法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」
シャープが「AQUOS R8」で描く、もうひとつのフラッグシップモデル
2023年9月5日 00:00
2023年上半期の各社の新製品が相次いで発売される中、NTTドコモからはシャープ製端末「AQUOS R8」が発売された。
シャープ製端末としては、すでにNTTドコモとソフトバンクから1インチ(1.0型)イメージセンサーを搭載した「AQUOS R8 pro」が発売されているが、同じく「AQUOS R」の名を冠したもうひとつのフラッグシップ「AQUOS R8」が発売された。筆者も実機を試用することができたので、「AQUOS R8 pro」との違いなどを踏まえながら、チェックしてみよう。
フラッグシップモデルという存在
国内外で販売されるスマートフォンには、価格や性能の違いなどにより、いくつかのクラスに分類されている。
大まかに分けると、もっともリーズナブルな価格で購入できる「エントリー」、必要十分なスペックを備えた「ミッドレンジ」、最上位に位置付けられるのが「フラッグシップ」の3つで、この他にも「フォルダブル」や「ゲーミング」など、スマートフォンとしてのキャラクターや方向性が違うモデルもある。
かつては「ハイスペックなフラッグシップモデルを買っておけば、長く使える」と考えられ、フラッグシップモデルが市場をリードしていたが、ここ数年は改正電気通信事業法で端末購入補助が制限されたことで、国内での売れ筋はミッドレンジモデルに移行している。
その一方で、コロナ禍においては、製造や物流のコスト増、半導体不足、急激な為替レートの変化によって、フラッグシップモデルが高騰し、20万円前後やそれを超える価格帯で販売されるようになってしまった。
こうした状況に対し、各携帯電話会社は残価設定ローン型の端末購入プログラムを提供するなどの施策で、拡販に努めているが、昨年あたりからはフラッグシップモデルやハイエンドモデルの売れ行きもかなり落ち込んでいる。
ハイエンドモデルやフラッグシップモデルが高騰した背景には、前述のように、コロナ禍における社会環境の変化が大きく影響しているが、もうひとつの背景として、ユーザー側のニーズが変化してきたことも挙げられる。
確かに、性能の優れたスマートフォンは欲しいが、カメラひとつをとっても「そこまでハイスペックなものはいらない」という考えもあれば、一部のモデルでは「映画みたいなスゴい撮影ができるって話だったけど、前のモデルと変わらなかった」という落胆の声が聞かれることもある。
スマートフォンそのものが成熟したことも関係しているが、本来、フラッグシップモデルとして、何が求められているのかが今ひとつ見えにくく、あるいは理解されにくくなってきた側面もある。
振り返ってみると、パソコンでも同じことだが、本来、ハイスペックのモデルを使う理由は、目的の作業をサクサクと快適にこなすことにある。そのために、より大きなディスプレイが必要だったり、美しい写真や動画が撮影できるカメラが求められたり、処理能力の高いCPU(チップセット)などが求められているわけだ。
今回、NTTドコモから発売されるシャープ製スマートフォン「AQUOS R8」は、そんなフラッグシップモデルの位置付けを見直したモデルと言えそうだ。シャープは供給先別に異なっていたフラッグシップモデルのネーミングを2017年に「AQUOS R」に統一し、毎年、新モデルを各携帯電話会社に供給し、最近ではオープン市場向けにもSIMフリーモデルを展開している。
2021年にはスマートフォン向けとしてはじめて、1インチ(1.0型)イメージセンサーを採用したカメラを搭載し、世界中を驚かせたが、今年は同じく1インチイメージセンサーカメラ搭載の「AQUOS R8 pro」をNTTドコモ向けとソフトバンク向けに供給する一方、NTTドコモ向けには「AQUOS R8」という新しいモデルを供給することになった。
形としては「もうひとつのフラッグシップモデル」として、世に送り出されるわけだ。ちなみに、各携帯電話会社向けの発売日から約1カ月ごになる8月31日からは、「AQUOS R8 pro」と「AQUOS R8」のSIMフリーモデルがオープン市場向けに発売されることも発表されている。
