主要3キャリアが出揃ったWi-Fiサービス

法林岳之
1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows Vista」「できるPRO BlackBerry サーバー構築」(インプレスジャパン)、「お父さんのための携帯電話ABC」(NHK出版)など、著書も多数。ホームページはPC用の他、各ケータイに対応。Impress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。


 ケータイの通信をサポートする手段として、家庭やオフィスなどで利用されているWi-Fi(無線LAN)を活用するサービスが注目を集めている。この冬、主要3キャリアのサービスが出揃ったので、各社のサービスについて解説しながら、対応端末で各サービスの使い勝手をチェックしてみよう。

「Wi-Fi」の基礎をおさらい

 主要3キャリアのWi-Fi対応サービスが出揃い、各社の対応端末も販売が開始されている。NTTドコモ PRIME N-02B(左)、ソフトバンク AQUOS SHOT 940SH(中央)、au biblio(右)

 NTTドコモの「ホームU」、auの「Wi-Fi WIN」に続き、ソフトバンクもWi-Fiを活用する「ケータイWi-Fi」をスタートさせたことで、主要3キャリアのWi-Fi対応サービスが出揃った。それぞれにサービスの仕様に少しずつ違いがあり、料金体系や接続形態なども異なるが、いずれも家庭やオフィスなどで利用されている無線LAN(Wi-Fi)を活用し、インターネット接続サービスを実現しているという点は共通している。

 少しおさらいになるが、もう一度、Wi-Fiについて、説明しておこう。家庭やオフィスで複数のパソコンを利用するとき、ネットワークで接続して、利用することが多い。もっとも基本的な方法としては、それぞれのパソコンをLANケーブル(Ethernetケーブル)で接続する方法があり、ハブなどのネットワーク機器を介して、複数のパソコンやネットワーク対応周辺機器を接続する。たとえば、パソコン同士でファイルを共有したり、ネットワーク上にあるプリンタに複数のパソコンから印刷するといった使い方ができる。もちろん、インターネット接続についてもルーターを介して、LANに接続された複数のパソコンから同時にアクセスできる。特に、現在はブロードバンド対応インターネットが広く普及しており、パソコンだけでなく、テレビや家庭用ゲーム機、レコーダーなど、さまざまな機器がLANに接続され、インターネットとのデータのやり取りを可能にしている。

 このLAN環境に利用されているLANケーブルをワイヤレス通信に置き換えたものが無線LANだ。電波の届く範囲であれば、同じように相互にデータをやり取りしたり、インターネットに接続することができる。元々、無線LANはメーカーごとに通信方式や手順に互換性がなく、異なる製品間で接続ができなかったが、業界標準団体の「Wi-Fi Alliance」が設立され、相互接続性の認証プログラム「Wi-Fi(ワイファイ)」がスタートしたことで、現在のように異なるメーカーの製品でも接続できるようになり、無線LANが広く普及してきたという経緯がある。そのため、現在では事実上、「無線LAN=Wi-Fi」と捉えられており、今回紹介するサービス名やゲーム機などの機能でも「Wi-Fi」という言葉が使われている。

 一口に「Wi-Fi」「無線LAN」と言っても無線通信規格にはいくつかの種類があり、親機となる無線LANアクセスポイントと子機となる無線LAN機器(今回の場合はWi-Fi対応ケータイ)が同じ規格、もしくは無線LANアクセスポイント側が上位規格をサポートしていなければ、接続することができない。もっともケータイの場合、コスト的な要因もあり、サポートされている無線通信規格は限られている。主なものを簡単に紹介しておこう。

【IEEE802.11g】
 2.4GHz帯を利用し、最大54Mbpsの通信が可能な規格。無線LAN機器をはじめ、ケータイやスマートフォン、ゲーム機など、幅広い機器に採用されている。後述する「IEEE802.11b」の上位規格として策定されたため、「IEEE802.11b/g対応」などと表記されることが多い。実効速度は一般的に20~30Mbps程度だが、2.4GHz帯はISMバンドとも呼ばれ、電子レンジやBluetoothなど、他の無線機器や電波を発する機器でも広く利用されているため、電波干渉が起きやすく、利用環境によってはさらに速度が低下することも多い。同時に、対応機器が広く普及していることもあり、住宅街やマンションなどでは他の世帯が無線LANを同じように利用していて、電波干渉が少ないチャンネルが見つけにくいといったことも起きる。

