石野純也の「スマホとお金」
海外での通信手段、どうやって選ぶ? 国際ローミング・現地SIM・ローミング専用eSIMを比較
2024年2月29日 00:00
新型コロナウイルスの渡航制限が撤廃され、海外渡航者数が徐々に増えています。23年は約962万人と、2000万人を超えていた19年比の半数程度ではありますが、回復傾向を示しているのも事実。
こうした状況に対応すべく、大手キャリアも昨年から、新たな国際ローミングサービスを開始しています。ドコモの「世界そのままギガ」へのリニューアルや、povoの国際ローミング開始などはいずれも23年。auも、3月15日から「au海外放題」をスタートします。
海外渡航時の通信手段として、現在ボリュームが大きいのは現地通信に対応したWi-Fiルーターのレンタル。キャリア各社の国際ローミングサービスも、ここへの対抗として料金を打ち出しています。
一方で、海外渡航時にはそのほかの通信手段も選択肢として用意されています。ローミング専用eSIMや、現地プリペイドSIMの調達はその1つです。
MWC Barcelona 2024を取材するため、スペイン・バルセロナに渡航した筆者は、その3つを活用しています。今回はその実体験を元に、それぞれのメリット、デメリットや料金的な特徴を解説していきます。
やや高めながらもっとも手軽なキャリアの国際ローミング
もっとも手軽に使えるのは、大手キャリアの国際ローミングサービスです。普段使っているスマホをそのまま海外で利用でき、通信手段の計画を立てる必要すらありません。
事前の申し込みは必要になるものの、基本的には、海外についたらデータローミングをオンにすればOK。Webやアプリで日数を選択する必要のあるサービスの場合、それをオンにすれば通信を始めることができます。
たとえば、ドコモの世界そのままギガの場合、事前に申し込みをしておき、あとは現地に着いてから端末側でデータローミングをオンにして、アプリやWebサイトで必要な期間を選択するだけ。ボタンを押すと、すぐに通信が始められるようになります。手続きは必要になる一方で、他の手段と比べると簡易と言えるでしょう。
一方で、そのぶん、ほかの通信手段と比べると料金はやや高めです。
世界そのままギガは、基本が24時間980円。70以上の国と地域は「国・地域限定割プラン」が用意されており、複数日分をまとめて利用すると料金が割安になりますが、それでも7日間で5280円の料金がかかります。人によっては、1カ月のスマホの通信料より高い……ということにもなるはずです。
ahamoや楽天モバイル、ソフトバンクの「アメリカ放題」のように国際ローミング料がかからないキャリアもありますが、これはあくまで例外的な存在。大手キャリアのメインブランドでは、24時間あたり1000円弱の通信料がかかるのが主流です。
フライト代や宿泊費などに比べれば相対的に割安ではありますが、通信費と捉えると、抵抗がある人がいても不思議ではありません。
また、auが3月15日から始めるau海外放題やソフトバンクの「海外あんしん定額」以外は、基本的に国内用のデータ容量を消費してしまいます。
普段、データ容量の少ない料金プランを契約している場合、ここがネックになる可能性も。慣れない土地に行ったときには、普段よりスマホを使うことも増えるからです。手軽な反面、料金はやや割高で、データ容量に制約があるということは覚えておきましょう。
日本から遠い国や地域でローミングした場合、遅延が気になる可能性もあります。国際ローミングは、その仕組み上、ユーザーの認証などを大元の契約先であるキャリアが行うからです。
日本のキャリアで欧州や米国で通信を行う場合、スマホから基地局を抜けた認証のためのデータは、1回日本に戻り、そこからデータを取得して端末に戻ります。この往復分の遅延が乗ってくるのが、国際ローミングならではの挙動です。
以下はpovo2.0の国際ローミングを使い、スペイン・バルセロナでスピードテストした結果ですが、遅延を表すPingが399ミリ秒になっています。通常の国内通信であれば、ここは2ケタ台前半が一般的。
400ミリ秒はおよそ0.4秒のため、Webサイトの表示などがワンテンポ遅れるような感覚を覚える人も多いと思います。手軽な反面、こうしたデメリットもあることは念頭に置いておきたいところです。
安いが入手に手間や時間がかかる現地SIM
キャリアの国際ローミングと真逆と言えるのが、海外で現地キャリアが販売しているプリペイドSIMを購入するという方法です。
日本ではあまりなじみがありませんが、海外、特に欧州やアジアだと、プリペイドのSIMカードは日常的な存在。空港内のショップでSIMカードが販売されていることも珍しくありません。キャリアが直接出店してカウンターが設けられている国や地域もあれば、電化製品などを扱うショップが販売している国や地域もあり、その扱いはさまざまです。
筆者が今回滞在しているスペイン・バルセロナでは、観光客が多いカタルーニャ広場という場所のすぐそばに、Vodafoneのショップがあり、その中に「SIM自販機」が設置されています。
飲料を買うようにお金を入れるだけでOK……とまではいきませんが、パスポートを読み込ませてカメラで顔を撮って本人確認を行ったあと、お金を払うだけで簡単にSIMカードが出てきます。店員とコミュニケーションを取る必要はありません。
ただし、現地についた瞬間に画面をタップしていくだけで使える国際ローミングとは違い、ひと手間もふた手間もかかるのは事実。少なくとも、空港のショップまでは通信できませんし、街中のショップに行くとすると、その間は別の通信手段を考える必要があります。
