法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」
トリプルスロット&国内全キャリア対応で幅広く使える「moto g7 plus」
2019年7月23日 06:00
国内外のメーカーが参入する国内のSIMフリー市場において、積極的にラインアップを展開し、着実に存在感を増しているモトローラ。同社の主力モデル「moto g」シリーズの最新モデル「moto g7 plus」が発売された。筆者も実機を試すことができたので、レポートをお送りしよう。
完全分離プラン導入で動き出す国内市場
今年、総務省が打ち出した「完全分離」の方針により、国内のモバイル市場は大きな転換期を迎えたと言われている。すでにNTTドコモをはじめ、各携帯電話会社は回線契約と端末購入を分離する料金プランや販売施策を発表し、今秋以降の本格的なスタートに備えつつある。
今回の改正電気通信事業法と総務省令(現時点では「案」)の施行により、今後は端末購入時の割引が制限されることになり、今まで以上に端末の内容と価格のバランスが重視されると予想されている。どんなに高級な端末でも内容が見合わなければ、ユーザーからは敬遠されてしまい、ブランド力が未知数の製品でもユーザーをひきつける機能やスペックを持っていれば、人気が出てくることが期待されている。
そんな国内のモバイル市場において、近年はSIMフリースマートフォンのラインアップを積極的に投入し、着実に存在感を増しているのがモトローラだ。40代後半以上の世代にとっては、モトローラと言えば、「M」のロゴがおなじみだが、携帯電話業界や通信業界、コンピュータ業界の老舗ブランドのひとつとして知られている。もしかすると、本誌読者にもはじめて手にしたケータイが「Motorola」だったという人がいるかもしれない。
そんなモトローラの携帯電話事業もGoogleの買収を経て、現在はパソコンなどでおなじみのレノボグループの傘下で事業を展開している。国内市場ではかつてauなどに端末を供給した実績を持つが、現在はSIMフリースマートフォンを中心としたオープン市場が主戦場となっている。
モトローラのラインアップとしては、フラッグシップの「moto Z」シリーズを筆頭に、これに次ぐ「moto X」シリーズ、低価格帯の「moto E」シリーズなどが展開されているが、今回発表された「moto g7」シリーズは主力モデルに位置付けられる。
昨年発売されたMoto G6シリーズは画面サイズなどが違う「Moto G6」「Moto G6 Plus」が国内向けに販売されたが、今年はスペックや価格が異なる「moto g7 plus」「moto g7」「moto g7 power」の3機種が販売される。
今回の3機種は、もっともハイスペックな「moto g7 plus」を筆頭に、スタンダードな「moto g7」、5000mAhの大容量バッテリーを搭載する「moto g7 power」という構成で、3機種とも画面の対角サイズが同じながら、解像度はmoto g7 powerのみHD+だったり、チップセットはmoto g7 plusのみがSnapdragon 636で、他の2機種はSnapdragon 632を搭載するなど、3機種の間で微妙に仕様を変えている。
その差は価格にも反映されており、最上位のmoto g7 plusが3万8800円(税別、以下同)、これに次ぐmoto g7が3万800円、大容量バッテリーを搭載したmoto g7 powerが2万5800円という構成になっている。
モトローラ・モビリティ・ジャパンのダニー・アダモポウロス社長は発表会の席において、今回の3機種を「グッド(moto g7 power)、ベター(moto g7)、ベスト(moto g7 plus)」と表現していたが、主力シリーズのmoto gシリーズで、ユーザーのニーズをくんだバランスのいいラインアップを構成したという印象だ。今回は3機種の内、もっともスペックの高いmoto g7 plusを試用したので、その内容をチェックしてみよう。
縦横比19:9のフルHD+対応6.2インチディスプレイを搭載
外観からチェックしてみよう。ここ数年のモトローラ製スマートフォンはモデルごとに少しずつ違いがあるものの、基本デザインには統一感がある。今回のmoto g7 plusも従来のMoto G6 Plusなどのデザインを継承しているものの、指紋センサーなどのレイアウトが変更されたことで、外観は少し変化を見せている。
