Wi-Fiでモバイルブロードバンドの拡大を目指すソフトバンク

法林岳之
1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows Vista」「できるPRO BlackBerry サーバー構築」(インプレスジャパン)、「お父さんのための携帯電話ABC」(NHK出版)など、著書も多数。ホームページはPC用の他、各ケータイに対応。Impress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。


 11月10日、ソフトバンクは2009年冬から2010年春に掛けて、販売を予定している新モデル21機種を発表した。例年、ソフトバンクは春、夏、秋冬と、年3回の商戦向けに発表会を催してきたが、今回は昨年11月のNTTドコモ、今年10月のauに引き続き、冬商戦と春商戦向けの端末ラインアップを一気に発表することになった。発表会の詳細な内容は、すでに本誌レポートが掲載されているので、そちらを参照していただきたいが、ここでは筆者が感じた発表会の印象をはじめ、タッチ&トライで得た端末の簡単なインプレッション、ラインアップ全体の捉え方などについて、紹介しよう。

「ケータイ=Wi-Fi」でモバイルブロードバンドを加速する

 2006年にボーダフォンを買収して以来、さまざまな形で日本のケータイ市場に影響を与えてきたソフトバンク。新商品・新サービスを発表会を催す度、いろいろなキーワードを掲げ、自らのサービスの方向性を積極的にアピールしてきた。代表的なものとしては、2008年夏の「女性」、2008年冬の「TOUCH」、2007年冬の「PREMIUM」と「キャラケー」などが記憶に残っている。

 今回、ソフトバンクがキーワードとして、掲げてきたのは「Wi-Fi」、つまり、無線LANだ。ここ数年、iPhoneをはじめ、スマートフォンなどを中心に、ケータイのカテゴリーでも徐々にWi-Fiが普及の兆しを見せつつある。ソフトバンクとしては、Yahoo!BBで国内のブロードバンドインターネットの低廉化を実現したこともあり、「ケータイ=Wi-Fi」というキャッチコピーとともに、積極的にWi-Fiの利用できる端末やサービスを提供し、ケータイの世界でもブロードバンドを拡大しようという構えだ。

 Wi-Fiについては、本誌を愛読してくれている読者のみなさんなら、すでによくご存知だろうが、ここで確認のために、もう一度、おさらいをしておきたい。Wi-Fiは無線LANのことを意味しているが、簡単に言ってしまえば、パソコンで利用しているLAN(Local Area Network)をワイヤレス化したものであり、100BASE-TXなどのEthernetケーブルを電波に置き換えたものだ。たとえば、オフィスであれば、LANポートがない会議室でも社内のネットワークに接続したり、家庭内であれば、光ファイバーやADSLなどのブロードバンド回線が引き込まれた場所から離れた部屋でもワイヤレスでインターネットが利用することができる。

 ケータイも同じくワイヤレスでインターネットが利用できるが、ケータイが1つの基地局で数kmの範囲をカバーしているのに対し、Wi-Fiは基本的に数十m程度の範囲しかカバーできない。その代わり、ケータイの通信速度が今のところ、HSDPAによる下り方向で最大7.2Mbpsとなっているのに対し、Wi-Fiはもっとも広く普及している2.4GHz帯を利用するIEEE802.11g、5.2GHz帯を利用するIEEE802.11aのいずれもが上り下りともに最大54Mbpsで通信をすることができる。単純計算になるが、ソフトバンクの3Gハイスピードの7倍以上の速度で通信ができることになる。

 高速通信が魅力的なWi-Fiだが、いくつか制約もある。たとえば、前述のように、利用できるエリアは無線LANアクセスポイント(無線LANルーター)などが設置された自宅やオフィスが基本であり、その範囲を出てしまうと利用することができない。街中であれば、ファストフード店やカフェ、空港、駅などに設置された公衆無線LANサービスを利用することができるが、利用できる範囲は無線LANアクセスポイントからの電波の届く範囲に限られており、ケータイのサービスのように、広いエリアを移動しながら、使い続けることはできない。

