本日の一品

芯を削らずに書き続けられて、さらに芯を収納できる永久鉛筆「メタシル ライト ノック」を大人買い

メタシル ライト ノックは先行するメタシルの半額以下で登場したノック式の永久鉛筆(金属鉛筆)の仲間だ。安価、軽量でカラフルなカラーリングが市場を広げそうだ

 2022年7月25日に“芯を削らずに16Km書き続けられる”という金属鉛筆「メタシル」をご紹介した。通称“永久鉛筆”とも呼ばれる特殊な黒鉛を含む合金を使い高級なアルミの八角軸のメタシルは、高級鉛筆1ダースよりも高価な1本990円という価格にも関わらず発売時は極めて好調な滑り出しだったようだ。

2022年7月にご紹介したメタシル。アルミ製の8角軸を採用しバラナスの良い重さが永久鉛筆が初めての人にも筆記しやすい

 今回ご紹介するのは、以前のメタシルが鉛筆系のデザインであったのに対してノック式のシャープペンシルの機構を採用した「メタシル ライト ノック」(Metacil Light Knock)という商品だ。従来の鉛筆型メタシルが実測13g(スペック上は14g)とズッシリ型なのに対してメタシル ライト ノックは実測7g(スペック上は8g)と約半分。一般的な鉛筆(新品状態)の実測5~6gよりやや重いだけだ。

 今回のメタシル ライト ノックのボディカラーは全8色。筆者は発売日に黄色と青と黒の数本を手に入れた。メタシル ライト ノックは名前の通りノックして芯先を出すタイプなのでペンの全長も145mm(ノック前・ノック後)と鉛筆型メタシルの160mmより15mmほど短く携帯性に優れている。芯先は一般的な鉛筆のH相当の濃さということだ。

 いろいろ諸説はあるが、鉛筆が発明されてから既に数百年。そのあいだ人類は紙と鉛筆(筆記具)で数々の文明を築き、世界を拡大かつ連携してきた。それは20世紀のコンピューター大活躍の時代になっても、それほど多くは変わっていない。今も手書き文字や絵は、入出力の形や形式は変わっても引き続き情報の核のひとつとして存続している。

筆者の身の回りを見ても周囲を見ても新しいテクノロジーによる紙とペンの変遷は激しい

 従来の紙と鉛筆が形を変え、電子系パネルとスタイラスに変化してもやっていることはそれほど大きくは変わっていない。時代の経過と共に“消耗品”への考え方は変化し、何度も使えてリソースを再利用するアイテムの価値や評価が上がったのが20世紀だ。

 筆者の身の回りを見ても、レガシーな“紙と鉛筆”以外にも多くの手書きデバイスが並行的に活用されている。その変化を加速させているものは、最終的にはデジタル化してネットワーク環境を大前提とした創作・発信・共有を目的としているからだ。

 また、人類は気持ち的に“永遠”という言葉に有史以前よりロマンを感じ、憧れる動物だ。国内外ともにステーショナリー各社が発売している“永久鉛筆”は従来の鉛筆とは異なり、芯を削ってどんどん鉛筆が短くなって最後には新しい鉛筆に替えるというイメージを変革するモノだ。

 永久鉛筆に限らず、ペーパー液晶を利用した「Kindle Scribe」や別のテクノロジーを使った「Boogieboard」「Kaite」や「Butterfly board」「Rocketbook」なども広義には同じ仲間だ。いずれも筆記具や紙の消耗もなくし、できることならペンも紙も再使用することが究極の目的の製品達だ。

普通のノートと筆記具の世界で始まった記録と保存、拡散、共有の世界にはネットワークの進化と共にどんどん新しいテクノロジーやSDGsの考え方が導入され変化している

 しかし、現実にはまだまだテクノロジー商品だけの組み合わせである液晶パネルと電子的なスタイラスの組み合わせでは、液晶パネルに特殊なシールを貼っても、ペンスタイラスにエラストマー系の芯先を採用しても、人類数百年の紙と鉛筆の関係をスッキリと置き換えることができていないのが現状だ。

 メタシルに代表される、昨今流行の“永久鉛筆”は紙はそのまま、従来の鉛筆を削ることなくできる限り人類がこの数百年慣れ親しんだ筆記フィーリングを再現しようというのが目先のひとつの目的のはずだ。

 今回のメタシル ライト ノックを使うにあたって、以前のメタシルやずっと昔に発売された「ピニンファリーナ キャンビーノ」も同時に一緒に使ってみた。金属芯オンリーのピニンファリーナ キャンビーノは元祖永久鉛筆という位置付けであって、筆記感覚や筆記結果は現代のメタシルには大きく及ばない。

元祖永久鉛筆のピニンファリーナ キャンビーノ(中央)とメタシル ライト ノック(上)、先行したメタシル(下)はテクノロジーのコアは類似しているがフォーカス市場は異なる

 実際に、先行するメタシルと今回のメタシル ライト ノックの両者を何度も筆記してみたが、筆者の感覚はサンスター文具の発表であるメタシルは2H程度の濃さ、メタシル ライト ノックはH程度の濃さらしい。メタシル ライト ノックの方が筆記結果は濃いということだが筆者とは全く逆の感覚だった。自宅のカラーレーザープリンター用に使っている安いコピー紙や黄色いリーガルパッド紙に両者で筆記してみたが、何度書いてもメタシルの方が明らかに濃かった。

