本日の一品

タッチタイピングできるキーボード搭載のAndroidスマホ「Gemini PDA」

Gemini PDA

 まず写真を見ていただこう。このデバイス、「Gemini PDA」という。クラウドファンディング発のAndroid端末で、LTE対応で音声通話もできる(非対応モデルもある)。そう、このデバイスはスマートフォンなのだ。

 最大の特長であるキーボードは、伊達や酔狂で搭載しているのではなく、キーボードを見ない入力、つまりタッチタイピングできるものとなっている。キーストロークはちょっと不安定で押し損ねもやや多く、率直に言ってそれほど出来の良いものではない。しかしキーピッチは実測で約14.5mmと最低限の大きさが確保されていて、慣れればキーボードを見ずにパソコン並みの速度でタッチタイピング入力ができる。

ちょっと狭苦しく見えるが、ちゃんとタッチタイピングができる
親指タイピング。全幅が狭めなので中央にも親指が届く

 5本の指を使うタッチタイピングだけでなく、両手で左右の端を握り、親指でタイピングするような入力スタイルもできる。こうすれば立ったままでも使えるが、普通のスマホのフリック入力と速度的に大差はないので、やはりGemini PDAの真価が発揮されるのはタッチタイピングするときにあると言えるだろう。

日本語キーボード配列。かな入力も使える
キーは押しやすい立体的な形状

 キーボードの配列は英語だけでなく、日本語を含む世界各国の言語のものから選べる。どの言語でもアルファベットの配列はそのままだが、省スペースのために数字が右に1つずつオフセットされ、記号類はことごとく省略されるか特殊な配置となっている。この手のコンパクトキーボード端末によくあるパターンだ。

 筆者はこの手の端末に慣れていることもあり(かつてはシグマリオンIIやバイオU、ノキアE61を取材メモ端末に愛用していた)、Gemini PDAのキーボードにもすぐに慣れることができた。すでに何度か発表会取材に投入し、プレゼンのメモを取るのに使っているが、机のない記者席でもそこそこ快適に、プレゼンを見ながら正確かつ十分な量の取材メモを取れている。

 しかしこの手の海外製コンパクトキーボードでしばしば問題となる「ー」、つまりハイフン(音引き)キーの位置には不満を感じた。ご存知の通り、日本語の入力においては句読点2種に加えてハイフンを多用する。そしてこのGemini PDA(日本語配列)ではアルファベット以外の記号キーが3つあるが、それがなぜか「。」と「、」と「:」なのである。

 日本語ならそこは「:」でなくてハイフンキーだろう、と思うが、このあたりは海外スタートアップメーカーのリサーチ能力の限界だろう。Gemini PDAの日本語配列ではハイフンは「、」のSHIFTキー入力となっているので、そこまで悪くはないのだが、英語配列だと「O(オー)」のFnキー入力となるので、そうなるとちょっと面倒な印象もある。ぜひともキー配列カスタマイザーの提供にも期待したいところだ。

楽天証券のアプリ「iSPEED」。チャートは見やすいが、チャート以外のリスト表示はやや見にくい
野球速報アプリ「スポナビ」。縦画面前提のデザインなので、かなりレイアウトが乱れる

 キーボード以外のところについては、普通のAndroidスマートフォンである、と言いたいところだが、かなり癖はある。まず画面は横長(ランドスケープ)表示のみで、縦長前提デザインのアプリやWebサイトは、表示がやや見にくかったりする。しかし画面は18:9のウルトラワイド仕様で、かつホームボタンなどのナビゲーションキーは横画面でも常に画面右の短辺側に表示されるので、横長想定のアプリは使いやすく出来ている。

エディターを使いながらWebなどを見られるのはけっこう便利
分割非対応アプリはまだまだ多いのがやや残念。Android標準機能なので、今後増えていくと思うけど……

 Android 7.1.1を搭載し、一部のアプリは画面分割表示も可能だ。ほぼ正方形の表示が左右に並ぶ形式で、ちょっとした資料を見ながらテキストメモを入力する、といったこともできるのが便利だ。しかし大手以外のアプリ、とくに非実用系のエンタメ系アプリなどは分割表示に対応しないことが多く、マルチ表示を使いたいシーンで使えない、というもどかしさを感じることも少なくない。

 あとカメラはインカメラしか搭載していない。いちおう背面カメラモジュールも別売りオプションで用意されているのでされているので、対面撮影したい場合はそれも購入すると良いだろう。

 左右側面にUSB Type-Cがあるけど充電できるのは左側だけっぽい。右側面のボタンにはGoogleアシスタントが割り当てられている

 プロセッサーにはMediaTekのHelio X27(2.6/2.0/1.6GHzの10コア)を搭載している(初期ロットのみ同X25搭載)。システムメモリーは4GB、内蔵ストレージは64GBと、よほどヘビーに使わない限り問題のないスペックとなっている。指紋などの生体認証機能は搭載しない。

