インタビュー

IoTサービス各社に聞く(2):NTTコミュニケーションズ編

プラットフォームのみならずセンサー設置からコンサルまで幅広く対応

 これまでのモバイルの世界では、当然ながら、自らインフラを構築する通信キャリアの存在感が非常に大きなウエイトを占めている。しかし、IoT接続においては、海外キャリアやMVNOなど、国内で自ら通信インフラを持たない事業者によるサービス提供も数多く登場している。

 そこで、国内通信キャリア以外の主なプレーヤーに焦点を当て、どのようなサービスを提供しているのか、インタビューから読み解いていきたい。

 今回はNTTコミュニケーションズ株式会社 ネットワークサービス部 販売推進部門 MVNO担当 主査 小川瑞希氏と同社 経営企画部 IoT推進室 主査 谷川唯氏にお話を伺った。

国内MVNOで初となるeSIM対応のIoT向け接続サービスを昨年4月に開始、その中身は

NTTコミュニケーションズ 小川瑞希氏(左)と谷川唯氏(右)

――御社は「Arcstar Universal One モバイル グローバルM2M」(以下「グローバルM2M」)や「IoT Connect Mobile」など、IoT向けに複数の接続サービスを提供されていらっしゃると思います。まずはそれぞれの概要を教えて下さい。

小川氏
 はい。もともと弊社は、NTTドコモのMVNOとして2008年に主にヒト向けの通信サービスを開始しました。IoT・M2M向けとしては、2014年に約200カ国で通信ができる「グローバルM2M」という閉域サービスを開始しました。

 2017年には、セルラーをより低廉な価格でお使いいただけるよう「Arcstar Universal One モバイル グローバルM2M 100円SIM」をリリースしました。25カ国・地域において、1MB以下のデータ通信であれば、商品名の通り月額100円でご利用いただけるSIMとなっています。また、2019年4月には新たに「IoT Connect Mobile」の提供も開始しました。

「グローバルM2M」サービス概要 出典:NTTコミュニケーションズ

――複数のサービスがありますが、どのような違いがありますか。

小川氏
 閉域接続の必要性や、展開国・地域など、お客様に要件をお伺いし、最適なサービスをご提案しておりますが、「IoT Connect Mobile」はeSIMに対応している点が最も大きな違いとなっています。

 eSIMは従来、チップタイプで機器にハンダ付けできる「組込み(embedded)可能なSIM」という意味で使われることが主でした。ただ最近は、SIM内に記録された契約情報である「プロファイル」の書き換え、つまりリモートでのSIMプロビジョニング(RSP)に対応したSIMのことも表すようになってきました。

 「IoT Connect Mobile」は、このeSIMの両方の定義に対応したサービスを、日本のMVNOとして初めて商用化したものになります。

「IoT Connect Mobile」サービス概要 出典:NTTコミュニケーションズ

――「IoT Connect Mobile」は複数のプロファイルを提供されているそうですが、これもeSIMの特徴を活かした取り組みということですね。

小川氏
 ええ。現状、欧州系とアジア系の2つのプロファイルを提供しています。それぞれ、接続可能な国・地域の数や接続料金が異なっており、お客様には利用エリアに応じて最適なものをお選びいただけるようになっています。

――プロファイルは契約途中でも入れ替え可能なのでしょうか。

小川氏
 可能です。お客様にはSIMを管理できるWebポータルを提供しており、この画面上でいつでも切り替え可能です。またAPIでも操作可能です。

 今後、より最適なプロファイルが提供できるようになった場合に、プロファイルのラインナップに加えることで、お客様の選択肢を増やすことができます。実際、既に計画中の追加プロファイルもあります。

 弊社は今春にもNTTドコモ網によるフルMVNO化に対応予定ですが、フルMVNOの機能を活かして、早々に日本専用プロファイルを提供したいと考えています。現行の2つのプロファイルは、いずれも日本への接続はローミングとしてですが、このプロファイルを使えばローミングではなく直に接続できるようになります。コスト面だけでなく、遅延を気にされるお客様などにお勧めしていきたいと考えています。

――通信キャリア各社もローミングでのグローバル接続を提供されています。御社の強みはどこにありますか。

小川氏
 海外の現地通信キャリアのサービスを直接利用する場合と比べてもあまり遜色なく使って頂けるような通信料金設定となっています。

 具体的には、プロファイル基本料がSIMごとに月額200円で、あとは通信量に応じた完全従量制となっています。アジア系プロファイルの場合、たとえば日本やシンガポールなどは1MBあたり1円での提供となりますので、仮に月に100MBご利用いただいたとすると、課税などを考慮しなければ、基本料も含めて月額300円でご利用いただけます。

 もう1点、ローミングによる通信経路にも強みがあります。ゲートウェイが1つの国にしかないと、どこから利用する場合もいったんその国までデータを迂回させる必要があります。その場合、ゲートウェイ展開国から遠く離れた地球の裏側で利用するような場合、データの遅延にも目配りする必要が出てきます。

