ケータイソリューション探訪

ドコモがBlackBerry導入を決めた理由


 2006年9月に日本上陸を果たしたカナダ・RIM社のBlackBerry。今年になってBlackBerry Boldという新製品も登場した。数多くのスマートフォンプラットフォームを揃えるNTTドコモにとって、BlackBerryの位置づけはどんなものになるのか。同社法人事業部スマートフォン事業推進室・三嶋俊一郎営業企画担当部長に聞いた。

女子高生も上場企業の経営者も同じ機種を使う日本

BlackBerry Bold

 AndroidやWindows Mobileといったスマートフォンプラットフォームを扱うNTTドコモ。そんななかでもBlackBerryは外資系企業に多く導入されているというイメージが強い。そもそも、NTTドコモがBlackBerryを採用したきっかけはどこにあったのか。

 三嶋氏は「NTTドコモが採用したのはいまから3年前の2006年9月になるが、自分としてはどうしても日本に導入したいという願望があった。私はその前の5年間ほどドコモUSAに在籍していたのだが、BlackBerryは日本に持ち込んでも他の機種と差別化できるという確信があった。RIMはメーカーでありながら、サービスも手がけている。日本に舶来ケータイを持ち込むなら『ビジネスに強い』という強い個性が必要だと感じていた」と振り返る。

 同氏がドコモUSAから日本に戻り、特に違和感を抱いたのが、ユーザーの誰もが同じ機種を使っているという状況だった。「日本では女子高生も上場企業の経営者もみんな同じケータイを使っている。アメリカでは、ビジネスマンはスマートフォンを使っていることが多い。24時間どこでも仕事にアクセスしたいと考えている。日本のビジネスマンも仕事が好きだから、BlackBerryは受け入れられると思った。管理職が持つとカッコよく見えるような、日本のオヤジ向けのケータイを出したかった」(三嶋氏)という。

 日本に導入したいと思っても、すぐに持ち込んで販売することは難しい。NTTドコモが最も苦労した点と言えば、やはり日本の仕様にあわせるローカライズの部分だ。

「ローカライズは苦労させられた。通常、マニュアルはメーカーが作るものなのだが、BlackBerryではNTTドコモが自らマニュアル製作を担当した。しかし、やるからには徹底しようと、サポートセンターを開設するまでに至っている。(ハード面でも)変換辞書の容量を他のケータイと比べて1.5倍にするなど、使い勝手にも気を配っている。」(三嶋氏)

 2009年2月に発売されたBlackBerry Boldは、発売直後に一般向けに売れ、途中、電源を制御するソフトウェアの不具合で一時販売中止という憂き目にあったが、その後は順調に売れ続けているという。

 スマートフォンの場合、発売初期には一般ユーザーと企業導入の試験用として売れる傾向が強く、企業でのシステム接続確認が終了し、導入に向けた予算が決まると、一気に納入されるという2つの山ができるという。

 三嶋氏によれば、「BlackBerry Boldは、一般のカタログにも載せているので、個人ユーザーが増えている。法人と個人の割合はBlackBerry Boldでは半々くらい、前モデルを含めた割合だと法人が7、個人が3といった感じになる」とのこと。

 NTTドコモでは大企業を中心とした営業をしており、数百台の規模の納入実績が多い。しかし、BlackBerry Boldにおいては一般販売もしているため、個人事業主や、アメリカに滞在経験があり、仕事で必要でなくてもBlackBerry Boldを購入するユーザーも多いという。

今後はアプリ配信にも注力

 NTTドコモでは、Androidを載せた「HT-03A」やWindows Mobile搭載の「T-01A」、「HT-01A」「HT-02A」といったように、スマートフォンだけでも豊富な種類を揃えている。そんな中でもBlackBerry Boldは、世間で言われているようにやはり「セキュリティの高さ」を売りにしているのだろうか。

 三嶋氏は、「これまでずっとBlackBerryに携わってきたが、最近、必ずしもセキュリティ面が優先順位のトップには来ないということに気がついた。BlackBerry Boldの良さは『メール』と言い切るようになった。キーボードが波打っているので、指がうまく引っかかるようになっていて打ちやすい。これに慣れてしまうとテンキーでメールを打つのが苦痛になってくるくらい」と語る。

