法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

もっともお手頃にiOSを楽しめる「iPod touch」第7世代

アップル「iPod touch」(第7世代)、約123.4mm(高さ)×58.6mm(幅)×6.1mm(厚さ)、約88g(重量)、シルバー(写真)、スペースグレイ、ゴールド、ピンク、ブルー、RED(PRODUCT RED)をラインアップ

 今やアップルにとって、もっとも重要な製品はiPhoneであり、その製品を支えているのは「iOS」だ。しかし、そのルーツのひとつとも言えるのが音楽プレーヤーの「iPod」であり、その流れをくむのがiOSを搭載した「iPod touch」だ。

 今年5月、従来モデルから4年ぶりの登場となった「iPod touch」(第7世代)が発売された。実機を試すことができたので、その内容をチェックしながら、狙いについて考えてみよう。

音楽プレーヤーからメディアプレーヤーへ

 今から18年前、アップルが低迷期を脱却するきっかけとなった音楽プレーヤーの「iPod」。今年、40周年を迎えたソニーのウォークマンと共に、音楽を身近な存在にしてくれた製品として、世界中のユーザーに愛されてきた。

 そんなiPodから派生する形で、2007年に登場したのが「iPod touch」だ。当時、米国向けに発売されたばかりの初代「iPhone」と同じiOSを搭載し、音楽再生だけでなく、アプリをインストールできるようにしたことで、音楽プレーヤーからメディアプレーヤーへと進化したモデルとして登場した。それまでのiPodはHDD搭載モデルが中心で、操作もスクロールホイールだったのに対し、iPod touchはストレージにフラッシュメモリを搭載し、タッチパネルによる操作を採用していた。

 その後、iPhoneが世界のモバイル市場へ展開されていく中、iPod touchもiPhoneからモバイルデータ通信機能を省いたメディアプレーヤーとして、進化を続け、2008年に第2世代、2009年に第3世代、2010年に第4世代のモデルが市場に送り出されてきた。iPodにはiPod mini(2004年~2005年)、iPod nano(2005年~2017年)、iPod Shuffle(2005年~2017年)といったバリエーションが登場したが、オリジナルを継承した「iPod classic」も2014年に販売を終え、最終的にはiPod touchのみが生き残る形となった。

[ブック]アプリはブックストアやオーディオブックが購入できる
[iTunes Store]アプリでは音楽が購入できるほか、Apple Musicも契約可能
[TV]アプリでは映画などを購入することが可能

 そして、今回、発売された「iPod touch」(第7世代)は、2015年7月に発売された「iPod touch」(第6世代)以来、4年ぶりの後継機種になる。今年4月に発表された「iPad mini」(5th)も3年半ぶりのリニューアルで、多くのユーザーを驚かせたが、iPod touchも同様で、おそらく多くのユーザーが「もう後継機種は出ないな」と思っていた中での新製品発売となった。iPod touch(第7世代)はサイズや重量、ディスプレイサイズなどの基本仕様は従来モデルをそのまま継承しながら、ハードウェアの一部を最新のものに刷新することで、現在、iPhoneなどに提供されているアプリやサービスがほぼ利用できる環境を整えたものとなっている。価格は32GBモデルが2万1800円(税抜、以下同)、128GBモデルが3万2800円、256GBモデルが4万3800円となっており、iOSが動作する製品としてはもっとも低価格で、もっとも手軽に楽しめる製品という位置付けになる。

従来モデルと同じボディにA10 Fusionチップを搭載

 まず、外観からチェックしてみよう。本体は従来のiPod touch(第6世代)とまったく同じサイズのボディを採用しており、高さ、幅、厚さ、重量のいずれも共通となっている。iPhoneと違い、アップル純正品のケースが存在しないため、サードパーティ製品での判断になるが、市販品を見る限り、従来のiPod touch(第6世代)と同じケースが利用できるようだ。