 また、Wi-Fiは通常の3Gの通信に比べ、電力消費も大きいため、ケータイのようにバッテリー容量があまり大きくない機器で連続的に利用すると、あっという間に電池残量が厳しい状態になってしまう。裏を返せば、端末メーカーはいかに電力消費を抑えつつ、ロングライフを実現するのかが開発の腕の見せどころということになる。

 こうした特徴を持つWi-Fiを一般的なケータイに搭載し、Wi-Fiのエリアでは高速通信を利用できるようにしたり、大容量のコンテンツを楽しめるようにしようというのがソフトバンクの「ケータイ=Wi-Fi」の考え方だ。ソフトバンクでは今夏、「ケータイ無線LAN」の名称でサービスを発表し、対応機種として、NEC製端末の「931N」を発売する予定だったが、これを発展的に解消し、提供することになるのが今回発表された「ケータイWi-Fi」というサービスだ。



 発表会のレポートにもあるように、ソフトバンクが提供するケータイWi-Fiは、「Wi-Fiバリューパック」への加入が必須であり、月額基本使用料は490円(2010年12月31日までに加入の場合は無料)、専用パケット定額料が月々4410円という料金が設定されている。このWi-Fiバリューパックの専用パケット定額料はパケットし放題やパケット定額のような二段階定額制ではなく、かつてのNTTドコモのパケ・ホーダイのように、利用の有無にかかわらず、必ず毎月4410円が請求される。ただし、Wi-Fiエリアでの通信も3Gでの通信も定額制の対象となるため、すでにパケットし放題で上限に達しているユーザーはほぼ同じ支払額で、ソフトバンクが提供する公衆無線LANサービスの「ソフトバンクWi-Fiスポット」を無料で利用できる権利が得られることになる。

 今回の発表会では、このケータイWi-Fiに対応した端末8機種をはじめ、データ通信アダプタやフォトフレームなど、合計21機種が発表された。この21機種には開発メーカー未公表ながら、来春発売予定のAndroid端末も含まれる。

 まず、シリーズ別で見てみると、9xxシリーズが9機種、8xxシリーズが5機種、7xxシリーズが2機種、Xシリーズが2機種、データ通信アダプタが2機種、フォトフレームが1機種、シリーズ未定のAndroid端末が1機種という構成になっている。メーカー別では、シャープが7機種ともっとも多く、これにパナソニック モバイルコミュニケーションズが5機種、NECが3機種、サムスン電子が2機種と続いている。

 注目されるのは、パナソニック製端末が急速に増えてきたことだろう。ソフトバンクでは、ここ1年近くの間、iPhoneが好調な売れ行きを記録していることは良く知られているが、実はそのiPhoneに迫るほどの勢いでパナソニック製の830Pが売れている。その勢いが認められたのか、今回も830Pの後継モデルを含む合計5機種を供給することになったようだ。また、昨年からソフトバンク向けに端末を供給していたカシオ計算機は、今回は端末を投入しないようだ。

 形状別で見てみると、折りたたみタイプが8機種ともっとも多いが、スマートフォン2機種が含まれていることもあり、これにストレートタイプが5機種で続いている。その他ではスライド端末が2機種、二軸回転式とサイクロイド、Wオープンが各1機種ずつとなっており、比較的、バランスの取れたラインアップとなっている。

 また、今回の発表では他機種とは別扱いで、普及価格帯の端末として、パナソニック製「COLOR LIFE 84OP」とシャープ製「Jelly Beans 840SH」の2機種がお披露目された。この2機種はいずれも通話やメール、ブラウザなどの基本的な機能を搭載するものの、ワンセグやおサイフケータイ、Bluetoothといった今どきのケータイらしい機能は搭載されておらず、ディスプレイがフルワイドQVGA、カメラが約200万画素と、スペック的にもかなり抑えられた端末となっている。

 つまり、これまでボリュームゾーンで売れ筋だった830Pとほぼ同等の仕様を継承しながら、カラーやデザインを強化することで、より確実に数を稼ごうとした端末というわけだ。ケータイWi-Fi対応端末の8機種とは対称的なポジションに位置付けられる端末だが、こうしたボリュームゾーンを狙った端末をデザインやパッケージングなどで演出しているあたりは、ソフトバンクらしい上手さと言えそうだ。