 「IoT Connect Mobile」は、世界の複数拠点にゲートウェイを用意し、遅延がいちばん少なくなる経路で通信できる仕組みを整えています。

――「IoT Connect Mobile」はMVNOとして国内初のeSIM提供と言うことでしたが、お客様の反応はいかがでしょうか。

小川氏
 おかげさまで、かなりの反響をいただいております。また我々にとって嬉しい誤算だったのは、日本国内運用のみのお客様からもご要望をいただけている点です。

 現在2つのプロファイルを提供していますが、国内ではそれぞれ別の通信キャリアとローミングするようになっています。ですので、1枚のSIMでプロファイルを使い分けていただければ、展開エリアによって最適な通信キャリアのプロファイルを選ぶような使い方も可能になります。

 ローミングを活用してグローバルに接続できる商品ではありますが、決してグローバルに用途を限定しているわけではありません。さまざまな用途にお使いいただければと思います。

IoT分野では、プラットフォームのみならずセンサー設置からコンサルまで幅広く対応

「Things Cloud」イメージ 出典:NTTコミュニケーションズ

――ここからは、もう1つのプラットフォームであるIoTプラットフォームについて伺います。御社のIoTプラットフォーム「Things Cloud」について、まずはどのようなサービスかお聞かせ下さい。

谷川氏
 「Things Cloud」は、センサーデバイスの接続やデータ収集、可視化、分析、管理などIoTの導入に必要な機能をパッケージ化したIoTプラットフォームとなります。これまでご説明してきたIoTコネクティビティを含むさまざまなネットワークからデータを集め、AIソフトやBIツールなどとAPIでデータ連携していくというフローの中で中核を担うサービスと言えます。

 弊社は「Things Cloud」を活用し、既にいくつものユースケースも実現しています。商業施設におけるトイレ等の空き状況可視化など施設の付加価値向上をはかる「For Place」、産業機器の高度な稼働監視を通じて機器の売り切りからサブスクモデルへとサービタイゼーション化を後押しする「For Maintenance」、流通業の商品運送状況などトレーサビリティ高度化をはかる「For Logistics」などが挙げられます。

――「Things Cloud」というIoTプラットフォームを活用して様々なソリューションを創出されているという理解でよろしいでしょうか。

谷川氏
 そうですね。「Things Cloud」の上にさまざまなユースケースを乗せるイメージです。その中身は、センサーや可視化画面、アラートなどの組み合わせになりますので、お客様の要件にあわせてSIで実現しています。

――カチッとしたパッケージではなく、あくまでお客様の状況に合わせて個別に対応されているようですね。

谷川氏
 おっしゃるとおりです。IoTはお客様の要件が千差万別ですので、パッケージ化してしまうとカスタマイズができなかったり、できたとしてもそのたびにサービスや料金を改定したりと非効率になってしまうと考えています。

 我々は、核となるIoTプラットフォームの「Things Cloud」だけはしっかり仕様を決めていますが、その下のネットワークやセンサーはどれを組み合わせるか、反対に上位レイヤーでアプリケーションをどう作っていくか、この部分は個別に対応しています。

 昨年11月には、お客様の多種多様な要件に対してきめ細かくサポートするSIの部分について、アドバイザリーからデザイン、構築、マネージドオペレーションまでワンストップで対応するサービスをメニュー化し「Thingsアドバイザリー」「Thingsコーディネーション」「Thingsマネジメント」としてリリースいたしました。

 このようなサービスは以前から個別に対応してきましたが、このたび体系を整理してメニュー化することで、より前面に押し出していきたいと考えています。

――このメニューはまさにコンサルティングですね。

谷川氏
 はい。この部分は我々の強みにしていきたいと思っています。

 プラットフォームの部分は差分を出すのが難しいんですね。たとえば可視化するだけでしたら、どのプラットフォームを使ってもできることにそれほど違いはありません。

 そうではなくて、現場へのセンサーの設置方法ですとか、センサーにしても防水や防爆などのグレードが必要かどうか、あるいは電源の取り回しをどうするのかなど、現場の方も見落としがちな部分まで対応していきます。こういった泥臭い部分は、システムインテグレーターの中でも敬遠される方もいらっしゃるようですが、我々はこの「グラウンド」の部分も、パートナーさんとともに現場に出向いて対応しています。

――パートナーにはどのような方がいらっしゃるのですか。

谷川氏
 「Things Partnerプログラム」を立ち上げ、主にセンサーデバイスのベンダーとの連携を進めています。センサーの部分は分野ごとに細分化されていますので、お客様の要件に適したセンサーやIoTゲートウェイの選定から実際の設置作業まで、いっしょに行っています。

 また、我々は、ソリューションを入れるだけでなく、導入をきっかけにして例えばお客様の中期計画にも貢献できる枠組みまで御提案させていただくような取り組みを考えています。パッケージを作ってプロダクトアウトで提案するのではなく、バリュー型の提案に切り替えています。

――御社が事業戦略に掲げる「DX Enabler」を体現するような動きですね。

谷川氏
 ありがとうございます。また、我々は「フルライフサイクル」という考え方も重視しています。

 IoTは導入から5年・10年の単位で使い続けるものだと思います。導入だけでなくその後の維持管理の部分について、長期にわたる支援体制が維持できるかという観点も大切だと思います。我々は既存事業においてしっかりマネージドサービスの提供体制を構築しており、長期にわたる支援については自負があります。お客様との信頼関係をしっかり構築し、フルライフサイクルを強みにしていきたいと思います。

――本日はありがとうございました。