背面には8MPのカメラを搭載。最近のアップル製品では珍しく、「iPod」と機種名が明記されている

 本体前面に1136×640ドット表示が可能なIPSテクノロジー搭載4インチ液晶を搭載する。800:1のコントラストや最大輝度500cd/m2というスペックは、iPhone 7/7 Plusなどに及ばないものの、十分な視認性を確保している。iPhoneやiPad同様の耐指紋性撥油コーティングも施される。ディスプレイの下にはiPhone 8/8 Plus以前で採用されていたホームボタンを備えるが、指紋認証センサーのTouch IDは組み込まれていない。

ホーム画面のレイアウトはiPhone SEなどと同じ4個×5行(+Dock)表示

 デザイン的には前面の上下にベゼルがある旧来のiPhoneと同じもので、フルスクリーン化が進む最近のスマートフォンから見ると、やや懐かしいような印象も受ける。ただ、iPhone 7やiPhone 8に比べると、ボディもひと回り小さく、手に持って、すぐにわかるほどの薄さで、気軽に持ち歩くことができる。未だに根強い人気を持つiPhone SEと比較しても1.5mm薄く、25gも軽い。ちなみに、ボディサイズはiPhone SEの高さが0.4mm上回るだけで、ボディ幅はまったく同じとなっている。

右側面には何もボタン類がない。カメラ部は周囲にリングが備えられ、わずかに突起している
左側面は分割タイプの音量キーのみを備える
電源キーは本体上部右側に備える。iPhone SEまでと同じレイアウト。最近のiPhoneは右側面に備えられている

 今回のiPod touch(第7世代)が従来モデルと比較して、もっとも大きく変わったのは、チップセットなどになる。従来のiPod touch(第6世代)はA8チップを採用していたのに対し、今回のiPod touch(第7世代)はA10 Fusionチップを搭載している。型番で見る限り、世代が2つ違うことになるが、iPhoneに搭載されている例を参照すると、A8チップはiPhone 6/6 Plusに搭載されているのに対し、A10 FusionチップはiPhone 7/7 Plus、2018年発売のiPad(6th)などに搭載されている。

下部にはLightningコネクタ(外部接続端子)、3.5mmヘッドフォンジャックを備える

 また、アップルは開示していないが、従来のiPod touch(第6世代)のRAMが1GBであるのに対し、iPod touch(第7世代)はRAMが2GBにアップグレードされている。iOSはハードウェアの仕様などによって、最新版へバージョンアップできる対象機種が限られるが、最近のiPhoneやiPadなどの傾向として、RAMの容量が1GBから2GBへの移行が進んでおり、iPod touchでも同様の措置が執られたようだ。

iPod touch(第7世代)(左)とiPhone SE(右)は、厚さが違うが、高さは0.4mm違うだけで、ほぼ同サイズ

 そのため、今秋、公開が予定されているiOS 13では、iPod touch(第7世代)のみが対象機種となっており、従来のiPod touch(第6世代)以前の機種は、現時点で対象機種に含まれていない。今後、iPod touchを使うのであれば、iPod touch(第7世代)への乗り換えを検討した方が良さそうだ。

 A10 Fusionチップ搭載によるメリットとしては、最近、アップルが積極的に推し進めているARを利用したアプリを利用できることが挙げられる。AR系のアプリは実用系だけでなく、エデュテイメント系のアプリが増えており、これらを子どもたちに体験させたい保護者には興味のわくところだろう。

ARを使い、さまざまなもののしくみを学ぶことができる「jig Space」
ARを利用した標準アプリの[計測]アプリでは長さなどを計測できる

 ところで、今回のiPod touch(第7世代)は従来モデルと同じ筐体を採用しながら、より新しい世代のチップセットを搭載している。一般的にチップセットが変更されると、熱設計などをやり直すため、本来は筐体も設計し直されることが多いが、iPod touch(第7世代)は同じ筐体のまま、仕上げている。少し余談になるが、今回のような取り組みが可能なのであれば、根強いユーザーの期待を背景に何度も話題になりつつ、「熱設計が変わるから、実質的にはかなり難しい」と否定されてきたiPhone SEの後継モデルもあながち不可能ではなくなってくるようにも見える。iPad mini(5th)の3年半ぶりのリニューアルといい、アップルは従来モデルの筐体を活かしながら、新しい世代のモデルを作り出すことを狙っているのだろうか。