Wi-Fi、多色展開モデルなどをラインナップ

 さて、ここからは発表会後のタッチ&トライコーナーで試用した印象と各機種の位置付けなどについて、紹介しよう。ただし、既報の通り、今回は11月10日の午前中にソフトバンク、午後にNTTドコモという形で、発表会が重なってしまったため、ソフトバンクの端末については、いつもにも増して、非常に短い時間しか試用することができなかった。同時に、発表会で展示された端末は、いずれも最終的な製品ではないため、実際に発売された端末と差異があるかもしれない点も合わせて、ご了承いただきたい。なお、各機種の詳しい仕様などについては、ぜひ本誌のレポートを記事を参照して欲しい。

・AQUOS SHOT 940SH(シャープ)

 国内最高クラスとなるCCD 1210万画素カメラを搭載したモデルだ。QVGAサイズながら、毎秒45枚、最大100枚の連写が可能で、タッチ&トライコーナーではテレビなどのメディアがゴルフスイングを撮影するなど、かなり注目を集めていた。カメラ機能は単純に高画素化しただけでなく、楽しく簡単に撮るための機能が充実している。

 たとえば、あらかじめ登録した人にフォーカスを合わせる「顔検出」、利用目的を選んで撮影ができる「カメラモード」などが挙げられる。カメラモードはシーン自動認識などとは別の機能で、オークションカメラを選ぶと、画面に「正面を撮ってみましょう」「背面を撮ってみましょう」などのガイダンスが表示され、指示に従って、撮影をすると、オークションの出品に必要な写真が撮影できるというものだ。

 また、ケータイWi-Fiに対応しており、無線LANアクセスポイントへの登録はBUFFALOのAOSSと業界標準規格のWPSで簡単に設定が可能だ。Wi-Fiバリューパックを契約していないユーザーのために、自宅やオフィスのWi-Fi経由でインターネットに接続できる「ダイレクトブラウザ」も用意される。

 使い勝手の面もかなり工夫されており、通常のメニューとは別に「スピンぐるメニュー」というメニューが用意されている。方向キーの部分を回すようになぞると表示されるメニューで、通常のものとは別のメニューアイコンがらせん状に表示される。ここに表示されるメニューのアイコンは、ユーザーの利用履歴や利用開始日からの経過などに応じて、上位にオススメ機能を表示してくれるしくみとなっている。

 たとえば、イヤホンを端末にセットすると、ミュージックプレーヤーやデジタルTV(ワンセグ)が上位に表示されるといった具合いだ。この他にも数多くの機能が満載されており、今回のラインアップの中ではAQUOSケータイ FULLTOUCH 941SHと並び、フラッグシップに位置付けられるモデルになる。

・AQUOSケータイ FULLTOUCH 941SH(シャープ)

 昨年、初のハーフXGA液晶を搭載した端末として、話題となった「AQUOSケータイ FULLTOUCH 931SH」の後継モデル。解像度は同じく、ハーフXGA対応だが、サイズが4.0インチとなり、通常スタイルのケータイとしては最大級となる。従来モデルも快適なタッチ操作が魅力だったが、今回はケータイWi-Fi対応で、利用できるコンテンツも多いため、一段とタッチ操作を使うシーンが増えそうな印象だ。ボディは従来同様、フルスライドを採用するが、スライド量が若干、増えたようで、キー周りの操作感は従来よりも少し改善されている印象だ。

 基本的な仕様は「AQUOS SHOT 940SH」と共通で、こちらはカメラがCCD 800万画素となっている点が異なる。しかし、カメラの機能そのものはほぼ共通で、利用目的別に選べるカメラモード、個人検出機能、おまかせアルバムなどの機能は共通となっている。ケータイWi-Fiの対応も共通で、Wi-Fiバリューパックを契約していないユーザーが自宅やオフィスのWi-Fi経由でインターネットに接続できる「ダイレクトブラウザ」も利用可能だ。スピンぐるメニューも共通だが、こちらはスライドを開き、方向キーを回すようになぞったときだけでなく、端末を閉じた状態で、同じ動作をディスプレイ上でタッチ操作したときも同じように、スピンぐるメニューが表示される。

