インタビュー

ZTEのハイエンドスマホ「nubia」シリーズ国内発表、おサイフケータイを搭載する理由

 14日、ZTEジャパンは、新たなスマートフォンブランド「nubia」を日本で展開すると発表し、スマートフォン2機種を3月下旬に発売する。

 過去、SIMフリーモデルを提供してきたことのあるZTEだが、主に大手携帯電話会社(キャリア)でのスマートフォンや子供向け携帯電話の製造を請け負ってきた。

 2024年春の今、なぜ、あらためてSIMフリー(オープンマーケット)のスマートフォンを自社ブランドで提供するに至ったのか。

 本稿では、14日の記者説明会の質疑応答と、その後、実施された、製品担当のZTEジャパンモバイルターミナル事業部 商品企画本部本部長のピーター・デン(鄧鵬)氏と、取締役副社長でモバイルターミナル事業最高責任者の黄凱華氏へのインタビューの模様をお伝えしよう。

質疑応答

――なぜこのタイミングで、nubiaブランドを日本で展開することになったのか。

李氏(モバイルターミナル事業部第三営業部取締役本部長の李明氏)
 オープンマーケットでは、ZTEではAxonブランドとBladeブランドのスマートフォンを過去、提供したことがありました。しばらく提供してこなかったのは、主に弊社への制約の変化があったためです。そのため、コンシューマー向けではなく、B2B(法人向け)に集中してきました。

 そうした中で、本社で、2012年に発足したnubiaブランドを、日本で展開するという戦略が立てられました。nubiaはZTEのなかでハイエンド製品のブランドです。これまでのブランドから、徐々にnubiaブランドへ集中していくことになると思います。

――それはグローバルということですか?

李氏
 はい、日本を含めたグローバルでの展開です。

――今回発表された機種は、ワイモバイルでも同等のスペックの製品があると思う。そうした機種をSIMフリーで提供する理由は?

黄氏
 確かにワイモバイルブランドでの「Libero Flip」「Libero 5G IV」という製品がベースになっています。

 グローバルでnubiaブランドを展開するという戦略にあわせて日本でも展開することになり、それにより日本で先述した2製品をnubiaブランドの新機種として発売することにしました。

 たとえばFlipは、「MWC 2024」でも発表された機種なのですが、グローバルとの共通性を踏まえてコストパフォーマンスを活かして、SIMフリー市場でも(シェアを)取りたいと考えています。

――海外ではよりハイエンドなモデルもあると思う。

黄氏
 まずは日本で「nubia Flip 5G」「nubia Ivy」を提供することにしました。時機を見て、今度、Zシリーズなども今後、検討したいです。

――REDMAGICブランドとは別の販売網、サポートになるとのことだが、連携する予定は?

李氏
 ZTEには、3つのブランドがあります。メインのZTEブランドはプレミアムモデルという位置づけで、伝統的な製品群を展開します。nubiaはハイエンドで、グローバルに今後展開していきます。

 そしてREDMAGICはゲーミングスマホのブランドになります。

 それぞれが異なる市場、異なるユーザー層をターゲットにしていますので、しばらくは別々の展開になります。

――日本市場であらためてSIMフリースマホを展開するにあたり、どんな点で勝算を見出しているのか。

李氏
 今回の2機種は、より買いやすく値ごろ感のあるプライスです。ZTEはこれまでの16年、日本市場で携帯電話端末を提供しており、品質管理の経験をあわせて、オープン市場に展開しやすくなったと考え、今回の判断に至りました。

 これまで、日本市場に向けて累計で1000万台以上を出荷してきました。日本市場を理解していると自負しています。

――キャリアに取り扱ってほしいというメーカーが多いなかで、ZTEはすでにキャリアとの協力体制が出来上がっている。

黄氏
 正直に申し上げると、確かにいわゆるキャリアビジネス(携帯電話会社経由での端末販売)が、日本の特徴として、市場の大半を占めています。欧州や中国とは逆でしょう。

 我々としては、グローバル全社の方針の中でも、10年以上にわたりキャリアビジネスに自信を持ってるところで、SIMフリーマーケットを含めてフルに対応することにしました。
 キャリアビジネスとの相乗効果を図りながら、このマーケットを取っていこうと考えています。

――国内はスマホ価格の割引規制があり、端末販売数が落ちています。こうした状況は今回の判断に影響していますか。

黄氏
 キャリアビジネスの販売数において、私たちは発言する立場にはありません。

 一方でZTEとしては、自分たちの努力でできる範囲で頑張ろうと。

 たとえば価格設定も、キャリア様には影響しない前提で、なおかつ、我々自身の商品として提供する市場に対しては、競合に対する競争力のある価格を設定して努力していきます。

――nubiaブランドの認知をどう高めていくのか。

李氏
 確かに日本ではまだnubiaブランドは浸透していません。今後、徐々に認知度を高めていきたいですが、ZTEのDNAが組み込まれている製品群ですので、ZTEの技術力、品質管理が反映されています。