iPodシリーズ最大容量を実現

 ストレージに関しては、前述の通り、32GB/128GB/256GBのモデルがラインアップされる。かつてのiPodは「容量=保存可能な楽曲数」だったが、iPod touchはアプリやゲーム、ビデオや電子書籍などのデジタルコンテンツなど、さまざまなデータを保存するため、用途も幅広い。ただし、音楽についてはアップルが提供する「Apple Music」をはじめ、SpotifyやAmazon Prime Musicなど、ストリーミングによる配信サービスが主流となりつつあり、iPod touchを利用する場所にWi-Fi環境があれば、音楽を保存するための領域を余り考えないこともできる。このあたりはユーザーによって、判断の分かれるところだ。

 最新のiPhone XS/XS Max/XRなどでもかつてのように最大容量のモデルが売れているわけではなく、もっとも低価格のモデルと中間的な容量のモデルが売れているいることを考慮すると、iPod touchでは価格重視なら32GBモデル、バランスの良さで128GBモデルが売れ筋で、通信環境がない場所で利用するために、とにかく大容量が欲しいユーザーが256GBモデルという選択になりそうだ。

 余談になるが、歴代のiPodシリーズを振り返ってみると、今回のiPod touch(第7世代)の256GBモデルは、シリーズで最大容量を搭載していたiPod Classic最終モデルの「iPod Classic」(第6世代)の160GBをはじめた超えたモデルになる。筆者は数年前、より多くの楽曲を保存するため、iPod Classicの内蔵HDDを交換(改造)して、240GB版iPod Classicを作った経験があるが、今回のiPod touch(第7世代)はそれを超えるモデルになったわけだ。最近は1TB版(「TeraPod」と呼ぶらしい)を作る猛者も居るとか……。

 カメラについては背面に8MPの裏面照射型CMOSイメージセンサーにF2.4のレンズを組み合わせたメインカメラ、前面に1.2MPの裏面照射型CMOSイメージセンサーにF2.2のレンズを組み合わせたFaceTimeHDカメラを搭載する。オートフォーカスに対応し、タイマー撮影、HDR撮影、フルHD対応ビデオ撮影、タイムラプス撮影なども利用できる。スマートフォンでは一般的なGPSに対応していないが、Wi-Fi接続時はWi-Fiネットワークへの距離に基づいた位置情報を記録することはできる。ただし、GPSのような精度は得られない。通信環境はモバイルデータ通信が利用できないが、Wi-FiはIEEE 802.11a/b/g/n/ac、Bluetooth 4.1に対応する。

 プラットフォームについてはiOS 12が採用され、基本的にはiPhoneなどと同じ標準アプリがそのまま利用できるほか、アップルが無料で提供する「iMovie」や「GarageBand」をはじめ、「Pages」「Numbers」「Keynote」などのオフィス系アプリも利用できる。

iPod touchはどう使われるのか?

 従来モデルのボディやコンセプトを継承しながら、ハードウェアの仕様を新しい世代にすることで、最新のiOSにも対応可能な環境を整えたiPod touch(第7世代)だが、実際のところ、iPod touchはどういったユーザーに利用されているのだろうか。

 あらためて説明するまでもないが、iPod touchはiPhoneからモバイルデータ通信機能などを省いたメディアプレーヤーという位置付けの製品になる。音楽や映像、ゲーム、電子書籍、アプリなどが利用できるが、当然のことながら、同様のことを実現する製品として、「iPhone」が存在する。今年、国内のモバイル市場は販売施策の見直しにより、端末購入補助が受けられなくなるが、これまで割安な価格でできてきたのは事実であり、現在もUQモバイルやワイモバイルでiPhone 7などが割安に購入でき、IIJやmineoなどのMVNO各社でもiPhoneが取り扱われている。同時に、中古品を扱う店舗では使用感の少ない美品が多く販売され、ときには未使用品と思しき商品も販売されている。

