石野純也の「スマホとお金」

iPhone値上げを分析し、次期iPhoneの買い方を考える

 7月1日に、突如としてiPhoneの価格が上がりました。

 これを受け、iPhoneを販売する大手4キャリアも遅れて値上げに踏み切っています。真っ先に追随したのが楽天モバイルで、7月8日に価格の改定を実施。6日後の7月13日に、ソフトバンクも値上げを行いました。ドコモとKDDIは、7月15日に価格改定を行い、アップル自身が販売するオープンマーケット版と4キャリア版の価格は、いずれもそれ以前と比べると高額化しています。

7月1日に価格が改定されたiPhone。円安傾向を反映し、軒並み値上がりした

急激に進行した円安を反映、キャリア版も値上がりに

 iPhone 13シリーズの最上位モデルとなる「iPhone 13 Pro Max」の1TB版がドコモやKDDI、ソフトバンクで27万円を超えてしまったこともあり、大きな注目を集めたiPhoneの値上げですが、理由は非常にシンプル。4月ごろから急激に進んでいる円安・ドル高を反映した格好です。

 アップルは、米国の会社で、会計の際の基準となる通貨も米ドルです。日本から見ると値上げに見えますが、アップルの視点で見ると、円建てでの価格の維持は値下げにつながります。そのままだと、常時割引していることになってしまうため、価格の引き上げはやむなしといったところでしょう。

 アップルが、米国などでは特に価格を改定していない点も、為替変動が理由であることを裏づけます。部材等のコストがアップしたための値上げではないというわけです。ただし、世界的に物価高が進んでいるため、これはあくまで今回の値上げに限った話。今後、こうした理由から、グローバルでiPhoneの価格が上がる可能性はなきにしもありません。

ドル建てで販売されている米国のアップルストアの価格は変わっていない

 為替相場の変動を反映する動きは、過去にもありました。

 たとえば、14年11月には、オープンマーケット版の「iPhone 6」や「iPhone 6 Plus」が、8000円から1万円ほど高くなっています。このときも、ちょうど円安が進行していたタイミング。15年3月には、同モデルが再度値上げされています。

 いずれも、円安/ドル高をすぐに反映するのではなく、しばらく様子を見たあとで値上げに踏み切っています。こうした過去の経緯を踏まえ、今回の値上げはある程度予想されてはいました。5月、6月に入っても円安傾向に歯止めがかからなかったためです。

 イベントで何らかの製品が発表され、それに伴って既存の製品も値上げすると予想していた向きもあります。筆者も、同様の考えでした。

 実際、6月7日(日本時間)に開催されたWWDCでは、M2チップを搭載した「MacBook Air」や「MacBook Pro」が発表され、価格も最新の為替レートを反映したものになっていました。これに伴い、M1チップ搭載の旧MacBook Airなどは値上げになりました。

 一方で、iPhoneやiPadは価格を維持。円安が4月ごろから進行していたことを考えると、四半期ほど粘ったことになります。

M2搭載のMacBook Airは、16万4800円から。M1のMacBookは、7コアGPU版が10万4800円、8コアGPU版が12万9800円だった。後者と比較しても、価格は上がっている

 iPhoneの価格は、iPhone 13シリーズだけでもモデル数が4つ、容量が各3つ~4つあり、それだけで14パターンになります。ここにドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルとアップルという5つの販路を掛け合わせると、その数は70パターン。すべてをここに掲載するわけにはいかないため、詳細に関しては、ケータイ Watchの関連記事を参照してください。新旧価格が表で記載されているので、値上げ幅もすぐに分かります。

値上げ率はモデルごとに異なる、iPhone 13 miniは控え目

 また、128GB版に絞った際の価格は、以下の表のようになります。

 ここから分かることは、次のとおりです。各社とも、20%前後の値上げ幅にとどめていますが、楽天モバイルに関しては、24.5%から33.7%と、ほかの販路より値上げ幅が大きくなっています。元々、キャリアの中では最安値を売りにしていただけに、納入価格の上昇が打撃になってしまったのかもしれません。ただし、キャリアの中では最安値を継続しています。

各社のiPhone 13シリーズ価格
各モデルの128GBの価格を改定前後で比較。改定前の価格が安かった楽天モバイルは、特に値上げ幅が大きい

 値上がり率では、KDDIとソフトバンク、アップルの数値が近く、2社は納入価格の上昇ぶんをそのまま転嫁したと見ることができます。

 これに対し、ドコモはiPhone 13 miniとそのほかのモデルで、値上がり幅が大きく異なっています。iPhone 13 miniが1万8502円、18.8%の値上げなのに対し、「iPhone 13」は2万6708円、23.9%。価格が上がっているのはどのモデルも同じですが、強弱がつけられていることが分かります。

 ドコモほどの差ではありませんが、KDDIとアップルも傾向は同じで、iPhone 13 miniの値上げがほかより抑えられています。

 では、これがどの程度為替に連動しているのでしょうか。iPhone 13シリーズが発売された21年9月24日の為替レートは、1ドル110.4円前後。これに対し、22年7月1日の為替レートは135.3円ほどです。昨年9月時点から、1.23倍ほどドルが高くなっています。パーセンテージに換算すると、23%増です。これを踏まえて上記の表を改めて見てみると、楽天モバイルを除いた3キャリアと1社は、おおむねこの範囲内に価格上昇を抑えていることが分かります。ドコモの一部モデルやKDDIやソフトバンク、アップルは、為替レートの上昇より低めにしか値上げしていません。

