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AIファーストでリアルへの進出を加速――次の5年を見据えたLINEの戦略
2017年6月15日 22:08
15日、LINEは自社の戦略を説明するイベント「LINE CONFERENCE 2017」を開催した。
LINEアプリの進化やショッピングサービスの提供など、スマートフォン向けサービスの拡充だけではなく、マイナンバーのポータルサービスとの連携や、AI「Clova」を核にしたトヨタやファミリーマートとの提携など、これまで以上にリアルへの進出を加速する取り組みが発表された。
今回、LINEでは、今後5年間のビジョンとして、ネットとリアルの両方でLINEのサービスが活躍する「Everything Connected」、さまざまなサービスで動画を採り入れる「Everything Videolized」、AIを活用していく「Everywhere AI」という3つのビジョンを発表。これは、LINEの目指す「CLOTHING THE DISTANCE(距離を近づける)」を実現するための道しるべと言える。
成長著しいLINE MUSIC、LINE Pay
LINEの描く未来像の前に、その基礎となる今のLINEの姿はどうなっているのだろうか。
代表取締役社長の出澤剛氏によれば、LINEが広く普及している日本、台湾、タイ、インドネシアにおけるLINEの月間アクティブユーザー数(MAU)は1億7100万人。1年前と比べ、2000万人も増えた。「ユーザーとの結びつきを示す数字」と重視するDAU/MAU比率(1日のアクティブユーザー数/月間アクティブユーザー数)は72%で、「非常に高い数字」(出澤氏)。1日あたりにやり取りされるメッセージ数は270億件で、1日あたりの平均利用時間は約40分という数字も明らかにあれた。
2016年3月に「スマートポータル(SMART PORTAL)戦略」を打ち出し、多角的なサービス拡張を図ってきたLINEだが、1~3月の実績を前年と比べると47%も増加した。その中で特にめざましい成長を遂げた、と出澤氏が紹介したのは「LINEマンガ」「LINE MUSIC」「LINE NEWS」「LINE Pay」の4つのサービス。このうちNEWSは、別アプリだったところから、LINEの公式アカウントでの配信、そしてLINEアプリのタブのひとつと、ユーザーがアクセスしやすい形へ変遷したことで、MAUは280%と3倍近くにまで膨れあがった。
またLINE Payの登録ユーザー数はグローバルで6.7倍、3800万人に達した。特に最近になってユーザー数が急増したとのことで、その背景には「台湾の銀行と提携して納税できるようにした」(出澤氏)ことがある。日本では毎年2月ごろとなる確定申告だが、台湾では5月に行われるとのことで、銀行との提携により、決済額の急増に繋がった。
「Everything Connected」でLINEアプリを拡充
成熟期に入ったスマートフォンに対し、出澤氏は「スマホアプリはゾンビ化している」と語る。多くのWebサービスからアプリに切り替わったものの、少なくない数のアプリはそもそもダウンロードされず、仮にインストールされても使われるのは1度切り……これをゾンビ化と表現した出澤氏は、「人々が日々、利用するメッセンジャーアプリこそ、情報流通のハブ(中継点)になる」という見方をあらためて紹介する。
LINEが進めるスマートポータル構想や、あるいはLINE NEWSがLINEアプリ本体のタブのひとつに組み込まれたこと、そして今後のリニューアルでWALLETタブが設けられること……といった一連の動きは、まさにLINEが「ハブ」の立ち位置にあることを活かし、さらにそれを盤石にしようとする取り組みだ。
今回紹介された3つのビジョンのうち、「Everything Connected」は、LINEがさまざまな物、サービスと繋がっていくことを目指すものだ。
コアバリューはコミュニケーション、動画化でアピール
2つ目のビジョン「Everything Videolized」(動画化)は、テキストから写真、動画へと、よりリッチになる表現手段に応える取り組みだ。同様の流れは、競合であるFacebookも打ち出しているが、多角化を図るLINEでも、あらためて「LINEのコアバリューはコミュニケーション」(LINE執行役員、LINE企画担当の稲垣あゆみ氏)と打ち出す。
そこで今回、採り入れられたのがカメラ機能の強化やLINE LIVEの取り込みといったLINEアプリ本体の進化だ。特にLINE LIVEは、今や月間のライブ配信数が70万件、MAUは1300万人を超える。そのユーザーの大半は10代、20代であり、女性に人気のサービス。LINE執行役員、エンターテイメント事業担当の佐々木大輔氏は「写ルンです、チェキ、プリクラで、どんどんフォトジェニックになることへ慣れてきた。今や、自分自身を表現できるのは、プロカメラマンや家族に撮ってもらうことではなく、自分自身」と説明する。
こうした動画化もまた、動画広告事業に参入することで、新たな収益の柱へと期待がかかる。
海外勢がリードする「AI」に
2017年3月、スペインで開催されたモバイル業界最大の展示会、「Mobile World Congress 2017」において、LINEは、AI関連の取り組みを発表した。クラウドAIプラットフォームの「Clova(クローバ)」と、Clovaを搭載するスマートスピーカー「WAVE」などを手がけるというもので、この段階で、グローバルでの展開ではなく、提供エリアを限る形で、AIを開発する方針を明らかにしていた。
AIを活用するプロダクトは、個人宅での利用を目指し、いわゆるスマートスピーカーの開発が盛んに進められている。その市場をリード、あるいはこれから乗り込もうとしているのは、Amazon、グーグル、アップルと米国企業が目立つ。そんな中、LINEはローカルに密着した開発方針で、スマートスピーカーを展開する方針だ。
LINE取締役CSMO(最高戦略マーケティング責任者)の舛田淳氏は、「人とコンピューターのもっと自然な関係をClovaと一緒に作っていきたい」と意気込む。
Clova、家族で利用できるか不透明
15日のイベントでは「WAVE」を使ったClovaのデモンストレーションも行われた。ただ利用シーンの多くは、一人暮らしのユーザーにマッチした内容。家族をイメージさせるような内容は見受けられなかった。
質疑応答で家族の利用に触れた舛田氏は「家族アカウントを用意して家族で使う設計をするのであれば、(家族を識別して個々人にあわせたコンテンツを提供するサービス提供者が対応しなければならない。我々はサービスとAIプラットフォームの両方を手がけている」と強みを説明。舛田氏によればClovaのアカウントを、LINEのIDで認証して紐付ける形を想定しているとのことだが、家族での利用について、具体的な機能や仕組みについては語られず、現時点では対応しているかどうか不透明という印象を残した。
Clovaのスマホアプリ、韓国でβテスト中
Clovaを利用できるスマートフォンアプリの開発も、3月の段階で明らかにされていたが、今回のプレゼンテーションではまったく触れられなかった。
これに舛田氏は、韓国でβテスト中であることを明らかにする。NAVER Clovaのアプリとして既にアプリマーケットで配信されているとのことで、日本版は開発中とのことだった。