【IEEE802.11b】
 2.4GHz帯を利用し、最大11Mbpsの通信が可能な規格上位規格である「IEEE802.11g」が策定されたため、現在はIEEE802.11bのみに対応する機器は少なくなっている。電波干渉については、IEEE802.11g同様で、同じISMバンドを利用する機器と干渉が起きやすい。実効速度は数Mbps程度。

【IEEE802.11a】
 5GHz帯を利用し、最大54Mbpsの通信が可能な規格。対応製品が登場した直後は日本独自の4チャンネルが割り当てられていたが、2005年に総務省から「電波法施行規則の一部を改正する省令」が施行され、海外と同じ4チャンネルに割り当てが変更されている。同時に、4チャンネルが追加され、現在は合計8チャンネルが利用できる。IEEE802.11b/gがISMバンドと呼ばれる2.4GHz帯を利用するため、電子レンジやBluetoothなど、他のISMバンドを利用する無線機器と干渉することが多いのに対し、5GHz帯は電波干渉が少ないというメリットを持つ。ただし、IEEE802.11aに対応したケータイは非常に少なく、現時点で一般ユーザーが購入できる通常端末は「N906iL onefone」くらいしかない。

【IEEE802.11n】
 2.4GHz/5GHzを利用し、最大300Mbpsの通信が可能な規格。IEEE 802.11aやIEEE 802.11b/gと互換性を保ちながら、100Mbps以上の無線通信を目指した規格で、長らくドラフト対応の製品が販売されていた。2009年9月に正式に承認され、現在は各社から対応製品が販売されている。複数のストリームで通信をする「MIMO(Multi Input Multi Output)」や複数のチャンネルを束ねて伝送する「デュアルチャンネル」などの技術を組み合わせることで高速化を実現している。今のところ、IEEE802.11nに対応したケータイは国内で販売されていない。

 また、Wi-Fiを利用するうえで、重要なのがセキュリティだ。Wi-Fiはケータイの無線通信と違い、ユーザーが必要に応じて、セキュリティを設定する。たとえば、無線通信を「WEP」や「WPA」などによって暗号化したり、特定のMACアドレスを持つ機器だけを接続できるようにする「MACアドレスフィルタリング」などが挙げられる。

 こうしたセキュリティ設定は、親機となる無線LANアクセスポイントや無線LANルーター、子機となる無線LAN機器の双方に必要な情報を設定しなければならず、正しく設定されないと、接続できないといったことが起きてしまう。そこで、多くの無線LAN機器ではより簡単にセキュリティ設定と接続設定ができる機能が用意されている。代表的なものとしては、バッファローの「AOSS」、NECアクセステクニカの「らくらく無線スタート」、業界標準規格の「WPS」が挙げられる。特に、ケータイの場合、画面サイズがパソコンに比べると小さいうえ、暗号化キーなどの文字列の入力にはパソコンのキーボードよりも手間が掛かるため、これらの簡単無線設定の機能をサポートした無線LANアクセスポイントや無線LANルーターを用意した方がより確実だろう。

なぜ「Wi-Fi」なのか

 ところで、なぜ、ここに来て、ケータイでWi-Fiが注目されるようになってきたのだろうか。ケータイにおけるWi-Fiは、法人向け端末や一部のスマートフォンなどでサポートされてきたが、最近になり、各社が通常のケータイにもWi-Fiを搭載し、さまざまなサービスを利用できるようにしている。

 まず、携帯電話会社側の視点から見れば、トラフィックの分散というメリットが挙げられる。国内のケータイは各社の3Gサービスが主力に位置付けられるようになってから数年が経過しており、コンテンツもより大容量のものが増えてきている。各社が定額制のパケット通信料割引サービスを提供し、ユーザーもパケット通信料をあまり気にすることなく、ケータイを利用できるようになってきている。しかし、その一方でYouTubeのような動画コンテンツの利用が急速に伸びてきており、一部のヘビーユーザーによって、各社の3Gネットワークのトラフィックが圧迫される傾向にあると言われている。その影響もあって、各社は帯域制御などの対策を打ち出しているが、それだけでは対処しきれなくなりつつある。

 そこで、ケータイにWi-Fiを搭載し、家庭やオフィスで利用されているブロードバンド回線、あるいは公衆無線LANサービスなどを経由してアクセスしてもらうことで、多少なりとも3Gネットワークのトラフィックを軽減しようというわけだ。

