法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

「HUAWEI Innovative Product Launch」、新しい時代を切り開くファーウェイ
2025年3月4日 00:00
ファーウェイは2月18日、マレーシア・クアラルンプールで「2025 HUAWEI Innovative Product Launch」を開催し、話題の三つ折りスマートフォン「HUAWEI Mate XT ULTIMATE DESIGN」をはじめ、複数の製品を発表した。本誌ではすでに速報をお伝えしたが、現地で試用した実機の印象などを含め、レポートをお送りしよう。
グローバル市場で回復しつつあるファーウェイ
かつて国内外のスマートフォン市場において、高い注目を集めていたファーウェイ。2019年に米商務省のエンティティリストに掲載され、さまざまな商取引が制限されたことで、日本向けのスマートフォンは、事実上、撤退せざるを得なくなってしまった。特に、チップセットやプラットフォームの選択が制限されたことは、かなり大きな障壁となった。
しかし、スマートフォン以外のスマートウォッチやスマートバンド、ワイヤレスイヤホンをはじめとしたウェアラブル製品は、次々とエポックメイクな製品を市場に送り出し、国内でも高い支持を集めている。ゴルフナビを搭載した「HUAWEI Watch GT5 Pro」、血圧測定機能を備えた「HUAWEI Watch D2」、イヤーカフ型という新しいスタイルを確立したワイヤレスイヤホン「HUAWEI FreeClip」など、非常に魅力的かつ個性的な製品をラインアップに揃えている。
スマートフォンについては中国市場をはじめ、アジア圏や欧州などを中心としたグローバル市場において、独自プラットフォーム「Harmony OS」(EMUI)を搭載したモデルをリリースする一方、フォルダブルなどの新しいデザインのモデルも積極的に取り組んでいる。なかでも昨年秋、中国市場で発表された「HUAWEI Mate XT ULTIMATE DESIGN」は、たいへん高い注目を集めた。国内でも日本法人が関与しない『並行輸入品』という形で持ち込まれ、一部のでは大きな話題を呼んだ。もちろん、技適などは取得されていないため、国内での通信はできないが、そうしてでも持ち込みたくなるほどの注目度だったとも言える。
こうした先進的な製品の投入や積極的な製品展開が身を結び、中国市場でトップシェアを確保するだけでなく、ファーウェイ全体でも米商務省の規制前を超えるほどの売り上げを確保している。
マレーシアで「HUAWEI Innovative Product Launch」を開催
そんな中、ファーウェイは2月18日、マレーシア・クアラルンプルールにおいて、新製品発表イベント「HUAWEI Innovative Product Launch」を開催した。すでに本誌で速報をお伝えしたように、今回は4つの製品が発表された。それぞれの製品の概要やタッチアンドトライでの印象、市場への影響などについて、考えてみよう。
HUAWEI Mate XT ULTIMATE DESIGN
昨年、中国国内向けに発表され、世界的にも注目を集めた三つ折りスマートフォンが「HUAWEI Mate XT ULTIMATE DESIGN」として、いよいよグローバル向けに発表された。基本的な仕様は中国向けのものに準じているが、言語設定や標準インストールされるプラットフォーム(OS)、アプリなどの仕様が異なる。
本体は2つのヒンジを使い、三つ折りになる構造で、ヒンジのパーツは二つ折りの他製品に比べ、かなりスリムに仕上げられている。タッチ&トライの会場には、ヒンジを含めたパーツ類の分解展示があったが、意外にシンプルな部品で構成されていた。具体的なボディサイズは、閉じた状態で本体幅が約74mm、厚みが約12.8mm、すべて開いた状態では厚さが約3.6mmに仕上げられており、すべて開いた状態は、ほかの一般的なスマートフォンと比べてもかなり薄い。重量は約298gで、折りたたんだ状態ではやや重さを感じるものの、開いた状態はタブレットのようなサイズ感になるため、それほど負担にならない印象だ。本体の背面部分はヴィーガンレザーを採用し、手触りのいい質感に仕上げられている。
ディスプレイは本体を閉じた状態で約6.4インチ、本体右側面の合わせ部分を開くと約7.9インチ、さらに左側の背面側に回り込んでいる部分を手前に開くと、フルに開かれた状態になり、約10.2インチの大画面で操作できる。文章で説明すると、少しわかりにくいが、「Galaxy Z Fold」や「Pixel 9 Pro Fold」などの横開きフォルダブルスマートフォンを開いた状態で、さらに本体左側の後ろからディスプレイが手前に出てくるようなイメージだ。開閉の動きとしては、約7.9インチにするためのひとつめの開閉はヒンジの動きもスムーズで開きやすいものの、約10.2インチにするためのふたつめの開閉は本体の後ろ側に指をかけ、手前に引き出すような動きになるため、やや開閉操作に慣れが必要な印象だ。