 また、待受画面には「キャラタイム」と呼ばれるFlashコンテンツを設定できるのだが、「ケータイ係長」という何ともほんわかとしたユニークなコンテンツがプリインストールされている(これもAQUOS SHOT 940SHと共通仕様)。ケータイを開く度というほどではないが、時間帯や発着信などのイベントに応じて、表示される内容が変わるという。ケータイを長く楽しむために、なかなか面白い取り組みと言えそうだ。

・AQUOSケータイ 943SH(シャープ)

 AQUOSケータイの代名詞とも言えるサイクロイドを採用したモデルだ。今年、932SHでサイクロイドボディのトップパネルの段差をなくすことを実現したが、このAQUOSケータイ 943SHではさらなるスリム化を実現し、サイクロイド史上最薄となる18.6mm(最薄部は17.5mm)を実現している。ケータイWi-Fiの対応も含め、基本的な仕様は「AQUOSケータイ FULLTOUCH 941SH」と共通になっており、カメラもCCD 800万画素を搭載する。932SH同様、ワンセグはダブルチューナーを採用しているが、ディスプレイを回転させたときのヒンジ部分とのすき間もかなり狭くなり、一段と完成度を高めている。方向キー部分を回すようになぞるベクターパッド、おすすめ機能を表示してくれるスピンぐるメニューなども共通だ。今回はモックアップのみの展示だったが、サイクロイド機構のメカ部分はほぼ製品と変わらない状態で動かすことができていた。

・940N(NEC)

 今年の夏モデルとして登場した「930N」の後継に位置付けられるモデルだ。ソフトバンクの端末ラインアップの中では少ないスリムボディを採用した端末で、従来同様、13.9mmの薄さを実現している。3.2インチのフルワイドVGA液晶や810万画素カメラなども共通仕様となっているが、ケータイWi-Fiに対応している。

 NECとしては、すでにNTTドコモ向けでWi-Fi対応端末を開発してきた実績があるが、NTTドコモで言うところのμシリーズ(今年の冬モデルで言えば、N-01B)のボディでは初のWi-Fi搭載を実現している。Wi-Fiの登録については、NTTドコモのN-02Bが対応しているものと同じように、BUFFALOのAOSSと業界標準規格のWPSの両方に対応する。デザインがややシンプルな印象も残るが、スリムなケータイWi-Fi対応端末が欲しいユーザーなら、要チェックの端末だ。

・VIERAケータイ 941P(パナソニック)

 夏モデルの「VIERAケータイ 931P」の後継モデルだ。ソフトバンク向けでは2008年春モデルの「VIERAケータイ 920P」以来、継続して採用してきたWオープンを進化させ、横開き時のヒンジ部分の突起をなくしたフラットWオープンを採用する。ダイヤルボタン下(縦開き時)の切り替えボタンを操作することで、ダイヤルボタン部分全体がノートパソコンのタッチパッドのように操作することが可能だ。

 カメラのスペックは931Pと同じ811万画素だが、追っかけフォーカスなど、ソフトウェア面は従来モデルよりもバージョンアップしている。基本的にはパナソニックがNTTドコモ向けに供給する「P-01B」と同じ仕様だが、こちらはケータイWi-Fiにも対応している点が異なり、他事業者向けの端末も含め、おそらくパナソニックとしては初のWi-Fi搭載端末ということになる。発売は来年2月になる予定だが、展示された開発中の端末もほとんどの機能が動作しており、完成がかなり近いことをうかがわせる。

・X02T(東芝)

