インタビュー

「Galaxy S6 edge」「Galaxy S6」のデザインへの挑戦

「Galaxy S6 edge」「Galaxy S6」のデザインへの挑戦

「かっこよくて使いやすい」を実現するための性能

 4月23日にNTTドコモとauでに発売された「Galaxy S6」と「Galaxy S6 edge」は、サムスンの最新フラッグシップモデルだ。背面の偏光フィルムやアルミフレームとガラス素材の多用で、今までの「Galaxy」シリーズにない素材感を実現している。

 今回、デザインに込めたこだわりや、妥協のないスペックに対する考え方、カメラ性能やワイヤレス充電など、「S6」と「S6 edge」との気になるところを、サムスン電子ジャパンのProduct Group 課長の糸櫻幹雄氏に伺った。

サムスン電子ジャパン Product Group 課長 糸櫻幹雄氏

まずは「見た目から変えよう」

――まずは「Galaxy S6/S6 edge」の国内や海外での反響を教えていただけないでしょうか。

糸櫻氏
 おかげさまで、発表直後からご好評をいただいています。店頭でホットモックを見つけて、実際に手に取って試されるお客様が多いようです。「S6/S6 edge」では「見た目から変えよう」をキーワードとして、デザインの設計を行いました。触れていただくことで、これまでの「Galaxy」シリーズの伝統となっている「高性能」を踏襲しつつも、図抜けたモデルに仕上がっていると、実感していただけると思います。

――見た目へのこだわりは、背面の偏光フィルムや、ガラスやアルミニウム素材を多用しているところからも感じられます。デザインに対するこだわりについてお聞かせください。

糸櫻氏
 ただ「綺麗にしましょう」ということではなく、綺麗さを追い求めつつも、「匠の技」「クラフトマンシップ」を随所に盛り込んでいます。

 「ガラス」と「アルミ」も、ただ質感を良くするために採用したわけではありません。耐衝撃性を高めるために「ゴリラガラス4」を選定したり、剛性を高めるためにアルミフレームとして利用しています。デザインの設計段階から、お客様の使いやすさや所有感といったレベルにまで昇華したデザインを目指しました。

 本体の厚さを少し厚めの7mmとしましたが、設計上はもっと薄く仕上げることもできました。しかし、試作の結果、持った時の最適な心地よさを実現できる厚さとして、7mmとしました。サイドのアルミに角度をつけて、ぎりぎりまでシェイプしているので、数字以上に薄く感じていただけると思います。スマートフォンは、持ち心地がよくないと、その楽しさも半減してしまいます。ずっと持っていられるような心地よさを実現するための筐体デザインにこだわっています。

100以上の試作から導いた「半径6.5mmの曲線」

――見た目では「S6 edge」のエッジディスプレイも特徴的ですが、どのような経緯でデザインに取り入れられたのでしょうか。

糸櫻氏
 昨年発売した「Galaxy Note Edge」では、自社で開発した曲げられるディスプレイの技術を活かした製品として提供しています。今回の「S6 edge」では、その技術を「Note Edge」とは違った形で用いて、より使いやすいスマートフォンを実現しようと目指しました。

 ただ「曲がったディスプレイを使っている」というだけでは満足しませんでした。それがどのような曲げ具合だと、一番握りやすい形となるのかを探るために、100以上の試作パターンを作り、検証を繰り返しました。その結果、持った感触や狭額縁感が最も心地よく、かつ誤動作をしないという最適なバランスを持つディスプレイは「半径6.5mm」の曲線だ、という結論を導き出しました。

――今までの機種では端末の背面に印刷されていた「CEマーク」などが、「S6/S6 edge」では画面内表示に変更されて、背面がすっきりしていますね。

糸櫻氏
 端末の顔ともいえる外観には、最低限必要な情報だけを表示するようにして、余計な情報は極力そぎ落とすように心がけました。お客様に「よりかっこよく持てるスマートフォン」を目指してデザインしました。

――ターゲットユーザーはどのような人たちなのでしょうか。

糸櫻氏
 特定の性別や年代を意識してデザインの設計を行っているわけでありません。「スマートフォンを使いこなして、スタイリッシュに活動する」という生活スタイルをされている方をターゲットユーザーとして想定して、設計しています。

 「スマホを使いこなしている人」というイメージからは、意外なように思われるかもしれませんが、女性がスマホでSNSなどを使いこなしているといった例が多くあります。一例として、そうしたスタイリッシュな女性が持っていて「素敵だね」と言われるようなスマホにするため、カラーラインナップにゴールドを加えたりといったことをしています。

――前の機種「Galaxy S5」からかなり大胆なリニューアルをされていますね。

糸櫻氏
 スマートフォンでは世界シェア一位となっている「Galaxy」ですので、もし、そこそこ改良しただけの機種を出したとしても、世界規模でみればある程度は売れたと思います。しかし、あえてデザイン面でも性能面でも一新した「S6/S6 edge」を投入したところに、我々の意気込みを感じていただけるのではないでしょうか。「Galaxy」シリーズの伝統として持っている「チャレンジングスピリット」を体現していると思います。

