石野純也の「スマホとお金」
「5分かけ放題で月390円」、日本通信の新通話定額オプションはどれほど安いのか?――ライバル各社との比較で解説
2024年3月7日 00:00
日本通信は3月1日、「合理的シンプル290」プランに「通話5分かけ放題オプション」を月額390円で提供することを発表しました。「キャンペーンなしで」とうたっており、恒常的な料金値下げになります。オプション込みでも、その料金はわずか680円。ある程度音声通話をしつつ、メールなど、最小限のデータ通信をする人にはうってつけの料金プランが登場したと言えそうです。
あわせて、もともと700円だった「70分無料通話オプション」を、390円に値下げしています。なかなかインパクトの強い通話オプションの価格設定ですが、さまざまな料金プランのなかで、どの程度安いのでしょうか。ここでは、この料金を他社と比較するとともに、キャリア各社やMVNOが音声通話定額オプションを実現できている仕組みを解説していきます。
通話料値下げの背景にある総務大臣裁定、21年から通話定額セットを武器にしてきた日本通信
日本通信は、月10GBで1390円の「合理的みんなのプラン」や、月30GBで2178円の「合理的30GBプラン」に、70分の無料通話をセットにしていました。この無料通話は、1回5分のかけ放題に変更できます。合理的シンプル290だけは、低料金を実現するため、オプションという形になっていた一方で、1回5分のかけ放題は提供されていませんでした。3月1日から、この5分かけ放題が選択可能になった格好です。
あわせて、もともと提供していた「70分無料通話オプション」を3月1日から月額390円に値下げします。こちらは、1回の通話が5分に収まらない一方で、毎月の通話回数がそれほど多くない人にお勧めのオプションです。その値下げ率は4割以上。“格安SIM”や“格安スマホ”という通称の名にふさわしい料金値下げと言えます。
日本通信が音声通話を割安な料金で提供できている背景には、ドコモから原価ベースで音声卸を受けていることがあります。日本通信は2014年から継続していたドコモとの交渉が不調に終わったことを受け、2019年11月に総務大臣裁定を申請。2020年6月には、総務大臣裁定が確定しています。2020年12月には、裁定で出された6カ月内という期日までに料金が提案されなかったことに不満の意を表明していました。合意に達したのは、翌2021年の2月。同じ月に、ahamo対抗を強く意識した20GBプランの「合理的20GBプラン」(現・合理的30GBプラン)を投入しています。
このプランのもうひとつの特徴は、毎月70分の無料通話を含んでいたこと。現在は70分の無料通話か1回5分の準音声定額を選択できるようになっています。こうしたセットプランが可能になったのは、ドコモとの交渉で音声卸の料金が値下げになったためです。回線を借りるための基本料と同時に、時間あたりの単価が下がったことで、料金プランに無料の音声通話をバンドルしやすくなったと言えるでしょう。
実際、日本通信は、原価ベースで音声通話卸を受けられているため、他社よりも料金が割安です。日本通信SIMの音声通話料は、いずれも30秒11円。大手キャリアは30秒あたり22円で音声通話を提供しているため、およそ半額という設定になっています。また、日本通信がMVNEとしてネットワークを提供しているHISモバイルでは、音声通話がさらに安い30秒9円に設定されています。具体的に卸価格がいくらで設定されているのかは公開されていないものの。原価に適正利潤を乗せた金額を主張していたことから、他社よりも割安に音声通話を仕入れられていることがうかがえます。
音声通話定額を実現できている仕組みとは? 青天井な接続料
では、もともと700円だった70分無料通話オプションを390円に値下げできた理由はどこにあるのでしょうか。日本通信によると、価格設定を通話5分かけ放題オプションに価格を合わせて見直したといいます。70分無料オプションを開始した当初と比べ、徐々にユーザーの使い方が見えてきたため値下げに踏み切ることができたようです。その間、ユーザーも増え、より利益を上げやすい形になってきたことも一因。言わば総合的判断といったところで、卸価格の変更など、何らかのトリガーがあっての価格改定ではないとのことです。
とは言え、70分は30秒という課金単位の140回分に相当します。これを30秒あたりの金額に換算すると約2.8円。すべてのユーザーが70分ピッタリ通話するわけではないため、実際にはもう少し収益は上がりそうですが、通話料としてはかなり割安です。標準の通話料である30秒11円と比べても1/3以下になるため、毎月、数回程度通話するような人であれば、契約しておいて損はないオプションと言えそうです。
