インタビュー

ドコモが「爆アゲ セレクション」で目指す価値、提供の背景を訊く

 NTTドコモは、ドコモの料金プランユーザーを対象に指定のサブスクリプションサービスを利用するとポイント還元する「爆アゲ セレクション」を4月1日から開始する。

 対象は、ドコモの「5Gギガホ/ギガホ プレミア」や「ahamo」を契約しており、契約回線で対象の動画配信サービスを契約しているユーザー。還元率と「爆アゲ セレクション」の提供開始日は、サービスによって異なる。対象の動画サービスは「Netflix(ネットフリックス)」(4月5日提供開始)、「YouTube Premium」(4月下旬以降提供開始)、「Leminoプレミアム」(4月12日提供開始)、「ディズニープラス」、「DAZN for docomo」。

 サービス開始に先駆けて、本誌ではNTTドコモ 執行役員 営業本部長の野田浩人氏と同 営業戦略部 料金戦略・LTV戦略担当 主査の小田島雄介氏にその狙いや今後の展望などを訊いた。聞き手は本誌編集長の関口聖とライターの法林岳之氏。

左=ドコモ 野田氏。右=ドコモ  小田島氏

「爆アゲ」の由来、料金プランとセットにしなかった理由

――「爆アゲ」とはずいぶんインパクトがある名前ですね。どういう経緯で決まったんですか?

野田氏
 良くも悪くもインパクトがあったようです。「デジタルエンターテイメントのセレクトショップ」といいますか、いいものを揃えて楽しんでいただくということをやりたいと思っていました。そこから「セレクション」という体にして、なにをくっつけるか。

 最初にあったのは「アゲ」という言葉です。2つの意味がありまして、「気分がアガる」とか若者言葉的な感じで使おうと思ったのと、特典を表すものとして「ポイントをあげる」(付与する)というダブルミーニングになっています。ただ「アゲ」だけじゃ寂しくて「何アゲにする?」ということで強い言葉ですが「爆」でいこうとなりました。

――その過程ではほかの案もあったんでしょうか?

野田氏
 私は「ブチアゲ」とかがあるかなと思ってましたが、推し案として若手社員から「爆アゲ」と言われました。「超」だとか普通に使う言葉では響かないかな、というのもあったので、一番インパクトが強いものを採用したんです。

――いつごろから検討し始めていたんでしょう、きっかけを教えてください。

野田氏
 それなりに時間をかけました。他社さんがいろいろやられているのを見ていましたし、こういった世界にどうドコモなりの答えを出していけるか、お客様にいいものをお届けしたいなという思いがありました。どういうかたちでどうしようか考えていましたが、具体的に準備が進み始めたのはここ1年くらいです。

――こういうものがないとお客様を獲得できないという市場環境だったのかなともちょっと邪推してしまいますが……。

野田氏

 お客様を獲得するということももちろんです。やはり、ギガホやahamoなどたくさんデータを使っていただけるお得意様に対して、新しい価値や楽しさを伝えられるのか……。しかし、通信の世界というのはすごく「透明」です。具体的な楽しさや価値は、使い道が伴わないと形にできにくい部分があります。お客様に使ってもらえる具体的なかたちでやりたいという思いがあり、一番スマートフォンや通信サービスに近いのがデジタルエンターテイメントの世界だったのです。

――透明ですか?

野田氏
(端末の)かたちに真新しさがあった時代もありましたが、今は正常進化の世界になっているかなと思います。フォルダブルデバイスなんかも出てきましたが、それもある意味(これまでの)スマートフォンの延長線上にあるものではないでしょうか。

 では、そこで具体的にどうするかというと、お客様それぞれに使い方がきっとあると思うので、通信はそれを支えるコミュニケーションであって透明なもの。その上にどういう彩り(アプリケーション)を載せるかということになりますが、その彩りをもっと作っていきたいということです。

 やはり楽しさやお客様の価値は、具体的な使い道に紐づいて伴わないとかたちにしにくい部分もあるかなと思います。お客様が使ってもらえる具体的なかたちでやりたいというのがありました。我々の通信サービスとの親和性が一番近いのが、デジタルエンターテイメントの世界だったということです。

――auでは配信サービスをセットにした料金プランを用意しています。一方で爆アゲ セレクションは料金プランとは別立てですが、このかたちになった背景を教えてください。

