金丸和生氏、メルカリ 取締役CPO 濱田優貴氏、Mistletoe ファウンダー孫泰蔵氏、モデレーターはtsumug 取締役 小笠原治氏。

左から、tsumugの牧田氏、さくらインターネットの田中氏、アパマンショップの大村氏
奥から、メルカリの濱田氏、シャープの金丸氏、Mistletoeの孫氏、tsumugの小笠原氏
孫泰蔵氏

 ソフトバンクグループの孫正義代表の弟で、Yahoo! JAPANやガンホーの立ち上げに関わった孫泰蔵氏は、tsumugの「T!NK」のようなスマートロックには「社会のあり方そのものを変える可能性がある」と言及した。

 孫氏が見据える近未来の“ビジョン”は「コモンズ(共有資産)の時代」。インターネットの普及で、オフィスの作業がSkypeやSlackなどのツール上で完結し、将来的にはVR空間でミーティングなどもできるというものだ。作業自体がどこでもできるようになることで、未来のオフィスは「知らない人と出会う場所」になってくるのでは、指摘する。

 その動きは家庭にも波及し、同じ家でも状況に応じてパブリックな空間とプライベートな空間が混在してくるようになるという。例えば、米国ではAirbnbで一時滞在者を宿泊させることを前提として設計された家が登場していると紹介。空間への“アクセス権”を柔軟に設定できるというスマートロックの特性が、こうした「一部の空間に他人を入れる」文化を一層推し進めると孫氏は語る。

孫氏が示す未来の家のイメージ。同じ空間でも使い方が状況に応じて変化する

 アパマンショップの大村社長は、「ニーズをひしひしと感じている」と孫氏に共感。その実例として「シェアハウスの着工戸数が増えている。過去10年分の戸数が1年で建つ勢いだ」と紹介した。

 さくらインターネットの田中代表は、孫氏のビジョンを「インターネットな家だなあと思う」と語り、フラット、相乗り、自由といったインターネットのカルチャーが「インターネットを使っているうちにみんな慣れてきた」(田中氏)ことでリアル空間にも波及していくという見方を示した。

【お詫びと訂正 2017/11/13 14:17】
 初出時、登壇された方のお名前に一部誤りがありました。お詫びして訂正いたします。

大村氏
田中氏