【IFA2013】

ソニーモバイル田嶋氏が語る「Xperia Z1」とXperiaのこれから

Xperia Z1

 既報のとおり、ソニーモバイルはクリスマス商戦に向けたフラッグシップモデル「Xperia Z1」を発売する。

 この端末は、ソニーの持つカメラ技術を融合した1台で、「Gレンズ」や「Exmor RS for mobile」「BIONZ for mobile」といった技術を採用。画質面ではコンパクトデジカメと比べてもそん色ない仕上がりを実現しているという。IFAのプレスカンファレンスでも、One Sonyを象徴する商品として最も紹介に時間が割かれていたように、ソニーグループの戦略商品とも言えるだろう。

 IFAでは、Xperia Z1の開発を指揮したソニーモバイルコミュニケーションズのシニアバイスプレジデント UXデザイン・企画部門 部門長 田嶋知一氏にグループインタビューを行う機会を得て、開発コンセプトや商品戦略を聞いた。その模様は、以下のとおりだ。

年2回のリリース、その理由

――1月にXperia Zを出し、今この時期にXperia Z1を発表しました。アップルやサムスンなど、フラッグシップモデルは年に1回という会社も多い中で、似たベクトルの商品を短いスパンで投入する理由を教えてください。

ソニーモバイルの田嶋氏

田嶋氏
 確かに主要な他社は、年に1回アップデートをします。一方で、うちはソニーの最新技術、デザインを入れ、最新のチップにすること。それを併せ持った端末でどう戦うのかを考え、6カ月でフラッグシップを進化させてきました。

 春と秋に1回ずつ、クアルコムさんともしっかり話し、そのタイミングでソニー中に散らばっているネタをしっかり入れられるようにしています。ヘビー級の他社と比べ、機動力を生かすということです。もちろん、デザインランゲージなどの一貫性は守っています。

――逆に、ユーザーからは小出しにしていると見られるのでは。

田嶋氏
 手加減をして勝てる業界ではないですからね(笑)。そのタイミングで、最新、最高でモバイルに適用できるものは、惜しみなくつぎ込みます。出し惜しみは一切なしです。

 春はMobile World Congress、秋はIFAとあるように、世界のマーケットにも2段階の商戦があります。特にアジアは、ハイエンドに飽きる曲線が急激になっています。そこで(売れ行きを)伸ばすためには、サムスンさんのように値段を下げて(フラッグシップを)延命するしかありません。逆に、この方法(半年に1回程度のフラッグシップ投入)なら、価格を下げないで行けます。価格戦略にも、大きな影響があるということです。

夏モデル「Xperia A」の意義

――Xperia Z、Tablet Z、Z ULTRA、Z1という流れができている中で、日本市場では突如、Aが出てきた印象を受けました。あの端末は、ソニーモバイルの中でどういうポジションになっているのでしょうか。

田嶋氏
 非常に普及度が高いマーケットで、裾野が広がっている中、フォロワーユーザーが扱いやすい商品として企画しました。そこに当てていく際に、マーケットのオペレーター(ドコモのこと)とガッチリ握れたということです。ただし、おっしゃるようにブランドメッセージは分かりにくくなったので、秋以降はそこも整理していきます。

 もちろん、幅広いお客様に買っていただける製品は用意しますが、整合性は今回よりあるということです。ユーザーエクスペリエンスやアプリの整合性は取りつつ、筐体の持ちやすさはお客様の好みによるところがあります。今は(サイズの)スイートスポットを、全世界で探っている状況です。

Xperiaシリーズのアクセサリー

――周辺機器の開発は、どのような方針で行っていますか。

田嶋氏
 基本的にスマートフォンは何でもできる機器ですが、ソニーブランドの特徴をつけるために、「Listen」「Create」「Watch」「Play」という4つのエクスペリエンスを意識しています。また、「SmartWatch」はスマートフォンをウェアラブルに進化させるための、取っ掛かりとも言える商品です。スマートフォンのフラッグシップが出る時期が分かれば、そこに向けて商品も企画しやすくなります。