野田氏
 パッケージ形式で料金プランとセットにして、というのはやり方としてはありますが、やはり必要なものや欲しい物を一つひとつ好きに選べるという組み合わせがお客様本位なのかなと。社内でもいろいろ考えるときにお客様本位、カスタマーファーストという言葉をよく使いますが、よりお客様に親切なかたちにできればいいんじゃないか、ということでセレクション方式というかたちにさせていただきました。

――なるほど、しかしそうなるとユーザーは解約もしやすいようにも思いますが……。

野田氏
 今はどんなプランを契約していてもキャリアの乗り換えに障壁が少ない時代になりました。やはりお客様に喜んでいただける価値をどれだけ提供できるかということで選んでもらえるようにするのが、我々の目指すべき姿なのではないかと思います。

 セレクションだといつでも好きに(解約など)できるというのは事実なんですが、逆に言うと、それをもってお客様に好きを選んでもらえる価値をお届けできるかなとも思います。

――料金とは別立てにすることでのわかりやすさや手軽さが今回の価値のひとつなんですね。発表以降、手応えはどうでしょうか?

野田氏
 具体的な数値では申し上げられませんが、先行キャンペーンを実施しておりましてこれについては想定を超える数の応募を頂戴しているかたちです。手応えとしては想定以上にありました。

――春商戦は2~3月からだと思いますが、今回のサービスはいずれのサービスでも4月に入ってからの開始ですね。ちょっとズレがあるかなとも思いますが……。

野田氏
 春のなかでアナウンスできればいいかなというところで、先行キャンペーンとして間に合ったものを出した、というのが実情です。相手企業様があってのお話ですし、特典としてラインアップするにも仕組みの部分など含めて、準備が必要でしたから春にはちょっと間に合わせきれなかった、というのが実際のところです。

ラインアップへの姿勢、ポイント還元になった背景とは

――サービスのラインアップへの考え方を教えてください。対象サービスはどのようにして決まったのでしょうか?

小田島氏
 ドコモでもともと提供していたものについては、社内のチームと「こういうことをやろうと思っているんだけど、どうだろう?」と相談して、我々がやりたいことと馴染むサービスを見つけていったというかたちです。

 それ以外については、もともと各社さんとはどんな協業ができるかなどのお話はしていたのですが、一番最初としては映像系がいいだろうということでグーグル(YouTube Premium)とネットフリックスと相談して、サービスを選定しました。

――なるほど、ではサービス選定の部分はスムーズに進んだようですね。

小田島氏
 第1弾としては、より多くの方に使っていただいているサービスを想定していたので、社内ではわりとスムーズに決まってパートナー企業と対話を始められました。各社さんに前向きに議論をすすめていただけたかなと思っています。

――料金の割引ではなくポイント還元になった理由はなんでしょうか?

小田島氏
 我々のチーム内でも議論がありました。単純な割引がいいのか、dポイントでよりお得を伝えられるほうがいいのか、社内の他チームとも議論して最終的にdポイント還元で、よりお得に使ってもらえるという環境をつくるほうが、お客様にとって望ましいのではないかと考えました。

――「割引」としたほうがユーザーに響く力としては強いような気もしますが……

野田氏
 (割引と還元では)意外にあまり変わらないんです。長期継続の割引などもポイント還元型に変えてきましたが、その際のアンケートなどで調査させていただいています。代表的な例で言うと「ahamo大盛り」のキャンペーンもポイント還元にしました。こういったサービスのほうがポイント還元か値引きかが分かれやすいのですが、意外に「ポイント還元で十分ハッピー」という方が多かったかなと思います。

 新しく入られたお客様からも「ポイント還元はいまいち……」という声もあまりなかったのかなというのが振り返りとしてあります。パートナー企業さんとのやりとりとかでもいろいろあったのかもしれませんが、私は今回も、最初からポイント還元になるかなと入っていった部分があります。

――ちょっと予想外でしたが、たしかにいろいろな施策でポイント還元を進めていたからこそ見通せたということですね。還元率はサービスによって違いますがどうしてですか?

野田氏
 パートナー企業がどの範囲でどういうお客様にリーチされたいかというところです。そういったところを相談しながら決めていきました。ディズニープラスの場合、初回6カ月割引という施策もあるうえで、さらに継続的な還元をどう魅力的にするか、ということもあります。それぞれのサービスがドコモのなかでやってきた歴史やどこまでのお客様にリーチするか、という戦略のあらわれです。これから追加するサービスについても、そのように相談しながらやっていくと思います。

――還元率が少ないものでも10%とインパクトがある数字です。3%や5%還元がないのは戦略的なものですか?