本体の背面に備えられたトリプルカメラは、「Xiaomi 14 Ultra」や「AQUOS R9 Pro」などと同じように、複数のカメラが円形のカメラ部にまとめたデザインを採用する。ただ、「HUAWEI Mate XT ULTIMATE DESIGN」のカメラ部は他製品のような円形ではなく、八角形を少し丸めたパーツに収めたデザインとなっている。
細かいスペックについては割愛するが、実際に手にした印象としては、折りたたんだ状態ではスリムで持ちやすく、筆者が普段利用している「Galaxy Z Fold 6」などに近い印象だ。ディスプレイを一段開いた約7.9インチの状態も同様で、筐体の左側の後ろに折りたたまれたディスプレイ、右側の後ろにカメラ部があるため、左右のバランスは取れており、[ブラウザー]や[マップ]などのアプリを起動したときの視認性も良好だ。
そして、端末をフルに開いた10.2インチの状態は、スリムなタブレットと同じような携帯性と操作性だった。動画なども視聴しやすいが、電子書籍やコミックなどを読むのに適していると言えそうだ。
また、約7.9インチの状態で、背面側に回り込んだディスプレイを少し開き、三つ折りの本体をL字のような形状にして、本体を縦向きに立てて置いた状態、ほかのフォルダブルスマートフォンのフレックスモードのような状態でも利用できる。ただし、この場合、ディスプレイの左端の面を机などに接した状態で使うことになるため、ガラス面への傷が少し不安だ。
今回発表された「HUAWEI Mate XT ULTIMATE DESIGN」は、前述の通り、従来の中国国内向けをベースに開発されたもので、グローバル向けに展開される。価格は3499ユーロで、日本円に換算すれば、約55万円という高価なモデルだ。プラットフォームは独自の「Harmony OS」(EMUI)を採用し、Google Playに非対応のため、国内外で販売されているAndroidスマートフォンのようには利用できない。そのため、国内での展開は難しい状況にあるが、スマートフォンのフォームファクターの進化という点で捉えた場合、注目度の高い製品と言えるだろう。グローバル市場及び中国市場でライバルとされるサムスンも三つ折りスマートフォンを開発中とされており、今後、「HUAWEI Mate XT ULTIMATE DESIGN」をはじめとした“Tri-Fold”スマートフォン(三つ折りスマートフォン)がひとつのカテゴリーを築く可能性も十分に考えられる。
フォルダブルスマートフォンは「ヒンジ」や「ディスプレイ(ガラス)」が完成度のカギを握るとされているが、今回の「HUAWEI Mate XT ULTIMATE DESIGN」を触った限り、ファーウェイはフォルダブルスマートフォンの開発において、やや先行しているという印象だ。政治的な事情も絡んでいるため、あまり軽々しいことは言えないが、こうした先進的な製品が国内市場で販売されないのは、残念とも言えるだろう。プラットフォームやチップセットなどの制限が解決し、いつか国内でも利用できるようにならないかと、密かに期待したい。
HUAWEI MatePad Pro 13.2
ファーウェイのタブレット「HUAWEI MatePad」シリーズのハイエンドモデルに位置付けられるのが「HUAWEI MatePad Pro 13.2」だ。「HUAWEI MatePad」シリーズは国内でも販売された実績があるが、「HUAWEI MatePad Pro 13.2」はグローバル向けに展開され、日本向けの展開についてはアナウンスされていない。
本体は幅289.1mm×高さ196.1mmで、A4サイズを少し小さくしたサイズに仕上げられている。厚さはわずか5.5mmで、重量はこのクラスのタブレットとしては軽い580gとなっている。本体には1万100mAhの大容量バッテリーを搭載し、最大100Wでの急速充電にも対応する。
本体は2880×1920ドット表示が可能な13.2インチのWQHD+対応有機ELを採用し、狭額縁に仕上げられ、本体前面の画面占有率は94%に達する。特徴的なのが「PaperMatte」と呼ばれるディスプレイを搭載したモデルで、照明などが当たっても反射が極めて少なく、色彩も非常に色鮮やかなまま、視認性を確保している。イベントではそのネーミング通り、「紙のような表示」と表現していたが、ノートパソコンのノングレア処理などとは違った美しく反射の少ない表示を可能にしている。付属のペンのレスポンスも良好で、非常に操作しやすかった。ちなみに、「PaperMatte」ディスプレイを採用しないモデルもラインアップされる。
背面には50MPと8MPのデュアルカメラ、ディスプレイ上部のノッチには16MPのインカメラを内蔵する。キーボードやペンなどのアクセサリーも提供され、2in1スタイルでの利用も可能。プラットフォームは独自のHarmony OSを採用し、ビジネスアプリは「WPS Office」がインストールされ、WordやExcelなどの文書を扱うことができる。
価格は「PaperMatte」ディスプレイ搭載モデルが1199ユーロ(約19万円)、通常モデルが1049ユーロ(約16万円)で、タブレットとしては高価格帯に位置付けられるが、一般的なパソコンに代わるツールとして捉えれば、リーズナブルという見方もできる。特に、「PaperMatte」ディスプレイの低反射と自然な色彩は、これまでの他製品にもない仕上がりのものであり、注目度の高い製品と言える。