SmartWatch 2 SW2

――ソニーのコンテンツ事業はどのように影響していますか。

田嶋氏
 映画も面白いもので、リードタイムがハードウェアに近いんですね。ですから、ロードマップを共有すると、キャンペーンやバンドルといった形でシンクロできますし、他者とは違うソニーブランドとしての価値ができます。今回は、このタイミング(Xperia Z1発売)に合わせて、音楽、映画、写真をワンパッケージにして、お試してしていただくことができました。これも、スマートフォンから始まる価値提供の連鎖ができるといいと思い、やっていることです。

――ソニーグループとして、何が変わってここまで連携できるようになったのでしょうか。

田嶋氏
 社内的なコンバージェンスという流れと、体制整備が同時にでき、全体が上手く回っています。また、Xperia Zがモメンタム(勢い)を持って市場に出たことで、周りの事業部やコンテンツサービスの方もスマートフォンに載せれば価値が届くと、分かってきました。

――今のSmartWatchはどのフェーズにあるものでしょうか。

田嶋氏
 今はスマートフォンをサポートするデバイスです。ただし、最終的なゴールは、スマートフォンでできることをカバーしつつ、ウェアラブルであるがゆえの新しいエクスペリエンス(体験)です。行動履歴や生態情報が正確に取れる特徴を活かしたりといったことができるところに、新しいデバイスがあると思います。

 ただ、現実問題として、まだ5インチのタッチ以上の操作性のスキームができていません。ウェアラブルへの移行には、まだまだ時間がかかると思います。

「Z1」という名前に込められた想い

――Xperia Z1の「1」には、どのような意味を込めているのでしょう。

田嶋氏
 Xperia Zに関しては「序章」という意味もあり、ああいう名前にしました。というのも、Xperia Zは、ソニーモバイルがソニーの100%子会社になる前から仕込んでいたものだからです。Xperia Zも最終的にはいい商品になりましたが、次回はデバイスから仕込んでいこうということで、Xperia Z1ではカメラを1年前から(デジタルイメージング事業本部と)一緒にやってきました。つまり、フルスイングしたのがXperia Z1ということです。名前としてはZ1ありきだったので、Zには「Z0(ゼロ)」という意味もありました。

――カメラに関しては、どのような体制で開発したのですか。

田嶋氏
 デジタルイメージング事業本部からスタッフを呼び、一個師団を入れてその部隊と共同で作っています。一個師団にうちの新兵を鍛えてもらい、そのノウハウを入れることを繰り返してきました。

――今回「BIONZ for mobile」をソフトで入れたように、これからさまざまな機能が搭載されるとこれまでのスマートフォンと違った処理が必要になってくると思います。そのテクノロジーのベースはどうしていくのでしょうか。

田嶋氏
 ソフトで解決できるものと、ハードで解決できるものの両方があります。また、自分で用意するものと、プラットフォームベンダー、OSベンダーと協力して仕込むものもあります。その仕分けは、戦略的にやっていく必要があると思います。

「OSから来る制約はできるだけ切り離していきたい」

――今はすでにあるソニーの技術を持ち込んだものが多いですが、長期的な成功やシェアの拡大を視野に入れると、OSそのものの仕込みも必要になってくるのではないでしょうか。


田嶋氏
 今はスマートフォンにソニーのベストを持ち込み、スパイスとして入れた商品を作っています。ただ、今後はスマートフォン発で、新しいソニーのベストを作り出さなければいけないことも確かです。それは、コミュニケーションをエンターテインメントにすることだったり、新しいエンターテインメントを作ることだったりするのかもしれません。

 また、HTML5を契機に、ソフトウェアを大部分をクラウド側に移し、クライアントから切り離す動きも進んでいます。そこをにらんで、WindowsにもAndroidにもFirefox OSにもかかるアーキテクチャーには移行していきたいですね。OSから来る制約はできるだけ切り離していきたいということです。一方で今は過渡期なので、GoogleやMozillaとはしっかり話をして、ユーザーエクスペリエンスを実現していく必要があります。