 ユーザーとしても3Gネットワークよりも高速なWi-Fiが利用できるため、ストレスなく、大容量のコンテンツをダウンロードできるうえ、キャリアの料金体系によってはパケット通信料を節約できるというメリットもある。また、家庭やオフィス内において、ケータイの電波状況があまり良くなく、通話や通信が途切れてしまうような場所、あるいは圏外になってしまう場所でもブロードバンド回線と無線LANアクセスポイントを用意すれば、Wi-Fiの電波が届く範囲はケータイのエリア内として利用できる。フェムトセルも選択肢のひとつだが、設置の手軽さから言えば、ブロードバンド回線と無線LANアクセスポイントの方がはるかに簡単だろう。

 また、3Gネットワークよりもブロードバンド回線の方がネットワークそのものに余裕があるため、大容量のコンテンツなどを配信しやすいというメリットもある。たとえば、auがLISMOで提供する「LISMO Video」のコンテンツをダウンロードするには、Windowsで動作する「LISMO Port」やセットトップボックスの「au BOX」を利用するしかなかったが、同社の「Wi-Fi WIN」対応端末であれば、端末のみで直接、コンテンツを購入し、ダウンロードすることができる。ソフトバンクもケータイWi-Fi向けに「ケータイWi-Fiチャンネル」というコンテンツ配信サービスを開始しており、新聞や雑誌をはじめ、動画や電子レンタルビデオなどを提供する。こうした動画や映像のコンテンツは、いずれも大容量であるため、通常の3Gネットワークでは配信できなかったり、映像サイズやビットレートを抑えるしかなかったが、ブロードバンド回線とWi-Fiの組み合わせであれば、3Gネットワークに負荷を掛けることなく、高品質なままのコンテンツを配信できる。

 ただ、家庭やオフィスのブロードバンド回線を経由して、ケータイをインターネットにアクセスさせる場合、、いくつかクリアしなければならない課題がある。たとえば、現在、各キャリアは「iモード」に代表されるコンテンツ閲覧サービスを提供しているが、これらの公式メニューへのアクセスは、各社の3Gネットワークに制限されている。そのため、Wi-Fiを搭載したケータイを使い、家庭やオフィスのブロードバンド回線経由でインターネットにアクセスできても各社の公式メニュー内にはアクセスできないわけだ。そこで、各社はWi-Fi対応ケータイが家庭やオフィスのブロードバンド回線経由で公式メニューにアクセスできるようにするため、3Gネットワーク経由とは別のゲートウェイを構築し、Wi-Fi対応サービスを利用するユーザーに対して、提供している。このオープンなインターネット環境からアクセスするしくみは、各社によって、少しずつ仕様が異なるが、ゲートウェイを利用するための料金として、各社のWi-Fi対応サービスには数百円程度の月額使用料が設定されている。

各社のWi-Fi対応サービスはどうなっているのか

 さて、ケータイでのWi-Fiサービスの概要がわかったところで、続いては具体的に各社のサービスがどうなっているのかを見てみよう。筆者が実際に導入してみて、得られた印象を踏まえながら、解説しよう。

ホームU(NTTドコモ)

 ホームUにWi-Fiで接続すると、画面左上の「WLAN」と書かれたアイコンの右隣の青い家の形のアイコンが表示される

 NTTドコモは2008年6月から「ホームU」という名称で、Wi-Fiを利用したサービスを提供している。他社のWi-Fiサービスが高速なインターネット接続に主眼を置いているのに対し、ホームUは050IP電話サービスを組み合わせたFMC(Fixed Mobile Covergence)的なサービスとなっている。そのため、接続可能なブロードバンド回線は、パソコンなどで利用するインターネット接続とは別のセッションが設定できる「マルチセッション」対応のものに限られている。現時点でマルチセッションに対応しているブロードバンド回線は、NTT東日本の「フレッツ・ADSL」「Bフレッツ」「フレッツ 光ネクスト」、NTT西日本の「フレッツ・ADSL」「Bフレッツ」「フレッツ・光プレミアム」「フレッツ 光ネクスト」しかない。しかもBフレッツやフレッツ・ADSLは一部のプランをのぞき、利用可能なセッション数の初期値が「2」であるため、インターネット接続と他の用途でセッションが埋まっているときは「フレッツ・セッションプラス」(月額315円/1セッション)を契約し、利用できるセッション数を追加する必要がある。