 Windows Mobile 6.5 Professionalを搭載した端末だ。東芝がソフトバンク向けに供給するWindows Mobile端末としては、2007年発売の「X01T」以来、約2年ぶりということになる。CPUに米クアルコム製Snapdragonを搭載し、4.1インチのワイドVGA液晶を搭載する。東芝がグローバル向けに「TG01」、NTTドコモ向けに「T-01A」として供給しているものと共通だが、最新のWindows Mobile 6.5 Professionalを搭載していることもあり、対応アプリケーションを購入できる「Windows Marketplace for Mobile」も利用可能だ。IEEE802.11b/g準拠のWi-Fiにも対応しているが、ソフトバンクがケータイWi-Fi対応端末向けに供給する「ケータイWi-Fiチャンネル」のコンテンツは利用することができない。

・X01SC(サムスン電子)

 Windows Mobile 6.5 Standardを搭載したストレートタイプの端末だ。QWERTY配列のキーを装備したストレートタイプの端末だが、ボディは非常にコンパクトで、BlackBerry Boldなどに比べると、ひと回り小さい印象だ。その半面、ディスプレイが2.4インチのQVGA対応で、カメラも320万画素といった具合いに、スペック的にはやや抑えられている。同様の端末として、NTTドコモからは「SC-01B」が発売される予定だが、こちらはディスプレイのタッチ操作に対応しておらず、基本的にはハードウェアキーのみでの操作になる。その代わり、価格はかなり抑えられるとのことだ。

・THE PREMIUM5 942SH(シャープ)

 スリムなボディと上質なデザインで人気を得ているTHE PREMIUMシリーズ第5弾となる端末だ。今回は背面などを中心に、ボディをラウンドフォルムでまとめることで、持ちやすく、手になじむ端末として、デザインされている。今回はモックアップの展示のみだったが、手に持った印象はラウンドフォルムのおかげで、厚さ17.2mm(最薄部13.3mm)を感じさせないサイズ感だった。ボディ幅も50mmに抑えられているが、ディスプレイは狭額縁にすることにより、3.4インチのフルワイドVGA液晶を搭載する。背面にはCCD 800万画素カメラを搭載し、ワンセグやおサイフケータイ、Bluetoothなど、ひと通りの機能を揃えている。ケータイWi-Fiに対応しないものの、9xxシリーズのスタンダードモデルとして、人気の出そうな端末だ。

・942SH KT(シャープ)

 THE PREMIUM 942SHをベースに、生誕35周年を迎えたハローキティをデザインしたハローキティケータイ第4弾モデルだ。基本的なスペックは共通だが、ブラックボディのトップパネル部分にハローキティのグラフィックがプリントされており、他のハローキティケータイに比べると、少し大人っぽい仕上がりの印象だ。今回は触ることができないモックアップのみが展示されていた。

・940P(パナソニック)

 スイングスライドとスピードセレクターを採用したもうひとつのVIERAケータイだ。パナソニックは2008年に携帯電話事業から撤退した三菱電機のDNAを受け継ぐ端末として、NTTドコモ向けにスライド端末を供給しているが、そのフォームファクタをソフトバンク向けに作り込んだ端末だ。緩やかなカーブを描きながら開くスイングスライドはディスプレイ部とボタン部の段差が少なく、キーも立体的な形状を採用することで、狭いエリアながらも押しやすくしている。クルクルと回すことでメニュー操作やスクロールなどができるスピードセレクターは操作感も良好だ。デザインやコンテンツなども女性を意識したものとなっており、スライド端末を好む女性ユーザーに広く支持されそうな印象だ。

・OMNIA VISION 940SC(サムスン電子)

 OMNIA 930SC、OMNIA pop 931SCに続く、フルタッチユーザーインターフェイスを採用した端末だ。従来のOMNIAシリーズが手書きや独自のウィジェットなどに重きを置いていたのに対し、今回は3.5インチの有機ELディスプレイを搭載し、タッチ操作を継承しながら、ワンセグなどを美しい画面で楽しめるようにしている。端末背面には本体を立てるときに使うスタンドが備えられており、スタンドを立てるだけで、ワンセグやミュージックプレーヤーを起動するようにも設定できる。ボディは従来よりもエッジを利かせたソリッドなデザインで、メカっぽさが好きなユーザーに支持されそうな印象だ。

