インタビュー

「Lemino」が実現する次世代の映像配信、ドコモが目指す新しいコンテンツの楽しみ方

 NTTドコモが投入する、新映像配信サービス「Lemino」。スポーツ中継や音楽ライブなどの独占配信に加えて話題性の高い独占配信作品の最新エピソードやオリジナル作品の一部などを広告付きで無料配信で見られる。

NTTドコモ 田中氏

 有料プランとして月額990円の「Lemino プレミアム」のほか、個別レンタルのサービスも用意する。dTVのユーザーはLemino プレミアムを9月30日まで月額550円で利用できる。

 感情をベースにした検索など独創的なユーザーインターフェイスも特徴的な今回のサービス。dTVをリニューアルするに至った経緯など、Lemino誕生の裏側や魅力をNTTドコモ 映像サービス部 担当部長の田中智則氏に訊いた。

Leminoとは? 既存サービスとの違い

――あらためて「Lemino」というサービスのご紹介をお願いいたします。dTVとはどう違うんでしょうか?

田中氏
 1番のポイントはオリジナルコンテンツの充実と新たに設定した無料プランで多くのユーザーに気軽にお使いいただけるというところがdTVと大きく異なります。

――井伊社長はコンテンツを拡充していくとしていましたが……。

田中氏
 そのとおりです。加えて、dTVが競合他社がひしめく中でプレゼンスが少し落ちてきていたという課題がありました。今回、映像サービスを抜本的に見直してもう一度、映像サービスでユーザーの支持を得たいということで、取り組みを進めてきました。

 実際に企画開発がスタートしたのが1年くらい前、コンセプトメイクはさらにその半年前くらいから始めていました。

――社内ではきっとさまざまな議論があったんでしょうね。

田中氏
 おっしゃる通り、dTVというブランドが世間に認知されているなかで新たにリブランドしてイチからスタートする、というのは議論がありました。有料サービスに加えて無料サービスもつくるということで、どう訴求するのかという点についてもです。

――dTVとはかなり異なるサービスができあがりました。この背景にはどういうお考えがあったんでしょうか?

田中氏
 dTVの名前をそのままにリニューアルするという案もありました。一方でそれは、dTVがこれまで培ってきた歴史や背景を、良くも悪くも引き継ぐことになります。今回はそうではなく「海外の競合他社がひしめく映像サービスで、ドコモが覚悟を持って新しいサービスを出す」ということを示すためにも、新しいブランドでサービスを出すということにつながったのかなというところです。

――では、ドコモが映像サービスを手掛ける意義とはなんでしょう?

田中氏
 dTVは「d」が付きますからドコモのサービスということは分かりやすいと思います。その一方でキャリアフリーなサービスであることはあまり感じてもらえていなかったようです。そのため、Leminoでは「ドコモのサービス」という色をあまり見せていません。

 auやソフトバンクのユーザーにも使ってもらえるサービスにしていきつつ、ドコモのサービスに触れていく機会を拡大するという変革になることが重要と考えています。

どんなコンテンツが見られるのか?

――今回は無料コンテンツが用意されます。どういったものを楽しめるんでしょうか?

田中氏
 無料コンテンツは、有料コンテンツとの兼ね合いで調整していきます。そのため、一定のボリュームのコンテンツがありますとは言い切れませんが、おおむね1万コンテンツとお考えください。

 たとえば、ボクシングの井上尚弥選手の試合の中継など、スポーツや音楽などライブ配信系のものは積極的に無料で出していきたいと思います。オリジナルコンテンツも同様です。ドラマの第1話を1週間無料で配信し、第2話が放送されたら第1話は有料コンテンツに、もしくは有料会員のみ全話いっき見のような差別化を図っていきたいですね。

――有料会員なら自分のタイミングで見るといった利便性が追加されるイメージですね。

田中氏
 ほかにも、映画やアニメでは有料会員のみのコンテンツももちろん、豊富に用意させていただくつもりです。発表会でも発表した通り18万本程度のコンテンツ量になります。しかし、1話配信や先行配信は積極的に無料会員にも提供していきます。

――テレビで配信を視聴するユーザーも多いと思います。FireTVやChromecast、GoogleTV向けアプリは提供されますか?

