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LINE出澤社長、メッセージングアプリの「陣取り合戦は終わった」

日本、台湾、タイ、インドネシアに集中投資で“スマートポータル”へ

 LINEは15日、東京証券取引所第1部に上場した。前日の14日には米ニューヨーク証券取引所(NYSE)にも上場している。15日に都内で開催された報道関係者向けの説明会では、LINEの代表取締役社長 出澤剛氏が登壇し、アジアの4カ国・地域にフォーカスしていく方針を明らかにした。

 LINEは今後、トップシェアを獲得している日本、台湾、タイの各市場と、拡大しているインドネシア市場に特化し、メッセージングアプリを核としてさまざまなコンテンツサービスを提供する「スマートポータル」として成長を目指す。

LINE 代表取締役社長の出澤剛氏

次の波は「スマートポータル」

 LINEは、メッセージングアプリの「LINE」を中心に、世界の各地域に特化する戦略でサービス拡大を続けてきた。今回の方針変更では反対に、アジアの4カ国・地域に絞り込む形となる。

 LINEやWhatsApp、Facebookメッセンジャーなどが競うメッセージングアプリの市場は“勝者総取り”の世界だ。ある地域でひとつのアプリが圧倒的なシェアを獲得した場合、そのアプリから市場をひっくり返すほどのユーザーを奪い取るのは難しいとされる。

 出澤氏は、グローバルでのメッセージングアプリについて「陣取り合戦は2015年でほぼ終わっている」と語り、スマートフォンの普及とともに各地域でのメッセージングアプリのシェアも確定し、今後メッセージングアプリ市場で大きなシェアの変動はないという見通しを明らかにした。

 その一方で出澤氏は、「世界各国の通信環境が向上したタイミングで、次の波が来る」と語り、メッセージングアプリを中心にさまざまな周辺サービスも提供する「スマートポータル」への移行が進むとした。LINEは今後、4カ国・地域に重点的に投資し、「スマートポータル」としてのLINEの確立を目指す。

 上場によって調達した資金については、インドネシア市場のユーザー獲得、スマートポータル完成のためのパートナーシップ、AIやBOTなどのテクノロジーへの投資という3つの用途に投資していく方針。

上場は事業拡大と「より透明性を高めるため」

 出澤氏は上場の目的として、事業拡大のための資金調達と並んで「透明性の向上」を挙げている。投資家に向けて情報を開示し、外部の監査を受け入れることで、家族や親しい友人ともやり取りするサービスを提供するLINEにとってより重要な透明性を確保する狙いだ。

 ユーザーにとっては、「今すぐにサービスが変わることはない」としつつも、「次のサービスの展開を早めることができるし、より大きなスケールで展開できるようにもなる」とした。

 今回、東証とNYSEの両方に上場する日米同時上場という形になったが、NYSEで上場する目的は「グローバル市場でのプレゼンス(存在感)を高めるため」(出澤氏)だという。

東証の上場セレモニーで打鐘する出澤氏(LINE提供)

徹底的に各地域に特化する「カルチャライズ」が強み

 LINEではメッセージングアプリの「LINE」を中心的なサービスとして、ゲームアプリやLINE NEWS、LINEミュージックなどのコンテンツサービスと、決済やアルバイト探し、タクシー手配などの生活関連サービスなど、スマートフォンで利用できるサービスを幅広く提供している。「スマートポータル」は、メッセージングアプリのLINEを入口に、これら幅広いサービスを展開していく構想だ。

 集中投資を決めた地域のうち日本、台湾、タイの3つの市場はLINEが圧倒的なシェアを持つ市場。インドネシア市場でのLINEはシェア2位だが、この市場でも圧倒的なシェアを獲得することが可能だという。出澤氏はその理由を「インドネシアはスマートフォンの普及率が40%程度で、まだ拡大の余地がある。そしてシェア1位のBBM(BlackbBerry Messenger)は、他の地域でのシェアは低く、積極的なアップデートは少ない」と説明した。

 LINEの各市場での戦略は、「カルチャライズ」と呼ぶ、徹底的な現地化だ。台湾では現地の決済サービス最大手の企業と組みLINE Payを運営、マンガの配信サービスを提供している。また、タイでは家族との繋がりが強く、インドネシアでは学校の友だちとの結びつきが強いことから、インドネシアでの独自サービスとして、同じ学校に通う「友だち」を探す機能を組み込むなど、サービスの機能面でも現地化を進めている。

 ユーザーを獲得してサービスを充実させた後、求められるのは収益化だ。現在のLINEの売上の中心は、スタンプ、コンテンツ、企業向けの公式アカウントサービスだ。今後、タイムライン広告やLINE NEWSなどで、ユーザーの属性情報にあわせた広告を表示していき、安定した収入の確保を目指す。

出澤社長一問一答

 質疑応答や囲み取材では、記者からの上場に対する受け止め方や上場後の展開についての質問に、出澤氏が答えた。

――「2015年に陣取り合戦がほぼ終わっている」というコメントがあったが、2年前に上場していれば有利に立てたのではないか。

出澤氏
 上場について重要なのは市場環境よりも内部の状況だ。2年前はサービスの拡大を図っていく状況で、まだ上場に対する自信が持てなかった。今回、売上と自信、組織体制の3つが揃った段階での上場で、我々にとってベストなタイミングだと思っている。

――インドネシア市場では、どのような拡大戦略を描いているのか。

出澤氏
 一言でいうと「カルチャライズ」。例えばマーケティングでは、現地で2000年代に流行った恋愛映画の主人公達がLINEを通じて再会するというCMを展開した。LINE NEWSやゲームでもインドネシアにあわせた展開をしているが、「これをやれば上手くいく」というものはなく、ディテールの積み重ねや磨き上げになる。

――AIやBOTなど、技術開発に関する取り組みは。

出澤氏
 FacebookやGoogleなども取り組む、競争の激しい領域だ。LINEの強みはユーザー接点をを抑えていること。加えて、ユーザーの属性情報などのデータもある。技術的には課題があるが、いかにユーザーに役立つかという観点で研究開発を進めている。

――「スマートポータル」の現在の状況は。

出澤氏
 インテリジェンスと提供しているスマートフォンで求人を探せる「LINEバイト」が順調だ。最近の若いユーザーは、従来型のメディアではアプローチできない傾向がある。その中でスマートフォンから面接予約が取れることから受けている。

 今後、外部のパートナーが連携サービスを展開しやすいように、APIなどを整備している。秋からさまざまなサービスを展開する予定だ。出前館は、LINEを通じた宅配サービスを提供する。トランスコスモスとの取り組みでは、LINEをコールセンター化するもので、電話に使い慣れていないユーザーでもLINEで手軽にサポートを受けることができる。

 中期的には、決済サービスが大きく成長すると考えている。

――世界でのプレゼンスを上げるために米国のNYSEに上場すると言うが、注力するのは東南アジア。効果はあるのか。

出澤氏
 メッセージングアプリについては、世界での陣取りがほぼ終わっている状況だ。スマートフォンの普及が一段落して、動かしづらい状況になっている。

 直近では4市場にフォーカスするが、中期的には新たなユーザー変動の流れが来ると予想している。そのタイミングで「スマートポータル」として世界に展開していく。

 NYSEでの上場には別の意義もある。技術への投資は世界中の企業がパートナーとなり得る。技術的に最先端を進む米国で、FacebookやGoogleといったインターネットの巨人と同じ市場で勝負するのは、技術面でパートナー獲得のために重要なことだ。

囲み取材では海外市場での展開や、MVNOサービス「LINE MOBILE」の状況も聞かれた

――「LINE MOBILE」はどのような端末を用意するのか。実店舗で展開するのか。

出澤氏
 端末などはまだ決まっていない。夏頃にはプランを案内できるだろう。実店舗での展開は現時点では検討していない。

――スペイン語圏や中東でのトップシェアを狙う方針を示していたが、今後は縮小するのか。

出澤氏
 スペイン語圏については縮小していく方向だ。中東のユーザー数は自然に伸びている状況だが、まずは売上を確保していかないといけないので、4市場に集中する。

――上場したことで、投資家からはユーザー数の増加を求められるのではないか。

出澤氏
 そのトレンドは変わってきていると感じている。今回NYSEでの上場の際に投資家を訪問したが、稼げないユーザー数を増やすよりも収益を拡大することを重視していく方向性だ。

――今後「メッセージングアプリ離れ」が起きる可能性もあるが、どう対処していくのか。

出澤氏
 フィーチャーフォンからスマートフォンへ変化していくなかで、移行にあわせてLINEとユーザーを獲得してきたので、当然その逆にシェアを減らすこともあると思う。

 ただ、LINEの強みは今までインターネットサービスとしては見られなかった、身近な家族や人間同士の繋がりにあると考えている。こうした人間関係は、再構築が非常に難しい。