 おサイフケータイやモバイルウィジェット(ソフトバンク仕様に対応)、S!GPSナビなど、ソフトバンクが提供するサービスにも対応しており、かなり完成度の高い端末となっている。ケータイWi-Fiに対応していないのは残念だが、発表会場でも他の9xxシリーズに変わらないほど、高い注目を集めていた。

・COLOR LIFE 840P(パナソニック)

 15色のカラーバリエーションから選ぶことができる普及モデルだ。ワンセグやおサイフケータイ、Bluetoothなどの機能を省き、通話やメール、ブラウザなどの機能に絞り込むことで、コストパフォーマンス重視の端末として仕上げられているが、各色ごとにパッケージのデザインを変えたり、壁紙やメニュー画面などもカラーに合わせたものを搭載するなど、個性を重視するユーザーにも満足できる工夫が凝らされている。ボディはトップパネルと背面パネルにそれぞれのカラーがあしらわれ、ボタン部側はボディカラーとの組み合わせによって、3種類が存在する。コスト重視と言いながらもボタンは独立した形状で押しやすく、ボタン周りの非常に視認性が良い。ただ、パナソニック製端末のアイデンティティーとも言えるワンプッシュオープンが省かれているのは、パナソニック製端末のファンとしては気になるところだろう。

・Jelly Beans 840SH(シャープ)

 その名の通り、お菓子のジェリービーンズをモチーフにデザインされた普及モデルだ。7色のカラーバリエーションから選ぶことができるが、COLOR LIFE 840P同様、ワンセグやおサイフケータイ、Bluetooth、国際ローミングなどの機能を省き、メールや通話、ブラウザなどの基本機能に特化して、作り込まれた端末だ。価格帯もCOLOR LIFE 840Pとほぼ同じ程度になる見込みだそうだ。今回はモックアップとパッケージの展示のみとなったが、ボタンにはシャープ製端末でおなじみのアークリッジキーが採用されており、2007年に発売されて以来、ロングセラーを記録した「PANTONE 812SH」の再来とも言える印象だ。

・841P(パナソニック)

 COLOR LIFE 840Pなどと同じボディデザインを採用しながら、ワンセグを搭載することで、ワンセグを使いたいエントリーユーザーを狙った端末だ。COLOR LIFE 840Pがカジュアルなデザインでまとめられているのに対し、841Pはもう少し落ち着いたデザインで、大人向けのケータイという印象だ。ターゲットユーザーも30代~40代の男性となっている。COLOR LIFE 840Pとの比較ではワンセグのほかに、ワンプッシュオープンボタンを装備していること、手軽にデコレメールが作成できる「楽デコ」という機能が用意されていることだ。楽デコはシャープ製端末に採用されている「絵文字プラス」などと同様の機能で、メールのテキスト本文を入力すれば、あとはワンタッチでデコレメールに変換してくれる。

・840P for Biz(パナソニック)

 COLOR LIFE 840Pをベースに、法人ユーザーで必要とされる機能を追加した法人専用端末だ。法人専用端末としては、2009年春モデルとして発売された「830SH for Biz」があるが、これと同じ扱いのモデルになる。具体的な機能としては、法人の管理者が各端末の機能などを一括して制御できるもので、「安心遠隔ロック」や「位置ナビ一斉検索」などの機能も管理者側から利用できるという。法人向け端末としては、スマートフォンなどに需要があると言われるが、業務用のアプリケーションでも利用しない限り、こうした通常のケータイで端末の管理や制御ができるものの方が管理者としては導入しやすい。

・741N(NEC)

 通話とメールのみに特化した生活防水対応の端末だ。コドモバイル740Nと共通仕様となっており、かつてのソニー・エリクソンのpreminiを彷彿させるほど、コンパクトなボディにまとめられている。通話やメールの発着信先をアドレス帳に登録された相手のみに限定できるなどの機能も用意される。

・コドモバイル740N(NEC)

 ソフトバンクのキッズ向けケータイ「コドモバイル」の第3弾。ハードウェアとしては、741Nと共通仕様となっており、カメラなどの機能は搭載されていないが、GPSによる位置情報を測位して、親のケータイやパソコンから現在地を調べるといった使い方もできる。方向キーの4方向が赤、青、黄、緑の4色に塗り分けられており、それぞれのボタンを長押しして、特定の相手に対して、発信することが可能だ。