両製品の違いについては、本コラムで順に説明するが、スマートフォンの心臓部とも言えるチップセットは共通にしながら、ディスプレイやカメラの仕様が見直され、ボディサイズなども変更することで、「ひと味違ったAQUOS R」として仕上げられている。価格は14万6850円(ドコモオンラインショップ)に設定されており、「AQUOS R8 pro」に比べ、6万円近く割安となっている。
NTTドコモの「いつでもカエドキプログラム」の月額は3687円で、実質負担額も8万円台に抑えられている。8月31日から販売されるオープン市場向けのSIMフリーモデルは、13万円台後半に設定されている。「AQUOS R8」と「AQUOS R8 pro」ではチップセット以外の仕様が違うため、単純に比べることはできないが、昨今の高騰するハイエンドモデルの価格設定を鑑みると、比較的、手にしやすいフラッグシップモデルと言えそうだ。
MIL規格にも準拠したスリムな軽量ボディ
まず、ボディから順に見てみよう。「AQUOS R」シリーズは大画面ディスプレイを搭載するフラッグシップモデルであるため、全体的に大ぶりなボディを採用してきたが、「AQUOS R8」は全体的にスリムで持ちやすいボディに仕上げられている。
幅74mm、厚さ8.7mmは「AQUOS R8 pro」と比べ、幅で3mm狭く、厚さで0.6mm薄く、重量も24g軽い179gに抑えられている。「AQUOS sense」シリーズのようなコンパクトボディではないが、スリムで扱いやすいサイズ感のボディだ。
背面は「AQUOS R8 pro」が大きなカメラリングを備えているのに対し、「AQUOS R8」のカメラ部は「AQUOS R7」と同じようなデザインで、突起も大きくなく、ほぼフラットな背面は指紋や手の跡を着きにくいマットなFrosted Panelを採用し、側面のフレーム部分はブラスト仕上げを採用する。ボディ周りで「AQUOS R8 pro」と違うのは、IPX5/IPX8防水、IP6X防塵に加え、MIL-STD-810G準拠の耐衝撃、MIL-STD-810H準拠の耐環境性に対応していることだ。
特に、MIL-STD-810Hは「防水(浸漬)」「防水(雨滴)」「耐振動」「高温保管(固定)」「高温保管(変動)」「高温動作(固定)」「高温動作(変動)」「低温動作」「低温保管」「温度耐久(温度衝撃)」「低圧保管」「低圧動作」の12項目のテストをクリアしており、幅広い環境で安心して利用できる仕様を整えている。
屋外での作業をはじめ、温度や湿度、気圧などの変化が大きい環境でも耐えられるハイエンドモデルという位置付けは、さまざまな職種やシーンにとって、貴重な存在と言えるだろう。
バッテリーはボディがスリムなこともあり、「AQUOS R8 pro」よりも10%近く少ない4570mAhを搭載する。充電は本体下部のUSB Type-C外部接続端子を使い、USB PD3.0準拠の急速充電に対応するが、「AQUOS R8 pro」と違い、Qi規格準拠のワイヤレス充電には対応していない。
「AQUOS R8 pro」よりもバッテリー容量が少ないため、連続使用時間が気になるかもしれないが、連続待受時間は「AQUOS R8」の方が長く、連続通話時間は数%短い程度の違いしかない。後述するように、チップセットは同じだが、カメラのイメージセンサーが違ううえ、対応周波数が異なることも影響している。
ある程度、長期間利用しなければ、なかなか差は見えてこないが、短い期間、試用した範囲ではバッテリー駆動時間に実用上の差がほとんどないものの、「AQUOS R8」の方がわずかにロングライフではないかとの印象を得た。もちろん、利用スタイルによって、まったく違う結果になるかもしれないことはお断りしておく。
バッテリー周りでは他のスマートフォンAQUOSと同じように、充電時の最大量を90%に抑え、バッテリーの劣化を抑える「インテリジェントチャージ」に対応する。