 スマートフォンはまだまだ完成形ではない、と我々は思っています。四角い箱の上下についている、という形じゃないスマートフォンがあってもいいよね、という発想に、今回は曲面ディスプレイを取り入れてみることで「S6 edge」として仕上がりました。「S6 edge」では、ユーザーの要望として表れてこないけれど、実際に使ってみたら「この機能は便利だね」と思えるような提案ができたのではないかと思っています。

 「S6 edge」で四角いだけじゃないスマートフォンを提案してる一方で、四角いものにディスプレイがついているスマートフォンについても、完成してしまったものだとも思っていません。フラットタイプの「S6」では、現在のスマートフォンから考えられる進化系を目指して、現時点でできるカッティングやデザインを詰め込んで制作しました。

 我々が提案したいのは、今までのガラケーにいろいろなスタイルがあったように、スマートフォンにも、いろいろな形がある、ということです。今回の「S6 edge」だったり、以前から手掛けている「Note」シリーズといった製品がその一例です。

――強度について、特にエッジディスプレイを採用している「S6 edge」は割れやすいのではないかといった不安の声が聞こえますが、どのような対策が施されているのでしょうか。

糸櫻氏
 頑丈なゴリラガラス4を採用したのも対策の一つですが、それ以外にも多くの落下試験や耐性試験を実施しています。例えば、落とした時の「落ち方」についてもとても気にしてます。ガラスの正面から地面に当たって割れてしまう事態をできるだけ避けるために、端末全体の重量バランスに配慮してた設計をしています。両面ガラスでエッジディスプレイの「S6 edge」では、落下時にガラスに直撃しないためには、縁のアルミニウムを地面に当てるしかないのですが、落下時に縁部分が下になるように、電池の配置をやや偏らせるなどといった工夫をしています。

 「Galaxy」は世界で展開していますので、中にはスマートフォンを粗雑に扱うような国にも提供しています。日本で発売する製品でも、そういった国のユーザーにも耐えられる設計をベースとしていますので、強度については安心していただけると思います。

「スペックが良い」だけの「Galaxy」じゃない

――今回、チップセットやメモリのスペックについてもかなり強化していますが、処理性能についての考え方をお聞かせください。

糸櫻氏
 「スマホの性能は頭打ち」とよく言われますが、ネットワークの進化によって、通信できる速度が向上してきている現時点でも、スマートフォンに求められる処理性能は上がってきていると思っています。例として、インターネット上で4K動画がストリーミング配信されるようになったり、3Dポリゴンをいくつも同時に動かすような処理をするグラフィカルなモバイルゲームが登場したりしています。

 「S5」のユーザーに機種の不満を聞いた際にも、ゲームを多くされる方からは、ゲームの起動が遅いといった声がありました。また、スマートフォンは、一般的には半年程度で買い替えるものではなく、1~2年は使い続けるものですので、1~2年後のリッチなゲームを処理できるよう、高速なCPUだけではなく、メインメモリやストレージにも、性能の優れたものを搭載しました。

 CPUにはサムスン製のオクタコアCPUを積んでいます。この薄さで高性能なゲームを処理するために、さまざまなチップセットで検討を重ねましたが、総合的にもっとも高いパフォーマンスを出せるものとして、これを選びました。14nmプロセスでの製造ですので、消費電力や発熱についても相当抑えられています。

左からドコモ版Galaxy S6、au版Galaxy S6 edge、ドコモ版Galaxy S6 edge

――カメラについても、「S6/S6 edge」では暗いところで綺麗に撮れるようになっていますが、どのような仕組みでカメラ性能を向上させているのでしょうか。

糸櫻氏
 スマートフォンのカメラを使うシーンを調査しまして、「夕方から夜にかけて」「屋外より室内」で使うことが最も多いという結果を得ました。圧倒的に暗い環境下で「明るく撮れること」をキーワードとして開発を進めました。

 明るく綺麗に撮るためには、大きいレンズ、高い画素数、しっかりとした絞り(F値)の3つの要素の掛け算だと考えています。その3要素を「S6/S6 edge」でしっかりと搭載しています。「S6/S6 edge」のカメラで撮影した写真は、明るい写真と暗い写真を合成して、人間の目で見たような明るさとなることを目指しています。

――こういったカメラでの処理も、メモリやチップセットの高速化によって可能になったのでしょうか。

糸櫻氏
 はい。そこのアプローチが今までの「Galaxy」シリーズとは違っている点だと思います。今までの「Galaxy」は「スペックが良いです、以上!」といった訴求になっていましたが、今回は、「写真が明るく綺麗に撮れます。実はこれをこんな高度な処理で支えています」といったようになりました。今まで使っていた中でのちょっとした不満を解消して、より使いやすくする。その実現のために、スペックの裏付けがある、というアプローチです。

