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情報革命で「世界を洗濯致し候」、株主も夢見る孫氏のビジョンとは

「ソフトバンクの本業がまだ携帯電話だと思っている? まったく違う」

 ソフトバンクグループは、第37回の定時株主総会を開催した。代表取締役社長の孫正義氏が議長として登壇、直近の取り組みを動画で紹介した後、今後のビジョンや取り組むべき課題が孫氏から語られた。

ソフトバンクグループ 代表取締役社長の孫正義氏

 東京の株主総会の会場には2189人が来場、後継者問題を中心に株主12人から質問があり、その後4つの議案がすべて可決された。

 取締役は7名から11名に増員された。新任の取締役には、Sprint CEOのマルセロ・クラウレ氏、ソフトバンク・ビジョン・ファンドの立ち上げを指揮したラジーブ・ミスラ氏、ARM CEOのサイモン・シガース氏が選ばれている。宮坂学氏(ヤフー 代表取締役社長)は、取締役から外れた。

 取締役のうち、社外取締役は2名から4名に増員された。金融業界出身で過去に社外取締役でもあったマーク・シュワルツ氏と、サウジアラビア PIFやサウジアラムコのそれぞれ取締役で、ソフトバンク・ビジョン・ファンドの立ち上げにも貢献したヤシル・アルルマヤン氏が新たに選ばれている。

株主総会の様子
株主総会の最後に、新任の取締役や監査役が登壇した

数字ではなく志「最も尊敬される企業になりたい」

 孫氏は、バブル後に3年連続で巨額の赤字経営を続けていた2004年の株主総会で、「これはホラですが、利益で1兆、2兆を数える企業になりたい」と語っていたビデオを流した後、2016年度の業績として「一次益なしで1兆円を達成した」と報告。孫氏が静かにお辞儀をすると、会場からは拍手が起こった。

損失が1000億円を超え、3年連続で赤字だった2004年の株主総会で、将来像を問われて「これはホラですが、利益で1兆、2兆を数える企業になりたい」と語る孫氏のビデオ

 一方で、NTT、トヨタに続く日本で3番目という1兆円の利益を達成しても「感動はたいしてなかった」とし、「1兆円、2兆円は数字に過ぎない。もっと大切なもの、しっかりと見えている志がある。これから、目の前にある山を登る。そういう気持ち」として、まだ道半ばであるとする。

 孫氏は、敬愛する坂本龍馬の言葉になぞらえて、産業革命後の150年で行き詰まった今を「世界を洗濯致し候」と掲げる。「それぐらいの志。ホラもこのぐらい吹けば気持ちいい(笑)」。

 「人類に最も貢献し、最も尊敬される企業になりたい」。孫氏はこの後も繰り返しこう語り、規模や数字以上に、情報革命で人類に貢献していくことが同氏やグループの志であると訴えた。

“超知性”が世界を変える

 孫氏は1年前の株主総会で、株主に対しても、AIやビッグデータへの取り組みを表明。人工知能が人類の知性を超える転換点「シンギュラリティ」をやがて迎えると予測した。

 「人類が発明したコンピューターのチップが、人類を超える。30年以内にさまざまな分野で活躍し始める。ありとあらゆる分野で、超知性がさまざまに、人間の知的活動を上回るようになる。制御できなければ人類の滅亡を招くかもしれないリスクに数えられている。あらゆる産業が再定義され、交通事故も起きない世界がもうじき実現する」などとビジョンを語ると、その人工知能の背景に存在しているデータ、ビッグデータはかならずチップから発生するものとし、スマートフォンを始めとしたモバイル機器のCPUのライセンスで圧倒的シェアを持つARMの重要性を指摘。「いずれはランニングシューズ、眼鏡、ミルクの容器までARMの技術が搭載されることになるだろう」とARMのライセンスが世界を席巻する様子を予測した。

 孫氏は、近頃出資した衛星通信の「OneWeb」についても、「この2年間で、低軌道に合計800基の衛星を打ち上げる。これまでよりはるかに安く、いたるところにインターネットの通信を提供できる。通信もこれで決定的に変わる」などとして、シンギュラリティやビッグデータ、IoTの文脈でも「OneWeb」の衛星通信が重要であるとした。

 孫氏はここで、「ソフトバンクの本業が携帯電話の会社だとまだ思っている人がいるかもしれないが、まったく違う」と断言。「ソフトバンクは情報革命の会社。携帯電話はいち道具に過ぎない。超知性の誕生に向けて頑張っている」とした上で、今後は超知性がロボットにも影響を与え、スマートロボットになるとし、先進的なロボットを開発しているボストン・ダイナミクスの買収に言及、動画でボストン・ダイナミクスのロボットが動いている様子も紹介した。

