石野純也の「スマホとお金」

「mineo」が長期ユーザー特典を改定、総務省の規制変更で何が変わった?

 オプテージの運営するmineoが、「ファン∞とく」のリニューアルを発表しました。マイネ王での活動やアプリ起動回数に応じて貯まる「王国コイン」を「mineoコイン」に改め、2月28日からは、契約年数が経過するごとにコインが付与される形になります。コインの交換先であるクーポンも拡充しています。

mineoは長期利用者特典のファン∞とくを、2月28日に改定する

 また、春商戦に向け、新規契約時の料金値引きや、端末の割引キャンペーンも実施します。ファン∞とくは、これまでガイドラインで禁止されていた長期契約者の優遇に該当。端末割引も一部モデルが現行ガイドラインで定められた利益供与の上限を超えています。こうした施策が可能になった背景には、ガイドラインの改定で対象事業者に変化があったことがあります。

1年ごとにコインを付与、オプションや端末割引クーポンと交換可能に

 2月28日に改定される新ファン∞とくは、契約年数に応じてコインが付与されます。契約から1年後と2年後にはそれぞれ1枚、3年後と4年後には2枚、5年後以降は3枚と、契約年数が長くなればなるほど、もらえるコインの枚数が増えていきます。有効期間は5年。6年目を迎えるタイミングの5年後までコインを貯めておけば、コインは9枚になります。

1年ごとにコインがもらえる。3年後からコインが2枚に増え、5年後以降は3枚に

 仕組みとしてはシンプルで、このコインを使って交換できる様々な特典が用意されています。中でも充実しているのが、コイン1枚で交換できるクーポン。特典は全部で5つあり、いずれもお金に換算すると500円前後の価値があります。eSIM/SIMカードの発行料や、10分かけ放題の1カ月ぶん、パスケット3カ月分、マイそくの24時間データ使い放題が2回ぶんに加え、端末の500円割引も選択可能。 入口であるコイン1枚の特典が充実しているため、恩恵を受けやすくなっています

 金額的には、10分かけ放題が550円ともっとも高く、少しでもお得さを感じたいのであれば、これを選ぶといいでしょう。逆に、パスケット3カ月ぶんは330円相当と金額は低めです。もっとも、電話をしないのに10分かけ放題をつけるのはコインの無駄づかい。単純に金額だけで価値を決めることはできません。必要とするオプションや手数料が免除されるものを選ぶといいでしょう。端末を買い替えるタイミングであれば、500円割引にするのも手です。

コイン1枚と交換できる特典が充実しているため、恩恵を受けやすい。金額は500円前後に相当

 2枚以降の特典は、バリエーションが少なくなる一方で、1つ1つの金額が上がっていきます。2枚の交換先は、22時半から7時半までのデータ容量が無制限になる「夜間フリー」の1カ月ぶんか、端末割引1000円ぶんの選択が可能。3枚は、SIMカード再発行事務手数料のみですが、こちらの金額は2200円と高くなっています。5枚は、回線変更を伴うプラン変更事務手数料の3300円ぶんか、端末割引3000円ぶん。6~9枚の特典はなく、10枚で端末割引が7000円ぶんまで上がります。

  端末割引という観点では、ある程度コインをまとめて交換した方がお得度は上がります 。1枚は500円、2枚は1000円で、ここまでは1枚あたりの割引額は500円ですが、5枚の3000円でコイン1枚の単価が上がって600円になります。10枚だと単価は700円という計算になります。10枚コインが貯まるのは6年後とかなり先の話になるため、迷いどころですが、端末購入目当てであれば、コイン貯金をしておいた方がお得になります。逆に、それ以外の特典は少ない印象。mineoにとどまり、よりコインを貯めたくなるような特典の拡充にも、期待したいところです。

端末割引に関しては、貯めて使った方が1コインあたりの単価が上がる。ただし、10枚貯まるのは6年後。小まめに使ってしまうのも手と言えそうだ

ガイドラインで規制されていた長期利用者優遇、改正でmineoは対象外に

 このような契約年数に応じた過度な特典の付与は、19年10月に改正された電気通信事業法のガイドラインによって禁止されていました。競争をさまたげ、流動性を下げるための引き留めはまかりならん……というわけです。一方で、端末割引に制限を課して流動性を下げているため、どっちつかずな感がなきにしもあらずですが、だからこそバランスを取ったとも言えそうです。新規ユーザーばかりを優遇するのも批判されていたような記憶もありますが……。

 それはさておき、とかく端末割引が注目を集めがちなガイドラインですが、既存ユーザーへの過度な優遇禁止についても、キャリアやMVNOに大きな影響を与えています。実際、こうした既存ユーザーへの優遇を取りやめたキャリアはmineo以外にもあります。例えばNTTドコモは、2024年1月に「ずっとドコモ割」のポイント進呈額を一部減額しています。MVNOではIIJmioも、長期ユーザー向け特典の「長得」がギガプランのユーザーに提供できていません。

現行のファン∞とくは、マイネ王の活動やアプリ利用に応じた特典になっている。こうした仕掛けになったのは、契約年数に応じた割引ができなくなったため。図にはない旧ファン∞とくは、ガイドラインに抵触するため、変更になっていた

 現行のガイドラインでは、61ページから「契約を一定期間継続して締結していたことに応じた利益の提供」として、その詳細が記載されています。割引などがすべて禁止されているわけではありませんが、その上限は料金の1カ月分程度とされています。例えばマイピタの場合、音声通話が可能なデュアルタイプで1GBコースの料金が1298円。1カ月に100円程度までしか割引ができないことになります。