NTTドコモ 法人事業部スマートフォン事業推進室 営業企画担当部長の三嶋俊一郎氏

 同氏は、「とにかくメールを打つならBlackBerry Bold」と力説する。最近ではタッチパネルのスマートフォンも人気だが、どんなに操作に慣れても押し間違いをしてしまう。その点、BlackBerry Boldはハードウェアキーボードなので、間違いのない入力が可能だ。

 もうひとつ、企業にBlackBerry Boldが好まれるのが、世界的に同じ機種を導入できるという点だ。BlackBerryは、3Gの有無や周波数、言語は違えど、コアの部分はほとんど同一であることが多い。その点、Windows Mobileなどは系統は近くても細かな部分で差異がある。世界的な企業であれば統一プラットフォームで企業システムを運用したいと考えるため、BlackBerryが指名買いされるケースがあるという。最近では日本の商社なども本社だけでなく、海外駐在員にも現地のBlackBerryを使わせるケースもあるという。

 ユーザーが増えつつあるBlackBerryではあるが、iPhoneやAndroidと比べると、日本ではまだまだ地味な存在でもある。NTTドコモでもそのあたりは「課題」としてとらえているようだ。

「一部では知られるようになったが、BlackBerryの日本でのブランド認知は低い。欧米に比べるとまだまだで、そのあたりはNTTドコモとRIMで共通認識としてある。」(三嶋氏)

 また、他のスマートフォンと比べて物足りないと感じるのが「アプリ」の充実度だ。iPhoneやAndroidに比べると、アプリ文化は皆無に等しいような気がするが、三嶋氏は「確かにiPhoneは軌道にのり、メーカー自身がアプリの裾野を広げているようだ。その点、BlackBerryはあまり注力していなかったが、ようやくAppWorldを海外で展開している。日本では10月6日にNTTドコモがアプリ配信サービスを始めた。日本におけるアプリ流通の呼び水になればと思っている」と語る。

 iPhoneの場合、ゲームを中心としたエンターテイメントアプリが人気だ。ビジネスマンユーザーが多いBlackBerryではどういったアプリが主流となるのか。

「辞書や経路案内、経費精算アプリなどは好まれるだろう。やはり仕事寄りでゲームではない。ただ、ゲームは少なくてもいいが、mixiといったSNSの専用アプリは必要だと考えている。」(三嶋氏)

 BlackBerryというと、大規模な企業のシステムと接続して使うイメージが強い。実際、ExchangeやLotsu Notes/Domino対応が中心だが、将来的には、日本で最もシェアの高いグループウェアとの連携も視野に入れているという。

 また「日本の企業ではPOP3サーバーも多いので、UNIX POPサーバーにBES(BlackBerry Enterprise Server)をセキュリティをきっちりと担保したうえで対応させていきたい」(三嶋氏)という。

 最近では会社にサーバーを設置したくない企業も多く、Google Appsを活用例が増えている。それらの企業では、Google Appsと連携でき、ほぼリアルタイムのプッシュでメールを受け取れるBlackBerryの評価も高いということだ。

iモードメールの導入は検討中、おサイフケータイは?

 ドコモユーザーがスマートフォンを購入するにあたり、懸念材料となるのがiモードメールとおサイフケータイだ。どちらもドコモユーザーにとっては、生活の根ざしたものになってしまい、なかなか手放すことができなくなっている。果たして、将来的にスマートフォンが対応する可能性はあるのか。

「iモードメールの導入は社内でディスカッションしている。iモードが使えるようになると、飛躍的にユーザーが増えると思っている。いまはブラウザベースだが、将来的には絵文字も含めて送受信できるようにしたい。社内で調整は行っており、開発も進んでいるが、時期が定かではない。」(三嶋氏)

 一方のおサイフケータイに関しては、日本メーカーがスマートフォンに参入するのを待つ必要がありそうだ。

「BlackBerryを導入したときに思ったのは『借り物』だということ。これはレトルトパックのカレーに近く、カナダで作られたものを日本で温め直してお客様に出しただけに過ぎないと思っている。いずれはセキュリティも完璧な日本メーカーによる、日本人向けのスマートフォンを作れればと考えている。」(三嶋氏)

 現状は、RIM社によるソリューションパッケージではあるが、いずれは「ドコモエンタープライズソリューション」と言えるような日本メーカーも端末を供給するような環境を目指そうとしているようだ。




(石川 温)

2009/10/30 06:00