石野純也の「スマホとお金」
携帯3社で一番安いのはソフトバンク! MVNOの料金・品質に影響する「接続料」の最新状況とは
2023年4月20日 00:00
大手3キャリアと相互接続するMVNO各社は、「接続料」と呼ばれる回線使用料を支払い、ネットワークを借りています。「レイヤー2接続」と呼ばれる仕組みでは、基地局などの設備は大手キャリアのものをそのまま使いつつ、パケット交換機は自前で持ち、その間の 回線の“太さ” に料金を払っています。その太さを価格に換算したのが、接続料です。
接続料は、法令で「原価+適正利潤」と定められているため、キャリアが言い値で価格をつけることはできません。
原価自体も年々下がっているため、年度ごとに各社が接続料を更新しています。その2023年度版が、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクから出そろいました。ここでは、その接続料を比較しつつ、MVNOのビジネスに与える影響を考察していきます。
大幅低減の接続料、23年度最安はソフトバンクに
大手3キャリアは、接続料を届け出る義務があります。3月までにドコモ、KDDI、ソフトバンクがその数値を提出。現在は、各社のMVNO資料にも最新の金額が反映されています。
基本的に、原価は年を経るごとに低下する傾向にあり、下がることはあっても、上がることはありません。どの程度の幅で下がるかが、焦点と言えるでしょう。23年度ぶんに関しては、23%~38%の幅で接続料が安くなりました。
ドコモの接続料
ドコモは、10Mbpsあたりの金額が15万6446円。10Mbpsを超えた帯域は1Mbpsごとになり、その金額は1万5644円になります。
たとえば、MVNOが1Gbpsの帯域幅を借りようと思った場合、ドコモに対し、1564万4460円の接続料を毎月支払う形になります。回線を借りるには、その他の費用も必要ですが、現状ではこの接続料の比重がもっとも大きいと言われています。22年度の接続料は10Mbpsあたり20万3270円だったため、約23%、料金が下がった格好です。
KDDIの接続料、ドコモより安く
もともと、ドコモ回線を採用するMVNOは非常に多く、その理由の1つは接続料の安さでしたが、 近年では、他社もドコモ並みかそれ以下になるケースが増えています 。
結果として、MVNOが採用する回線の種類を増やしたり、エンドユーザーの料金に回線差がなくなってきたりしています。 実際、23年度のKDDIが提示した接続料は、13万1067円とドコモより割安 です。22年度は21万1825円だったため、逆転したことになります。
ソフトバンクはさらに割安
それよりも接続料が安価だったのが、ソフトバンクです。
同社が総務省に届け出た23年度接続料は10Mbpsあたり12万6328円。前年度も2社より安い18万8327円でしたが、23年度ぶんも接続料の下げ幅が33%と大きく、 3社中もっとも高いドコモとの差が広がりつつある 状況と言えるでしょう。
また、接続料は過去にさかのぼって精算されるため、業績の見通しがしづらいという問題がありました。これを受け、現在は「将来原価方式」が導入されており、25年度ぶんまでの予想値も届け出がされています。
ソフトバンクは、24年度からついに10Mbpsあたりの価格が10万円を割り込む見通し。もともとは「高い」と言われていたソフトバンクですが、ここ数年は一気に値下げが進んでいます。エンドユーザーに提示される料金ではありませんが、間接的に影響のある 「隠れた料金値下げ」 と言えるかもしれません。
料金値下げか帯域の増強か、MVNOの取れる選択は?