本体は前面のほとんどをディスプレイが覆うフルディスプレイデザインを採用し、背面は左右の端をラウンドさせた形状で、Corning社製Gorilla Glassによるガラス仕上げとなっている。
背面中央上にはモトローラ製スマートフォンの特長でもある円形のカメラモジュール、その下にはモトローラのロゴマークがあしらわれた指紋センサーを搭載する。他の同社製端末でも「M」マークが描かれたが、指紋センサーを組み込んだことで、いいアクセントになった印象だ。
ちなみに、ボディはIP規格による防水防塵対応が明示されていないが、同型のグローバル向けのモデルは「P2iナノコーティング」と呼ばれる撥水加工を施されているとの表記があり、雨に降られる程度であれば、それほど大きなトラブルにはならないと言えそうだ。
本体前面には2270×1080ドット表示が可能なフルHD+対応6.2インチIPS液晶ディスプレイを搭載し、ガラス面は背面同様、Corning社製Gorilla Glassを採用する。従来のMoto G6 Plusは縦横比18:9の5.9インチディスプレイを搭載していたため、ディスプレイそのものが縦方向に少し大きくなったが、ボディの高さ(長さ)は3mmほど短くなっている。
これは従来のMoto G6 Plusで前面に備えられていた指紋センサーを背面に移動したほか、レシーバー部を小型化したり、しずく型ノッチを採用するなどのデザイン変更によって実現されている。これらのデザイン変更により、画面の対筐体比(画面占有率)は82%に達する。本体にはドルビーオーディオ対応のスピーカーを内蔵し、動画視聴時などに迫力あるサウンドを楽しめる。
セキュリティは背面に備えられた指紋センサーによる指紋認証に加え、インカメラを利用した顔認証によるロック解除にも対応する。顔認証によるロック解除は、端末を手に取り、画面を顔のほぼ正面に持ってくるだけでロックが解除できる手軽さが魅力だが、設定時に「顔認証は、パターン、PINまたはパスワードよりも安全ではありません」と表示されることからもわかるように、セキュアな利用には適していない。
顔が似ている兄弟姉妹などが解除してしまうリスクがあるときは、指紋認証などの利用がおすすめだ。ちなみに、Android標準のSmartLockも利用可能で、特定の場所に居るときや特定のデバイスに接続しているとき、持ち運びが検知されたときなどに端末のロックを解除する設定もできる。
主な仕様
チップセットはQualcomm製Snapdragon 636オクタコアを採用し、4GB RAMと64GB ROMを搭載し、最大512GBのmicroSDメモリーカードも装着可能だ。モバイルネットワークの対応バンドは本誌記事を参照していただきたいが、NTTドコモ、au、ソフトバンクのいずれのネットワークにも対応する。VoLTEについても同様だが、MVNOによってはネットワーク供給元の各携帯電話会社がMVNO向けにVoLTEを供給していないケースがあり、その場合は利用できない。
バッテリーは3000mAhの大容量のものを搭載し、付属の27Wターボパワー充電器を使うことで、約15分の充電で半日分程度(約12時間)の利用可能な電池残量を充電できる。
SIMカードは2枚のnanoSIMカードを装着可能で、ネットワークは両スロットともにLTEに対応する。残念ながら、LTEネットワークの同時利用はできないが、2枚のnanoSIMカードとmicroSDカードを同時に装着できる仕様となっている。
SIMフリースマートフォンではDSDS(Dual SIM/Dual Stanby)に対応する機種が多いが、ほとんどの機種は2枚目のnanoSIMカードとmicroSDカードが排他利用であるのに対し、moto g7 plusは2枚のnanoSIMカードで2回線を利用しつつ、microSDメモリーカードも同時に利用できるトリプルスロット仕様となっている。
従来のMoto G6 Plusも同じ仕様だったが、このためにmoto gシリーズを購入するユーザーが居ると言われるほど、隠れたセールスポイントとなっている。具体的な利用例としては、古くから契約している各携帯電話会社のSIMカードを挿し、もう1枚はデータ通信料の安いMVNOのSIMカードを挿すといった組み合わせだ。
国内のSIMカードを1枚目、海外渡航時に2枚目のSIMカードを挿す組み合わせも利用例が多い。Wi-FiはIEEE 802.11a/b/g/n/acに準拠し、2.4GHzと5GHzの両方で利用できる。