野田氏
 そうですね、あまり(還元率が)少ないとお客様にとっても魅力が薄いかな……と。「セレクション」させていただくうえでは、ある程度整えさせていただきました。どこを目指すかによって10%~20%の差分はありつつも、(パートナー企業に)頑張っていただきました。

――ポイントの原資は、各サービス提供事業者になるのでしょうか?

野田氏
 一律には申し上げられません。これからもいろいろなやり方があるかと思います。原資のあり方はいろいろあるとお考えいただければと思います。

――他社では、料金プランとセットにしたことにより、配信サービスや料金プラン自体の解約率低下といった効果があったと聞いています。爆アゲ セレクションやポイント還元でのドコモへの効果はあるとお考えですか?

野田氏
 我々が事業上、期待する効果としてライフタイムバリューの中の継続側が伸びることです。我々のサービスもパートナー企業さんのサービスもそれぞれ相乗効果的に継続してもらえるだろうということです。

――爆アゲ セレクションはdポイントクラブのランク制とは連動していません。もう少しランク制に連動するものを増やしてほしいなという思いもあるのですが……。

野田氏
 ランクの算定にはショッピング、サービス利用、dカード ゴールドの特典分の3つのカテゴリーがあります。今回の場合この3つのどれにも属しないので、還元分のポイントは対象ではないということでご理解いただければと思います。

 サービス利用という意味では、ネットフリックスをドコモ経由で申し込んだ分については、ランク算定の対象となります。爆アゲ セレクションのサービスをたくさん使っていただければ、ステージ判定のカウントの対象になります。

――既存のdポイントクラブとの関わりを濃くしようということにはなりませんでしたか?

小田島氏
 そういう議論もなくはなかったです。建付けとしてはdポイント(期間・用途限定)ということなので、基本的にはランク算定の対象外ということにいたしました。

――将来的にもdポイントクラブとの連携強化の予定はなさそうですか?

小田島氏
 現時点ではそのとおりです。

野田氏
 どちらかというと「単品でどうぞ」というよりは、(爆アゲ セレクションのような)こういうものをどういうふうに位置づけてランク制を続けていくかというなかでの検討になるかと思います。

エコノミーMVNOへの対応

――エコノミーMVNOは対象外ですね。動画などを多用する層とはリンクしないかもしれませんが、エコノミーMVNOとは組み合わせないのでしょうか?

野田氏
 大人の事情的なことを言ってしまうと、まずは自社プランを最初に、というのは事実です。エコノミーMVNOのパートナーとどう親和性のあるユーザーやプランがあり、どうやっていけるかは、我々がいったんサービスとして出してから、必要に応じて相談というかたちかなと思っています。

 エコノミーMVNOにもさまざまなプランがあり、さまざまなお客様がいらっしゃいます。そういうなかで各社さんが興味を持ってもらえるなら、そこはどういうやり方があるかはこれから相談ということはできると思います。最初の段階でオープンにやっていくのは難しく、まずは自社のプランでというところです。

――つまり、エコノミーMVNOユーザーにとってもまったく可能性がないわけではないと。

野田氏
 はい、ただしすべて情報を公開しなくてはいけないので最初はできなかったかなと思います。まずは先方のお客様がご興味があるかどうかが事業者様の判断になります。(MVNO事業者側が)関心を持っていただけるのであれば

対象サービスをすでに使っている人はどうしたら?

――すでに対象サービスを個別に契約している場合、一度解約しなくてはいけないのでしょうか?

小田島氏
 ドコモ経由でのサービス契約が必要です。ネットフリックスを使っている場合、あらためて解約する必要はありません。「ご利用登録」をしていただければ、自動的にドコモでの支払いに切り替わります。

 YouTube Premiumの場合、解約が必要になります。そのうえでドコモで申し込み利用登録をしていただきます。同じGoogle アカウントで登録すれば、これまでのアカウントでドコモ経由でYouTube Premiumを利用できます。

――ネットフリックスはワンストップでありがたいですね。対象サービスが増えていくなかで、どんな手続きが必要かはサービスによって変わっていくのでしょうか?

小田島氏
 そうですね、相手方のシステムとのつなぎ込みが必要になりますので、どうしてもできること、できないことが出てきてしまいます。できる限り、お客様にはご不便がないようにシームレスに使えるようにしていきたいとは考えていますが、最終的に統合できるかはそれぞれ(のサービスによって異なること)になるかなと思います。

――(法林氏)キャリアさんのやり方にもいろいろありますね。ドコモさんとしてOTT事業者も含めて他社のサービスの決済をドコモ側でつなぎ込んでいきたいといったお考えはあるんでしょうか?

