石野純也の「スマホとお金」

26日に一挙15機種の実質価格を値下げ! ドコモが進めるスマホ販売施策を解説

 電気通信事業法で定められたガイドラインが改正され、端末割引が4万4000円に増額されたのと同時に、端末単体への割引にも制限がかかったのは本連載でたびたび解説してきました。

 アップグレードプログラムによる免除額も、その一部が割引と見なされるため、23年12月27日を境に、キャリア各社とも端末の価格を改定しています。

 もっともアグレッシブだったソフトバンクが一部端末を「1年実質12円」にするなど、話題を集めたのも記憶に新しいところです。

 アップグレードプログラムによって免除する端末の残価と、一般的な中古市場での下取り額などの差額は割引と見なされます。これを算出するため、各社ともガイドライン改正に伴い「買取等予想価格」をWebなどで公開するようになりました。

 この 予想を厳しめに出せば実質価格は上がり、緩めに見積もれば実質価格は下がります 。前述のソフトバンクは、比較的、高めの価格をつけているのも特徴的です。

実質価格は多くの端末で値上がりに、ただしiPhoneはほぼ据え置きに

 一方で、業界トップのNTTドコモは、買取等予想価格をかなりシビアに見ているようです。実際、同じ端末を比較すると、“ドコモ予想”が他社より低めだったのは以前も本連載で指摘しました。

 一例を挙げると、「Pixel 8(128GB)」の2年後の場合、ソフトバンクは5万1900円なのに対し、KDDIは4万5200円、ドコモは4万5562円と低めに見積もられています。

 KDDIは、Pixel 8の本体価格を値下げしたため、このケースだと、ドコモ版がもっとも高くなってしまう格好です。

 実際、この影響は多くの端末に及び、ドコモのスマホの価格はほとんどが実質値上げになっていました。一覧を出すと長くなるので詳細は割愛しますが、12月27日前後の価格の変化は、以下の記事をチェックしてみてください。

 代表的な端末をピックアップすると、Pixel 8は3万4100円から6万4460円へとほぼ倍増。秋冬モデルでは、「Xperia 5 V」も8万1730円から12万2970円へと上がり、10万円台の大台を突破してしまいました。

Pixel 8は倍増、Xperia 5 Vも10万円を大きく超えるなど、値上げの幅が大きい

 ミッドレンジモデルも例外ではなく、「Xperia 10 V」は4万6860円から5万9532円に、小幅ですが「AQUOS sense8」も3万8390円から4万1030円へと値上がりしています。

 ただし、iPhone 15やiPhone 15 Plusなど、一部のモデルは価格が据え置かれています。これはおそらく、iPhoneのリセールバリューが高く、12月26日までの価格でもガイドラインの上限である4万4000円を超えるおそれが低かったためと見られます。

画像はiPhone 15(128GB)の価格。この価格設定は、発売時点から変わっていない。ガイドライン改正でも、据え置きになった格好だ

 iPhone 15 ProやiPhone 15 Pro Maxは512GB版や1TBが値上げりしていますが、その額はわずかです。元々の買い取り価格が高い端末は、「いつでもカエドキプログラム」のような仕組みで免除される残価が高くなるためで、その意味ではiPhoneにとっての影響は軽微だったと言えるかもしれません。

 リセールバリューに端末の実質価格が左右される制度もどうかと思うところはありますが、実態としてはそのような方向に進んでいることがうかがえます。

値下がりした端末やポイントアップした端末も、その意味とは

 また、ごく一部ではありますが、12月27日時点で実質価格が下がった端末も存在します。例えば、エントリーモデルの「Xperia Ace III」がこれに該当します。

 同モデルは、12月27日時点で2万6488円から2万5432円へとわずかながら実質価格が下がっています。後述するように、同モデルは1月19日に再値下げがかかっており、実質価格は1万円台になっています。

 同様に、過去モデルでは「AQUOS sense7」も実質値下げの対象になりました。こちらは、4万3670円から4万238円へと、3000円強の値下げ。ミッドレンジモデルで元々の価格が安いこともあり、3000円といっても比較的値下がり率は高くなっています。

 いずれも、改正ガイドラインに基づいた残価の再考による価格変動ですが、単純な値上げだけでなく、値下げも組み合わせていることが分かります。

一部ミッドレンジモデルやエントリーモデルの中には、実質価格が下がったものもあった。Xperia Ace IIIは1月18日までの価格

 また、一部モデルに関しては、 MNP重視の方針も明確 になりました。新規契約やMNPの場合につく「5G WELCOME割」で進呈されるポイントが増額されたのが、その証拠です。

 例えば、2022年モデルの「Xperia 5 IV」や「Galaxy S22」が、その対象になっています。ミッドレンジモデルでは、「Galaxy A54 5G」が3万ポイントのラインナップに加わりました。

