インタビュー

iPhoneも対象機種になる? ならない? 「docomo with」担当者に聞く

狙いは還元と選択肢の拡大、「arrows Be」と「Galaxy Feel」が対象になった理由

 「対応機種を買えば、ずっと1500円引き」――NTTドコモが今夏、新たな料金プラン「docomo with」を導入した。第1弾の対象機種は「arrows Be F-05J」と「Galaxy Feel SC-04J」だ。

 これまでは、端末を購入すると、一定期間だけ「月々サポート」による割引が適用されてきた。同じ機種を使い続けると、新たな端末を買わない分、節約できるはずだが、実際は「月々サポート」がなくなるため、ある意味、損をしている格好になっていた。

docomo withの仕組み

 長く同じ機種を使い続けるユーザーへの答えとして、ドコモは「docomo with」を位置付ける。「docomo with」投入の背景や狙いについて、経営企画部 料金制度室長の田畑智也氏に聞いた。

タスクフォース「きっかけに」

――2017年夏モデル発表会では、docomo with導入のきっかけとして、2015年後半に開催された総務省でのタスクフォースの影響があると紹介されました。

田畑氏
 タスクフォース、そして総務大臣からの要請もありましたが、当社ではそれとは別に問題意識も持っていました。端末を頻繁に取り替える方もいる一方で、1台を長く使われる方もいます。「長く使うのだからお得に使いたい」という声に応えたいと。

ドコモの田畑氏

 docomo withには、「会社としてどれだけ還元するか」という気持ちを込めました。もともとタスクフォースでは端末買い換え頻度の不公平感が指摘されていたので、そこにようやく対応することができました。

――先の決算会見でもあらためて発表されましたが、「還元」というワードが良く出てくる印象です。

田畑氏
 かつて端末購入補助をたくさん付ける競争があり、そこにタスクフォースのガイドラインが設けられました。現在はキャッシュバックもなくなりましたが、今いるお客さまを大事にしたい、そのために還元したいと考えています。結果的に、他社への流出がないようにという点も意識しています。

 総務省でのタスクフォースはきっかけでもあります。実際にライトユーザー向けのメニューが足りないとわかりました。端末の安さを軸にした競争からの脱却になったのではないかと思っています。

お得感を味わってもらうための「1500円」

――検討、設計する上で重視したことは何でしょうか。

田畑氏
 そもそもdocomo withに限らず、「選択肢を増やそう」と考えています。「これがベスト」ではなく、選択肢の拡大を意識しているのです。

 その上でdocomo withはいわば「端末の買い方も一律ではなく、こういったものもあるよ」と。設計にあたっては、「お得に感じていただけるようにする」ことを目指しました。ただ、“お得感”は難しいです。「ここまでやれば十分」というものがありません。今回は初めての取り組みなので、どう反応されるか、まだわかりませんね。

――では、割引額の1500円はどのような根拠で決めたのでしょうか。

田畑氏
 docomo with対応の「arrows Be F-05J」と「Galaxy Feel SC-04J」は3万円前後になります。24回の分割払いならば1000円台で、もし割引額が1000円以下あればお得じゃないと思われ、なかなか受け入れてもらえないのでは、と考えました。

――つまり1500円は端末価格から逆算したと?

田畑氏
 第1弾の対象機種である「arrows Be F-05J」と「Galaxy Feel SC-04J」は、機能を絞ったローエンドな機種ではなく、普段使いでも十分役立つ機種です。そうした機種の価格が3万円前後であり、購入時の負担と割引を、お客さまが感覚的にどう見てるか、と考えました。

 毎月1500円という割引額は、2年使っていただくと端末代金を少し上回る格好です。たとえば「arrows Be」の価格は2万8512円。24回払いだと1回1188円です。つまり、割引額のほうが大きい。24カ月の割賦代を支払い続けている間だけではなく、それを終えても毎月割引され続けるわけです。

arrows Be F-05J
Galaxy Feel SC-04J

――ユーザーが、そうした計算を購入前にして、docomo withが狙う“お得感”をきちんと理解してもらえるでしょうか。

田畑氏
 そこまで計算される方がどれだけいるかはわかりませんが、ショップ店員が説明しても、良いと感じていただけるプライスにしました。少し思い切っている部分もあります。これがどう受け止めてもらえるかはまだわからず、これから状況を見てからですが、いまのところ想定通り、順調とみています。

ハイエンドは対象になる?

――今回は料金と端末が密接な関係にありますが、料金のために何か端末企画段階でリクエストしたりしたのでしょうか。

田畑氏
 私自身は端末専門ではありませんが、一般的に使うのに必要十分なものは入ってる、という前提です。オーバースペックにならず、普通の使い方には十分という考え方です。機能を詰めこむと、その分、価格は上がります。今回は、スタンダードな端末をイメージし、この2機種が良いのでは、と選びました。

――ミドルレンジ端末で展開するというのは最初から決まっていたことですか?