上記の自販機もあくまで先進的な取り組みで、世界各国共通ではありません。基本的には店員とのやり取りが必要。言葉が通じず、料金プランを伝えるだけで一苦労といったこともありえます。
自販機の場合も、ちょっとしたトラップがあり、最安の50GB、10ユーロ(約1633円)の料金プランは、1画面目に表示されていませんでした。
最初の画面に出てくるのは140GB、20ユーロ(約3266円)や160GB、30ユーロ(4899円)といった比較的高額なプラン。より高い料金プランを売りたい気持ちはしっかり伝わってきますが(笑)、1週間前後の滞在でさすがに100GB超はオーバースペックです。
ただ、そこまで大容量の料金プランでも、国際ローミングを1週間使うより安く抑えることが可能。データ容量が大きければ、残量を気にする必要はありません。ホテルのWi-Fiより通信速度が速いときに、テザリングを使って気兼ねなく通信するといったことも可能になります。
筆者が購入した50GBプランは、国際ローミングの2日ぶんにも満たない金額。5Gにつながり、借りているアパートでは800Mbps以上の速度が出ました。
手間がかかる一方で安く、遅延の問題も起きない現地SIMですが、国際ローミングにはない難点もあります。
1つはSIMを入れ替えてしまうと、普段の電話やSMSなどが受けられないということ。デュアルSIM端末で両方の回線を使えるようにすれば回避できますが、最近ではSIMカードとeSIMそれぞれ1回線ずつという端末が多いので、その組み合わせはあらかじめ考えておく必要があります。
最近では周波数が違って通信できないということはほとんどなくなりましたが、必ずしも5Gが使えるとも限りません。安いぶん、工夫や事前の下調べが必要なのが現地SIMと言えるでしょう。
手間もそこそこで比較的安価なローミングキャリア
国際ローミングと現地SIMのちょうど中間のような存在と言えそうなのが、ローミング専業のキャリアです。
eSIMを使い、世界各国の通信を提供しているMVNOがあり、日本の事業者では、KDDI傘下のソラコムがサービスを行っています。フランスの事業者ですが、Ubigiというブランドでサービスを提供するTransatelも、NTTグループ。
海外事業者でもアプリやサイトが日本語化されているところは多く、比較的、利用のハードルは低いと言えるでしょう。
基本的には、アプリを経由してeSIMのプロファイルをインストールする流れになります。時間や場所を選ばないのが特徴のeSIMを活用していることから分かるように、事前に手続きを日本で済ませておけるのが現地SIMにはないメリット。
国際ローミングよりひと手間かかるのは事実ですが、国を選んで支払いを済ませてプロファイルをインストールするだけなので、現地SIMを購入するときほどの拘束時間はありません。
料金は国や地域によって異なりますが、現地SIMより少し高く、国際ローミングより安い範囲に収まることが多いように見えます。
筆者は今回、iPad Pro用にAiraloというローミングキャリアのサービスを利用しましたが、こちらの料金は2GBで6.5ドル(約977円)。購入時にはセール価格で5ドル(約752円)になっていました。
iPad用ということもあり、ギガ単価がやや高めな小容量プランを選択しましたが、中容量の10GBプランは18ドル(約2707円)。この容量もセールで12ドル(約1805円)に下がっており、割安感があります。
より大容量が必要な場合、20GB、26ドル(約3910円)という選択肢もあります。また、ほかのキャリアであれば、円建てで料金を支払えるケースも。
先に挙げたTransatelのUbigiも円で価格が設定されており、容量によってはAiraloより料金は割安になることもあります。スペインの場合、3GBが1000円、10GBが1900円、50GBが6200円で販売されています。
ローミングのため、仕組み上、遅延は現地SIMより大きくなりますが、実際に通信する国と拠点が近い場合、日本を経由するよりもレスポンスはよくなります。
また、ソラコムは同社が「ランデブーポイント」と呼ぶ接続拠点を世界各国に設けており、これによって遅延を抑えられるようにしています。手間や料金に加え、遅延に関してもローミングキャリアは国際ローミングと現地SIMの中間と言えるかもしれません。
一方、現地SIMとローミングキャリアは、基本的に海外事業者のIPアドレスが割り振られるため、一部の国内サービスにアクセスできないことがあります。
代表的なのは、Yahoo! Japan。欧州のGDPR(欧州一般データ保護規則)に対応していないため、欧州からのアクセスはブロックされてしまいます。TVerなどの動画コンテンツも再生できません。
Netflixなどのグローバル展開している事業者も、国や地域によってプランを変えたり、コンテンツを出し分けているため、ブロックされてしまうケースがあります。
日本のキャリアのローミングであれば、いったん日本を経由し、IPアドレスも日本のものになるため、こうした問題が起こりづらくなります。
このように、それぞれの通信手段には一長一短があります。どれを選択するかは予算や使い方に合わせて検討するといいでしょう。
スマホとiPadのように、複数デバイスで通信が必要な場合、国際ローミングと現地SIMなり海外のローミングキャリアなりを使い分けるのも手です。渡航先によっても変わってくるため、一概には言えない部分はありますが、こうした特徴を理解しておくと、回線が選びやすくなります。