 子どものケータイの利用についてはいろいろと議論されているが、端末としては大人向けのものを流用するのではなく、子どもが使うことを考慮し、きちんと機能を絞り込んだ端末が提供されることが望ましいと言われており、その意味でも重要な端末と言えそうだ。今回はモックアップのみの展示だったため、実際にどのように機能が使えるのかがわからなかったが、ぜひ、別の機会にきちんとデモを見せて欲しい端末のひとつだ。

 この他に、Huawei製のデジタルフォトフレーム「PhotoVision HW002」、Longcheer Technology製のUSBデータ通信端末「C02LC」、Sierra Wireless製のデータ通信端末「C02SW」が発表されたが、これらについては本誌の発表会レポートをご参照いただきたい。

ケータイWi-Fiを軸に幅広いラインアップを展開するソフトバンク

 冒頭でも触れたように、ソフトバンクは過去の新商品・新サービス発表会において、いろいろなキーワードを掲げ、新商品や新サービスをうまくアピールしてきた。今回のキーワードは「Wi-Fi」が掲げられており、孫社長も発表会のプレゼンテーションにおいて、「Wi-Fiに特化して、ケータイ=Wi-Fi、Wi-Fi=ケータイと意識して、先陣を切ったのはソフトバンクだと、後々言われるようになる」と積極的にWi-Fiをアピールしていた。

 対応端末も1台や2台ではなく、発売時期に若干の差があるものの、一挙に8機種もラインアップしている。コンテンツはYahoo!やGyaOをはじめ、グループシナジーをうまく活用し、新聞や雑誌をはじめ、公開前の映画が観られる「ケータイ試写会」、「ニコニコ動画モバイル」や「Yahoo!動画」、「電子レンタルビデオ」、「よしもとオンライン」、「ケータイ動画」など、多彩なコンテンツを揃えている。つまり、「つなぐ」だけでなく、「楽しむ」要素もきちんと揃えているわけだ。このあたりはソフトバンクらしい取り組みと言えるだろう。

 ただ、こうしたケータイWi-Fiの全体像を評価する前に、ケータイWi-Fiを利用するための「Wi-Fiバリューパック」について、少し考えてみたい。前述のように、ケータイWi-Fi対応端末を購入し、提供されるコンテンツを楽しむには、Wi-Fiバリューパックへの加入が必須となる。490円の月額使用料のほかに、専用パケット定額料として、月額4410円が請求される。Yahoo!ケータイを利用するにはS!ベーシックパック(月額315円)も必要になるため、ホワイトプランで考慮すれば、実質的には6000円以上が黙っていても請求されることになる。ケータイWi-Fiの月額使用料の490円については、2010年12月31日までに加入すれば、永年無料になるため、実質的な負担はもう少し減るかもしれないが、利用の有無にかかわらず、約6000円前後の料金が請求されるプランを読者のみなさんは、どう受け取っただろうか。

 確かに、発表会の質疑応答で孫社長が答えたように、ケータイWi-Fiを利用するようなアクティブユーザーの多くは、パケットし放題の二段階定額の上限に達している可能性は高いだろう。しかし、よく考えなければならないのは、自宅でもオフィスでもソフトバンクの3Gのネットワークを利用しているから上限に達しているのであって、自宅やオフィスではWi-Fiと自前のブロードバンド回線やインターネット接続回線経由でインターネットを利用するのであれば、もっとパケット通信料は抑えられるはずだ。

 iPhoneの例を見てもわかるように、ソフトバンクにとってもユーザーがWi-Fiを利用してくれることで、自社の3Gネットワークへの負荷を減らすことができるはずなのだが、それでもユーザーに対し、いきなり通常のパケット通信料定額制サービスの上限額に相当する4410円の定額料を課すというのは、間違っていないだろうか。

