【IFA2013】

ソニー平井CEOが語る、“One Sony”のスマートフォン戦略

 ソニーが4日(現地時間)、IFAのプレスカンファレンスでカメラ機能を大幅に強化した「Xperia Z1」を発表したのは、既報のとおりだ。また、Xperia Z1に合わせ、スマートフォンと連携して撮影を楽しめるレンズ型カメラ「DSC-QX10」「DSC-QX100」の投入を明らかにした。スマートフォンやその周辺機器以外の分野でも、VAIO、Walkman、4K対応テレビなど注目製品が多く、まさにソニーのフルラインナップが発表された格好だ。

 ソニーの代表執行役兼CEOの平井一夫氏は、就任以来「One Sony」というキャッチフレーズを掲げてきた。これは、部門間の垣根を取り払い、総力戦で商品を開発する体制を整えていくということだ。IFAでの発表からも、こうした会社の方針が強く感じ取れる。中でも、Xperia Z1はOne Sonyの象徴的な製品と言えるだろう。従来から定評のあった映像技術に加え、カメラ機能にもソニーの技術を本格的に注入し、コンパクトデジカメ顔負けの画質を実現した。

 こうした会社の方針や戦略について、グループインタビューで平井氏に話を聞く機会を得た。本誌では主にモバイルに関係するトピックを中心に、その模様をお届けしたい。

ソニー 代表執行役兼CEOの平井一夫氏

強みを“One Sony”でスマートフォンに投入

――IFAでは、Xperia Z1やレンズ型カメラのQXシリーズを発表しました。それ以外にも、ハイエンドオーディオからモバイルまでたくさんの製品を出しています。あえて、発表をIFAに固めたのでしょうか。その意図を教えてください。

平井氏
 IFAでは、Xperia Z1や、QX10、QX100、ハイレゾオーディオ、4Kの新展開を発表しました。これは、約1年前、CEOに就任してから言っていることですが、エレクトロニクスに奇策はありません。議論して積極的に商品を出し、リスクも取る。さまざまな面白いと言っていただける商品を、新しい領域でも開発が済んで出せるタイミングになってきました。IFAやCESなど、いろいろなイベントがありますが、これからもこうした製品は次々と発表していきたいと思います。

――スマートフォンも含め、ブランド力という点ではまだ強いプレイヤーが上にいます。どの部分で対抗していくのでしょうか。

平井氏
 一番大事なのは、ソニーが持っている強みが何なのかということです。100%子会社化したソニーモバイルには、鈴木国正に社長として行ってもらっています。彼とも徹底的に議論したうえで、ソニーグループとして持っている強い部分、これをOne Sonyでスマートフォンに投入していきます。

 たとえば、普及価格帯のCyber-shot(デジタルカメラ)が鈍ってきている中で、スマートフォンで写真を撮りたいお客様が、他社に流れるのは絶対にあってはならない。映像技術を評価いただけるスマートフォンを作り、ソニーファミリーに留まっていただけることが大切です。

 ですから、ソニーの持っている技術を、事業部を超え、さまざまな製品に入れていくのが差異化のポイントになります。

Xperia Z1
Xperia Z1にはカメラのレンズにもソニーのデジタルカメラの技術が投入されている

クリエイティブなアクセサリー展開

――スマートフォン市場で戦える体制は整ったような印象を受けましたが、一方でスマートフォン単体で利益を出せるフェーズではなくなってきているのではないでしょうか。

平井氏
 まず、ASP(アベレージ・セリング・プライス=平均売価)は、やはり差異化されている商品を作らないと、やはりどんどん下がってきてしまいます。できるだけの利益を確保するためには、強い商品を作ることが第一です。

 また、(新たに発表されたレンズ型カメラの)QXシリーズもそうですが、アクセサリーでスマートフォンの体験をどう広げていくのか。アクセサリービジネスは、プレイステーションもそうですし、スマートフォンもそうですが、利益率が高いんですね。クリエイティブなアクセサリーを展開していくことは考えています。

 Xperia Z1やそのほかの商品群を通じて、「Sony Entertainment Network」や「PlayStation Mobile」といったネットワークサービスに入っていただき、トランザクション(取引)していただくというのがもう1つの広がりです。

スマートフォンと連携して利用するカメラ「DSC-QX100」

――サードポイントからの(エンタメ部門を分離・上場する)提案を拒否しましたが、その影響はどう見ていますか。

平井氏
 5月に提案があり、議論をしていく中で、ソニーグループとしてのエンターテインメントビジネスに対して、価値や関心が高まったのは私にとってプラスでした。よく皆さんには「本業のエレキ」と書かれてしまいますが、映画も金融も本業で、趣味でやっているわけではないですからね(笑)。そこで注目されたのは、非常によかったと思います。

 ソフトビジネスを持っているシナジー効果はどうなのかという議論がある一方で、今はモバイルやクラウドの領域で、ソフトの価値というものが飛躍的に上がっています。そういった中では、ソニーのエレキビジネスに対してもプラスになりますし、100%コントロールすることがさらなる価値にもなります。

――クラウドサービスに関して、「Video Unlimited」に開始以来大きな変化がないように感じます。今後、どのようにしていくのでしょう。

平井氏
 結論から申し上げると、ご指摘の部分はあります。いかにコンテンツを楽しんでいただくのかは、考えなければいけないですね。

ウェアラブル端末、「ウェアしてもらう競争も激しい」

――サムスンが腕時計型の「GALAXY Gear」を発表しました。ソニーとしては、ウェアラブルにどう取り組んでいくのでしょうか。

サムスン電子が発表した「GALAXY Gear」

平井氏
 市場として伸びる可能性があると思っている一方で、これは社内の人間にもよく言うことですが、鞄の中に入れていっぱい持ってもらえるモバイルとは違い、ウェアラブルだと複数のグラス(めがね)やブレスレットをつけるというのはありえません。

