インタビュー

「auピタットプランでモヤモヤの解消を」、KDDI担当者に聞く新料金の背景

Androidスマホの販売は5割増、段階制でわかりやすい分離プランに

au ピタットプラン(スーパーカケホ)」で「誰でも割」「auスマートバリュー」「ビッグニュースキャンペーン」の適用時の価格

 端末割引と料金を切り分けた“分離プラン”として7月14日にスタートした「au ピタットプラン」「au フラットプラン」の利用率(端末購入を伴う新規/機種変更)が8割に達している。開始からまだ2週間に満たないとはいえ、auにおけるAndroidスマートフォンの販売数は、新プラン開始前と比べて5割増えた。

 総務省から携帯電話業界へさまざまな注文がつき、競合他社からも端末割引をなくす一方で割安な料金プランが登場する中、KDDIはどんな考えで新プランを導入したのか。料金プランを担当する岡本輝幸氏と、ユーザー体験の向上を目指すコンシューマエクスペリエンス推進部長の木村奈津子氏にインタビューする機会を得た。

岡本氏(左)と木村氏(右)

「料金が不満」、その背景にある“忘れられた毎月割”

 段階制の「au ピタットプラン」、20GBと30GBを用意した「au フラットプラン」は、端末代金と料金を切り分けたプランという位置付けだ。総務省の有識者会合で以前から「端末をよく買い替える人と、そうではない人の間の不公平感」が指摘されていたほか、競合他社であるNTTドコモの「docomo with」の後に発表されたが、auとしては以前から練っていたプランだという。

 そもそもKDDIでは、ユーザーの体験価値の向上を掲げている。これは、販売奨励金の規制が進み、MNPで他社からの乗り換えが減る中で、auユーザーにこれからもauを使い続けてもらうために進めているものだ。その取り組みのなかで、木村氏はユーザーがもっとも不満に感じることは何なのかを探ってきた。

木村氏

 すると、やはりと言うべきか、ネガティブに捉えられがちな体験のひとつが料金だった。ユーザーへの個別インタビューなどを行い、話を聞いてみると、適正な料金を支払っているのか、無駄に多く支払っていないか――そんな疑いを抱く人は少なくないのだという。

 また端末を購入すると適用される「毎月割」については、割引とはあまり実感されていなかったこともわかった。KDDIにとっては、毎月割が適用されている間は、割引料金という位置付けだが、ユーザーにとってはその料金が普段の価格という意識。そのため毎月割が終了すると急に料金が上がったと感じる人が多く、不満に感じるのだ。

 毎月割を適用していても実感してもらえず、総務省などの調査でMVNOと大手キャリアの料金を比較するときには端末代金と端末割引が考慮されていない。そこで料金面にフォーカスを当てて新たな取り組みをすべきではないか――それが「au ピタットプラン」「au フラットプラン」に繋がっていった。

アップグレードプログラムEXは「リース、残価設定ローンに近い」

 端末代金の割引がなくなれば、端末代金がこれまでより高くなる。そこで用意されたのが「アップグレードプログラムEX」だ。端末を48回の割賦で購入し、毎月390円支払うというものだ。

アップグレードプログラムEX

 だが48回払いとなれば4年間も拘束されるのか、と思う人もいるだろう。これに岡本氏は「25カ月目以降にあれば、それまで使っていた機種の残債を支払わなくてよい形。使った分だけ端末代金を支払っていただくという感覚になる。制度上は割賦だが、リースや残価設定ローンに近い感覚で捉えてほしい。もしアップグレードプログラムEXを利用しないままでも、支払ったプログラム料は機種変更時にポイントで戻ってくる。損することはありません」と胸を張る。

 そうした説明は店頭でももちろん行っており、冒頭に触れた「利用率が8割」「Android販売の5割増し」という結果に結びついている。

 また、これまでの「アップグレードプログラム」は18カ月目以降、最大7回分の残債が無料になるという恩恵を受けられる形だった。しかし今回は「EX」では25カ月目以降で、最大24回分の残債がなくなる。残債が免除される時期が半年延びた格好だが、これは、より一般的な機種変更のタイミングにあわせたためだという。