 ただ、ここで注意しなければならないのは、Wi-Fiを利用して、アクセスする場合、どのルートを通るのかによって、求められる課金が異なるという点だ。現在、ソフトバンクのYahoo!ケータイをはじめ、NTTドコモのiモード、auのEZwebの公式メニューは、基本的に各社のゲートウェイ(ネットワーク)を経由しなければ、アクセスできない。たとえば、パソコンでYahoo!ケータイのトップページやメニュー内は、基本的に見ることができない。

 しかし、ユーザーの自宅やオフィスにはブロードバンド回線やインターネット接続回線が敷設されており、そこからも何らかの形でアクセスできた方が事業者にとってもトラフィックが減るうえ、ユーザーとしても高速なWi-Fiが利用できるなどのメリットがある。そこで、各携帯電話事業者はオープンなインターネットから各社の公式メニューにアクセスできるような別のゲートウェイを設置している。たとえば、auはインターネットからEZwebにアクセスするために、「Wi-Fi WIN」というサービスを月額525円で提供している(2011年6月30日までは無料)。NTTドコモは少し仕組みが異なるが、月額490円の「ホームU」というサービスを提供することで、自宅のブロードバンド回線などからiモードの公式サイトにアクセスできるようにしている。

 両社のサービスは、ケータイの3Gネットワークを経由するときのパケット通信料は従来通り、請求するが、Wi-Fi経由のアクセスについてはどちらもパケット通信料を請求していない。ゲートウェイの利用料として、月額500円前後が請求されるというのは理解できるが、ソフトバンクのように「どうせ、二段階定額制の上限に達しているから、Wi-Fi経由でも上限額を課す(フラット制にする)」というのは、ちょっとやり過ぎの印象が強い。やはり、Wi-Fiバリューパックの内容と料金体系については、もう一度、見直しを期待したいところだ。

 ところで、少し脱線になるのだが、最後にもうひとつ書き加えておきたいことがある。前回、夏モデルの発表会の記事において、「ソフトバンクは意図的に他社の発表会にぶつけている」という話を書いたが、今回も11月10日の午後に行なわれたNTTドコモの発表会と重なってしまった。当初、ソフトバンクは11月9日に発表会を予定しており、メディア向けにも事前に案内を出していたのだが、本誌の記事でも触れたように、11月9日が酒井法子被告の判決日ということがあり、11月10日に変更されている。

 しかし、いざフタを開けてみれば、筆者が見た限り、思いの外、11月9日は酒井被告の判決について、ニュースの時間が割かれることはなかったように見受けられた。そして、11月10日。ご存知のように、今度は英国人女性殺害事件の市橋容疑者が身柄を確保されることになり、夜のニュースはそれで埋め尽くされることになってしまった。

 ソフトバンクがどのような姿勢で発表会を行なうのかは、メディアに関わる者として、今さら、どうこう言うつもりはない。ソフトバンクが考えるように、「ソフトバンクのケータイ」を知ってもらうためには、テレビなどのメディアへの露出も大切なことだろう。しかし、ソフトバンクとして、いったいどこを向いて、サービスを提供しているのかをもう一度、よく考えてもらいたい。「ケータイWi-Fi」も将来を期待させる楽しみなサービスではあるが、テレビで新しいケータイの一次情報を得るような人々のうち、どれくらいの人が「Wi-Fi」を知り、「無線LANアクセスポイントへの端末の登録」ができるだろうか。かつてYahoo!BBを全国に展開してきたソフトバンクであれば、ユーザーが利用を開始するまでのサポートがどれだけ大切なのかは、身を持って知っているはずだ。

 さて、いつも以上に厳しいコメントを書いてしまったが、今回の発表を見る限り、端末のラインアップは非常に魅力的であり、他社と比較してもまったく遜色ないモデルが揃っているというのが筆者の偽らざる感想だ。今回発表された端末は、早ければ、今月中旬頃から来春に掛けて、順次、販売が開始される予定だ。今後、本誌に掲載される予定の開発者インタビューやレビュー記事などを参考にしながら、自分の感性に合うお気に入りの一台を見つけて欲しい。

 



(法林岳之)

2009/11/12 17:58