現行のガイドラインでは、61ページ目に長期利用者優遇の禁止が規定されている

 その金額はユーザーが契約している料金プランごとに異なる複雑なもの。2月28日に改定される新「ファン∞とく」のように、契約年数に応じて一律で特典を付与することが難しくなります。上記のように、1カ月100円強の割引は可能なため、マイピタの1GBコースをデュアルタイプで契約しているユーザーには割引が提供できたとしても、月額250円のマイそく スーパーライトでは同様のことができなくなってしまうというわけです。コインの枚数が多い場合の割引も、ガイドラインに抵触するおそれがあります。

割引上限の具体例。料金の1カ月ぶんと規定されていたため、契約年数に応じた一律の割引は難しくなる

 では、なぜ新しいファン∞とくが可能になったかというと、話はシンプル。オプテージ自体がガイドラインで規制される通信事業者ではなくなったからです。ザックリ言えば、これまでの規制は一切守る必要がなくなりました。元々、規制の対象はシェアの0.7%と規定されていたため、100万契約以上あるMVNOもここに含まれてしまっていました。23年12月末時点で126万契約あるmineoも、ギリギリですがその対象です。MVNOでは、ほかにIIJmioも同ガイドラインで規制されていました。

 このガイドラインを規定するための省令が23年12月27日に改定されました。規制の対象となる事業者のシェアも見直されており、0.7%から4%に上がっています。4%はおおよそ500万契約に相当します。MVNOはトップシェアのIIJですら、200万契約を超えたばかりのため、ほとんどがガイドラインの縛りを受けなくなります。 ガイドラインの規制内容が変わったのではなく、mineoがガイドラインそのものを守る必要がなくなった というわけです。

規制対象事業者を定める際のシェアの基準が0.7%から4%に上がり、大手MVNOがその範囲から外れた

ガイドラインにとらわれない端末割引も可能に

 ただし、ここには例外もあり、大手キャリア傘下のMVNOは4%に満たない場合でも規制を受けます。子会社や関連会社としてMVNOを作り、そこでアグレッシブな割引や囲い込みをするのを防ぐためです。この規定があるため、コンシューマー向けのMVNOとして展開している事業者の中では、KDDI傘下のBIGLOBEモバイルやJ:COM MOBILE、ソラコムなどにはガイドラインが適用されます。また、ドコモが吸収したOCN モバイル ONEも、MVNOではありますが、MNOが運営しているため、ガイドラインを守らなければなりません。

 mineoを運営するオプテージや、IIJが規制から外されたのは、“独立系”のMVNOと見なされたからです。IIJに関しては、株主にNTTやNTTコミュニケーションズ、KDDIが名を連ねていますが、筆頭株主のKDDIですら、その比率は11.5%(23年9月時点)。NTTとNTTコムも合計で11.5%(同)のため、子会社や連結対象ではなく、その支配力は弱いと言えます。KDDIの出資で、NTTの持分法適用会社からも外れており、独立系と見なされる要素は十分にあると言えるでしょう。

 このような背景もあり、mineoは「ファン∞とく」以外でも、仮にガイドラインが適用されていたら“お叱り”を受けてしまうようなキャンペーンを打ち出しています。「端末価格割引キャンペーン」が、それです。このキャンペーンは2月1日から3月31日まで実施されている、デュアルタイプをMNPで新規契約するユーザー向けの割引施策。端末ごとに適用される金額は異なりますが、最大で2万6400円が割り引かれます。

キャンペーンで端末割引も実施する。その額は最大で2万6400円

 ガイドラインの改定で上限が4万4000円に上がったため、2万6400円ならセーフではと思われるかもしれませんが、この割引が元々の価格が安いモトローラの「moto g52j 5G SPECIAL」に適用されているのがポイント。同モデルの定価は3万8016円です。現行のガイドラインでは、定価が8万8000円を超える場合に限って4万4000円までの値引きを許容しています。8万8000円以下は、端末価格の50%。4万4000円以下に関しては、2万2000円までと旧ガイドラインと規制が変わっていません。

4万円(税込みで4万4000円)を下回る端末の割引は2万円(税込みで2万2000円)までに限定されるため、ガイドラインが適用される事業者は、moto g52j 5G SPECIALを2万6400円割り引くことができない。この部分は、規制対象外になった恩恵と言えるだろう

 moto g52j 5G SPECIALは3万8016円のため、仮にガイドラインが適用されていたら、2万2000円までしか割引ができなかったというわけです。同じく2万6400円割引の対象機種には「Xiaomi 13T Pro」も含まれていますが、こちらは定価が10万1376円と高めのため、現行のガイドラインであればセーフになります。許容範囲を超えている端末は少ないため、規制範囲外になったとはいえ、そこまでアグレッシブな割引には打って出ないことがうかがえます。

プレスリリースより一例を抜粋。moto g52j 5G SPECIAL以外は、いずれも割引が規制範囲内に収まっている。アグレッシブな値引きに打ってでるわけではないようだ

 一方で、ファン∞とくや割引キャンペーンを自由に展開できるのは、事業の柔軟性につながります。オプテージのモバイル事業戦略 モバイル事業戦略チーム チームマネージャーの田村慎吾氏は、「創意工夫での勝負がしやすくなった」と語っていました。MVNOならではの工夫がしやすくなったと言えるでしょう。数千万のMNOと、100万をわずかに超えたMVNOを同じ土俵に乗せていたこれまでの規制がやや厳しすぎたきらいはありますが、その枠から外れたMVNOは、採用できる戦術の選択肢が増えることになりそうです。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya