本日の一品

芯を削らずに16Km書き続けられるという金属鉛筆「メタシル」を買った

海外では何年かに一度は出てくる”永久鉛筆の世界”久しぶりに新しいテクノロジーで国産勢の登場だ。削らずに16Km書ける「メタシル」登場

 最近はステーショナリー系の新商品も、ICT系のデバイスやガジェットのように発売前のティザー&SNS上のプリ・マーケティングが普通だ。筆者もネットメディアを通して「メタシル」という名前の金属鉛筆の発売を知り予約して手に入れた。昭和な人が聞いたら、採用している技術ではなく事前予約してまで手に入れる鉛筆の価値の方に驚くだろう。

 どうせ買うならメタシルの芯はどれも同じ色でも軸色が全六色なので6本全部大人買いも考えたが、鉛筆は日常的にそれほど使うあてのない筆記具なので、軸色はブラック、ホワイト、レッドの3色を買った。高いか安いかは個人差だが1本990円だった。

軸色は全部で6色、今回は黒、白、赤の3色を手に入れた
芯は金属に黒鉛の混じった新素材。軸は八角のアルミニウムだ
メーカー名・ブランド名は控えめで極めてグッドな印象だ

 アマゾンで売っているレガシーな安定ブランドの三菱鉛筆9800番1ダースが384円、自他ともに認める高級鉛筆の元祖である三菱ユニ鉛筆1ダースが665円。メタシルは1本当たりそれらより15倍~30倍高いので、削らず16Km書けるからと言ってその価値がジャスティファイできるとは限らない。もはや従来の消費物ではなくガジェット領域に首まで突っ込んだ趣味系鉛筆だと解釈する方が納得感はありそうだ。

 メタシルの芯部分は特殊な合金に黒鉛を混ぜて作られている、オール金属の昔の金属鉛筆とは違うモノだ。筆記時に紙面との摩擦によって合金と黒煙の細かな粒子が紙表面に付着することで筆記跡(筆跡)となる仕組みはレガシーな鉛筆とも類似している。摩耗の極めて少ない合金がチビにくく長持ちの理由だそうだ。

 芯の部分は実はねじ込み式になっていてクルクルと回して取り外せる、手で持つ軸部分は一般的な鉛筆の多くが採用している木製の六角軸ではなく断面が八角形のアルミ軸だ。両者を何度か持って比べてみることを繰り返していると微妙に指先の感覚は異なるが最終的に六角、八角の好き嫌いは趣味の問題に思える。

芯先はネジ式で交換できる。金属と言えども多少はチビてくる。将来は交換芯や濃さ違いのリフィルが発売されるのかな

 実際にメタシルを手に持ってみて感じるのは六角、八角の違いではなくその重量だ。木軸&黒鉛の一般的鉛筆が6g前後なのに対してメタシルは実測で21g前後あり、金属の冷たさがありなかなか新鮮だ。重さ的にはFrixionの3色ボールペンよりまだ少し重いが、筆記時の安定感とバランスは心地よい。

 ステーショナリー系のマニアやコレクターなら金属素材の無限鉛筆と聞くと、あのダビンチも愛用したという宣伝ワードで世界的に有名になったイタリア最大の自動車製造会社「Pininfarina」(ピニンファリーナ)の高級無限鉛筆「PINIFARINA CAMBINO」(ピニンファリーナ キャンビーノ)を思い浮かべる人も多いだろう。

この世界では超有名な高級無限鉛筆「PINIFARINA CAMBINO」(ピニンファリーナ キャンビーノ)価格も超一流だ。コスパなどという言葉は無縁の世界だ

 ごく普通の鉛筆と今回ご紹介するメタシル、ピニンファリーナ キャンビーノの3本を並べてその芯先を眺めてみると違いが明確で興味深い。普通の鉛筆は筆記距離に応じて芯先がチビるので常に鉛筆削りで先を尖らせて使用するので芯先は目いっぱい鋭角だ。