 2023年12月26日までは、ポイントなどの利益供与を含めた端末購入補助が2万2000円までに制限されていたため、3万ポイントの進呈は即座にNGになっていました。

 これに対し、2023年12月27日からは上限が最大で4万4000円に上がったため、このようなポイント提供が可能になったと言えるでしょう。

 なお、Galaxy A54 5Gは本体価格が6万9850円のため、割引上限は総額の50%まで。3万4925円がその限度になります。3万ポイントという数値は、この水準に合わせたように見えます。

5G WELCOME割のリスト。一部のモデルは3万ポイントに上がっているが、これは旧ガイドラインでは不可能だった額だ

 Galaxy A54 5Gに関しては、実質価格が3万9490円から5万1370円に上がっています。差し引きすると、1万1880円の値上げに。

 一方で、新規契約やMNPのときにつく5G WELCOME割に関しては、2万ポイントから3万ポイントに上がっており、トータルで見ればほぼトントンです。

 ただし、5G WELCOME割は、機種変更のときにはつきません。新規契約やMNPの場合のみ、価格がほぼ据え置かれるというわけです。

 その意味で、 一部端末に関しては以前よりも契約と密接に紐づく形になった と言えるでしょう。分離プランを推進していたはずの総務省が打ち出した施策の結果というのが、なんとも皮肉なものです。

Galaxy A54 5Gの新旧価格比較。5G WELCOME割がつくとほぼ同額だが、機種変更は割高になっている

価格の見直しも頻繁に、iPhone 13は実質33円まで値下がり

 2023年12月27日に一斉改定された端末価格ですが、ドコモではその後も、適宜見直しを行っています。直近では、1月23日に 「Xperia 10 V」の5G WELCOME割が1万6000ポイント→2万ポイントにアップ しました。

 新規契約かMNPで、かつ22歳以下かeximoを契約した場合に限定されますが、このポイントバックを加味した際の実質価格は4000円値下がりしたことになります。

 また、1月19日には、先に挙げたXperia Ace IIIに加え、2021年に発売された「iPhone 13(128GB版)」の実質価格が、大幅に下がっています。1月18日までは6万1710円だったのに対し、1月19日からは2万2033円になっています。

 ドコモオンラインショップでは、本いずれのカラーも在庫切れ(本稿執筆時点)になっているように、値下げによって人気が出ていることがうかがえます。

1月19日は、iPhone 13とXperia Ace IIIの実質価格が大きく値下がりした

 iPhone 13は、元々、本体価格が12万7710円でした。まず、この価格が1月19日から、11万209円に下がっています。ただし、その差額は1万7501円。これだけでは、実質価格の3万9677円値下げを説明しきれません。

 大幅な値下げを実現できた理由は、残価の値上げです。1月19日から、iPhone 13の残価は8万8176円に上がり、これを本体価格から引くと、先に挙げた実質価格の2万2033円になります。

 iPhone 13は5G WELCOME割の対象。他社からMNPでドコモに移ってきた場合、2万2000円の割引を受けることができ、実質価格は33円まで下がります。

 発売から2年以上経過した端末の残価が上がるのは不思議な印象を受けますが、やはりドコモも、他社の割安な端末に対抗するすべがほしかったのではないでしょうか。

 ソフトバンクのように、発売直後の端末をいきなり1年実質12円にするようなヤンチャはしていませんが、他社対抗の“弾”をしっかり用意していることが分かります。

iPhone 13は、5G WELCOME割の対象。オンラインショップでは機種変更しかできないが、店舗であれば、実質価格をさらに下げられる可能性も

26日にはさらなる値下げも

 さらに、1月26日には、全15モデル、17SKUの実質価格を一気に値下げする方向で見直しがかかります。先に挙げたPixel 8などの人気モデルもここに含まれており、同機種の場合、実質価格は6万4460円から4万7828円まで下がります。

 いずれの実質価格変更も、残価の変更に伴うものと案内されているとおり、24カ月目の免除される価格が上がったことによる値下げです。

 2年後の下取り価格が一斉に上がるのは本来の仕組みを考えると不可解ですが、やはり実質価格の値上げはドコモにとって厳しかったことがうかがえます。

1月26日には、17機種の実質価格が一斉に値下げされる。これは、残価が上昇したことに伴う価格改定だ

 頻繁な割引額や残価の変更を見るに、ドコモも手探りで新ガイドラインに対応している様子がうかがえます。2023年12月27日時点では、ある意味、優等生的な対応をしたドコモですが、やはり他社との競争上、目玉になりそうな端末は対抗措置として値下げせざるをえません。

 新しいガイドラインはまだ始まったばかりのため、各社とも、その制限を逸脱しないラインを探っているような印象を受けます。結果として、価格改定も頻繁に行われています。その意味では、今まで以上にキャリアの実質価格の変化に注目しておいた方がよさそうです。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya