インタビュー
サムスン電子ジャパンCOO堤氏が語るGalaxyの次の一手
サムスン電子ジャパンCOO堤氏が語るGalaxyの次の一手
「もっと今のAndroidを知ってほしい」
(2015/6/19 14:07)
「Galaxy S6」と「Galaxy S6 edge」の発売によって、国内の大手3キャリア全てで取り扱われることになったスマートフォンGalaxy。日本では現在大手キャリア向けのビジネスを中心として展開しているが、MVNO市場やSIMロック解除の広がりによる市場環境の変化への対応や今後の日本でのビジネスにおいて目指す方向性について、サムスン電子ジャパン 代表取締役 最高執行責任者(COO)の堤浩幸氏に伺った。
堤氏が、入社後にGalaxyに触れて
――堤さんは、NEC、シスコシステムズを経てサムスンに入社されましたが、その経験を踏まえてサムスンはどういった会社だと思いますか。
堤氏
それぞれの会社が、それぞれ素晴らしい個性を持っていると思います。その中でも、サムスンはすごく面白い会社だと思います。入社して以来驚きの連続です。サムスンという会社を例えてみます。日本料理、アジア料理、西洋料理と、いろいろな料理が並んでいて、それぞれの特徴があって、とても美味しい。それを全部ひとつのボウルにいれて、ごちゃ混ぜにしたような会社、それがサムスンです。
今、私はそれを食べています。微妙なテイスト(笑)。でも、これにスパイスを加えたり、調理したら、潜在的にものすごくおいしくなる可能性がある。そういったポテンシャルを持った、非常に面白い会社だと認識しています。
――今回、ソフトバンクモバイルからGalaxy S6 edgeが発売されたことで、国内大手3キャリアでGalaxyシリーズが展開されることとなりましたが、これによりどのような効果が期待できますか。
堤氏
「ソフトバンク参入」などと言われますが、実はサムスンの日本進出時に最初に扱っていただいたのが、ソフトバンクでした。今回Galaxyのスマートフォンを大手3キャリアに提供することでお客さまにとっては、それぞれのキャリアの特徴や、価値観に合わせて、お好きなキャリアからGalaxyを選ぶことができるようになりました。Galaxyの良さをお伝えできるチャンスが増えたのを機に、デザインや機能、操作性などのGalaxyの魅力を、より積極的に伝えていければと思います。
――ご自身もGalaxy S6 edgeをお使いということですが、気に入っているところを教えてください。
堤氏
今はこのGalaxy S6 edgeを、「これがないと仕事にならない!」というくらいに使い込んでいます。
まず感じたのは、「今のAndroidってここまでできるようになったのか」という驚きです。その中でも特にGalaxyは、パフォーマンスが良い。スピーディかつ操作性が良いです。サクサクっと操作できるのは、Galaxyならではの快感ですね。
ウェイティングタイムというものがあります。コンピューター上の画面表示などで、人間が読み込みに待っていられる時間ですが、かつては7秒が限界と言われていました。スマホの時代になって、それがどんどん短くなっています。Galaxyはその期待を裏切らないレスポンスをします。例えばカメラ機能。ホーム画面からカメラが起動するまで、約0.7秒。シャッターの操作をしてから撮影されるまでの動作も俊敏です。
パフォーマンスとスピーディさに加えて、画面が綺麗なところも気に入っています。家族や友人に見せたときに、「綺麗だね」と驚かれるのですよ。Galaxy S6 edgeでは、デュアルエッジスクリーンによって、画面が縁まで広がっているように見えるところも、画面の綺麗さに繋がっていますね。
実は、Galaxy S6/S6 edgeでは、純正アクセサリーのバリエーションを、今までの10倍程度まで増やしました。さまざまなケースなどをラインナップして、選ぶ楽しさを味わえるようにという考えからです。ただ、お客さまの方は「今回のGalaxyは、隠してしまうより見た目を生かした方がいい」と、クリアケースを選ばれる方も多いようですね。
――今回のGalaxy S6/S6 edgeは、実際に触らないと気づかないような隠れた良さがたくさんあるように思います。それを伝えていくうえで、どのようなアプローチをお考えですか。
堤氏
今回は、CMでも店頭のプロモーションでも、「まずは触ってください、体験してください」と、お願いしているところです。スペックだけでは現れない部分に、楽しさを詰め込んだ機能を満載しています。一例を出すと、セルフィー(自分撮り)で、手をかざすとシャッターが撮れる機能。ただ綺麗に写真が撮れるというだけではないところを体感していただけるのではないかと。
もう一つ訴えたいのは、「今のAndroidを知ってほしい」ということです。今のAndroidスマートフォンは、数年前のAndroidスマートフォンのイメージからすると、まったく違うものになっています。これは文字で読むだけではわからないところなので、ぜひ体験していただきたいと考えています。
