ケータイソリューション探訪

iPhoneより導入しやすい? 「Bizフェイス」の魅力


 ソフトバンクモバイルでは、iPhoneの法人活用が注目を浴びているなか、地味ながら引き合いが多いというのが「Bizフェイス」と呼ばれるソリューションだ。S!アプリにより、待受画面に特定の機能だけを表示させ、社員に使わせるというものだ。導入の背景を、開発を担当した法人プロダクトサービス統括部プロダクトサービス企画部ソリューション企画課、國枝良氏に聞いた。

普通のケータイの待受画面から簡単に使える

ソフトバンクモバイル 法人プロダクトサービス統括部 プロダクトサービス企画部 ソリューション企画課 國枝良氏

 「Bizフェイス」は、待受画面に企業内でよく使う機能を厳選して配置させ、すぐに操作することが可能な法人向けソリューション。ASPサービスのため、各社専用のS!アプリを受託で開発する必要も無く、導入も短時間。会社として使わせたい機能をより確実に社員に提供することができる。配置できる機能は最大6つまで、テロップ表示機能により業務連絡を一斉送信することや決められたメールフォーマットでの日報・勤怠・交通費の報告メールを管理者宛に送信すること(即報メール機能)も可能だ。

 「携帯電話は実にいろいろな機能を持っている。法人のユーザーでも多機能な機種を選ぶ傾向が強いが、一方で、多機能すぎて機能を使いこなせないという声も多い。Bizフェイスは徹底的にユーザーインターフェイスを簡単にすることで、導入企業が使いたいという機能をきっちりと使ってもらう、というのがコンセプトにある。他社にはない異色のコンセプトかも知れない。」(國枝氏)

 情報システムの管理者にとって悩みの種となるのが、最新のソリューションを導入しても、社員が満足に使いこなせないという点にある。携帯電話が多機能であればあるほど、メールやウェブ接続の操作性が難しくなり、幅広い社員に使ってもらえなくなる。そこで、考え出されたのが、待受画面に必要最小限の機能だけを載せるというコンセプトだ。

 「管理者としては、携帯電話を導入したのだから、業務をスピードアップさせ、効率化していきたいという願いがある。しかし、実際、携帯電話で行わせたい作業はあまり多くなかったりする。出先で写真付きの報告書を送るとか、直行直帰のために勤怠管理をつける、あるいは交通費の精算といった具合。それらをやるためにわざわざ会社に戻ったり、残業したりというのでは無駄。そこでBizフェイスが役に立ってくる。」(國枝氏)

 BizフェイスはS!アプリで待受画面に表示される。専用デザインの待受画面やケータイ機能のショートカットだけでなく、どの企業でも利用がある『勤怠管理』や『交通費精算』、『日報などの報告』の情報送信がメニュー化され、待受画面から簡単にアクセスできるようになっている。

 業務報告であれば、メニューを選ぶとカメラが起動。対象物を撮影すると、位置情報を自動に測位する。あとはプルダウンで報告内容を選ぶだけ。必要ならばコメントも入れられる。通常、写真付きメールを作るとなると、アドレス帳を選び、写真を撮影して添付したりと、いくつもコマンドを選ばなくてはいけない。その点、Bizフェイスはほぼ1画面の操作画面で完結するという、徹底的な簡略化がされている。

 S!アプリにより、画面は導入企業専用のものが作れ、企業単位だけではなく部署によってもカスタマイズが可能だ。対応機種は待受のS!アプリに対応する36モデル(10月現在)となっている。

 「S!アプリで簡単にどんな機種でも法人専用ケータイができるのがメリット。建築関係は800万画素といった高解像度の携帯電話を求めるし、警備関係は防水ケータイのニーズが高い。また、コーポレートカラーに合わせて、PANTONEケータイから色を選びたいというお客さまもいる。法人向けだからといって黒やシルバー、機種も限られていてはニーズに対応できない。」(國枝氏)

 Bizフェイスは、管理者の負担を軽くすることを意識して開発している。

 例えば、管理画面はシンプルなものになっているし、社員に配る携帯電話のトップ画面や操作画面も最低限のものしか掲載せずにマニュアルがなくても操作できるように工夫されている。

 また、端末の遠隔コントロールも可能となっており、管理画面からSMSを飛ばすことで、自動的に更新される。利用者の操作は全く不要だ。

 國枝氏によれば、「待受画面へのテロップ表示させる権限は、ほかの人間に委譲することができる。管理者は本社にいるが、テロップ表示機能はそれぞれの部署、または地方支社に委譲する、といったことが可能。管理者の負担をより軽くすることができる」という。

 端末を渡された方も、管理者も簡単に使いこなせるということで「導入した企業の実稼働がいい。結果、弊社の営業担当者から、導入企業からサポートのお願いがくることが少なく、手離れがいいという声もある」(國枝氏)。

 ソフトバンクモバイルでは、当初、建築会社や警備、配送業、企業向けの営業担当者への導入を想定していた。しかし、実際はそれらの業種だけでなく、幅広い企業に受け入れられているという。特に珍しい導入事例が学習塾だという。