為替レート(チャートはTradingViewで作成)
iPhone 13シリーズが発売された昨年9月と比べ、円が大幅に安くなっている(TradingView提供のチャート)

 ダイレクトに為替を反映させてしまうと、値上げ幅が大きくなりすぎてしまい、販売数にも影響を与えてしまいかねません。

 特に10万円を超える、超えないでは、ケタが1つ変わります。また、分割払いの審査には「10万円の壁」があると言われています。割賦販売法の規定で、10万円を超える際には、より詳細な審査が必要になるからです。改定後の価格を見ても、アップルの場合、9万9800円と見事に10万円以内に抑えられており、かなり意識的に値上げを抑えていることがうかがえます。

 ただし、同じiPhone 13 miniでも、値上がり率はストレージ容量によって異なります。以下の表はアップル版の比較ですが、もっとも値上げを抑えているのは128GB版。逆に、256GB版や512GB版になると、少しずつ値上がり率がアップしています。

 同様の傾向はiPhone 13にもありますが、iPhone 13 miniほど極端な差ではありません。あくまで相対評価ではありますが、iPhone 13シリーズの中でiPhone 13 miniのお得度がアップした格好です。裏を返せば、楽天モバイルを除くキャリアやアップルが“売りたいiPhone”と言うこともできるでしょう。

iPhone 13 miniの場合、ストレージのサイズが大きいほど、値上がり率が上がっている
iPhone 13も、ストレージ容量が大きいものほど値上がり率が大きくなるが、iPhone 13 miniほどの差はついていない

次期iPhoneはどうなる? 買い取りや残価設定プログラムラムも活用

 このタイミングでの価格改定となると、次のiPhoneがどうなるのかも気になるポイントです。次期iPhoneは、ほぼ毎年9月に発表され、月内ないしは2カ月以内に発売されています。スケジュールが例年通りだとすれば、後2カ月強といったところです。

 残念ながら、今のところは円安/ドル高の傾向が変わる気配はなく、このままの為替相場が続けば、よほどドル建てでの価格が値下がりしない限り、価格が下がることはないでしょう。機能にもよりますが、スペックアップの幅が大きければ、さらに高くなる可能性も十分あります。

 こればかりは為替相場が大きく変動し、3月以前の水準に戻ることを祈るしかありませんが、ある程度覚悟はしておいた方がいいかもしれません。7月に価格改定をしておけば、心の準備もできるはず。そんな意図があったのかどうかは定かではありませんが、少なくとも、iPhone 14シリーズ(仮)が発表され、いきなり大幅に値上げしたと捉えられるより、慣れておいてもらった方がネガティブな印象は薄くなりそうです。

 実際、MacBook AirやMacBook Pro発表時の価格に対する反響を見ると、“慣らし運転説”はあながち間違った見方ではないとも感じています。

 このままの価格で出たとき、消費者としてはどう対応していけばいいのでしょうか。

 もっとも簡単なのは、現在利用中の端末を売却するということ。実はiPhoneの中古買い取り価格も、値上げを受け、上がっています。ニューズドテックが7月13日に発表したデータによると、現行モデルのiPhone 13の買い取り価格は、半年で約15.4%上がっているといいます。グラフを見ると、値上げがウワサされ始めた6月ごろに、先行して価格が上昇していることがうかがえます。

ニューズドテックが13日に発表したデータでは、半年でiPhone 13の買い取り価格が15.4%も上昇しているという

 買い取り価格が高くなるのであれば、新モデルとの差額は縮まります。仮に新モデルの値上げ率と買い取り価格の上昇率が同等だと仮定すると、差額も為替変動で値上がりしたぶんだけ高くなりますが、絶対値としての金額は小さくなるため、負担感は抑えられます。

 また、あまり報じられていませんが、今回の価格改定に合わせて、キャリアの残価設定プログラムで設定されている「残価」も上がっています。

 たとえば、ドコモのiPhone 13 128GB版を「いつでもカエドキプログラム」で購入した場合、以前は価格が11万1672円に対して残価が5万5440円に設定されていたのに対し、改定後は13万8380円に対する残価が6万8640円に上がっています。値上げを完全に吸収できているわけではなく、月々支払う金額は上がってしまうことに変わりはありませんが、その差額は月に600円弱。ランチの予算を少しだけ削るなど、軽めの努力で捻出できそうな金額です。

 iPhone 14がいくらになるのか、そもそもiPhone 14という名前で発売されるのかすら現時点では分かりませんが、こうした方法で出費を抑える方法を考えておいた方がよさそうです。

ドコモのいつでもカエドキプログラムの残価。iPhone 13発売時よりも、残価の設定が上がっている

 また、アップルストアでキャリア契約をする手もあります。

 この場合、端末にはアップル価格が適用され、さらに機種変更による8800円の割引を受けられます。iPhone 13 128GB版のアップル価格は11万7800円に上がりましたが、これでも大手3キャリアの値上げ前とほぼ変わりません。機種変更の手続きが可能なのは実店舗のみで、オンラインは非対応なため、誰でも利用できるわけではありませんが、こうした買い方を検討してみてもいいでしょう。

 ただし、キャリア各社の残価設定プログラムは利用できなくなるため、その点には注意が必要です。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya