法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」
TizenとFirefox OSから見え隠れするスマホのこれから
(2013/3/27 11:00)
2013年2月25日からスペインのバルセロナで開催されていた世界最大の携帯電話の展示会「Mobile World Congress 2013」。本誌ではすでに現地からの速報レポートを数多く掲載された。諸般の事情で、開催から間隔が空いてしまったが、ここではそれらのレポートを踏まえながら、筆者が見てきた全体の印象やそれぞれの発表内容の位置付けなどについて、まとめてみよう。
Fira Barcelona MontjuicからFira Barcelona Gran Viaへ
世界最大の携帯電話の展示会「Mobile World Congress」(以下MWC)は、例年、スペインのバルセロナで開催されている。今回も引き続き、同じバルセロナで開催されたが、実は会場をこれまでの「Fira Montjuic」から「Fira Barcelona Gran Via」に移し、新たなスタートを切った。現地に出向いていない人には今ひとつその感覚がわかりにくいかもしれないが、従来の会場はかつての晴海の見本市会場のように、いくつもの建物を拡張しながら、つなぎあわせ、周囲との区画を区切った少し古めかしい印象だったのに対し、2013年の会場は幕張メッセや東京ビッグサイトのように、ひとつのデザインに統一された8つのホールで構成され、近代的な展示会場となっている。距離にして、わずか数kmしか離れていないが、展示会全体のイメージも大きく様変わりした印象だ。当然のことながら、展示スペースも拡大し、来場者も一気に増えたわけだが、その背景には近年のスマートフォンやタブレットをはじめとした新しい製品群や関連サービスの出展が増えてきたことに関係している。
すでに、本誌で過去のMWC関連の記事を読んでいただいた読者のみなさんにはくり返しになるが、MWC 2013は1月に米国・ラスベガスで開催される「Consumer Electronics Show」(CES)、9月にドイツ・ベルリンで開催される「IFA」といった他の展示会と違い、少し特殊な位置付けにある。国内で開催されるCEATEC JAPANやWIRELSS JAPANをはじめ、他の多くの展示会は、一般消費者へのアピールやプロモーション、各出展社の商談の場などを目的としているが、MWCは業界に関わる人たちの商談を中心としており、一般消費者は基本的に参加できない。そのため、参加登録のための費用も他の展示会に比べ、数万円以上と高額になっている。こう書いてしまうと、非常に閉鎖的な展示会のように捉えられてしまいそうだが、業界の関わる携帯電話事業者やメーカー、ソフトウェアベンダー、販社など、さまざまな企業が参加しており、非常に内容の濃い展示会となっている。
次なる方向性を模索するMWC 2013
こうした展示会の特徴を踏まえ、例年は各関連企業がMWC開催に合わせ、新製品や新サービスを発表し、発表されたばかりの製品をMWCの自社ブースに展示することで、各社との商談を進めるという動きになっている。
具体的には会期開始直前の日曜日に、サムスンやソニーモバイル(従来はソニー・エリクソン)がほぼ近い時間帯でプレスカンファレンスを開催し、プレス関係者がいずれかのイベントにしか出られないという、まるで『踏み絵』のような形で実施していたが、今年はHTCが会期の前の週にイギリス・ロンドンでプレスイベントを開催し、サムスンも直前にGALAXY Note 8.0を発表するなど、MWCに合わせてはいるものの、必ずしもバルセロナでプレスカンファレンスを実施しないという形をとった。ソニーモバイルも今年のフラッグシップに位置付けられる「Xperia Z」を2013 International CESで発表済みで、今回は同じデザインコンセプトで設計された「Xperia Tablet Z」の発表に留まっている。
こうした各社の動きについて、「MWC離れではないか」と見る向きもあったが、前述のように、今年は会場が新しくなるなど、人の動きが読めない部分もあり、こうした対応になったという見方もできる。また、スマートフォンやタブレットの新製品のみで、競争がくり広げられる時代は一休みの状態に入り、プラットフォームを巡る新しい競争のように、携帯電話業界のトピックが次のステップへ動き出そうとしているという指摘もある。新製品こそ、少なかった感は否めないが、今回のMWC 2013は業界全体として、次なる方向性を模索しようと動き出していることをうかがわせるイベントだったと言えそうだ。
「Firefox OS」と「Tizen」に見る『次なるプラットフォーム』への期待
MWC 2013において、もっとも大きなトピックと言えば、それは端末でもなければ、サービスでもなく、やはり、新しいプラットフォームということになるだろう。Mozilla Foundationによる「Firefox OS」、Tizen Associationによる「Tizen(タイゼン)」がそれぞれイベントを開催し、会場でも関連製品の展示がたいへん注目を集めた。
それぞれのプラットフォームの詳細については、それぞれのプレスカンファレンスの内容や関係者のインタビューを参照していただきたいが、ユーザーとしては「なぜ、今、新しいプラットフォームなのか?」が気になるところだ。
- Firefox OSの展開拡大、KDDIも取り組み
- KDDIに聞くFirefox OS導入の狙い
- Mozilla、Firefox OS搭載機でアピール
- 今春登場、Firefox OSスマホ「keon」と「peak」
- 最新端末や新OSについて語るファーウェイ
- ZTE、5.7インチのハイエンドスマホと世界初のFirefox OS端末発表
- ドコモ、Tizen搭載端末を下期に発売へ
- Tizenの可能性を語るドコモ永田氏
現在、スマートフォンのプラットフォームとしては、Googleを中心としたOHA(Open Handset Alliance)が普及を進めている「Android」、iPhoneやiPadなどに搭載されているAppleの「iOS」が圧倒的に普及しており、これをマイクロソフトが展開する「Windows Phone」が追いかけようとしている図式だ。このほかにもBlackBerry(旧Research In Motion)の「BlackBerry」、NOKIAから継承した「Symbian」などが存在するが、実質的にはiPhoneを中心としたiOS、世界中のメーカーが手掛けるAndroidの一騎打ちとなっており、ユーザーがスマートフォンを利用するうえでは、ほかのプラットフォームを求める声はあまり聞こえてこない。
ただ、それはユーザー側の判断であって、携帯電話事業者や端末メーカーとしては、異なるプラットフォームの必要性を強く感じているようだ。iOSはAppleのみが採用するため、他メーカーにとってはあまり関係ないが、Androidについてはここ数年の急速なバージョンアップに加え、俗に「Tier 1」と呼ばれる特定メーカーのみに先行して仕様が公開されたり、Googleが求める仕様を満たさなければ、Androidスマートフォンとして認定されず、Googleの各サービスのアプリが利用できないなど、携帯電話事業者や端末メーカーから見れば、やや扱いにくい面が見えてきている。そこで、Androidとは別に、もう少し自由度の高いプラットフォームを求めていたという事情が背景に見え隠れする。
また、AndroidにしてもiOSにしてもかつてのiモードをはじめとした日本のケータイビジネスと同じように、垂直統合型でビジネスモデルが構築されており、携帯電話事業者や端末メーカーが独自性を打ち出しにくいと指摘する声も多い。
たとえば、音楽にしてもビデオにしても電子書籍にしても、基本的にはプラットフォームを提供するAppleやGoogleが中心を握っており、携帯電話事業者や端末メーカーは手を出しにくく、手を出したとしてもなかなかビジネスとして成功が難しいとされている。国内ではauがiOS向けにスマートパスやビデオパス、うたパスを導入し、アプリ配信についてもAndroidプラットフォーム向けに独自のau Marketを展開しているが、こうした例は非常に珍しいと言われており、ほとんどの携帯電話事業者や端末メーカーは独自色を出しにくい状況にある。
Firefox OSもTizenもWebアプリ、超えなければならない壁
さらに、Firefox OSもTizenも共通して掲げているが、HTML5によって動作するWebアプリを利用するとしている。これもHTML5の標準化完了が2014年に控えているため、そこを目指して動き出したという意味合いがある。
「HTML5によるWebアプリ」と言われてもスマートフォンのユーザーにはまったくピンと来ないかもしれないが、思い切った意訳で説明すると、これまでのスマートフォンはパソコンのWindowsのように、特定のハードウェアのアーキテクチャやプラットフォームのみで動く仕様であるに対し、HTML5によるWebアプリはInternet ExplorerやFirefox、Chrome、Opera、Safariなど、さまざまなブラウザで同じWebページが閲覧できることと同じように、ハードウェアに依存せず、動作させられるという特徴を持つ。もちろん、細かい部分を指摘すれば、もっと大きな違いがあるが、ちょっと乱暴に意訳すると、そんなイメージなる。
こうした状況は、Tizenに米Intelが積極的に関わろうとしていることからもうかがえる。Intelと言えば、パソコンのCPUでは圧倒的なシェアを持つが、スマートフォンではグローバル市場向けにLenovoなどが採用モデルをリリースしているものの、基本的に少数派でしかない。これはIntelがx86アーキテクチャを採用しているのに対し、現在のAndroidスマートフォンの主流はARMアーキテクチャであり、なかでも米QUALCOMMが圧倒的な強さを発揮している。
Intelとしては、何とかAndroidスマートフォンでもパソコン市場のような存在感を示したいが、x86アーキテクチャで動作するアプリが少ないため、端末メーカーもCPUの採用に踏み切れない状況にある。Windowsパソコンで何度となく、ARMアーキテクチャのCPUを搭載したパソコンが企画されながら、まったく成功しなかったことの裏返しがスマートフォンで起きているわけだ。これがHTML5ベースで動作するスマートフォンのプラットフォームが主流になれば、アプリに動作について、CPUがどのアーキテクチャであるかはほぼ関係なくなるため、Intelとしても端末メーカーに売り込みやすくなるわけだ。
ただ、Firefoxにせよ、Tizenにせよ、スマートフォンのプラットフォームがHTMLベースのWebアプリで動作する環境に移行するには、まだまだ超えなければならない壁がいくつも存在する。たとえば、パフォーマンスもそのひとつだ。今回、Firefox OSとTizenのプレスカンファレンスでは、それぞれのプラットフォームで開発された端末が公開され、MWC 2013の各社のブースでもデモ機を試すことができたが、現在のAndroidスマートフォンやiPhoneのように、「サクサクで快適!」といったレベルではなく、「もっさり」という表現ほどではないものの、数年前のAndroidスマートフォンを触っているような印象なのだ。
Tizenのプレスカンファレンス後、日本の記者の囲み取材に応じたNTTドコモの永田氏は、「日本向けに製品化するときは、必ずしもHTML5のみということではなく、 部分的にネイティブで動作するものも入れながら、構成できるようにする」と語っており、パフォーマンスのことは十分に念頭に入れながら、端末を開発することを明らかにしている。
「Firefox OS」はどう製品化されるのか
ユーザーとしてはまだイメージしにくい「Firefox OS」と「Tizen」だが、今後、それぞれのプラットフォームがどういう製品、どういうスマートフォンにまとめられていくのかは気になるところだ。
まず、Firefox OSについては、プレスカンファレンスの内容や各社の動向を見る限り、どちらかと言えば、低価格帯の普及モデルでスマートフォンを製品化したい意向だ。スマートフォンが世界的な市場の流れになっていることは誰もが認めるところだが、携帯電話市場全体がこれだけ成長してきた背景には、やはり、低価格帯のモデルが開発され、新興国を含めた市場に拡大してきたことが挙げられる。市場の流れがスマートフォンに向かうのであれば、当然、そういった市場にもスマートフォンが必要になるわけで、Firefox OSにはそういった市場へ投入できる製品化が期待されている。
ただ、Firefox OSのプレスカンファレンスで明らかにされたパートナー企業には名を連ねていなかったものの、MWC会期中、ソニーモバイルがスペインのTelefonicaと共同でFirefox OS搭載スマートフォン開発を検討することが発表されており、必ずしも最低価格ゾーンだけがFirefox OSのテリトリーだと認識されているわけでもなさそうだ。
また、パートナー企業に名を連ねているKDDIの動向も気になるところだ。Firefox OSのプレスカンファレンスなどで、日本のプレスに対応したKDDI 取締役 執行役員専務 石川雄三氏のコメントなどを聞いた範囲では、Firefox OSに対して、自らが日本市場で培ってきたケータイやスマートフォンのセキュリティなどのノウハウを提供していく姿勢を持っているものの、まだ明確な製品の方向性は決まっていないようだ。ただ、国内市場全体がスマートフォンへシフトしていく中、すべてのユーザーのニーズをスマートフォンで対応できるとは考えておらず、そのひとつの選択肢として、Firefox OS搭載スマートフォンを開発することになりそうだ。
auは現在販売されている「INFOBAR A02」をはじめ、機能やデザインを作り込んだモデルの開発を得意としてきたが、自由度の高いFirefox OSをそういった方向性のスマートフォンに搭載する可能性は十分に考えられそうだ。田中孝司代表取締役社長が会見などでコメントしているように、もし、本当にHTML5の可能性を最大限に活かしたいのであれば、逆に必要以上の作り込みをせず、Webアプリを存分に楽しめるような「いじりやすいスマートフォン」が作られるかもしれないが、そうなってくると、auがAndroidプラットフォームやiOS向けに提供してきたサービスが活かしにくくなるため、なかなか舵取が難しいところだ。
「Tizen」はどう製品化されるのか
一方、Tizenについては、すでに報じられているように、NTTドコモが早ければ、年内にも製品を投入する見込みだが、製品の方向性についてはあまり語られていない。Tizenは元々、Linuxベースの携帯電話向けプラットフォームの「LiMo」、Intel主導の「Moblin」とNokiaの「Maemo」を統合する形で生まれた「MeeGo」の流れをくみ、サムスンも自社のプラットフォーム「Bada」を統合する方向性が打ち出すなど、業界中のLinux関連プラットフォームが統合されたような図式になっている。
この図式を称して、あるジャーナリストはTizenのイベント後の囲み取材の場で、Tizen AssociationのChairmanを務めるNTTドコモ 取締役執行役員 永田清人氏に対して、「言い方が悪いですけど、Tizenって、負け組の集まりのような印象が……」と指摘し、永田氏も苦笑いをしながら答えていたが、Tizenはこれまでさまざまな形で取り組まれてきたLinuxベースのプラットフォームや団体が手を結び、Androidプラットフォームよりも自由度が高いプラットフォームとして活用していきたい考えのようだ。
Firefox OSについても「自由度が高い」という表現が使われるが、Firefox OSは「オープンソース的な自由」であるのに対し、Tizenは携帯電話業者やメーカーが思うような製品を作りやすいという意味の自由度である点が異なる。特に、Tizen AssociationにはNTTドコモ以外に、英Vodafoneや仏Orangeといった大手携帯電話事業者が名を連ねており、これらの事業者が自社サービスに特化したり、連携したスマートフォンを開発してくることが十分に考えられる。
特に、NTTドコモは前述のFirefox OSのKDDIと同じように、国内市場がスマートフォンへ移行していく中、フィーチャーフォンをはじめ、らくらくホンやキッズケータイ、ジュニア向けスマートフォンなど、多様なラインアップを揃えなければならず、そういった製品群にTizenを搭載したモデルを投入してくることが推察される。もちろん、現状でもAndroidプラットフォームでそういったモデルが開発できているが、やはり、Googleサービスをどう扱うか、決済などのしくみも含め、現状のAndroidプラットフォームでは扱いにくい面が多いと言われているため、その解として、Tizenプラットフォームが活用されることになりそうだ。
こう書いてしまうと、Firefox OSもTizenも現状のスマートフォンとフィーチャーフォンの中間的な位置付けのスマートフォンが登場することになりそうだが、Firefox OSの方が現在のAndroidスマートフォンのように、グローバルモデルとの共通性が高いモデルが多くなりそうなのに対し、Tizenは各地域の携帯電話事業者のカスタムモデルがより多くなりそうだと予想される。もちろん、これはあくまでも予想に過ぎないので、最終的には図式が変わってくるかもしれないが、全体的な方向性はFirefox OSとTizenで微妙に異なるものになるという印象だ。
ハイスペックの追求は一段落?
冒頭でも触れたように、今回のMWC 2013では従来のように、サムスンやソニーといったビッグネームが会期開始前日のイベントを催さなかったが、ファーウェイ、ZTE、ASUSなどがプレスカンファレンスで新製品を発表している。また、ソニーもプレスカンファレンスでWi-Fiモデルを含むXperia Tablet Zを発表した。それぞれの製品については、個々のレポート記事を参照していただきたいが、一連のプレスカンファレンスなどに参加して、ひとつ見えてきたのはスマートフォンの方向性が少し変わりつつあるという点だ。
これは昨年後半あたりから国内でも言われてきたことだが、各社のスマートフォンにやや行き詰まりが感じられるのだ。これまで、各メーカーは最新のプラットフォーム、高速なプロセッサ、より大きく視認性の高いディスプレイ、大容量のRAM/ROM、高画素カメラを搭載し、ハイスペックなスマートフォンを開発し、市場に投入してきたが、スマートフォンをウォッチし続けているような感度の高い人たちを除いてしまうと、各社のスマートフォンはスペック的にもデザイン的にもあまり大きな差がなくなりつつある。特に、国内市場の場合、ハイスペック指向が強く、機能チェックで○×を付け、×がないモデルが選ばれる傾向が明確に出ている。こうしたスペック以外に、ユーザーが選ぶ要素は各メーカーやシリーズが持つブランド力、感度の高いユーザーやすでに使っているユーザーからのクチコミに頼らざるを得ない状況になりつつある。
国内と海外では少し事情が違うが、それでも今回のMWC 2013の各社のプレスカンファレンスを見ていると、似たような状況をうかがわせる面がいくつもあった。たとえば、ファーウェイのプレスカンファレンスでは同社のフラッグシップモデルに位置付けられる「Ascend P2」が発表されたが、イベントの前半、相当な時間を割いて、同社ブランド力向上に対する取り組みが積極的にアピールされていた。ちなみに、このときに発表された「Ascend P2」はMWC 2013会期前の2月21日にイー・モバイルから発表された「STREAM X GL07S」のベースモデルであり、我々のような日本のプレスから見れば、まったく新製品とは言えない印象もあった。