 「Bizフェイス対応の携帯電話を生徒に配り、出席管理だけでなく、授業が終わった後に、授業の理解度を収集したり、先生へのコメントを集めたりと、塾と生徒をつなぐツールとして役立てている。」(國枝氏)

 Bizフェイスでは、管理画面から遠隔で端末を操作できるのだが、学習塾では、予め本体内のmicroSDカードに動画ファイルを複数保存しておき、遠隔で、生徒に見させたい特定の動画ファイルがワンボタンで再生できるようにもしているという。生徒はテロップ表示で動画更新(学習指示)を確認し、ワンボタンで動画を再生して、学習に役立てるという流れになっている。

 國枝氏によると、「最近はインフルエンザで、生徒が塾に来られないことも多い。そういった場合でも遠隔の動画再生授業を活用している」のだとか。

メールをうまく活用したBizフェイス

 Bizフェイスの仕組みは実に簡単だ。S!アプリ上で行った作業がメールに記載され、ソフトバンクグループ内のSMSサーバーやBizフェイスデータサーバーを経由して、管理者の元に届くだけとなっている。そのため、管理者はWebブラウザ(Internet Explorer 6)が稼働するPCがあればいい。ただし、基幹システムには直結しないので、社内システムと連携させるには、メールの内容を解析するサーバーが必要になっている。

 國枝氏は「それぞれの会社の基幹システムごとに柔軟に対応するのが難しい。それをやり始めるとどんどん管理画面が難しくなっていってしまう。とにかく簡単に使えることをコンセプトにしているので、メールベースに特化している」と語る。

 しかし、管理画面は一般的なブラウザ、データのやりとりはメールをベースにしたことで思わぬ恩恵も出てくるようになった。例えば、iPhoneやPhotoVison(ネットワーク対応のデジタルフォトフレーム)との親和性だ。

 現場はシャープや東芝といった一般的な携帯電話だが、管理者はiPhoneというケースがある。この際、報告書メールの送付先を管理者のiPhoneにするといったことも可能になる。

 さらに興味深いのが、報告書メールの送付先をPhotoVisionにするといった導入事例も出始めている点だ。

 「地方にある建設業の社長などは、パソコンは使えず、携帯電話も文字が小さくて見にくいから使えないというケースもある。そこでオススメしているのがPhotoVison。社長の机の上にPhotoVisonを置けば、部下からの報告書メールがPhotoVisonに届いて、現場の様子が写真付きでわかるようになる。年配の社長にはとてもウケがいい。メールをベースにしているからこそ、受信端末を選ばないというメリットも出ている。」(國枝氏)

 ただ、一般的なイメージからすると、ソフトバンクモバイルでは法人にもiPhoneを大々的に訴求しているような感じがする。企業からしてもiPhoneのほうが導入メリットが大きそうな気がするのだが、果たして、Bizフェイスの存在価値はあるのだろうか。

 「確かにシステム管理者や管理職、内勤者はiPhoneというケースもある。しかし、屋外などの現場で働く人たちは手袋をはめていたり、雨の中で作業をする、といった職種もある。それらの人たちには防水ケータイやボタンの押しやすい機種のほうがいい。利用シーンによって求められるケータイは大きく異なっている。」(國枝氏)

遠隔操作で端末をロック

 法人向けとなると、気になるのがセキュリティ対策だ。ソフトバンクでは万が一に備えて2つの対策を用意している。

 「Bizフェイスとして、管理者が管理画面から遠隔でアプリを消去してロックすることができる。それにより何もデータを残さないようになる。さらに法人基本パックとして、端末の基本機能にロックをかけられる。」(國枝氏)

 当初、端末を開いたときに4桁の暗証番号を入力させる案もあったが、すぐに開いて使えるという簡単さを優先させたという。しかし、遠隔で消去できるということから、使い勝手とセキュリティの両立ができ、顧客には喜ばれているとのことだ。

 S!アプリをベースにしているだけあって、顧客要望の反映が短期間で実現できるのも強みといえる。例えば、位置情報付きのメールは開発当初は、緯度経度しか送付されなかったが、改良されてYahoo!地図へのリンクが可能になった。

 また、高齢者の見守り用として、何もボタンを押すことなく、ケータイを開いただけで、介護事業会社にメールが届くような機能にも対応した。さらにカメラ機能と連携し、バーコードやQRコードを読み取り、報告メールに添付できるようにもなった。

 「開くとメールを送るという機能は、介護事業会社だけでなく、警備会社からも引き合いがあった。工事現場の警備員などは手袋をしていてボタンも押せなかったりするが、ケータイを開くことはできる。現場についたら、ケータイを開いてメールを送ることで、出勤管理と記録されるようになる。」(國枝氏)

 S!アプリをベースにしたことで36モデルという幅広い機種に対応。さらにブラウザとメールの組み合わせにより導入もしやすいというメリットがあるBizフェイス。いまでは1000台規模での導入も複数あるなど、業種を問わず人気のあるソリューションに成長しつつあるようだ。

(石川 温)

2009/11/18 06:00