HUAWEI FreeArc
2月7日に国内で開催された「HUAWEI JAPAN 2025年 Q1新製品発表会」において、世界に先駆けて発表された「HUAWEI FreeArc」がグローバル向けに発表された。国内向けはクラウドファンディングでの支援で提供されるのに対し、グローバル向けは店頭向けの製品として販売される。価格は119ユーロ(約1万9000円)で、カラーは国内向け同様、Black、Green、Grayがラインアップされる。
すでに国内向けにクラウドファンディングで展開されているので、詳しい説明は省くが、製品は耳に引っかける「C-bridge Design」を採用した完全ワイヤレスイヤホンで、安定した装着感でランニングなどのエクササイズ中も外れにくいという特徴を持つ。IP57規格準拠の防水防塵にも対応し、汗や雨などの影響も受けにくく、安心して利用できる。ドライバーは17×12mmの高感度ドライバーを採用し、イヤホンのみで約8時間、充電ケースを組み合わせれば、約36時間の音楽再生が可能。マイクを使い、音声通話に利用した場合は充電ケースを組み合わせ、最大20時間の利用ができる。マルチポイントにも対応しているため、スマートフォンやパソコン、タブレットなどとシームレスに切り替えながら利用できる。
ファーウェイは「HUAWEI Free Clip」や「HUAWEI Free Buds」「HUAWEI Eyewear」など、新しいオーディオデバイスを投入してきたが、今回の「HUAWEI FreeArc」は安定した装着感と優れた音質を実現しており、これまでの製品とはまた違った方向性のオープンイヤータイプのイヤホンになる。
HUAWEI Band 10
ファーウェイはスマートウォッチよりも手軽に利用できる「HUAWEI Band」シリーズを展開しているが、今回の発表会では最新モデル「HUAWEI Band 10」が発表された。「HUAWEI Watch GT5 Pro」や「HUAWEI Watch D2」などのスマートウォッチにも搭載された睡眠分析や毎日の健康スナップショットなどが強化され、より手軽かつ的確にヘルスケア情報を記録できる。発売日や価格などは明らかにされず、デモ機も展示されなかったが、「HUAWEI Band 10」をはじめとしたスマートバンドやスマートウォッチを対象に、「eWallet Payment」(キャッシュレス決済サービス)が提供されることが明らかになった。具体的には、東南アジアで提供されている「Touch 'n Go eWallet」(TNG Wallet/マレーシア)、「Gcash」(フィリピン)、「MPay」(タイ)に対応させ、ディスプレイに表示したQRコードで決済サービスを利用できるようにする。
国内ではFeliCaを利用したおサイフケータイのサービスが圧倒的に強く、スマートウォッチでも「Apple Watch」や「Galaxy Watch」、「Garmin」などがFeliCaを搭載し、モバイルSuicaなどを利用できるようにしている。しかし、FeliCaチップを搭載しなくてもディスプレイに表示したコード決済が利用できるようになれば、さらにキャッシュレス決済の利用が拡大することが期待される。ただ、国内で提供される決済サービスは、各携帯電話会社及び関連会社が提供するものが強く、ファーウェイをはじめとした海外のメーカーのスマートウォッチやスマートバンドで利用できるようになるかは微妙な状況だ。とは言うものの、ユーザーの利便性を考えれば、スマートバンドでのコード決済も有用であり、関連各社にはこうしたデバイスでのサービス提供も検討して欲しいところだ。
垣間見えるファーウェイの技術的なアドバンテージ
冒頭でも触れたように、ファーウェイは米商務省による制限の影響で、国内ではスマートフォンやタブレット、パソコンなどの販売を縮小し、ここ数年はスマートウォッチやスマートバンド、ウェアラブルデバイスなどに注力している。しかし、日本以外の市場ではスマートフォンやタブレットなどを展開し、着実に市場でのシェアを伸ばしている。
今回、グローバル向けに発表された三つ折りスマートフォン「HUAWEI Mate XT ULTIMATE DESIGN」、PaperMatteディスプレイが特徴的な「HUAWEI MatePad Pro 13.2」は、日本市場への展開が期待できないものの、スマートフォンやタブレットの進化という点において、いずれも注目できる製品であり、そこにはかつてファーウェイがスマートフォンのカメラなどで市場をリードしてきたときと同じような技術的なアドバンテージを垣間見ることができる。
モバイル製品に限らず、IT業界では「Innovation(イノベーション)」(技術革新)というキーワードがよく使われるが、ファーウェイは他メーカーが提供していない、実現していない『Innovation』を見せてくれるメーカーのひとつであり、今回の「HUAWEI Mate XT ULTIMATE DESIGN」や「PaperMatteディスプレイ」はまさにそれを具現化したものと言えそうだ。今のところ、国内では利用できそうにないことが残念だが、こうした本当の意味での『Innovation』を数多くの製品で実現し、国内市場にも順次、展開されていくことを期待したい。