 失礼な言い方になりますが、人間の体は“不動産”としてのバリューが高いので、着けてもらうまでが大変ですし、1回着けるとなかなか変えられません。これは面白いし使えるというのがあればハマリますし、逆にそれが参入障壁にもなります。ウェアラブルの可能性はいろいろと研究しているので見守っていきたいですが、皆さんが行こうとしている分野だけに競争は激しいですし、ウェアしてもらう競争も激しいということです。

――腕時計以外に、ウェアラブルの可能性は何かありますか。

平井氏
 私も厚木の研究所に遊びに行くのが大好きで、その中にはウェアラブルなものもあれば、そうでないものもあります。ワイワイガヤガヤやりながら、興味もあるので見ています。チャレンジングな部分はありますが、ソニーとして差異化できる商品、感動いただける商品があれば展開していきたいですね。

ソニーモバイルの「SmartWatch 2 SW2」

――タブレットやPCは、今後どうしていくのでしょうか。

平井氏
 何が「PC」なのかというのはありますが、クラムシェル型PC市場がどんどんシュリンクしていく中で、キーボードが分かれるものや、画面がフリップするものなど、色々なホームファクターを投入して、既存のPCと違った使い方を提案することが大事です。ソニーは昔からスタミナと言っていますが、バッテリーライフが長く、スタイリッシュで横展開もアピールした製品で、PCやタブレットは徹底的に取っていきます。

 また、ソニーモバイルが持っているスマートフォンのノウハウは、製造設計から生産に至るまで、さまざまなところで効いてきます。PCとタブレット、それにスマートフォンはどこが“境”になるのかだんだん分からなくなっていますし、どこかでコンバージェンスがおきます。商品展開を見ても、それは顕著です。

――マクロソフトがノキアの携帯電話事業を買収するという発表がありました。また、マイクロソフトにはSurfaceもあり、スマートフォンも売るとなると競争相手になります。そのマイクロソフトを、どう評価しているのでしょう。

平井氏
 まだ今週発表があったばかりで、どういうインパクトがあるのか、話があっちに行ったり、こっちに行ったりしています。こういう風になると、今言える状況ではありません。

Xperia Z1を頂点とした商品展開

――スマートフォンに関しては、国内事業が好調ですが、秋以降は恐らくドコモにアップルも参入してきます。キャリアとの付き合いはどうしていくのでしょう。

平井氏
 「Xperia A」は大変好調でした。もちろん、今もソニーモバイルとドコモさんはいろいろな情報を交換していますし、他社製品を扱う・扱わないは、キャリア側の判断です。Xperia Z1は商品力もありますし、強い。お客様に(キャリアが)フルラインナップを紹介する中で、有効活用してもらえればと思います。

――Xperia Z1はフラッグシップモデルですが、その下のミドルからローエンドまでの展開はどう考えているのでしょうか。

平井氏
 Xperia Z1を頂点とした商品展開は、絶対に必要です。すでにご案内のとおりスマートフォンに特化する方針ですが、その中でXperia Z1を頂点とした下方展開をしていくということです。それはこれまでもやってきましたし、これからもやっていきます。

Xperia Z1

――今のスマートフォンはAndroidが中心ですが、そのほかのOSはいかがでしょう。

平井氏
 ほかにもいろいろなOSがある中で、何が何でもAndroidに固執するというわけではありません。市場を見ながら臨機応変にと考えています。たとえば、Mobile World Congressではテレフォニカさんと一緒に、Firefox OSをベースにやっていくという発表をしましたが、それも1つの象徴です。

――欧州、アジア、日本でスマートフォンのシェアが伸びていますが、一方で北米での存在感がありません。ここはどのように攻めていくのか、方針を教えてください。

平井氏
 前のXperia Zは、北米でT-Mobileさんが展開しています。ただ、北米はかなり大きな市場で、マーケティングも含めて投資が必要です。今のソニーモバイルのビジネス規模を考えると、日本、欧州、中国、北米で一挙に戦うのは現実的ではありません。まずはホームベースの日本を固めること。これがファーストプライオリティです。その次に、今2~3位を取れている欧州があります。さらにその次として、中国や北米をどうするのか。北米はまだT-Mobileと始めたばかりですが、タイミングを見て、徹底的に攻め込む時期は来ると考えています。

――Xperia Z1の投入で、販売計画を上方修正する可能性はありますか。

平井氏
 今年度は4200万台を目指していて、その中でのXperia Z1です。

――Xperia Zのときは、よく売れましたがすぐに完売してしまいました。改善策はありますか。

平井氏
 数量もそうですが、開発、製造の立ち上げも大事です。Xperia Zのときも、今までのものより垂直立ち上げに近い形でできましたが、Xperia Z1はもっと速く立ち上げようということで、中国で合弁会社として展開しているBMCを中心に、いかに速く、かつ品質を確保するのが重要と認識して取り組んでいます。

――Xperia Z1の次に、カメラ、ディスプレイ以外にソニーの技術で強化する部分を教えてください。

平井氏
 まだまだ、ソニーの商品展開をしていく中で、差異化できる技術や機能はたくさんあります。そういったものが、Xperiaという商品をさらに魅力的にできるのであれば、One Sonyとして議論して投入します。それが、ソニーのスマートフォンが進むべき道だと信じていますし、他社にはない財産ですからね。

――ありがとうございました。

石野 純也