スマートフォンのロングライフ化が進んでいる中、バッテリーに負荷をかけないしくみを取り入れていることはユーザーとしても安心感が大きい。生体認証は本体右側面の電源ボタン内蔵の指紋センサーによる指紋認証、インカメラを利用した顔認証に対応し、顔認証はマスク着用時も利用できる。
「AQUOS R8 pro」は画面内に超音波式指紋センサーを採用したものの、市販の保護ガラスを貼ったときの動作などに若干の課題を残しているが、「AQUOS R8」の電源ボタン内蔵指紋センサーは他製品でも数多く採用されていることもあり、スムーズに認証ができる。机の上に置いているときなどは端末を持ち上げる必要があるが、画面ロック解除だけであれば、顔認証でフォローできるので、ストレスなく、使うことができる。
Pro IGZO OLEDディスプレイを搭載
ディスプレイはフルHD+対応の6.39インチPro IGZO OLED(有機EL)を搭載する。対角サイズとしては「AQUOS R8 pro」の6.6インチより、わずかに小さいが、同じ価格帯のGalaxy S23やiPhone 14/14 Proなどに比べても少し画面が大きく、メールやブラウザ、SNSだけでなく、動画コンテンツなども迫力あるサイズ感で楽しむことができる。
ディスプレイの仕様としては、「AQUOS R8 pro」に搭載されているものと少し違うものの、コントラスト比は1300万:1、ピーク輝度は1300nitに対応し、Pro IGZO OLEDではおなじみのアイドリングストップにも対応する。
画面が停止しているときは1Hzで消費電力を抑えつつ、動画などでは120Hzでなめらかに表示し、後述する「AQUOSトリック」内の「なめらかハイスピード表示」と「ゲーミングメニュー」で設定することで、120Hz表示に黒画面を挿入することで、最大240Hzのなめらか表示を可能にする。
アドバンテージはゲームや動画表示だけでなく、SNSなどで頻繁に画面をスクロールしたり、画面を切り替えるような日常の操作においても表示がスムーズで、快適に利用できる。
ハイパフォーマンスを実現するSnapdragon 8 Gen2を搭載
チップセットは「AQUOS R8 pro」と同じ米Qualcomm製Snapdragon 8 Gen2を搭載する。昨年の「AQUOS R7」に比べ、CPU性能で32%UP、GPU性能で24%UPを実現しており、さまざまなユースケースにおいて、トップクラスのパフォーマンスが得られる。
「AQUOS R8 pro」と違い、大きなカメラリングは備えていないが、同様の排熱対策が採られており、長時間の動画再生などでも背面が熱くなるようなことはなく、カメラも連続利用で停止するようなことは起きなかった。
メモリーとストレージは8GB RAMと256GB ROMを搭載し、最大1TBのmicroSDメモリーカードを装着することができる。最近は本体ストレージのみで構成する機種が増えているが、外部メモリーカードに対応しているため、クラウドサービスとは別に、本体のデータをバックアップしたり、ローカルで再生できる写真や動画を保存するなど、実用面でのメリットは大きい。
ちなみに、microSDメモリーカードはSIMカードトレイに載せる構造ではなく、「AQUOS R8 pro」と同じように、本体に直接、挿す構造を採用している。
ネットワークは国内の5G/4Gに対応するほか、海外では5Gで11バンド、4Gで21バンドに対応することで、海外渡航時などにも快適なパフォーマンスで利用できるようにしている。5GはSub6のみの対応で、ミリ波には対応しない。5GはNTTドコモが提供する「5G SA」には非対応となる。
NTTドコモでの国内利用は、5G/4Gのみの対応で、NTTドコモが停波を予定している3Gでの利用はできない。海外では3GやGSM/GPRSにも対応し、ローミングや海外携帯電話事業者のSIMカードを挿したときに利用できる環境を整えている。SIMカードはnanoSIMカードとeSIMのデュアルSIM対応なので、副回線サービスや他社回線を組み合わせての利用にも対応する。
【お詫びと訂正 2023/09/05 15:54】
記事初出時、「5G SA対応」としておりましたが、誤りです。お詫びして訂正いたします。