接続料の値下げは、MVNOに主に2つの選択肢を与えることになります。
1つは、接続料に応じてエンドユーザー向けの料金を下げるというもの。かつて、MVNO黎明期には、料金が次々と値下がりしていましたが、これは接続料を料金プランに直接反映させていたからです。最近では、21年に軒並みMVNOが新料金プランを導入していますが、これも回線の基本使用料や接続料の値下がりを反映した動きと言えるでしょう。
一方で、単に料金を下げるだけではなく、下がったぶんを通信品質に充てることもできます。
金額が下がったぶんだけ帯域を増やせば、それだけユーザーが快適に通信できるようになる可能性も高まるからです。23%~38%の値下げというのは、それだけ多くの帯域を借りられるということも意味します。料金が変わらなかったからと言って、MVNOが何もしていないわけではないというわけです。
もっとも、第3の選択肢として、“何もしない”ということも起こりえます。料金を下げるのも、帯域を増やすのも、MVNO側が競争上有利になるからするのであって、義務というわけではありません。この選択肢を取れば、単純に大手3キャリアに支払うコストが下がり、MVNOの収益構造が改善する形になります。ただし、何もしないとなると、増え続けるユーザーのトラフィックにどう対処していくのかが課題になりそうです。
実際、総務省のデータでは、モバイルのトラフィックは年1.2倍ペースで増加しているといいます。これは、MVNOであっても例外ではありません。
たとえば、IIJmioは4月からギガプランの一部を改訂し、4GBプランを5GBプランに、8GBプランを10GBプランに改定しています。接続料が安くなったからと言ってそのままポケットに入れてしまうと、早晩、通信品質が劣化してしまう可能性があるというわけです。
それを放置してしまえば、評判が低下し、解約者の増加にもつながります。ユーザーが減少すれば、収益性も低下するという悪循環に陥りかねません。料金値下げがひと段落した今、接続料の低下を原資にしつつ、帯域の増強は図らなければならないのはそのためです。
年100億円単位で帯域を借りる大手MVNO、その算定根拠には不満も
では、実際、MVNOはどの程度、大手キャリアから帯域を借りているのでしょうか。MVNOのコストは大半が接続料と言われているため、この数値を開示している会社はまれです。接続料がバレると、経営戦略まで丸裸になってしまうからです。一方で、上場企業が経営指標として開示している数値から、その中身を推察することもできます。
たとえば、MVNO最大手のIIJは、2月に開催された決算説明会で、費用の戻りが約5億円計上されていることを明かしています。
これは何かというと、将来原価方式で出ていた接続料と、実際に確定した接続料の差分です。21年度ぶんの接続料は1Mbpsあたり2万8385円という予測が出ており、これを適用していましたが、22年12月に確定した金額は1Mbpsあたり2万7024円。その差額は1316円になります。
費用から除外されたのがトータルで5億円ということは、これを1316円で割れば、1年間で借りている帯域が算出できます。その数値を12で割れば、1カ月平均の帯域量になります。答えは、約31.7Gbpsです。ただし、帯域のすべてをIIJmioに使っているわけではありません。IIJは法人向け事業を展開していることに加え、MVNEとして他のMVNOの支援も行っています。こうした帯域を諸々含めた概算の数値がこの帯域というわけです。とは言え、MVNOビジネスの規模感程度はつかめたのではないでしょうか。
この接続料に対しては、MVNOから不満の声も聞こえてきます。
金額に関しては以前と比べると大幅に下がり、将来原価方式で見通しも立てやすくはなった一方で、算定根拠に不明確な部分が残っているというのがその理由です。たとえば、IIJの代表取締役社長、勝栄二郎氏は、先に挙げた決算説明会で将来原価方式を「今までと比べると非常に改善したルール」と評価しつつも、「もうちょっと透明性を高めてほしい」と注文をつけています。
勝氏は、「なんで結果的にこういうことになったのかが開示されていない。それをやれば、もう少し将来原価方式の予測可能性が高まるのではないか」といいます。接続料の原価は、設備などにかかるコストに適正な利潤を乗せた額を、需要である総トラフィックで割って算出しています。
式にするとシンプルそのものですが、では、なぜ予測値とズレが生じたのかということは開示されていません。投資を抑えて分子が減ったのか、トラフィックが急増して分母が大きくなったのか、はたまたその両方の合わせ技なのかがMVNO側にとってブラックボックスになっているというわけです。
21年度ぶんは戻りがあったからまだいいものの、逆だった場合、MVNO側には予定外のコストが発生してしまいます。また、もともと、5億円ぶんも安いと分かっていれば、そのぶんを投資に回すこともできます。予測値と実測値にそれなりのズレがあるため、経営に無駄が生じてしまうというわけです。ここに大手キャリアがどう対応していくのかも、注目しておきたいポイントと言えるでしょう。