田中氏
 ご用意いたします。ローンチのタイミングでAndroid TVなどでの対応を準備しようと思います。

――YouTubeはWebサイトへの埋込も可能です。外部サイトとの連携はお考えでしょうか?

田中氏
 Webサイトへの埋込は規約上、現時点では対応していません。しかしフェイスブックやツイッターなどからLeminoやコンテンツへの直接リンクは可能です。

――名場面集などをSNSで共有して楽しむというスタイルもありますが、Leminoでも期待したいです。

田中氏
 Leminoには「マイチャプター」という機能があり、ユーザー同士でお気に入りの場面を共有することができます。外部サイトでの共有については、オリジナルコンテンツを中心に、そういう使い方に対応しようという動きもありますが、既存のコンテンツでは調整が難しいところがあります。しかし、実績を積み上げていって「こういう見せ方が受け入れられる」「こうしたほうが自分のコンテンツを見てもらえるんだ」と認識してもらい、これが当たり前になるようなムーブメントを作れればなと思っています。

――いずれ広がっていくということを期待したいです。

田中氏
 期待を持っていきたいなと思っています(笑)。しかし権利保持者のお考えもありますからそちらも尊重しながら進めていきたいですね。

――Leminoの「ここが得意です」というコンテンツジャンルはどの部分になりますか?

田中氏
 韓流・アジア系とアニメに力を入れていきたいです。主にパートナーとの連携のなかではこの2ジャンルに注力します。2022年にNTTぷららを子会社化しましたが、同社が長年培ってきた配信のアセットを使いながら進めているので、コンテンツホルダーとの関係値はすでにあるという状態です。

 そのうえで韓流作品のスタジオや海外で映像配信の子会社を持つ通信事業者とコンテンツの相互連携や流通を一緒にしたいですね。ほかには、地上波の放送局とも話を進めているところです。

――地上波の見逃し配信は「TVer」のほか、放送局ごとに用意されているのが現状ですよね。このあたりをうまくまとめてもらえると嬉しいです。

田中氏
 すべての地上波のコンテンツを、というのは難しい側面もありますが……。我々としてはできる限り多くの放送局のコンテンツを出せればなと考えています。

――コンテンツ拡充のペースはオリジナル作品とパートナー経由の作品では違うかと思いますがどういったスケジュールになりますか?

田中氏
 オリジナル作品はドラマに力をいれていきたいです。四半期ごとに2作品、年間で12~3本くらいのドラマを配信したいと考えています。ほかにもドキュメンタリーやバラエティなどもしっかりと取り揃えていきます。

 パートナーとの作品は、決まった数を調達していくというスケジュールはとくに持っていません。劇場公開が終わった映画の最速配信やライブの関連コンテンツを充実させるなどの方針です。コンテンツにもよりますが、月額会員ユーザー向けのコンテンツの比率が高くなると思っています。

dアニメストアとの棲み分けや機能面

――ドコモといえば「dアニメストア」がありますが、Leminoとはどう棲み分けられるのでしょうか?

田中氏
 現段階では、相互編成型のサービスです。アニメもラインアップしますがより深く広くアニメを楽しみたいという方には、Leminoからdアニメストアへ来ていただくというサービス間連携を図るのが、現段階での考え方です。

――dアニメストアとLeminoではラインアップが一部異なるということになりそうですね。

田中氏
 最新作が同時に配信されたり、dアニメストアだけで配信されたりということもあると思います。アニメ作品のコンテンツ数では圧倒的にdアニメストアのほうが多くなるかなと思っています。

――ユーザーとコンテンツの接点として特集のようなものは用意されますか? dアニメストアではSNSでの取り組みを見ていると映像に情熱を持っている方がいらっしゃるんだろうな、と思っていたのですが。