同じ中国メーカーのZTEもよく似た印象で、5.7インチのディスプレイを搭載したハイエンドスマートフォン「Grand Memo」を発表したが、こちらもどちらかと言えば、ハイスペックで推すスマートフォンであり、デザインやユーザービリティの面において、今までと違うような新しい取り組みは見られない。むしろ、ZTEについては、今回、前述のFirefox OS搭載モデルを発表していたこともあり、プレスカンファレンスの参加者の興味はそちらに傾いていたような印象を受けた。
日本勢の動向、ソニーモバイルの存在感
こうした状況に対し、日本勢ではやはりソニーモバイルの存在感が圧倒的に強く、会場でも常にブースに多くの人が訪れていた。International CESのように、コンシューマ家電中心のイベントではないため、展示内容はモバイル製品が主役だが、国内外で販売されているXperia Z向けのアクセサリー類もショーケースに並べるなど、Xperia ZとXperia Tablet Zを軸にした世界観の展開は、ブランドを持つ強みを感じさせた。
他の国内メーカーでは、NECカシオの二画面スマートフォン「MEDIAS W」が注目を集めていた。筆者もNECカシオのブースに何度となく、足を運んだのだが、MEDIAS Wの展示スペースは常に人だかりができており、説明員が対応に追われていた。説明を聞きに来ているのは業界関係者になるが、なかには海外のライバルメーカーの担当者が訪れ、説明員が目を離した隙に、端末を分解しようとして、止められるといった一幕も何度となくあったようだ。さらに、説明の順番待ちをしている人たちがその隣に置いてあるタフネスモデルの「G'zOne」や「MEDIAS U」にも興味を持つなど、副次的なアピールにも成功することもあったという。
また、タフネスという点では、京セラは北米向けに展開するタフネスモデル「TORQUE」を出品しており、こちらも注目を集めていた。北米市場以外への展開はまだ何も決まっていないそうだが、ぜひとも日本での展開を期待したいモデルのひとつだ。ちなみに、京セラブースでも同様に、海外のライバルメーカーの担当者が訪れ、目を離した隙にカバーなどを開けられてしまうことがあったという。
そして、すでに結果を出しつつ、今後の展開が期待されるのが富士通だ。富士通は「らくらくスマートフォン」の海外向けモデル「STYLISTIC S01」が仏Orangeに採用されたことで、海外の携帯電話事業者や代理店からも注目されるようになり、本格的に海外展開の足掛りをつかんだ格好だ。昨年までの日本向けモデルを見せていた展示とは大きく変わり、明確に海外向けを謳えるモデルを前面に押し出して、アピールしていた格好だ。本誌に掲載されたインタビューでも語られているが、シニア向けモデルに対するニーズは各国共通のものであり、今後、さらに多くの国と地域に展開されていくことが期待される。
行き詰まり感のあるスマホ市場への光り
やや日本びいきに見てしまう部分があるのかもしれないが、これらのソニー、NECカシオ、京セラ、富士通に対する反響は、行き詰まり感がある国内外のスマートフォン市場に対する答えが見え隠れする。
というのもこれらのスマートフォンは、他のモデルにはない「世界観」「二画面」「タフネス」「シニア」といった個性やキーワードを持っているからだ。かつてのパソコンの世界がそうだったように、製品が広く市場に普及していく中で、埋没せずに競争に生き残っていくためには、ユーザーにとって、わかりやすい個性やキーワードが必要となってくる。MWC 2013ではこれらの製品が注目を集めたが、この1年くらいの期間を国内市場の製品で振り返ってみると、サムスンのGALAXY Noteの「ペン入力」、シャープのIGZO搭載液晶による「省電力」などもわかりやすいキーワードであり、こうした明確な個性を持てるスマートフォンが今後の市場を牽引することになりそうだ。
ただ、その一方で、市場全体を拡大していくためには、今回のFirefox OS搭載スマートフォンのように、低価格帯のゾーンを狙う製品も必要になってくる。少し極端な例になるが、Nokiaは今回、15ユーロ(約1800円)という衝撃的な価格を実現したGSMフィーチャーフォン「Nokia 105」を出品し、業界を驚かせたが、デザインのテイストは同社のWindows Phone「Lumia」のものを受け継いでおり、シンプルながらもわかりやすいデザインで仕上げられているという印象だ。日本市場ではこうした割り切ったモデルは難しいかもしれないが、スマートフォン全盛の時代だからこそ、音声通話やメールに特化したモデルも本来はもっと考えられるべきなのかもしれない。