――ワイモバイルにnubiaブランドの取り扱いを依頼するのか。

黄氏
 我々としても、キャリア様、ワイモバイル様に提供する意欲はあります。今後の展開をお楽しみいただければと思います。

――サポート体制はどうなるのか。

李氏
 日本では基本的に従来の体制で対応します。基本的に4大キャリアさんに提供している体制です。

 エンドユーザーから直接の問い合わせを受け付ける体制もあります。

鄧氏に「nubia Flip 5G」を聞く

 続いて、ピーターという愛称を名乗る鄧氏に端末に関するエピソードを聞いた。鄧氏は16年、日本に在住し、日本語も堪能な人物だ。

――今回、nubia Flip 5Gは7万9800円という価格です。フォルダブルとしてはかなり割安感があります。価格を実現するために工夫した点、苦労した点は?

鄧氏
 グローバルでも日本でも、折りたたみタイプのフォルダブルスマートフォンが増えてきています。ただ、その価格はまだ高い水準にありました。

 ここで、入手しやすい価格でのフォルダブルという考えで、この機種は企画されたものです。そのためには、(いわゆるフラッグシップと比べて)一部の機能は省く面もあります。

 ただし、それでも日本ではFeliCa(おサイフケータイ)は搭載しなければいけないと考えていました。

鄧氏

 おサイフケータイに次いで、日本でニーズが高いのは防水防塵ですが、「nubia Flip 5G」は防滴クラスで、いわゆる生活防水程度です。日本では「生活防水では、防水と言えない」と考える方もたくさんいらっしゃるでしょうが、この価格を実現するためには、どうしても……という点でした。

 価格は重要な要素です。新しいものが登場しても、入手しやすい値段でなければ、お客様はやはりチャレンジしづらいですよね。

 チャレンジしやすい価格にするため、何をしなければいけないのか、かなり検討を重ねました。

――ベースはワイモバイルで提供されている機種と同じとのことですが、違いは?

鄧氏
 ひとつはメモリーとストレージです。ワイモバイル版は6GBと128GBという組み合わせですが、nubia Flip 5Gは8GBと256GBになっています。まったく同じものですと、選んでいただけないかも、ということで、競争力を考えて、一部のスペックを上げています。

 また、カラーバリエーションもブラックがあるのは、nubia Flip 5Gだけになります。

 通信面では、対応する周波数(バンド)は、SIMフリー版であえるnubia Flip 5Gは4大キャリアに対応しなければいけないと考えています。ここも少し異なります。

 グローバル版とは、おサイフケータイの有無が異なる点です。また、グローバル版にはゴールドというカラーバリエーションがありますね。

 繰り返しになりますが、日本ではおサイフケータイと防水防塵はできるだけ提供しなければいけないと考えています。日本以外では、この2つの要素はあまり要求がありませんので、グローバルでベースモデルがあったとしても、日本向けにするためにはそのままでは出せません。

 もちろん、ベースモデルがもともと防水防塵対応であれば、その分、コスト面ではメリットがあります。

――長く日本のキャリアさんと一緒にお仕事をしてきて、日本市場をよく理解していることの表われと言えそうですね。

鄧氏
 ここ数年で、日本に多くのメーカーが参入していますが、品質の良さや日本市場への理解といった点では、競合他社には少なくとも劣っていない、それ以上だと自負しています。

――フォルダブルというジャンルのスマートフォンが発表される際には、たとえばヒンジに対する技術面のアピールなど、各社、積極的に主張するところです。

鄧氏
 はい、同じモデルをワイモバイルですでに……とお伝えしていますが、実はソフトバンクさまの品質基準をはるかに超える目標を達成しています。

――それって折りたたみの回数といった指標でしょうか。

鄧氏
 そうです、具体的な数値は非開示なのですが……。ほかにも有機ELディスプレイの耐久性なども、自社独自の目標を定めて、ソフトバンクさまの基準を越えています。

 長年、日本市場で活動してきて、どういったものが求められるか理解しているからこその品質なのです。要求される基準がこの程度でも、実際、私たちが成し遂げるべきところはどこにあるのかを理解しているのです。そのため、社内で別の目標を設定できているわけです。

――なるほど、ありがとうございました。

ZTEは「nubia」でどんな体験価値をもたらすのか

 続いて、ZTEジャパン副社長の黄凱華氏へのインタビューをお届けする。黄氏も日本滞在歴が長く、日本市場をよく理解する人物だ。

黄氏

――あらためて、日本市場にはどんな魅力があるのか教えてください。

黄氏
 ZTEとしては、一時期、活動を控えめにしていたと見られるところがあるかもしれません(筆者注:米国政府による中国企業への制裁を踏まえた発言とみられる)。

 かつて提供していたBlade、Axonは、正直に申し上げて、出荷数はあまりボリュームが出ていませんでした。一時休憩しつつ、キャリアさんとのビジネスは成長し、各社さんとのお取引があります。

 一方、日本市場に対しては、本社からも「レベルが高い」と捉えています。

――それは品質に対して、ですか?