 月額使用料は当初、月額1029円でスタートしたが、現在は月額490円に値下げされている。ホームUを契約すると、050で始まるIP電話サービスの電話番号が割り当てられ、ホームUを設定したブロードバンド回線の下ではFOMAの3Gネットワーク経由のときよりも約3割安い通話料で発信ができる。サービス開始当初、ホームUで設定したブロードバンド回線からの発信では、相手に050IP電話番号が通知されていたが、現在はホームUを契約したFOMAの携帯電話番号が通知される「ワンナンバー」(月額157.5円)が選ぶことができる。

 NTTドコモ/NEC『docomo PRIMEシリーズ N-02B』、サイズ:50(W)×113(H)×16.9(D)mm(折りたたみ時)、147g。FLASH SILVER(写真)、CYBER BLACK、LASER WHITEをラインアップ

 また、料金プランについては、FOMA新料金プランであれば、どれを選んでいても構わないが、パケット通信料割引サービスは「パケ・ホーダイ ダブル/シンプル」「パケ・ホーダイ」「パケ・ホーダイ フル」のいずれかを契約する必要がある。3Gネットワーク経由で利用したときのパケット通信料は通常通り、請求されるが、ホームU経由で接続したときのパケット通信料は無料となっている。

 インターネット接続については、ホームU経由でアクセスするための情報を対応回線のルーターに設定する必要がある。具体的には元々、ルーターに設定されているプロバイダーの接続情報をもうひとつ追加するような形で、端末にはWi-Fiの設定をする程度で済む。ちなみに、ホームU端末については「N-02B」「N-06A」「N906iL onefone」の3機種で、いずれのNEC製となっている。いずれの機種もWi-Fi機能の基本的なメニュー構成は大きく変わっておらず、Wi-Fiの簡単接続設定については「WPS」しかサポートされていない。同じNECグループ内のNECアクセステクニカが「らくらく無線スタート」を開発し、NTT東日本/NTT西日本をはじめ、各通信事業者に無線LAN機器を数多く供給している現状を考えると、ちょっと残念な取り組み方と言わざるを得ない。

 N-02Bは基本的に従来端末同様、簡単接続はWPSのみ対応する

 実際の使用感についてだが、iモードへのアクセスは過去に何度か紹介したことがあるように、まさに「爆速」と呼べるほど、快適に使うことができる。かつて、FOMAハイスピードを初めて体験したとき、「この快適さを味わうと、従来の384kbpsのiモードには戻れない」と話した記憶があるが、そのときの落差をはるかに上回るほど、快適にiモードを使うことができる。

 ただ、ホームUの難点は、ここまでの説明でもわかるように、利用できる場所がホームUを設定したブロードバンド回線に限定されているという点だ。つまり、自宅なら自宅、オフィスならオフィスでしか、利用できない。仮に、対応端末を公衆無線LANサービスなどに接続できてもホームUとしての接続ではなく、単にWi-Fi経由でインターネットに接続できたことに過ぎず、iモード公式サイトなどは3Gネットワーク経由でしか利用できない。

 ホームUは全体的に見て、超高速iモードが利用でき、音声通話が割安になるというメリットがある半面、050IP電話サービスを組み合わせたことによる構成の難しさ、ルーターや対応端末への設定など、他社に比べると、やや敷居が高い印象も残る。

Wi-Fi WIN(au)

 Wi-Fi WINでは契約ユーザー向けのコンテンツサイトだけでなく、中央右上のように、現在、どのような形でアクセスしているのかを表示させる

 auの「Wi-Fi WIN」は、2009年6月に対応端末の「biblio」の発売に合わせ、開始されたWi-Fi経由でEZwebへの接続を可能にするサービスだ。NTTドコモの「ホームU」がFMC的な取り組みをしているのに対し、Wi-Fi WINは今のところ、高速なインターネット接続とLISMO Videoや電子書籍をブロードバンド回線経由でダウンロードできるようにすることを主眼に置いている。

 ネットワーク構成はいたってシンプルで、Wi-Fi WINを契約していれば、あとは端末にWi-Fi接続に必要な情報(ESSIDや暗号化キーなど)を設定するだけで、利用することができる。基本的に、ノートパソコンなどをWi-Fi経由でインターネットに接続するときと同様で、無線LANアクセスポイントや無線LANルーターに何か特別な情報を設定する必要はない。たとえば、端末に自宅とオフィスのWi-Fiを利用するための情報を設定しておけば、どちらでも同じように、Wi-Fi WINを利用することができる。