田畑氏
 まずはそこから始めましょう、と考えました。強いこだわりがそれほどなく、端末も長く使う方はそれなりにいらっしゃいますので、そうした方々に向けた取り組みです。企画検討段階から、ここにフォーカスしていました。

――ハイエンドモデルを好むユーザーはターゲットにならないでしょうか。

田畑氏
 まだ提供しはじめたばかりで、利用動向の分析ができていませんが、(第1弾は)最新のハイエンドモデルを使う人とは違う(ユーザー層)かと。やはり1つの端末を長く、流行り廃りではなくずっと使う人向けなので、新しいハイエンド端末が出るたびに、という人向けのプランではありません。

――たとえばiPhoneとdocomo withの相性はいかがでしょうか。人気機種ですし、長く使いやすい機種という見方もできます。

田畑氏
 docomo withの検討段階から、そういったハイエンド機種ではなく、まずはミドルレンジから、と考えました。まずはミドルレンジで開始して、どう受け入れられるかを分析します。いきなりハイエンドには行きません。

 しかし端末ありきの料金ではないので、あまり急がず、じっくりと展開します。現状ではハイエンドモデルには端末補助が付いているので、そういった状況を踏まえての対応になります。

――docomo withの対応機種は拡大させるとのことですが、あらためて、端末の価格帯がdocomo with端末の要素となるのでしょうか。

田畑氏
 今後の展開については、今回の2機種と1500円の割引、これがどう受け入れられるかによります。どのようにお客さまに好評をいただけるかを見ていきたいです。

タブレットは?

――タブレットもdocomo withの対象機種にするという考えはありますか?

田畑氏
 端末補助とどちらが良いか、確かに同じ仕組みをタブレット向けにも検討しないといけませんね。タブレットは長く使われることもあるので、docomo withがマッチするかも知れません。「2台目が安い」というコンセプトのプランではありませんが、要望する声が出てくれば、今後のバージョンアップで考えていきたいです。

他の機種に影響は?

――docomo with非対応のハイエンドモデルなどを含め、今夏の人気機種の動向に影響は出ていますか?

田畑氏
 まだ分析はできていませんが、ハイエンドにはハイエンドを好む方がいます。docomo withはスマホを使い始めたばかり、あるいは初めてスマートフォンを使う人や、標準的な機能の端末で十分な人に向けています。

――どのくらいのユーザーがdocomo withを使うと見込んでいますか。

田畑氏
 今後を含め、どういった端末をラインアップするかによるでしょう。人気となる機種もあれば、うまくいかない機種もあるでしょうし、カラーバリエーションなどにも左右されます。1500円引きだから何でもいい、ということにはならないでしょう。そういった意味では、いろいろな端末展開が考えられます。

端末割引と違う考え方を

――2016年冬モデルに実質650円程度という打ち出し方をした「MONO」がありました。「MONO」の販売動向は、「docomo with」の設計に影響を与えましたか?

田畑氏
 MONOはMONOとしてひとつの選択肢で、端末購入補助によるものです。今回は端末購入補助とは違う概念で実現したいと考えました。

「結局、ドコモが儲かるじゃないか」という形にはしない

――企業からすると、より多く消費する方が良い顧客という考え方もあると思います。端末をあまり買い替えないユーザーへの割引、というのはどういう考え方なのでしょうか。

田畑氏
 ライトユーザー、ヘビーユーザー、長期ユーザーとさまざまなお客さまがいます。ひとつずつ声に応えていく中、今回は「端末を長期間使う方に向けて」というスタンスです。どのお客さまの声が大事か、ウェイトを付けるのではなく、顕在化した要望に応えるなかで「docomo with」が誕生したというわけです。

――「docomo with」は1500円の割引が継続するわけですが、今後、5年、10年と長く適用される人が出てくるかもしれませんよね。そう考えると、かなり踏み込んだプランのようにも見えます。

田畑氏
 そうですね、踏み込んでいます。一方で、端末購入補助(端末代金の割引)がありません。つまり端末購入補助のコストを減らす効果があり、月1500円がまるまるマイナスとなるわけではない構造です。

 ずっと割引することになりますが、それがなければ還元とは言えません。「結局、ドコモが儲かるじゃないか」という話にはなりません。そうならないようにしています。

適用期間が肝

――かつてバリューコースとベーシックコースというのもありましたが、そのときはバリューを選ぶ人が多かったかと思います。それを踏まえてdocomo withはどうお考えでしょうか。