「全部入り」より、「使いやすさ」にこだわる

――今までの「Galaxy」シリーズでは外せていた裏蓋が外せなくなったことは、見方によってはデメリットともなりますが、どのように判断をされたのでしょうか。

糸櫻氏
 今までは「裏蓋を外せた方がいいよね」と考えていましたが、今回「外せなくてもいいよね」と発想を転換しました。その上で不便のないよう、急速充電とワイヤレス充電を採用しました。裏蓋を外せなくした分、デザインの自由度が増しました。

――省電力機能を進化させてきて、電池の持ち時間について今までより心配する必要がなくなったことも、今回のデザインにつながったのでしょうか。

糸櫻氏
 電池持ちは長ければ長いほどいい、という気持ちはよくわかります。ただ、現状のスマートフォンでは、普通に使って十分実用的な電池持ちを実現していると思います。もともと5日持つ端末の持ち時間を7日まで伸ばすために、電池を大きくすることで、厚さが増して持ちにくくなってしまうでのしたら、必要十分な程度に電池を小さくして、より持ちやすい端末にする方が重要ではないでしょうか。大前提として、携帯キャリアの求める実使用時間については十分クリアしています。

 充電が遅いという不満を解決するためには、急速充電にもしっかり対応させつつ、ワイヤレス充電にも対応させることで、置くだけで充電できる便利さを提案しています。

――ワイヤレス充電は以前ドコモが対応機種の販売に力を入れていましたが。

糸櫻氏
 ワイヤレス充電は、最近では対応している機種があまり登場していないのですが、使っている方にアンケートを取ると、90%の方が満足しているという結果がでています。「Galaxy」も、海外版「Galaxy S3」では無接点充電に対応する交換裏蓋を作っていた経験があり、便利さを広めていきたい考えから、今回内蔵として採用しました。

――ワイヤレス充電については、日本などで使われているQi規格と、アメリカなどで使われているPMA規格に両対応されていますね。

糸櫻氏
 はい、両方の規格に対応したことで、ヨーロッパでもアメリカでも、気軽にワイヤレス充電が使えるようになりました。通信のように電源でもローミングできるという点で、ワイヤレス充電には可能性がありますね。

――「S6/S6 edge」では防水が非対応となりましたが、今後防水についてはどのようなスタンスで取り組まれるのでしょうか。

糸櫻氏
 今回の「S6/S6 edge」では、持ち心地やデザインのバランスを考えた場合に、防水対策を施すとバランスが崩れてしまう恐れがあったので採用を見送りました。防水にする場合、厚さや重さが増えてしまったり、ハイスペックな部品が選べなかったりといった問題があります。

 防水はもちろん求められている機能で、「Galaxy」としてもしっかり取り組んでいきますが、「とにかくなんでも詰め込めばいい」という考え方にはならないようにして、機種ごとに本当に必要な機能を取捨選択しています。

――「S6/S6 edge」は携帯キャリアから発売される最初のAndroid 5.0搭載機種となりますが、5.0に対応する点で、どのような難しさがありましたか。

糸櫻氏
 一番は、UIがかなり変更されている点ですね。Android 5.0のいいところは残しつつも、通知パネルの表示などは、今までのユーザーが使っても違和感のないように、バランスをとりつつ調整することに苦労しました。

 Android 5.0では、今までメーカーが追加していた機能の多くをOS側で制御できるようになりました。その点では開発が楽になりましたですが、OSそのままでは違和感が残る点については、多くの手を加えています。例えば、画面の明るさ調整機能では、端末が採用しているディスプレイパネルに合わせた調整を加え、最適化しています。

――こういう使い方をしてみると面白い、といったようなおすすめの使い方はありますか。

糸櫻氏
 私が最近お気に入りなのは、「Sound Alive+」のミュージックエフェクト機能です。今までは、プリセットの音楽プレイヤーだけでしか使えなかったものが、「S6/S6 edge」では、全てのアプリで使えるようになりました。他の音楽プレイヤーやYouTube、ゲームなどでもエフェクトがかけられます。

 また、自分の耳の聴こえ方に合わせてエフェクトを調整できる「Adapt Sound」という機能があります。これもすべてのアプリで使えるため、ゲームなども自分の聴きやすい音で楽しめますよ。

――「Gear VR」へは、どのような反響がありますか。

糸櫻氏
 好意的に受け止められていると思います。今はコンテンツが少ないので、「Innovator Edition」と名前をつけていますが、中身はしっかり作りこんでいます。今までハードルが高かったヘッドマウントディスプレイを、気軽に楽しんでもらえるようになっていくのではないでしょうか。

 当初はエンターテインメント活用を中心にアピールしていきますが、エンターテインメントだけでなく、いろいろな活用法が考えられると思います。

――本日はどうもありがとうございました。

石井 徹