 OSの仕込みというご質問に関しては、今からクライアントOSを自分たちでビルドするのはないと思っています。そこは、今のパートナーとみっちり話してやっていきます。

 ただ、iOSにしてもWindowsにしても、各ブランドの差異化をする余地が少ない中で、Androidがここまで広がっているのはそのスキームがしっかりしているからです。先週サンダー・ピチャイ氏にお会いしてみっちりお話ししましたが、彼はChrome出身だけあって志向は非常にオープンです。彼らとしても、サムスンが強くバーティカルインテグレーション(垂直統合)している中で、我々をカウンターパートナーして使いたいと思っているようです。

――Googleとの関係が良好ななかで、ソニーにはNexusシリーズもなければ、(素のAndroidを入れ、Googleが直接販売する)Google Editionもありません。そういったことも検討しているということでしょうか。

田嶋氏
 その可能性も含めて、ディスカッションしています。

――Nexusブランドとの競合関係はどうお考えででしょうか。

田嶋氏
 彼らはソフトや技術の志向が強いため、リファレンス端末が必要と強く思っています。一方で(ハードウェアの)商売は非常に下手です(笑)。ダイレクトに売ってはいますが、マジョリティにはなりきれていませんので、ビジネス的なインパクトはあまり気にはしていません。

――ただ、7インチタブレットに関しては、Nexus 7がリファレンス以上の影響力を持ちつつあります。ソニーモバイルとしては、ここにどう対抗していくのでしょうか。

田嶋氏
 5インチから上は、スマートフォンの延長線上でカバーできると考えています。それは、主にビジネスモデルのことです。10インチや7インチから生まれたタブレットは、GoogleやAmazonによって、サブシディドリブン(コンテンツやサービスの契約ありき)で違うマーケットになってしまいました。

 その中でも、うちのXperia Tablet Zは、ハードの価値を求めてくるお客様に届いています。マジョリティの数千万はコンテンツのサービスツールとしてしかハードを見ていませんし、下手をしたらキャッシュバックがもらえるものと見ているかもしれませんが、うちとしてはスマートフォンと同じビジネスモデルでカバーできるよう、できるだけ上に伸ばしていきます。それとは並行して、サブシディで組めるビジネスモデルがないのかも、検討していきます。

――シェアはまだ伸ばせるということでしょうか。

田嶋氏
 アジアの勢いを見ていると、7インチぐらいまではスマートフォンのやり方でいけると思います。うちのポジションを考えると、シェアを取れる余地もまだまだあります。

Xperia Zシリーズのデザイン

――Xperia ZとXperia Z1では、デザインランゲージは踏襲しつつも、構造やサイドの素材が大きく異なります。どういった発想で、今回のアルミフレームが生まれたのでしょうか。

田嶋氏
 1枚の板を作りたいというのがデザイン上のコンセプトで、あのタイミングで一番よかったのがXperia Zの方法です。6面にパネルを張り、いい“板”を作れました。一方で、Xperia Z1を作るときは、リング状にするとアンテナが作れる、という提案がありました(Xperia Z1は、外周をアルミから削り出したリング状の輪になっている)。そのリングアンテナをベースに、Zからのコンセプトであった1枚の板をキープして出た答えがこれで、アンテナソリューションから来たデザインです。

――あまり同じデザインランゲージが続くと、ユーザーの飽きが心配になります。どの程度の期間、1枚の板を続けていくのでしょうか。

田嶋氏
 ベースのコンセプトは変えずに、どこかのタイミングでリフレッシュしなければいけません。車で言うと、フェイスリフトを変えているようなもので、それが3回に1回なのか4回に1回なのか2回に1回なのかは、マーケットによって受け止め方が全然違うので、まだ決めかねています。

――国によってデザインが違うということもあるということですか。

田嶋氏
 それはできるだけ避けたいので、市場のいいところに落としたいと思っています。ただ、香港、台湾、上海などでは半年に1回、全部変わってしまう一方で、欧州はステイブル(安定)を好むので、難しいですね。

――ソニーモバイルとして、安価なモデルでシェアを取りにいくことは考えてないのでしょうか。

田嶋氏
 世界で戦うためには、1桁違う世界に行かなければなりません。それはフラッグシップだけでは押さえられない世界です。ただ、その価格帯の中でもプレミアムは出していきたいですね。他社が50ユーロのところを70ユーロ、100ユーロのところを120ユーロというプレミアムをつけたいということです。

――ありがとうございました。

石野 純也