田畑氏
 あれも選択肢です。端末購入補助が強くなってうまく機能しませんでしたが、今回は端末補助のない選択肢となります。しかも2年間といった区切りもありません。

――1500円の割引が期間限定ではない、という仕様はすんなり決定されたことなのでしょうか。

田畑氏
 いまどきのスマートフォンはバッテリーの持ちも良く、使えるものはそのまま使おうという人がいます。

 総務省のタスクフォースでも議論はありましたが、キャンペーンのような期間限定割引は、適用期間が終わると料金が上がります。2年間だけ安くして欲しいという方には通常の端末割引が効果的でしょうが、料金が上がるとお客さまは別のアクションを考えてしまいます。docomo withではそうではない仕組みを作りたかったわけです。

――かつて総務省の有識者会合では、料金と端末代が一体化してわかりにくいという指摘もありました。docomo withは長期利用ではお得になりますが、特定の端末だけに適用となれば、料金・端末の一体化にあたるのでは?

田畑氏
 端末がセットではなく、たとえばdocomo withが適用になったあと、SIMロックフリーのスマートフォンをご自身で購入して使っていただいても、1500円の割引は継続します。つまり端末購入補助のあるNTTドコモの端末に機種変更するまでは、どの端末で使っても割引が継続します。どの端末でも使えるというわけで、制限は加えていないので、docomo withは端末セットにはなっていないのです。

 特定の端末でしか使えない形にしてしまうと、タスクフォースのガイドラインに抵触してしまいます。この条件をクリアする必要があります。どちらかというと、多額の補助が端末に付くのを是正しよう、というのがガイドラインの趣旨でした。

他社もマネできる?

――docomo withの発表以降、他社からは追従するプランが出てきません。他社ではマネしにくい部分があるのでしょうか。

田畑氏
 マネはできると思います。ただ、ずっと1500円引きでやりたいかどうかです。docomo withは端末を購入していただくことになります。つまり、新しい料金プランのように、スタート時に一気に申し込みが増えるようなものではありません。企業間の競争という観点からすると、競合他社にとってはすぐに手を打つ必要がないと判断できるのではないでしょうか。

――他社のそうした動きは想定されていましたか。

田畑氏
 何に重きを置くかによります。弊社はユーザー還元を積極的にやっていますが、他社については、各社の戦略がどこにあるかによります。あえて違うことをやる手もあります。競争の中で良い料金やサービスが出ることで、市場が活性化すれば良いかと。必ずしもdocomo withと同じモノが良いものとは限りません。他社が何か動いてくれば、それに対応していきます。

docomo with、進化の方向は?

――まだ早いかも知れませんが、docomo withの発展する方向はどう考えていますか。

田畑氏
 将来はわかりません。そもそも具体的なゴールもわかりません。まず1回やってみて、それがどう受け入れられるか、です。端末ラインナップも価格も、どのように受け入れられて、どのあたりが興味を持たれないか、ちゃんと分析していかないと、次の一手を間違えてしまいます。

 docomo withに限らず、2016年からいろいろな形で還元をしていこうとしています。今後はdocomo withのバージョンアップだけでなく、違うところかも知れません。いろいろなことをやっていく必要があります。

――今回の2機種がdocomo with対応の第1弾とのことですが、第2弾はどのくらいのペースで出していくことを想定されているのでしょうか。

田畑氏
 今回がまったくダメとなれば第2弾は出ないかも知れませんが、現時点では年2回というペースにしたいです。今後の発表会で何かしら次の対象機種について言えたら良いと思っています。

――今後もdocomo withが継続された場合、docomo with対象機種から、その後登場するdocomo with対象機種へ機種変更しても、1500円割引きは継続するのでしょうか。

田畑氏
 考え方としてはそうなりますが、それはレアなケースかも知れません。docomo with端末を買ったらすぐに売って、以前の端末を継続利用することも可能ですが……どういったお客さまがいるか、実際の動きを見ていかないといけません。

次の還元は?

――今後もdocomo withのようなユーザー還元施策は増やしていかれるのでしょうか。

田畑氏
 実はすでに結構やっています。最初は端末購入補助がなくなるので、いろいろな還元をしています。市場の動向として通信の収入は増えていませんが、お客さまになにもしないのではなく、企業姿勢としていまやっていこう、と。

――ユーザー還元の次の一手は?

田畑氏
 これから切り口を考えていきたいです。docomo withのバージョンアップでは、1500円の割引が増減するというより、この施策が継続的に利用できるように、端末ラインナップが増えるイメージです。

 それとは別の施策として、端末を短期で買い換える人は、となります。それはそれで違う形で、順繰りに施策を提供します。一律に料金をいじると、トクする人と損する人が出てくるので、いろいろな方に向けてやっていかないと、お得感が出てきません。どのように選択肢を増やすか、一個一個作るのは難しいですが、今後も継続してやっていきます。

――本日はお忙しいところありがとうございました。