【Interop Tokyo 2013】

「Firefox OS」は未完成、瀧田氏がMozillaの目指す未来を語る

 興味がある人、一緒にやりましょう!――Interop Tokyo 2013の併設イベント「スマートデバイスジャパン 2013」の基調講演において、Mozilla Japanの代表理事である瀧田佐登子氏は呼びかけた。

Mozillaの瀧田氏

 スマートフォンの端末プラットフォームがiOSとAndroidに二分される中、第三極として注目が集まるのが「Firefox OS」「Tizen」などの新興プラットフォームだ。講演では、「モバイル界に真のオープンを ~Firefox OSがもたらすもの~」と題し、WebOSの中でも活発な動きが見られる「Firefox OS」について、その目指す方向が示された。

 Firefox OSは、海外の通信事業者ではテレフォニカが採用に名乗りを挙げた。既報の通り国内では、KDDIがパートナー企業として参加している。部材メーカーとしてはクアルコムやARMなども名を連ねている。

 端末プラットフォームが事実上、二極化している中にあって、Firefox OSやTizen、Ubuntuなど、オープンであることを1つの売りにしたプラットフォームがメディアを賑わせている。瀧田氏はスペインで開発者向けモデルとして投入されたFirefox OS端末を手に、「第三のOSだとメディアが少し騒ぎすぎかな」と話し始めた。

非営利の意味

 Mozillaは企業ではなく、非営利の組織だ。その目的は、ネットをより良い健全なものにすると共に、全てのユーザーにWeb環境を提供するというもので、オープンソースのコミュニティとなっている。パソコン向けWebブラウザ「Netscape Communicator」を提供していたネットスケープコミュニケーションズが、1998年1月にソースコードを解放し、これが後のMozilla Foundationになる。瀧田氏は、まずMozillaがそうした出自を持つ非営利組織であることを説明した。

 iOSとAndroidでスマートフォン市場は世界的にも活況と言っていいだろう。そうした中で、Firefox OSのような新しいOSは必要なのか。こうした疑問に瀧田氏は、パソコンにおけるIneternet Explorerを例に出す。

 「IEで世の中全てがそれでいい、Webの環境はすでに整っているとされていた。そこにブラウザのFirefoxをリリースし、新たな選択肢ができたとき、それまで停滞していたWebの技術革新が起こった」と話し、「アップルとグーグルの2つで市場が独占状態。Mozillaからすれば、パソコンのブラウザ戦争とほぼ同じ状況」と続ける。

 Mozillaでは、Firefox製品を提供するのが使命ではない、とする。プロダクトはあくまでも通過点であり、より良い環境を構築することこそ使命、というわけだ。HTML5の登場によって、Webベースで開発したものが端末やプラットフォームに依ることなく、マルチデバイス展開できるようになった。Firefox OSの登場について、瀧田氏は「プロプライエタリー(独占的)な世界からオープンな世界へ。ちょうどその幕が開こうとしている」と話した。

クオリティ重視の国

 瀧田氏は語る。

 「オープンソースでしょ? 本当にプロダクトが出てくるの? とよく聞かれる。Mozilla Japanでもいろいろな企業に是非使って欲しいと話をしたが、いつクオリティの良い物が出てくるの? と言われる。日本はクオリティ重視の国で、そこで1年半、皆さんに自信を持ってお勧めできるタイミングを待った。一緒にやってもいいよ、と言われるベースができたと思う」

 さらに続けて、「なんだ今のスマホと変わらないじゃないかと言われるかもしれない。でも、Firefox OSは全てWebのアプリケーション」と述べ、電話機能やカメラ機能といった基本機能を紹介した。デモンストレーションでは、WebでできることはFirefox OSでは全てでき、Firefox OS用に開発する必要はない、とされた。現状投入されているモデルは、日本のローエンド端末ぐらいには動作すると紹介された。

 iOSやAndroid端末のようにいわゆるネイティブアプリという考えがなく、WebOSではOS自体がブラウザとなる。アプリ配信マーケットについても、オープンなものだとする。瀧田氏は「既存のスマホはいろいろなマーケットがあり、独自仕様のプラットフォームになりがち。これまでの世界は独自プラットフォームで、会社の都合もあって、企業支配や制約をすごく受けやすい。Mozillaは非営利組織であり、ビジネスは皆さんにお任せし、関与しない。夢を描く環境を作り続けるのが使命」と説明した。

未完成のFirefox OS

 また、ネイティブアプリ向けの変換ツールを用意する一方で、瀧田氏は「世の中を変えるときに何が必要か。極端なことしなければ世の中は変わらない」と語る。Firefox OSは、端末プラットフォームを提供する企業や、携帯電話会社の垂直統合型のモデルではなく、水平分散型のモデルであるとする。

 水平分散型のオープンコミュニティにおいて、「口は出すけど何もしないはありえない」と瀧田氏は言う。同氏の説明によれば、Firefox OSは現時点で完成品ではなく、あくまでも通過点であり、パートナー各社を含めたコミュニティによって醸成されるものというわけだ。

 ローエンド向けの端末プラットフォームと見る向きもあるが、瀧田氏はそれを否定する。新興国のユーザーが多いテレフォニカが最初に手を挙げ、スマートフォンが高価で買いにくいユーザーでも購入しやすい製品が供給できる点をアピールし、MozillaとしてもそういったエリアにWeb環境を広められるチャンス、利害が一致した点を説明した。

 瀧田氏は、「しかし、日本の企業はまだ少ない。日本は組込大国でもある。チップデバイスメーカーの方、一緒にやりましょう! 我々は単にスマートフォンのOSを出しているわけではなく、いろいろなデバイスに展開できる。すでに気づいて取り組んでいる人もいる」と話した。Firefoxのテーマカラーであるオレンジのジャケットに身を包み、「今年のラッキーカラーはオレンジ、どうもありがとう!」と締めくくった。

 なお、イベントでは、Firefox OSのブースも出展されており、ユーザーの高い関心を集めていた。

津田 啓夢