メタシル(上)とメタシル ライト ノック(下)を実際に筆記して比較してみた

 メタシルとメタシル ライト ノックは、軸その物の重量差以外にも多くの差異がある。メタシルの芯は交換可能で、替芯として440円で販売されている。ちびない計画のメタシルの芯も、長く筆記すると先端が少し丸くなってくるのが分かる。シャープな芯先が好みのユーザーは替え時だ。丸くなった芯は捨てずに太字用として取っておくのも良いだろう。

高価なメタシルは交換芯対応。交換芯より安価なメタシル ライト ノック

 一方、メタシル ライト ノックはペン先を回して取り外すとスプリング付きのボールペンの芯のような格好で現れる。筆者のメタシル ライト ノックはスプリングと芯の軸は分離できなかった。メタシル ライト ノックの販売価格は385円と、メタシルの交換芯よりもかなり安い。この差はメタシルの高級アルミ8角軸だけのせいではなさそうだ。

 実際に両者の芯を比較してみると分かるが、メタシルの芯の方が密度が高い印象を受ける。実際に前述のコピー紙に何度も書き比べてみたが、メタシル ライト ノックの方は明らかに鉛筆とは異なる、ちびる感覚のない従来の永久鉛筆の筆記感であるのに対して、メタシルの方は硬質の鉛筆に近いと感じた。

 ちょうどダイソーで買った、6B~4Hまでの濃さの鉛筆が手元に12種類あったのでそれらとメタシル、メタシル ライト ノックの筆記テストをやってみた。鉛筆以外の筆記具との差異も見たかったので、筆者が普段愛用しているBICのボールペン(超極太1.6㎜径ボール)と筆記具のベストセラーでもある、ぺんてるのサインペンとレガシーな元祖永久鉛筆であるピニンファリーナ キャンビーノを加えて比較した。

6B~4Hまでのレガシーな鉛筆とメタシル、メタシル ライト ノック、BICの超極太、ぺんてるサインペン、ピニンファリーナ キャンビーノを全部書き比べてみた

 実際に何度か同じ筆記比較を繰り返してみたが、結果はおおよそ毎回同じだった。今回筆記テストに使用した紙は、トヨシコーのA4方眼用紙で“セクションペーパー”と呼ばれるプリンター用紙だ(上質70kg:中厚口)。全て100%同じ筆圧で描けたかどうかは自信はないが、結果は写真のようになった。

筆記用紙によってもかなり違うが筆者の筆記テストではメタシルは鉛筆のH相当、メタシル ライト ノックは鉛筆の2H相当に見えた。これはメーカー発表とは全く逆だった

 一番ボールドなぺんてるサインペンと1.6㎜径ボールの超太字BICの2本を除外すると、メタシル ライト ノックの筆記線は鉛筆の2H~3Hの雰囲気だ。一方、メタシルは線はスリムだが濃さ的にはH前後に見える。しかしこれは前述したように、メーカー発表のメタシルは2H、メタシル ライト ノックはHと見事に逆転している。

 メタシル ライト ノックは、メタシル発売の後に発売された明らかにCR(コストリダクションル)モデルだ。先行するメタシルは1本990円という三菱鉛筆ユニ1ダースに匹敵する値段で発売されたが、メタシル ライト ノックは1本385円と同じ三菱鉛筆のリサイクル鉛筆(9800EW)1ダース程度まで下がってきた。それでも普通の鉛筆12本分にあたる。

 コスパ的に考えるなら、鉛筆を使えなくなるまで短く削って12本全部を使う期間以上にメタシル ライト ノックの寿命が長くなくてはいけないことになってしまう。そしてそのコンディションは従来の鉛筆と同じ程度に快適な筆記感覚が必要だ。

 価格的にはリーズナブルで外装は少しセレブ、新しいテクノロジーを採用し常用できるハイエンドの永久鉛筆として登場したメタシルと異なり、メタシル ライト ノックはコスパで鉛筆に正面から挑んだ意欲作だ。今後の発展や展開が興味深い。

 もし携帯性能が第1目的でなく、読者諸兄が今回ご紹介したメタシル ライト ノックとメタシルのどっちを買うか悩んでいるのなら間違いなく、先行発売されたメタシルを推したい。2.5倍以上の価値は十分あると思っている。

 同じ“永久鉛筆”を売り文句にしてはいるが、ハナから安価な鉛筆世界と勝負する気のないピニンファリーナ キャンビーノはその立ち位置が違う。外観デザインやパッケージを見ても“高級万年筆の上を行く鉛筆”と言う位置づけだ。もちろん、鉛筆という合理的なジャンルで筆記性能のみを比較するなら間違いなくメタシルに軍配は上がる。

立ち位置も市場も異なる3本の永久鉛筆。中央はピニンファリーナ キャンビーノ

 サンスター文具に、従来の顧客層とは異なるハイエンドステーショナリーが向いているかどうかは筆者には分からないが、個人的には別ブランドにしてでもピニンファリーナ キャンビーノを凌駕する、ニッポンのハイエンド永久鉛筆をメタシル交換芯をベースに創って欲しい。近い将来、永久鉛筆も社会に認知されれれば、日本の永久鉛筆にも一品と逸品が必要だ。

ブランドのペンケースに入れても臆さないピニンファリーナ キャンビーノ以上のメタシルのハイエンド・ニューモデルの世界進出に期待したい
製品名発売元実売価格
メタシル ライト ノックサンスター文具385円