田中氏
 もともとドコモ内でそういう人材がいたかというと……。しかし、映像に興味がありぷららに入社した、もしくは映像を専門にしていた人材が中途入社したというケースがあります。ドコモでも積極的に中途採用を進めていて、映像関連の企業出身の社員もいます。そういったメンバーがいて今のサービスができあがっています。昔のドコモのイメージではなく、コンテンツに熱い人間がいると思っていただいて大丈夫です。

 “中の人”からの発信は重要だと考えています。制作に携わってきたプロデューサーなどがドコモ公式でコンテンツの情報を発信していくというのは、かなりやっていきたいと思っています。

――そういった配信は無料会員でも楽しめますか?

田中氏
 公式アカウントから「編集者のおすすめコンテンツ」「ここが見どころ」のように発信しますので無料会員でも見られます。加えてSNSでも発信していきます。現在サポートしている井上尚弥選手に密着しているスタッフもおりますが、そんな視点での情報発信もできたらと思います。

独創的なUIが生まれたワケ

――タイムパフォーマンスを重視するユーザーを重視したサービスだそうですね。そういった層に向けた再生画面での仕掛けはなにかありますか?

田中氏
 一般的な配信サービスにある機能は揃えてあるとお考えください。“見たいコンテンツが最短距離で見つかる”というのはタイムパフォーマンス層に向けてのメッセージでもあります。

――これを見ようと思って結局積んでしまう、ということがよくあると思いますがそういう人でも楽しめる使い方ってないんでしょうか?

田中氏
 まさしく同じ課題感が若手メンバーから出ていました。今見ると時間が足りなくなるからあとで見ようと思ったらそのまま、と。これからの話にはなりますが、後で見たいコンテンツをクリップしておく「マイビデオ本棚」のようなものを用意できたらと考えています。

――Leminoには「エモートライン」や「マイチャプター」など独創的な機能が揃っています。これらが生まれた経緯を教えてください。

田中氏
 映像配信サービスは、かなり厳しいマーケットです。会員数を増やすためには、ユーザーの課題感を深掘りしていくということが必要です。そのひとつにさまざまなコンテンツがあふれる中で、自分が本当にみたいものを見つけられているかというものがありました。特に「タイムパフォーマンス」を気にされる若年層の方には大きな課題かと思います。

 「見たいコンテンツに最短距離でたどり着くUI/UX」が出発点です。エモートラインは自分がフォローしているユーザーやインフルエンサー、出演者などが見ているもしくはおすすめするコンテンツが表示されます。自分と似た感性を持った人がどんなコンテンツを見ているのか、その人達がおすすめするコンテンツはきっと面白いんじゃないかと。

 さらに「感情検索」というのも提供します。そのコンテンツを視聴して感じたい感情、なりたい気持ちをきっかけにコンテンツを選べます。見たいコンテンツのタイトルが浮かんでいるならいいのですが、そうではなくなんとなく何かを見たいなというときに、自分が見たいコンテンツをすぐ見つけられる仕掛けを今回はふんだんに用意しました。

――どんな体験ができるのか実際に使って確かめてみたくなります。一般的な視聴履歴をもとにしたおすすめ表示のようなものも盛り込まれているのでしょうか?

田中氏
 アルゴリズムの詳細はお伝えできませんが、SNS要素の強いサービスです。Leminoのユーザー同士のつながりからユーザーが見たいコンテンツにたどりける、という考え方にもとづいて設計しています。外部シェアリンクを用意しますので、自分が見たコンテンツの紹介などは可能です。

――Leminoでのつながりが増えれば増えるほど、自分が見たいコンテンツにたどり着きやすくなりそうです。

田中氏
 日常で、友人や家族に「これが面白かったよ」と言われると見てみようかな、というきっかけになると思います。それをLemino内で実現したいですね。

――dTVでは過去の「名作コンテンツ」なども網羅していました。Leminoで見ていないとしても過去に見た作品が好きと宣言できるような機能はありませんか?