鉛筆削りで尖がらせた鉛筆(左)メタシル(中央)ピニンファリーナ キャンビーノ(右)だんだん芯先は丸くなっている

 片やピニンファリーナ キャンビーノはほとんど文字を書くことは目的ではなくデッサンやデザイン画なのだろう。黒鉛を全く含まず特殊金属だけの太い芯先は3H~4Hくらいでかなり薄い印象だ。メタシルはちょうどこの両者の中間に位置する製品だ。黒鉛を含み2H程度の濃さで文字も十分書けて認識できる実用度のある製品だ。

 実際にメタシルと普通の鉛筆(HB)で同じ紙に描きその筆跡を比べてみた。筆記面のスムースな紙の場合は、普通の鉛筆とメタシルの濃さの差は少し大きいようだ。一方、表面がザラザラした感じのAmazonベーシックのリーガルパッド用紙などではメタシルも十分な濃さを発揮してくれる。

表面がスムーズな紙に普通のHB鉛筆とメタシルで描き比べて見た。2H相当のメタシルはそれ相当に薄いが気になるほどでもない
多少表面がザラザラした紙だとごく普通に使える印象のメタシル

 スムーズな紙質の紙に、ピニンファリーナ キャンビーノ、メタシル、普通の鉛筆の3者で文字を描き、丸軸消しゴムのトンボMONO ZEROで3者の筆跡を消してみたところ、黒鉛の含有量に応じて普通の鉛筆、メタシル、ピニンファリーナ キャンビーノの順に消えにくくなることが分かった。

下から鉛筆(HB)、メタシル(2H相当)、ピニンファリーナ キャンビーノ(4H相当)で描いて最初の文字だけ消しゴムで消してみた。やっぱり鉛筆が一番消えて、次はメタシル、ピニンファリーナ キャンビーノはほとんど消えない

 圧倒的な高価格のピニンファリーナ キャンビーノは残念ながら筆記文字も薄く、消しゴムでもほとんど消えないのが特徴だ。まさにダビンチ時代の遺産的雰囲気だ。しかしハイソで秀逸な金属とウッドとのコンビネーションのビンテージ感はメタシルとは別世界なので単純に比較することは意味がなさそうだ。

 ここ1週間ほど普通の30年くらい前の超クラシカルなIBMのメモと最新のメタシルを一緒に持っていろいろ使ってみた。紙質さえマッチすれば筆記時の違和感はない。普段、鉛筆なら濃さ“B”ボールペンならBICの超太字を使ってる極端な筆者にはメタシルは多少薄いのではという感覚があったが、使っている内に慣れてくる程度の差だった。

30年以上昔の某社のThinkメモとメタシルを持ち歩いて使ってみたけど違和感はほとんど感じることがなかった

 最近の筆者は、特殊な繊維で作られたソックスのようなキャップをメタシルのテイル側にキャップのように取り付けて、普通の紙のメモとスマホの画面タッチ及び文字筆記の両方に使っている。慣れてくると極めて便利なベストコンビネーションだ。

メタシルのテイル部分にスマホの手書き用特殊背にソックスを履かせて普通のメモとスマホの手書きの両方に使ってみた。意外に便利で使える

 製品のキャッチコピーで「削らずに筆記可能距離16Km」というのが妙に気になっていたので冗談半分で「日本の夏」というのをリーガルパッドの1行に入るサイズで何度か書いてみて各辺の長さを測って適当に足しこんでみた。

 結果は4文字でおおよそ合計84㎜という個人的に納得できる数値だった。続いて16Kmをミリに変換して割り算をやってみたところ、削ることなく1本のメタシルで約19万回「日本の夏」と書けることが判明した。盛夏前に猛暑の到来となってしまったが今年の夏も早く過ぎ去って欲しいものだ。

製品名発売元実売価格
メタシルサンスター文具990円