――実際に体験できるように、量販店内に「Galaxy Shop」を積極的に展開されているのですね。
堤氏
その通りです。フィット感、機能性、性能、見た目についてもそうですが、みなさん、実際に触ってみて驚くんですよ。今回のGalaxy S6/S6 edgeは、皆さんに「驚き」を提供できると思っています。
MVNOへの展開は「お客さまのニーズを見ながら検討」
――NTTドコモが2年前に展開していた「ツートップ戦略」から2年が経過し、スマートフォン市場全体が成熟してきて、新たな顧客獲得は難しいように思われます。サムスンとしては、現在のGalaxyファンをより重視する方向に向かうのでしょうか。
堤氏
もちろん、今のGalaxyのファンの方はとても大事に思っていますし、さらに増やしていきたいもと思っています。ただ、一般的には飽和状態にあると言われている現状のスマートフォン市場ですが、私の視点からみると、まだまだ市場は伸びているし、発展すると考えています。
その一因は、一度購入して3~4年使い続けるパソコンに対して、スマートフォンは1~2年と買い替えサイクルが短いことにあります。さらに、スマートフォンを2台持ちされる方が増えていることも理由として挙げられます。使いたい機能によって使い分けたり、業務用とプライベート用で分けられていたりと、スマートフォンとスマートフォンの2台持ちが増えていると実感しています。
一方で、別の方向軸として、携帯市場から発展をさせてより大きなビジネスモデルを模索しています。例えばIoT(Internet of Things)と言われている分野、さらにもっと超えて、例えばeコマース、金融業界など、いろいろな異業種とを繋いだ大きなビジネスモデルを構築できないかと考えています。極端な話、「スマホが世界の産業構造を変える」といったところです。
――5月から、SIMロック解除のガイドラインに基づく新ルールの運用がスタートしました。Galaxy S6 edgeもその対象機種となりましたが、SIMロック解除に伴う市場環境の変化は、サムスンにとってはどう影響すると考えますか。
堤氏
お客さまが自由に選べる、選択肢が増えたという意味で、ポジティブに受け止めています。今までスマホを使っていなかった人がスマホを選ぶチャンスが増えるという意味でも追い風ですし、SIMロック解除によって、スマートフォンの機能性に幅が増え、スマートフォン市場全体が広がる可能性もあるとも考えています。
――現在の市場で一般的になっている、2年ごとにスマートフォンを買い替える、いわゆる「2年縛り」について、どうお考えですか。
主観ですが、2年というのはよく考えられた設定ではないでしょうか。お客さまとしては、1年程度で端末を買い替えるのは手間もお金もかかる。キャリアの視点では、サービスを継続して提供していくにあたって、ある程度の期間は必要です。その意味でも、2年の担保は、ちょうどよい長さだとも思えます。
もしかしたら、スマートフォン市場やモバイルコンテンツ市場を活性化していくためには、2年というのはいいサイクルなのかもと思っています。
――IoTに関連して、MVNOに対してウェアラブルデバイスを提供するといった展開も考えられますが、いかがでしょうか。
堤氏
一括りでMVNOと言っても、用途や分野によって、さまざまな企業が異なる形で展開しています。成長が期待されるセグメントに対して、試験的に製品を投入するということは考えられますが、市場性を勘案しながら検討していきます。一方で、MVNOによって、どのようなソリューションを提供できるかを、考えていきたいとも思っています。
また、MVNOサービスの提供対象でも、B2B向け、B2C向け、B2B2C向けでは、それぞれ提供される内容が大きく異なります。今後MVNOの市場が発展していくには、従来のスマートフォン市場にとらわれず、お客さまのニーズを的確に捉えたサービスを提供していくことが重要になると思います。
既存のキャリアビジネスをなぞったMVNOだけではなく、例えば、何かに特化したMVNOにも可能性はあると思います。通信ゲーム専用のMVNOや、ビデオサービスに焦点を当てたものなど。可能性は大きいですね。
もうひとつの可能性は、セキュリティを考えたMVNOですね。現在のスマートフォンなどでも、セキュリティを考慮した設計となっていますが、今後クラウドやIoTの発展により、違った形のセキュリティが求められるかもしれない。そこにもチャンスはあると思います。
サムスンとしては現状、MVNO向けには提供していませんが、今後膨らむ市場のニーズを見ながら検討している段階です。
――今後大手キャリア以外の市場に提供していくにあたって、キャリアへの配慮についてはどのようにお考えですか。
堤氏
もちろん、各キャリアの戦略についても尊重していきますし、各キャリアの色の違いによって、お客さまが選んでいるという面も理解しています。一方で、一番重要なのは、「最終的にはお客さまが、どのような感覚を持たれるか」という点です。キャリアと組むとしても、MVNOと組むとしても、市場全体の価値観を高め、お客さまに「こんないいものがでてきた」と感じていただく。その軸は今後とも、どのような市場に提供していくにあたっても、変わることはありません。
現在は市場の転換期だと認識しています。その変化に対応しきれずに市場が縮小していくようなことになれば、これは誰一人幸せにはならないと思っています。お客さまのためにも、皆で盛り上げて市場を拡大していければ、と思います。
――B2Bでの展開は、具体的にはどういった形となるのでしょうか。
堤氏
Galaxyシリーズにおいて、ハードウェアレベルから強固なセキュリティを確保するソリューション「KNOX」を提供しています。この「KNOX」を組み込んだGalaxyシリーズを、高度なセキュリティが必要とされる企業に対して提案を行っています。
また、高い物理耐久性を確保している「Galaxy Active」シリーズも提供しています。屋外などで、高い信頼性を求められる企業に対して、提案していきます。
――「KNOX」について、海外の展示会では積極的に説明されていますが、国内での認知度はいま一つの印象です。
堤氏
その通りです。今までは大手キャリアを通したB2Cビジネスに特化した体制になっていました。ただ、「KNOX」を使っていただいている企業からの満足度はかなり高いので、これからは「KNOX」やクラウドビジネスを含めて、B2B市場向けへのアプローチを強化していきたいと考えています。
――日本では、フラッグシップのGalaxy S6を中心に展開されている一方、グローバルではハイエンドからローエンドまで幅広いラインナップを揃えているサムスンですが、今後日本でもミドルレンジ以下のモデルを展開されていくことはありますか。
堤氏
そこはまさしく考えていくところです。例えば、MVNO向けに提供していくかどうか。今後MVNOが市場の20%を占めるという予測もあります。その市場に対してどういったサービスモデルを作っていくかは、検討課題の一つです。また、ミドルレンジ以下の端末の提供についても、同様に検討を重ねています。お客さまにご満足いただける製品、サービスやソリューションを提供していくことから、必然的にそれに適したハードウェアを提供していくことになると思います。一方で、Galaxyのブランドは大切にしていきたいので、Galaxyをもっと知っていただくためにどのような製品を提供するかは、真剣に検討しているところです。
「スマホの次の言葉を見つけたい」
――サムスンといえば日本ではスマートフォンというイメージですが、グローバルではさまざまな製品を提供されていますね。例えばテレビなどを日本市場で投入しても、戦略として面白いのではないかと思いますが、いかがでしょう。
堤氏
同感です。スマホにこだわらず、もう少しいろいろなITソリューションがあってしかりだと思います。
極論をいうと、「スマホという言葉をなくしたい」と考えています。というのも、スマートフォンはもはやただの電話機ではなく、生活全般の核となりうるポテンシャルを秘めていると感じているからです。テレビとの融合やスマートホームの実現によって、今のスマホの領域を超えた社会を実現する。そのための新しい呼び名が必要だと思っています。
その社会を実現するために、今のGalaxyをアップグレードしていきたいです。実際私は、今も家中の照明や家電を、このGalaxy一台でコントロールしています。この便利さは、実際に体感してみないとわからないところかとも思います。
また、ハイエンドと言われるGalaxy S6/S6 edgeですが、ハイエンドだからと言って、仕事でバリバリと使う層だけをターゲットとしているわけではありません。
例えば、ご年配の方向けには、必要な機能だけに極力絞り込んで見やすくした「かんたんモード」を搭載しています。また、子ども向けには、「キッズモード」を使えば、使用時間を制限するタイマー機能も利用できます。高機能といわれることが多いGalaxyですが、さまざまな方にとって使いやすいスマートフォン、という一面もある、というのも知っていただきたいです。
――最近、マイクロソフト周辺の動きが慌ただしくなっていますが、Windows Phoneの立ち上げから関わられているサムスンとしては、Windows 10についてどのようにお考えですか。
堤氏
我々としては、日本のマーケットのニーズに応じて、適切なアクションをしていきますが、現時点で決まっていることはありません。
ただ、IT市場は変革期に突入していると思っています。マイクロソフトさんに限らず、業界の枠に捉われない多くの企業とのシナジーを発揮していければとは考えています。
――本日はどうもありがとうございました。