 月額使用料は525円が設定されているが、サービスが開始されたばかりということもあり、2011年6月30日までは月額使用料が無料となっている。今回紹介する主要3キャリアのWi-Fi対応サービスでは、当面、もっともコスト的に割安になる計算だ。料金プランについては、いずれを選んでもかまわないが、パケット通信料割引サービスについては「ダブル定額スーパーライト」「ダブル定額ライト」「ダブル定額」「パケット割WINミドル」「パケット割WINスーパー」のいずれかを契約する必要がある。あるいは、今年11月9日から受付が開始されている「ガンガンメール」の料金プランである「プランEシンプル」「プランE」を契約する形でも構わない。

 Wi-Fi WINで接続すると、画面左上の電池アイコンとSDカードのアイコンの間に、「Wi-Fi」と書かれたアイコンが表示される

 対応機種は今のところ、2009年夏モデルのbiblioのみだが、2009年秋冬モデルの発表会でWi-Fi WINに対応した「AQUOS SHOT SH006」が2010年2月中旬以降発売予定と発表されている。ご存知のように、auは共通プラットフォーム「KCP+」において、ひとつの機種が搭載した機能を順次、他機種にも展開するという手法を採っており、今後、Wi-Fi WIN対応端末がさらに増える可能性は十分に考えられる。ちなみに、biblioで高く評価できるのは、前述のWi-Fiの簡単設定機能として、「AOSS」「かんたん無線スタート」「WPS」の3種類をきっちりとサポートしており、各機能の開発元であるバッファローやNECアクセステクニカのWebページなどにも動作確認情報や接続設定の手順などがきちんと解説されている点だ。

 実際の使用感についてだが、CDMA 1X WINのネットワーク経由で利用したときよりも確実にパフォーマンスは向上している印象だ。ただ、iモードに比べ、EZwebはシステムの関係上、元々、レスポンスがやや遅いと言われているうえ、端末のベースバンドチップも異なるため、ホームUによるiモードほどの“爆速感”は得られない。それでも通常の環境よりも確実にストレスが減る印象であり、慣れてくると、CDMA 1X WINのネットワーク経由のアクセスが少しかったるく感じてしまうこともある。また、現時点で唯一の対応機種であるbiblioは公衆無線LANサービスからもアクセスができるものの、ログイン画面が表示されるような公衆無線LANサービスでは利用できないのが残念だ。ただ、先般の発表会での情報に寄れば、SH006ではログイン画面が表示される公衆無線LANサービスなども利用できるようになる見込みだと言う。

 Wi-Fi WINの全体的な印象としては、Wi-Fi経由で接続するブロードバンド回線を選ばないうえ、ネットワークの構成もユーザーにわかりやすく、月額使用料も当面は請求されないなど、ホームUとは対照的で、非常に取っつきやすい印象だ。ただ、対応端末が2月中旬以降発売のSH006を入れても2機種しかないため、あまり選択肢がないのは少し残念な点だ。しかし、前述のように、auは機能を横展開することが早いため、今後のラインアップ拡充には期待できそうだ。

 au/東芝『biblio』、サイズ:56(W)×113(H)×17.4(D)mm(折りたたみ時)、164g。オフホワイト(写真)、ネイビーブラックをラインアップ biblioのアクセスポイント登録は「AOSS」「らくらく無線スタート」「WPS」に対応しており、もっとも充実している

ケータイWi-Fi(ソフトバンク)

 ケータイWi-Fiでは新聞や雑誌、映画、音楽など、多彩なコンテンツが提供される。ポータルサイトでもコンテンツの情報が数多く発信されている

 ソフトバンクは2009年夏モデルの発表会において、当初、「ケータイ無線LAN」というサービスを提供することをアナウンスしていたが、対応端末の発売が8月下旬の予定だったこともあり、2009年冬モデルの発表会で仕切り直す形となり、新たに「ケータイWi-Fi」という名称でサービスを提供することになった。サービスそのものは2009年冬モデルの「AQUOS SHOT 940SH」の発売に合わせ、2009年11月20日から提供を開始されている。サービスインは主要3キャリアの中で最後発になるが、発表会で孫社長が「『ケータイ=Wi-Fi』『Wi-Fi=ケータイ』と意識して、先陣を切ったのは後々、ソフトバンクだと言われるようになる」と力説するなど、ソフトバンクとして、かなり積極的に取り組もうとしているように見受けられる。