 最低限のLTEバンドやVoLTE、CDMAにも対応しているが、SIMカードスロットはナゼかmicroSIM仕様で1個のみだ(あとeSIM内蔵だがいまのところ使い道なし)。筆者はいまのところmineoのドコモ回線で試しているが、基本的に不満はないものの、一部の地下の飲食店で接続できないことがあったので、日本独自バンドへの対応がやや甘いことの影響は小さくなさそうだ。ちなみに国内の主要MVNOのAPN設定がプリセットされていて、たとえばmineoは手入力せずに選ぶだけで接続できた。ここは海外スタートアップ製スマートフォンとは思えない充実ぶりである。

 折りたたんだときのサイズは171.4×79.3×15.1mmで、重さは約320g。大ざっぱにいえば大きめのスマホを2枚重ねたサイズ、といったところだろう。ズボンのポケットに入れるにはやや大きいが、カバンに入れるには小さすぎるくらいのコンパクトサイズである。

ディスプレイ部の傾きは調整できないが、横長でスタンドなしに自立するので、動画視聴でも使いやすい

 文字入力用途以外でも、動画視聴もそこそこ快適だ。スピーカーはそれなりの音しかでないがステレオなので、ちょっとした動画なら外付けスピーカーなしでも良いかなと思える。一方で横長表示でもキーボードが邪魔で画面をタップしづらいことがあるので、ゲーム用途にはあまり向いていないと感じた。

 画面が露出せず、カバンで持ち運ぶようなサイズなため、通知の確認はやや面倒だ。別のスマホを併用せずにGemini PDAをメイン端末として使うなら、Android Wearやソニーモバイルの「Xperia Ear Duo」など、Gemini PDAを開かずに通知確認できるようなウェアラブルデバイスの併用をお勧めしたい。

 ちなみに筆者はGemini PDA上では日本語入力に「Google日本語入力」を使っている。インライン変換対応で、分節操作もパソコン環境(筆者はMac+ATOKユーザーだがナゼかMS-IME準拠操作に慣れている)に似ているので気に入っている。カタカナや英数への変換はパソコンなどと同じようにCTRL+U/I/O/Pでできるのもポイントだ。

エディターアプリの「Simplenote」。Gemini PDAとは相性の良いアプリだ

 テキストエディターとしては、同期を含めた動作が軽くてマルチプラットフォーム対応の「Simplenote」を使っている。ほかのテキストエディタはあまり試していないが、たとえば筆者がMacやiOSで愛用している「iA Writer」のAndroid版は、文字入力中のカーソル操作がアプリ側に乗っ取られ、分節変換操作が正常にできなかった。CTRL+U/I/O/P操作がぶつかるアプリもあるようなので、快適な日本語入力のためにはエディターアプリも選ぶ必要がありそうだ。

 タッチタイピングできるキーボードは、メッセージやメールの入力にも便利なはずなのだが、実際に使ってみると、ほとんどのメッセージアプリは縦長画面前提でデザインされていて、Gemini PDAだと視認性が悪く、実用性が若干低い印象を受けた。メッセージのような短文のやり取りならば、普通のスマホの方が使いやすいかも知れない。

折りたためばハンドヘルドサイズ。このまま本体を開かずに通話やGoogleアシスタントが使えたりする

 普通のスマホも一緒に持ち歩くなら、Bluetoothキーボードを持ち歩けばいいじゃん、という突っ込みがありそうだが、それはその通りでもある。しかし個人的な考えだが、iPhone(iOS)はBluetoothキーボードによる日本語入力環境が少々ヘッポコなので、それならGemini PDAを持ち歩く方がいいかな、と思っている。

 Androidユーザーであれば、Gemini PDA+普通のAndroidスマホと持ち歩くより、Bluetoothキーボード+普通のAndroidスマホと持ち歩いた方が良いかも知れない。AndroidだとBluetoothキーボードでも内蔵キーボード同様に快適な日本語入力ができるし、Gemini PDAよりも日本語入力しやすい折りたたみキーボードは多数ある。そしてGemini PDAよりもBluetoothキーボードの方が安価だ。

 Gemini PDAは文字入力専用と言っても差し支えないくらい、文字入力がしやすく、一方で文字入力以外の用途は若干の制限のある端末である。しかし320gのコンパクトボディとLTEによる常時接続という機動力は、ほかのタッチタイピングできるデバイスにはない大きな魅力だ。

 Gemini PDAをメインのスマホとし、それだけを持ち歩くのは、縦長前提のアプリの使いにくさや通知確認の手間を考えると、ちょっとおすすめしにくい。どちらかというと、ノートパソコンの代用ができるというのがGemini PDAの位置づけだろう。

 実際のところ、キーの作りや配列、慣れの問題から、入力速度はノートパソコンの方が速いので、筆者はいまでもインタビュー取材なんかではノートパソコンを使っている。インタビューほど文字入力が必要ない発表会や説明会の取材では、Gemini PDAで済ませることが多い。やはり320gで済むというのは機動力の面で大きなメリットだ。文章を書く機会の多い職業や学生で、とにかく気軽に文字入力環境を持ち歩きたい人は、Gemini PDAを検討してみる価値がありそうだ。

製品名発売元実売価格
Gemini PDAPlanet Computers9万9800円