わかりやすく、不安を解消

 「毎月割」が無くなる新プランでは、多くのユーザーがおよそ1500円安くなると岡本氏。Androidであればどの機種でも利用でき、ハイエンド機種を選ぶ人はデータ容量が多くフラットプランがマッチし、ローからミドルの機種を使う人は低データ量でピタットプランが合うのだという。

 ただ、ピタットプランが、1GB、2GB、3GB、5GB、そして20GBという区切りでの段階制となったことで、「4GBでも区切って欲しい」「5GB→20GBは一気に飛びすぎでは」といった声も聞こえてくる。しかしこれはわかりやすさを狙ったための区切り方だと岡本氏。「デジラ」という愛称で提供してきたデータ定額が、1GB、2GB、3GB、5GBといった区切りになっているため、そこにあわせることで比較しやすくしたというわけだ。

 木村氏は、ユーザーが抱える“もやっとした感じ”を避けるためのもの、と説明。先述したように「適正な料金なのか」「支払いすぎていないか」というユーザーの不安を払拭する手法として、使った分だけという段階制プランは納得してもらいやすいのだと語る。

 新料金では基本料とデータ料、ISP代を分けず、ひとまとめにしているが、これもわかりやすさを追求した結果。料金明細の表記は今後、よりわかりやすくなるよう改善を図るとのことで、店頭での紹介と不整合が起きないようにしていく方針だ。

 ただ、段階制のプランは、「使わなければ安くなる」という心理に繋がりやすい。さまざまなアプリで便利に使えるスマートフォンの利用を抑制することにならないか? 新たな使い方を提案する料金プランというアプローチはしないのか? という記者の問いに岡本氏は「(グループ会社の)J:COMさんが手がけるサービスは動画の通信料が無料になるといったものが確かにある。ピタットプランの導入前に提供した今春の学割では、『うたパス』が無料になるという取り組みもしており、市場に対して問いかけは続けている」と述べ、社内でさまざまな検討を進めている、とした。ただしカウントフリーのようなサービスは、そのサービスを好むユーザーだけに限られるため、ひとまずは全てのユーザーにとって利用できるものとして新料金プランを整備したのだという。

岡本氏

 ちなみに最初の1年だけ1000円引き、といった施策については、過去似たような取り組みを実施しており、その時の経験としてユーザーからクレームがなかったという。ユーザーにとっては期間限定であれ割安になることは歓迎することが多いようで、大きな混乱はない、という認識のようだ。

iPhone、どうなりますか?

 まずは、主にAndroid端末の購入にあわせて利用できるという「au ピタットプラン」「auフラットプラン」。既存のiPhoneユーザーも、たとえば毎月割が既に終わっているような人が新プランに乗り換えることはできるが、今のままでは、iPhoneを買い替えるときに新プランを選ぶことができない。

 iPhoneの購入時でも新プランが利用できるかどうか、発表時には田中孝司KDDI社長は「協議中」とコメント。具体的にどうなるかは明らかにされていないが、今回の取材で岡本氏も「いったん安くなったのに、買い替えると新料金が選べないというのは変な構造だとは認識している」と語っており、今秋と見られる次期iPhoneの導入時期には何らかの対応が期待できそうだ。

新プランで自信

 auを使い続けてもらうために顧客満足度の向上を目指す中、料金面の不満を解消するための取り組みとして登場した「au ピタットプラン」と「au フラットプラン」。

 料金が安くなるため、岡本氏は「企業としては短期的に減収にはなるが、その分、auに居ていただけることが一番大きい」と語り、長期的な視点でKDDIにとっての利益になると説明する。つまり、KDDIに対する信頼を継続してもらえれば、auが提案するライフデザイン関連の各種サービスの契約も見込める。

 ユーザーが抱える料金面への不満を放置すれば最終的には解約されてしまう。MVNOの台頭で、そうした選択肢もユーザーにとってはさほど不便なく利用できるようになってきたこともあり、「これまでは引き留めようがなかった」(岡本氏)という店頭やコールセンターでも、新料金プランは「自信を持って話せるネタ」(木村氏)と手応えを感じている様子。

 ユーザーとしては今後、iPhoneに対応するのかどうか、といった点が気になる。その一方で、スタート直後の好調ぶりが今後も続くのか、はたまた2017年度の解約率への影響はどうなるのかといった点も気になるところだ。