 孫氏はこのほか、ビッグデータや人工知能を活用し、従来の1000倍という高い精度で血液検査を行い、ガンの早期発見を行う企業に出資したことも紹介し、さまざまな分野に投資対象が広がっていることを語った。

 10兆円の規模で立ち上がった「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」については、鍵になったサウジアラビアからの出資に言及し、石油に依存しない経済体制を模索している同国の方針と孫氏の意見が一致したことから投資を呼び込めたとした。

 孫氏はこうしたさまざまな企業とのつながりを「同志的結合の起業家集団を作りたい」という世界で思い描く。「単に資金的なリターンを求めるのではなく、情報革命を行う同志を世界中から結集したい」と語り、SprintやARMのCEOからサウジアラムコ取締役まで、英・米・中東と国際色豊かになった新任の取締役候補(議案として可決、選任された)を紹介した。

 この日の孫氏は、風邪をこじらせたとのことで、時おり咳き込みながら総会の議長を務めていたが、「志や願いがしっかりと見えている時、病気もぜんぜん苦にならない。熱なんか関係ない。毎日、朝が来るのが待ち遠しい。夜になればアメリカやイギリスに電話をかけまくっている。人生が楽しくて仕方がない。面白くて仕方がない。引退なんてしていられない!」と、毎日が充実している様子を語り、しばらくはグループの陣頭指揮を継続することを強調した。

株主からの質問

 株主からの質問は、最終的に12人、12件の質問が受け付けられた。

 ARMの買収に関連し、「ARMはどのように化けるのか。キーテクノロジーは何か」と質問が出ると、孫氏は、「5年後、10年後の技術の進展を読むのは難しい。しかしARMの社内には10年後までのロードマップがある。(市場への浸透を考えると)実質的に13年後のスマホ(に相当するデバイス)の設計を今行っている。これほどまでに先を予見できる企業がグループにいる。将来、これにあれを組み込んだら、と、どんどん推論できるようになる。(チップを)データが通っていき、そこに膨大な価値がある」と、非常に大きなアドバンテージを持っていることを強調。「詳細は戦略に関わるので言えない」とキーテクノロジーには言及されなかったが、ARMの取り組みが非常に重要になることを示した。

「やりましょう」が「なくしましょう」に

 通信事業関連では、無料のWi-Fiスポットの取り組みについて、オリンピックの開催を念頭に、大々的に取り組んで、それにソフトバンクが貢献したことを分かるようにしてほしい、(3年前のように)“やりましょう”ともう一度言っていただきたい、と要望が上がった。

 しかし孫氏は「無料のWi-Fiは、無くすべきと思っている」とバッサリ。「オリンピックの度に、無料のWi-Fiでさまざまな被害が大量に発生している」と、無料のWi-Fiスポットを偽装して情報を盗み取るといった、セキュリティ面での問題を指摘。「無料のWi-Fiよりも、世界中の事業者とデータのローミングをし、アンリミテッドなローミングなどを検討すべき。日本のLTEは世界で最もすぐれたカバー率と容量。ローミングのほうがセキュリティを保てて、面倒くさくない。それでも無料Wi-Fiのほうがいいという声があるなら、セキュリティ面で解決する方法があるか、検討を進める」とし、無料のWi-Fiスポットの展開には消極的な姿勢を示している。

 太陽光発電事業については、売却してはどうかと意見が飛んだが、こちらは逆に、利益が上がっており、インドなど海外でも展開、通信事業のインフラ整備と親しい点もあり、「やってよかった」と評価。世界では携帯電話事業と電気事業をセットで手がける潮流もあるとし、IoTなどでも事業同士にシナジーも出てきたとして、「むしろ徐々に拡大すべきではないか」との方針を示した。

後継者問題は「今後10年で取り組む」

 株主からの質問では、後継者問題に多くの質問が集まったが、孫氏は「これから10年をかけて、しっかりと取り組んでいく。グループの中の活躍している経営陣の中から選ばれることになるだろう」と回答している。

 後継者を育てるとして開設されたソフトバンクアカデミアについては、グループの役員や社長として活躍するメンバーを輩出しているとして「やってよかった。今すぐ後継者がいるかというと、そうではないが、継続してやっていくことに意味がある」と、一定の評価をしている。

“超知性”は後継者の夢を見るか

 後継者問題をめぐっては、最後には「孫社長は今後10~20年活躍することもあるのかなと思う。20年後の人工知能の進化は、想像もつかない。これは決して荒唐無稽な話ではなく、孫氏の全てを教え込んだ人工知能を後継者にすることは考えているか?」と問われた。

 しかし孫氏は“ホラ”を吹くことなく「(経営者は)人間の集団を率いて、人間に貢献する。ぜひ生身の人間に後継者になってもらいたい」と苦笑い。シンギュラリティの世界観が揺らぐ発言ともとれるが、孫氏の真面目な人柄が覗いた一幕になった。