また、1回5分の無料通話を390円で提供できているのも、現行の仕組みを考えるとかなり割安と言えるでしょう。音声通話定額の提供は、キャリアはもちろんMVNOも“逆ザヤ”のリスクを負っています。キャリア間の通話には接続料が発生するほか、MVNOにも定額プランは卸で提供されていないからです。
日本では、着信側の料金が発生しませんが、これは接続料を発信側が着信側に支払っているからこそ可能になっている料金体系です。たとえば、ソフトバンクの音声接続料は2022年度で30秒あたり1.53円に設定されています。ドコモからソフトバンクに通話をした場合、この料金がソフトバンクからドコモに対して請求される仕組みです。仮に10分通話したとすると、その料金は30.6円になります。
ただし、接続料は青天井。もしユーザーが100分の長電話をした場合、料金は306円に跳ね上がります。ドコモの「かけ放題オプション」は1980円。647分通話した場合、接続料の支払いだけでユーザーから受け取れるオプション料金を上回ってしまいます。実際には、設備の原価などもかかっているため、ユーザーに使われれば使われるほど、キャリア側が損をしてしまう可能性が高いというわけです。
同様に、MVNOへ音声通話を卸す際の価格にも、定額プランは設定されていません。日本通信が総務大臣裁定を求めた際には、その中に原価ベースへの値下げと定額プランの提供が含まれていましたが、後者はドコモの経営リスクが高いとして却下されています。これは、ドコモ自身も逆ザヤになってしまうリスクを負いながら、通話定額を提供しているため。逆の見方をすると、現状の料金設定はそのリスクを織り込んだ金額になっているということです。
競争力が高い1回5分の390円、一方で完全無制限は値下げ余地もありそう
このような見方をすると、1回5分の通話オプションが390円というのが、かなり割安であることが分かるはずです。他社と比べても、違いは明白です。たとえば、ドコモは同様のオプションを880円で提供しています。auやソフトバンクも、5分の通話定額オプションは同額の880円です。povo2.0やLINEMOのようにオンライン専用のサブブランドは料金を下げていることもありますが、それでも月額550円がかかります。
また、UQ mobileやワイモバイルといったサブブランドでは、1回あたりの通話時間を10分に延ばしているものの、料金はメインブランドと同じ880円に据え置いています。こうした事情はオートプレフィックスを用いているほかのMVNOも同じ。IIJのIIJmioは1回5分までが定額になる「通話定額5分+」を500円、10分の「通話定額10分」を700円、無制限の「かけ放題+」を1400円で提供しています。1GBあたりがかなり割安なデータ通信料と比べると、音声通話オプションの差は小さく見えるかもしれません。
オプテージのmineoは「10分かけ放題」が550円、「時間無制限かけ放題」が1210円とやや割安ですが、やはり5分で390円という料金設定はありません。データ通信料では割安な料金を打ち出しているNUROモバイルは、IIJmioと同様、5分、10分、無制限と3つの音声定額オプションを用意していますが、料金は490円、880円、1430円です。5分というくくりで見ると、日本通信の料金はMVNOの中でも割安で、競合他社の金額を踏まえて設定していることがうかがえます。
一方で、無制限の通話かけ放題オプションは1600円と、MVNOの中では少々割高感があるのも事実。1カ月70分か1回5分の無料通話が含まれる合理的みんなのプランも、通話かけ放題オプションの利用には1600円かかります。一方で、昨年データ容量を30GBに増量した合理的30GBプランでは、通話かけ放題オプションが1200円とほかの料金プランより安く設定されています。このように見ていくと、無料通話/通話定額が含まれている合理的みんなのプランのオプションがあまり“合理的”ではないように見えてきます。
また、1600円という設定自体はMVNOの競合他社より高くなっているケースが多いため、ここには値下げ余地があると言えるかもしれません。1回の通話時間に制限のある準音声定額と比べ、電話を無尽蔵にかけられてしまうリスクが高まることもあり、ある程度割高になってしまうのは仕方がない側面はあります。とは言え、競合他社がより安価に提供しているだけに、対抗値下げにも期待したいところです。