 こうした状況下において、敢えてモバイルデータ通信機能を持たないiPod touchを選ぶのは、どういう目的があるのだろうか。メーカーからはユーザー分布などの情報が何も開示されていないが、販売店などに話を聞いてみると、やはり、低年齢層のエントリー端末として、一定の需要があるという。たとえば、小中学生といった年齢層がスマートフォンや携帯電話を持つことを好ましく思わない保護者は、メディアプレーヤーとして、iPod touchを買い与え、ゲームや動画、アプリなどを楽しませているという。通信はWi-Fiに限られてるため、ある程度、利用できる場所も限定できるうえ、保護者がiPhoneユーザーであれば、わからないことがあっても対処しやすいという考えのようだ。

 また、iOSの環境は楽しみたいが、携帯電話回線はフィーチャーフォンを利用しながら、iPod touchとモバイルWi-Fiルーターなどを組み合わせるケースも多いという。これはもう少し上の高校生などの年齢層も居れば、もっと上のシニア世代のユーザーが利用する例もあるという。いずれにせよ、割り切った使い方を受け入れているユーザーという印象だ。

 これらの想定ユーザーの中で、アップルがもっとも期待を寄せているのは、やはり、低年齢層のユーザーで、A10 Fusionチップの搭載により、最新のゲームアプリなども遊べる環境が整っていることをアピールしたようだ。ただ、『携帯ゲーム機』という切り口で見た場合、すでにスマートフォンが圧倒的なメインプレーヤーであり、今後はGoogleの「Stadia」やマイクロソフトの「xCloud」といったクラウドゲームが登場することを考えると、iPod touchにどれだけの伸びしろがあるのかは未知数だ。映像コンテンツなどを楽しむメディアプレーヤーとしても画面サイズがそれほど大きいわけではなく、音楽のストリーミング再生には実質的にWi-Fiの接続先が必要であることを考慮すると、若年層のユーザーでもiPhoneに目が向いてしまうだろう。

 また、iPod touchを子どもに持たせる場合、iOSでは1人1つのApple IDの取得を前提としているため、子ども用のApple IDをiPod touchに設定し、保護者はファミリー共有に設定した自分のiPhoneから子どものiPod touchをコントロールすることになる。ただし、本来、13歳未満の子どもはApple IDを取得できないため、実は小学生以下の子どもにiPod touchを持たせるには、保護者のApple IDを設定したものを渡すことになってしまう。この点はiPadを子どもに与えるときも同様だが、各携帯電話会社でiPhoneを契約したときのようなフィルタリングもないため、保護者が個別に対応を検討し、必要なセキュリティやフィルタリングを設定しなければならない。キッズモードなどで、保護者にも扱いやすい環境を整えているAndroidタブレットなどと大きく異なる点だ。

 いずれにせよ、iPod touchをはじめとした製品を低年齢層や若年層のユーザーへ訴求するのであれば、アップル自身がiOSのポリシーや子どもに持たせる取り組みなどをもっとわかりやすくユーザーに説明し、利用しやすい環境を提示する必要があるだろう。

パッケージには本体のほか、Apple EarPodsやLightning - USBケーブルが同梱される

 初代iPodが登場して、まもなく18年を迎える。その流れを継承したiPod touchは、音楽だけでなく、映像やゲーム、電子書籍、教育など、さまざまなメディアを楽しむ一台として、着実に進化を遂げてきた。今回のiPod touch(第7世代)ではハードウェアの一部を刷新することで、最新のアプリを利用できる一台に仕上げられ、その世界はさらに拡がろうとしている。iPhoneという身近なライバルが存在する中、iPod touchがどのように支持されていくのか、すみ分けていくのかも含め、今後の展開と反響に注目したい。

法林 岳之

1963年神奈川県出身。携帯電話・スマートフォンをはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるゼロからはじめるiPhone XS/XS Max/XR超入門」、「できるゼロからはじめるiPad超入門 Apple Pencil&新iPad/Pro/mini 4対応」、「できるゼロからはじめるAndroidスマートフォン超入門 改訂3版」、「できるポケット docomo HUAWEI P20 Pro基本&活用ワザ 完全ガイド」、「できるゼロからはじめるAndroidタブレット超入門」、「できるWindows 10 改訂4版」(インプレス)など、著書も多数。ホームページはこちらImpress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。