野田氏
 爆アゲ セレクションとして特典を提供するための仕組みの条件としては、お支払いをドコモ経由の申込みにしていただけないとできないのでそういうかたちにさせていただきました。そこに目的があったというよりは、やはりお客様にどういうお楽しみやお得をお届けできるかがテーマです。その実装方法として結果的にそうなったというのが正しい理解かなと思います。

――(法林氏)業界外の方からもよく聞かれることですが、このサービスはこのアカウント、このパスワードで、このカードで支払ってと、拡大しすぎていて管理が大変というユーザーが多いです。そこをキャリアさんがまとめて管理していただければいいかなとも思います。

野田氏
 いいアイデアをいただきました。たしかに、長年やらせてもらっているディズニープラスやYouTube Premium、ネットフリックスなどもそれぞれIDがあります。プライバシー・セキュリティなどもありますが、それを一元的にお客様で管理してもらえるような仕組みは一定のニーズがありそうです。爆アゲ セレクションのなかで、自由に(管理を)やってもらえる機能も視野に入れたいですね。

――そうなると「dスマートバンク」との連携も期待したいところです。セキュリティ面についてお話がありましたが、万が一不正利用などがあった場合、サービスの事業者とドコモのどちらに問い合わせるのでしょうか?

野田氏
 サービスの利用に関することについては、パートナー企業となります。料金請求や利用登録についてはドコモ側でサポートする体制です。

ユーザーへの周知、今後の展開

――ユーザーにどうアピールするかという部分ですが、店頭での販売が中心なのでしょうか。井伊社長から店舗のオンライン化を進めるという話もありましたが、d払いアプリでの告知だとか、これまでと違うアピールはありますか?

野田氏
 そんなに新しいやり方ではないですが、それぞれのサービスにそれぞれのファンがいると思います。我々もすべてを把握はしていませんが、属性などをベースに「このサービスを提案したら喜んでもらえるかも」というのは想定できます。そういった方々にアプリなど自社コミュニケーションツール、メッセージRなどを通じて、直接ご案内するのがいいかなと思っています。

――最後に今後の展開をお聞かせください。今後の機能向上や対象サービスの拡大などの進め方のお考えをお聞かせください。

野田氏
 機能ももちろんですが、爆アゲ セレクションに入っていただけているお客様にもっと楽しんでいただけるものが提案できるといいかなと思っています。「Lemino」の有料コンテンツをよりお得なかたちで買っていただけるようなことは、どう用意できるかは小田島が一生懸命取り組む分野のひとつですね。

 パートナー企業が自身のサービスをどうかたちづくっていくかも条件があるかと思うのでそういった部分も含めて相談して、爆アゲ セレクションのお客様に価値をお届けできればいいと思います。コンテンツの一つひとつやもっと大きな部分まで色々とやり方を考えたいです。

 今回には間に合いませんでしたが、音楽やゲームもやりますと発表させてもらいました。第1弾は映像系のラインアップが中心になりましたが、もう少し幅を広げていきたいと思っています。準備できしだいアナウンスさせていただければ。

 今回は世界でも実績のあるパートナーさんとやらせてもらいましたが「こんなにいいものがあったんだ」という新しい気づきを提案できるといいなと思っています。そういったものの発掘もあわせてやっていきたいですね。そこは小田島たちの才覚にもかかっているかもしれません(笑)。セレクションという以上、我々が紹介していくものもあり、お客様が必要とするものをセレクトしていくというのも両方あるかと思います。

――デジタルコンテンツという軸はぶらさずにいくということですね。次の取り組みの時期としてはいつごろになりそうでしょうか?

小田島氏
 できるだけ早くラインアップを広めたほうがお得は増えるでしょう。どこかのタイミングを狙ってというよりは準備でき次第なるべく早くお客様のもとに届けられるよう進めていきます。

――次はいつぐらいになりますかねえ……?

小田島氏
 明言はできませんが、そう遠くない未来に……。

――爆アゲ セレクションとしてかたちができあがりましたが、小田島さんからするとまだまだゴールではない?

小田島氏
 本当にまだスタートラインに立ったところだと思っています。爆アゲ セレクションをひとつのプラットフォームとして受け入れてもらえるようにラインアップを増やしていけるかということが重要かと思っています。

――本日はありがとうございました。