 ネットワーク構成は、auのWi-Fi WIN同様、シンプルなもので、ケータイWi-Fiを契約すれば、あとはWi-Fi対応端末に無線LANアクセスポイントや無線LANルーターに接続する情報(ESSIDや暗号化キー)などを設定すれば、どのブロードバンド回線でも自由にWi-Fi経由でアクセスできるようになる。自宅やオフィス、公衆無線LANについても同じように、高速通信で利用することができる。

 料金についてだが、ソフトバンクは月額使用料と専用パケット定額の料金から構成される「Wi-Fiバリューパック」という形で提供している。月額使用料は490円が設定されているが、2010年12月末までに加入すると、月額使用料は無料になる。専用パケット定額の料金は月額4410円で、「パケットし放題」や「パケット定額フル」のような段階的なパケット通信料のプランにはなっていない。ただし、Wi-Fi環境下以外で「PCサイトブラウザ」や「PCサイトダイレクト」を利用すると、定額料は4410~5985円のパケット定額サービスとして扱われる。つまり、Wi-Fiバリューパックを契約すると、利用の有無にかかわらず、常に4410円が課金され、ホワイトプランとS!ベーシックパックの組み合わせでは、必ず、毎月5705円が請求される計算になる。この点について、発表会の質疑応答で孫社長は「ケータイWi-Fiを利用するようなアクティブユーザーは、従来の二段階定額でも上限に達しているので、こうした料金体系を設定した」と答えていたが、主要3キャリアのWi-Fi対応サービスではもっともユーザーに負担が大きく見える印象は否めない。

 ソフトバンク/シャープ『AQUOS SHOT 940SH』、サイズ:51(W)×111(H)×16(D)mm(折りたたみ時)、130g。フューシャピンク(写真)、ルミナスブルー、プレシャスゴールド、ホワイト、ブラックをラインアップ

 対応機種は当初、ケータイ無線LAN対応として、アナウンスされていた「931N」をはじめ、冬モデルとして発表された「AQUOS SHOT 940SH」「AQUOSケータイ FULLTOUCH 941SH」がすでに発売されており、12月18日にはハイスペックスリム端末の「940N」、2010年2月以降には「VIERAケータイ 941P」も発売される予定だ。主要3キャリアの中でももっとも充実かつバリエーションに富んだラインアップと言えそうだ。

 接続の設定については、今回は940SHと941SHを試用したが、いずれも「AOSS」と「WPS」がサポートされているうえ、Wi-Fiバリューパック契約者が利用できるBBモバイルポイントの設定もあらかじめ用意されているため、初心者にも使いやすい印象だ。NEC製端末の「931N」と「940N」ではWPS、AOSSがサポートされる。

 実際の使用感については、Yahoo!ケータイにスムーズにアクセスすることができ、ケータイWi-Fi向けに提供される映画の予告編なども高画質な状態で楽しむことができた。特に、ソフトバンクの場合、エリア内でも都市部の住宅街などでは、戸建ての2階や3階では問題なく利用できるのに、1階は圏外になってしまうといったケースがあるが、そんな環境でもブロードバンド回線とWi-Fi環境が整っていれば、戸建ての各部屋をエリア内にすることも可能だ。また、公衆無線LANサービスのBBモバイルポイントにアクセスできるというのも筆者もマクドナルドを見つけて、コーヒーを飲みながら、940SHを使う機会が何度となくあった。

 ケータイWi-Fiの全体的な印象としては、Wi-Fi WIN同様、Wi-Fi経由で接続するブロードバンド回線を選ばないうえ、ネットワークの構成もシンプルでわかりやすい。対応端末が豊富であり、公衆無線LANサービスもWi-Fiバリューパックに含まれていることも都市部のユーザーにはかなりメリットがあるだろう。その半面、他社と違い、パケット通信料が段階制ではなく、他社の上限と同額がいきなり請求されるというのは、ややユーザーに優しくないという印象が残った。ただ、Wi-Fiユーザー向けに提供されるコンテンツについては、ソフトバンクらしく、豊富なラインアップを揃えており、なかなか使いごたえのあるサービスになっていると言えそうだ。