田中氏
 直接結びつくような機能は実装していません。Lemino内のコンテンツをおすすめしていただくことがベースになります。ただし「マイプロフィール」という機能で過去に見たおすすめ作品をご紹介いただくということはできるかと思います。

――(法林氏)友だち同士のレコメンドはひとつの売りですね。これまで、配信で見て面白かった作品をフェイスブックに投稿する際、URLがなくて困ることがありました。ほかのSNSからアクセスする仕組みがあり、制作陣の解説も見られるということになれば、より利用が広がるのかなと思います。

田中氏
 外部SNSとの連携は重要なポイントです。フェイスブックやツイッターなどからLeminoやコンテンツへの直接リンクは可能です。作家さんや監督など制作側の想いを伝えることも重要と考えています。できるだけ監督や出演者、放送作家なども巻き込みながらLeminoのコメントを書き込んでもらったり、レビューに撮影の裏側を語っていただいたりということも考えています。

料金やコンテンツ制作への考え方

――コンテンツ拡充や機能充実が図られる一方、値上げということになりますが、ユーザーの受け止めへの見立てを教えてください。

田中氏
 営業戦略上、詳細はお話できませんがコンテンツラインアップから考えるとむしろ割安な価格にできていると自負しています。「価格感度調査」というものを実施しており、ユーザーに受け入れられる価格帯を慎重に調べたうえで設定しました。

 無料の領域も作りましたので、いきなり課金するのではなくこれならもっと深くコンテンツを見てみたい、有料ラインアップも見てみたいと思っていただいて990円(月額)を受け入れていただければ、ということで設計しました。

――無料サービスではスポンサーによる広告枠も設定されているのでしょうか?

田中氏
 サービス開始当初から、広告が入る形になっています。ライブなど、タイアップを受けているようなコンテンツは有料会員でも一部広告が出る場合があります。スポーツの中継で試合の合間に広告が入ることがありますが、そのようなイメージです。

――視聴データの活用について教えてください。dアカウントやドコモ回線ユーザーであれば、より詳細な属性データが得られるかと思いますが、それらは活用されるのでしょうか?

田中氏
 もちろん、ユーザーの同意が前提にはなりますがドコモの各種データを色々組み合わせながらサービスに反映していきます。dアニメストアやdブック、dミュージックなどもありますので、コンテンツを楽しみたいユーザーの嗜好性も含めてレコメンドに反映していくかたちになります。

――基本的にはレコメンドに使われるということですね。

田中氏
 そのとおりです、ユーザーがサービスを楽しんでいただくための材料となります。そのほかにもコンテンツの制作やラインアップにも活用していきたいと思います。

――(法林氏)配信サービスにより映像業界の収益が上がるなどの見方がある一方で、映画は映画館で見てくれないと新作が作れないというような問題もあります。Leminoでは映画館と連携する仕組みを作るお考えはあるのでしょうか?

田中氏
 ぷらら時代から、映画出資はずっとやらせてもらっていてドコモでもやっていくつもりです。コンテンツ制作を総合的に盛り上げつつ映画配信サービスを活性化していくのが目的になっていますので、映画出資をして盛り上がった映画をLeminoで先行独占配信というかたちでさまざまなコンテンルホルダーと話しています。

 ですので、出資というかたちで参画しながらコンテンツ制作を支援してその作品を配信させていただくという仕組みを作っていきたいです。

――(法林氏)ドコモさんは送客が上手です。予告編や公開日を宣伝するなどLeminoから映画館へという仕組みがあるといいですね。意外と公開日がいつなのかは知られていない面がありますから……。

田中氏
 ありがとうございます、非常に貴重な意見です。製作委員会の定例会議のなかで、プロモーション協力をどこまでやるかということも議題に上がりますので、積極的に手を挙げていきたいです。

――本日はありがとうございました。