最大3回のOSバージョンアップ、最大5年間のセキュリティアップデート対応
プラットフォームはAndroid 13が搭載されており、シャープでは最大3回のOSバージョンアップと最大5年間のセキュリティアップデートの提供を予定しており、長く使いたいユーザーにとっては安心感が大きい。
アップデートは携帯電話会社によって、多少のタイミングの差異があったものの、これまで発売してきたシャープ製端末ではほぼ着実にアップデートが実施されており、国内ではGoogleのPixelシリーズなどに次いで、早いタイミングで提供されるほどの実績を持つ。
日本語入力システムについては出荷時にAndroid標準の「Gboard」が設定されているが、[設定]アプリの「AQUOSトリック」内から選べば、シャープ独自に「S-Shoin」をダウンロードして、設定することができる。
「Gboard」がダメというわけではないが、「S-Shoin」は日本語の語彙や追加可能な辞書、カスタマイズ性などに優れており、ぜひ設定して、試して欲しい機能だ。独自の日本語入力システムを採用するメーカーは数少ないが、シャープには今後も継続して、ブラッシュアップを続けて欲しいところだ。
[設定]アプリ内の「AQUOSトリック」には、シャープ独自の便利機能や設定がまとめられている。前述の日本語入力システム「S-Shoin」をはじめ、スクリーンショットを簡単に撮れる「Clip Now」、特定の場所で自動的にテザリングをON/OFFできる「テザリングオート」、指紋センサーのロングタッチで特定のアプリを起動できる「Payトリガー」などが登録されている。
「Payトリガー」はd払いなどのキャッシュレス決済や会員アプリなどを起動したいときに便利だ。同じく「AQUOSトリック」内にはホームアプリとして、新たに「ジュニアモード」が追加された。
ホームアプリは「AQUOS Home」が標準で、シニアやビギナー向けの「AQUOSかんたんホーム」も用意されていたが、「ジュニアモード」では子どもが利用することを考慮し、Google提供の「ファミリーリンク」と連携するほか、文字の見やすさや目の負担を軽減する表示を設定したり、緊急時にすばやく保護者に連絡できるメニューを用意するなどの機能を備える。
Leica監修カメラを搭載
ここ数年の「AQUOS R」シリーズと言えば、1インチ(1.0型)イメージセンサーを採用し、Leicaとの協業によるカメラ性能の強化が話題だが、今回の「AQUOS R8」ではイメージセンサーのサイズこそ、1インチではないものの、「AQUOS R8 pro」などと同じように、Leica監修のカメラが搭載されている。
本体背面の中央上部には1/1.55インチの5030万画素イメージセンサーとF1.9のレンズを組み合わせたメインカメラを搭載。焦点距離は23mmとやや広角よりで、電子式手ぶれ補正に対応する。
メインカメラの左隣には1300万画素イメージセンサーとF2.3のレンズを組み合わせた広角カメラを搭載。こちらは焦点距離が17mmで、さらにワイドな撮影が可能で、同じく電子式手ぶれ補正に対応する。
撮影機能としてはAIオートによるシーン自動認識に対応するほか、人物とペットの両方に対応したポートレート、最大8Kでの撮影が可能なビデオ、明暗の強いシーンに役立つHDRビデオなどに対応する。夜景に対応したナイトモードは標準で撮影できるほか、花火モードと星空モードでの撮影にも対応する。
従来のシャープ製端末と少し違う点としては、カメラの設定に「料理ぼかし調整」という項目が追加された。
スマートフォンでは料理の写真を撮ることが多いが、料理を撮る角度によっては後ろ側がややボケすぎてしまい、料理が不自然に写ってしまうため、後ろ側のボケ具合いを調整して、自然な仕上がりで撮影できるようにしている。
実際の撮影については、さすがに「AQUOS R8 pro」の1インチイメージセンサー搭載モデルには及ばないものの、自然な色合いで撮影でき、周辺部の歪みも少なく、暗いところでも美しい写真を撮ることができた。「Leica監修」の名に相応しいチューニングがされているという印象だ。