 940SHの接続先設定は「AOSS」と「WPS」に対応する。BBモバイルポイントの設定もあらかじめ用意されている ケータイWi-Fiで接続したときは、画面中央右上のマナーモードのアイコンとWLANと書かれたアイコンの間に、ケータイのアイコンが表示される

ケータイ向けWi-Fiサービスが抱える課題と期待

 主要3キャリアのWi-Fi対応サービスが出揃い、徐々に対応端末も増えてきそうな状況だが、ケータイにとって、Wi-Fiはまだいくつも課題が残されている。

 たとえば、消費電力もそのひとつだ。元々、Wi-Fiはノートパソコンなどをワイヤレスで利用するための手段として、普及してきたもので、ここ数年でPSPやニンテンドーDSといったポータブルゲーム機にも搭載されるなど、応用範囲が拡大してきた。しかし、端末メーカーなどに話を聞いてみると、初期の製品に比べると、かなり省電力化は進んだものの、それでもケータイに搭載される他のデバイスに比べると、消費電力は大きく、Wi-Fiを使っているとき、使っていないときのそれぞれに応じて、いかに消費電力を抑えていくかが難しいのだという。

 今回、筆者は「N-02B」「biblio」「940SH」の3機種で各社のWi-Fi対応サービスを試したが、実際に使っている中ではbiblioを使いかけのまま、机の上に放置してしまい、数時間後に見たら、バッテリー切れで電源が落ちていたということを何度か経験した。その他の2機種はまだ使いはじめてから間もないため、そういったことは起きていないが、Wi-Fiでのコンテンツダウンロードなどを数回、くり返すと、電池のゲージが急激に減ってしまうことはあった。高速通信が便利である半面、バッテリーの消費には十分、目を配る必要があるだろうし、端末メーカーも今後、省電力化を追求していかなければならないだろう。

 また、Wi-Fiでもっとも広く利用されているIEEE802.11b/gは、冒頭でも説明したように、他の機器と共通で利用する周波数帯であるうえ、多くのユーザーが利用しているため、どうしても干渉が起きてしまう可能性がある。ケータイでのWi-Fi利用は大容量のコンテンツを送受信できるとは言うものの、パソコンで利用するデータのように巨大ではないため、それほど大きな影響はないのかもしれないが、もし、接続できなかったり、安定した通信が望めないときは、無線LANアクセスポイントや無線LANルーターで利用する無線チャンネルの設定を見直してみるのも手だ。

 さらに、もうひとつ気になるのが利用環境の整備だ。本誌読者のみなさんなら、すでにパソコンでもWi-Fiを利用し、Wi-Fi対応ケータイも視野に入れているか、すでに使っているかもしれないが、ケータイということになると、それほどリテラシーの高くないユーザーが使おうとすることが十二分に考えられる。しかし、現状の各社のWi-Fi対応ケータイへの取り組みは、まだそれほどビギナーを意識しているとは言えない部分がある。たとえば、端末のメニューや機能の表記、取扱説明書の内容、簡単接続設定機能のサポートなどは、まだまだ改善の余地が多く残されているという印象だ。今後、ケータイでのWi-Fi利用がどれだけ拡大するかは、各キャリアや端末メーカーがいかに導入しやすく、わかりやすい環境を整えるのかが重要なカギを握ってくるはずだ。もちろん、Wi-Fiサービスで利用できる魅力的なコンテンツを揃えることも普及を後押しするためには不可欠なのだが、それ以前に「つながらないければ、始まらない」ということを各社とももう少し意識して欲しいところだ。

 ちなみに、今回は各社が提供するWi-Fi対応サービスを中心に話を進めてきたが、端末にWi-Fi機能が搭載されているということは、また別の可能性も拡がってくる。たとえば、N-02Bに搭載されているアクセスポイントモードもユニークな活用例であるし、逆に最近、話題のモバイルルーターと組み合わせて、他のモバイルブロードバンドサービス経由で利用するなんていうこともできそうだ。家庭のLAN環境と接続できるのだから、かつてノキア製端末などで実現されていたように、ケータイにDLNA機能を搭載し、レコーダーやパソコンに保存されているコンテンツをWi-Fi経由で閲覧したり、ケータイに保存されている写真を居間のテレビで楽しむなんていうことも十分、可能になりそうだ。



(法林岳之)

2009/12/17 11:51