黄氏
 それもありますが、別の点もあります。たとえば5Gです。5Gのサービスエリアは、たとえば欧州と比べても非常に先行していると思います。日本はテクノロジー面でも先進的で、世界をリードする市場というわけです。

 MWC 2024にあわせて「nubia Flip 5G」をグローバルで発表しましたが、最初に登場する国は2月29日発売の日本なんです(筆者注:ワイモバイル版のこと)。

MWC会場で展示されていたnubia Flip 5G

 本社の方針としても、ZTEジャパンとしても、日本という先進的な市場への技術の追加、いち早い製品の展開で新しい流れを生み出したいという想いは以前からありました。なかなか実現できていなかったのですが、今回「nubia Flip 5G」「nubia Ivy」で実現できました。特に「Flip」は日本が世界をリードしていく格好です。

 実は、ZTEの総裁も来週、日本へ来ます。年に3回ほど来て視察しています。重点マーケットという位置づけなんです。

 キャリアビジネスがある程度成長し、SIMフリーマーケットも取りに行く、世界をリードする日本という市場で製品を投入していくという取り組みなんです。

 そこに投入する製品は、やはりグローバルで展開しているものと同等であれば、コストパフォーマンスを活かし、差別化して競争力をもたらしてくれるのでは、とも考えています。

――攻めた価格設定だなという印象です。

黄氏
 この価格になるまで、社内でも二転三転したところはあります(笑)。グローバルでは599ドル(約8.8万円)から、という価格設定です。

 でも、競合他社さんの取り組みも拝見しつつ、「nubia」というブランドが、日本ではまだまだ認知されていないことから、戦略的な考えに則って、差別化するために7万9800円という価格にしました。社内の端末トップから「日本はこんな価格にして本当に大丈夫か?」という話もありました。グローバルはもう少し高いですから……ただ、日本とグローバルは市場が異なります。

 ZTEジャパンとしては、いかに日本のお客さまの手にしていただけるか。会社ですから出荷数も目標にしなきゃいけないところがありつつ、正直、利益は本当にギリギリの価格なんです。

 まず、縦折りのフォルダブルのSIMフリースマホとして最安を目指して、他社さんにスペックでもそれほど負けないものにして、nubiaのことを知っていただければと考えています。

 たとえば、肩掛けできるようなストラップとケースをご用意するといった取り組みもあります。

――最後に、今回2製品を発表したばかりですが、発表会ではnubiaの技術面でのアピールとして「画面下のカメラ(UDC)」や裸眼3Dディスプレイ、星空を記録できるカメラといったお話がありました。これらはいずれも「nubia Flip 5G」にはない機能ですが……。

黄氏
 計画自体はあります。たとえば、裸眼3Dディスプレイについては、家電量販店のビックカメラさんとヤマダデンキさんでAndroidタブレット「nubia Pad 3D」として発売されています。現在は第1世代の製品ですが、バルセロナで先日発表されたばかりの第2世代は5Gに対応し、今後キャリアさんでも取り扱っていただけないか、あるいはSIMフリーでも提供できないか計画しています。

 「星空撮影」は、昨年、グローバルで発表した「Z60 Ultra」というモデルがあります。ただ、日本で展開するには、認証の取得や周波数の対応などが必要です。そういったコストがかかる部分、そして元々の価格が10万円を超えるであろう点から、今回の投入は見送りましたが、そうしたモデルの投入は将来的に考えたいです。

 ただ、コスト面はやはり課題です。出荷台数がどこまで見込めるか。Z60ではグローバルでも防水に対応しています。今後のモデルでは、グローバルモデルがほぼ流用できるようになるのであれば、日本への投入もあり得ると。

――おサイフケータイは日本だけ、ですよね……。FeliCaなし、防水防塵のスマホを日本市場に投入する可能性はあるんでしょうか。

黄氏
 個人的な考えもあるのですが、FeliCaは最優先かなと思っています。防水はあればなお良しです。

 FeliCaの開発経験は積んできています。グローバルモデルもNFCには対応していますので、ソフトウェアのカスタマイズで対応できるのではないかと考えています。

 もうひとつ、実は認証の費用がかかります。一定の数量がないと、採算が取りにくい。SIMフリーマーケットは小ロットからスタートしなきゃいけないですから、そのあたりはまだ課題です。

――最後に、nubiaを通じてどんな価値、体験を届けたいか。読者へのメッセージをお願いします。

黄氏
 まずはnubiaという新しいブランドを知っていただいて、そのフレッシュさをお届けしたいです。

 スマートフォンに対しては、この数年、「革新的な新機能」といった斬新さを感じ取る機会が減ったと思われているかもしれません。

 まだまだ及ばないところはありますが、刺激的な存在として、コスト面も意識した「nubia Flip 5G」をご用意しました。若い方を含め、特徴のあるスマホを手に入れやすい価格で楽しめる、ということをお伝えしていきたいです。

 nubiaのことは、SIMフリーだけではなく、キャリアさんにもどんどん積極的に提案していきたいです。

――ありがとうございました。