プラットフォームは最新のAndroid 9 Pieが採用されており、原稿執筆時点では2019年4月1日版のセキュリティパッチが適用されている。近年のモトローラ製スマートフォンはほぼ「素のAndroid」とも言える「ピュアAndroid」を採用しているが、セキュリティパッチなどのアップデートも積極的で、昨年発売されたMoto G6 Plusもこの1年間で3回程度のアップデートが実施され、Android 9 Pieへのバージョンアップを済ませている。今回のmoto g7 plusも同様の対応が期待でき、Androidユーザーとしては安心して使えるシリーズのひとつ言えるだろう。
多彩な便利機能を備えた[Moto]アプリ
モトローラ製スマートフォンはピュアAndroidの環境を採用しているため、インストールされているアプリAndroid標準のGmailやマップ(Googleマップ)、カレンダーなどのGoogle製アプリに限られているが、唯一、モトローラ自身がプリインストールしているのが[Moto]アプリだ。
[Moto]アプリは「Motoアクション」「Motoディスプレイ」「Motoボイス」の3つのグループから構成される。これらの内、端末をハンズフリーで操作(音声コマンドで操作)できる「Motoアプリ」の「Talk to Me」については、日本語がサポートされていないため、利用できないが、その他の機能はフルに利用できる。
まず、「Motoアクション」には、以下のような機能が用意されている。いずれも単に設定をON/OFFできるだけでなく、各項目を選ぶと、アニメーション付きのチュートリアルが表示されるため、はじめてのユーザーでも機能の内容を理解しやすい。
クイックキャプチャー
端末を持った状態で、手首をすばやく2回ひねると、カメラが起動できる。
簡易ライト
2回振り下ろすとライトのON/OFFができる。
ワンボタンナビ
Androidプラットフォームのナビゲーションキーの機能を簡単なジェスチャーで操作できる。
3本指でのスクリーンショット
画面に3本指でタッチすると、スクリーンショットが撮れる。
スクリーンショットエディタ
スクリーンショットをすぐに編集したり、共有できる。
下向きでマナーモード
画面を下向きに端末を置くと、着信音の停止が有効になる。
持ち上げて消音
着信時に端末を持ち上げると、着信音が無音になる。
メディアコントロール
音楽などを再生中、画面オフの状態でも音量キーの長押しで、曲のトラック変更ができる。
持ち上げてロック解除
端末を持ち上げ、画面を見ると、顔認証と連動して、ロックが解除される。
スワイプして縮小
スワイプすると、画面が縮小表示される。大画面で指が届きにくいときに便利。
次に、「Motoディスプレイ」はディスプレイ関連のメニューで、「ピークディスプレイ」と「親切ディスプレイ」の2つの機能について設定できる。「ピークディスプレイ」は画面オフ時のインタラクティブ通知とクイック情報の表示について設定するもので、端末に手を伸ばしたときに通知を表示したり、特定のアプリからの通知を表示しないなど、細かく設定ができる。「親切ディスプレイ」は画面を見ている間、画面が暗くなったり、スリープしないように設定するもので、動画などを視聴しているときも画面に向き合っていれば、画面が消えず、そのまま視聴できる。
また、これらの[Moto]アプリとは別に、ホーム画面に表示されている円形の[時計と天気]ウィジェットもモトローラ製端末の便利な機能のひとつだ。過去のモトローラ製端末のレビューでも説明したが、円の外周は電池残量を示し、円内に表示されている時刻をタップすれば[時計]アプリ、日付をタップすれば[カレンダー](Googleカレンダー)、上段の天気アイコンをタップすれば[天気]アプリがそれぞれ起動するしくみとなっている。[天気]アプリはAccuWeatherの情報を表示しており、注意報や警報だけでなく、雲の様子から何分後に雨が降るといった情報も表示される。現在地の情報を基に表示されるため、日本に居るときだけでなく、旅先などでも役に立つ。
AI対応の1600万画素&500万画素デュアルカメラを搭載
背面にはモトローラ製スマートフォンのデザイン上のアクセントにもなっている円形デザインのアウトカメラが内蔵されている。
アウトカメラの仕様としては、1600万画素で画素ピッチ1.2μmのイメージセンサーにF1.7のレンズ、500万画素のイメージセンサーを組み合わせたデュアルカメラで、光学手ぶれ補正も搭載する。500万画素のイメージセンサーは基本的に深度情報などを得るためのカメラとなっており、被写界深度の差を活かし、メインの被写体をクリアに捉えつつ、背景をぼかす写真を簡単に撮影できるようにしている。
カメラの撮影モードとしては人物撮影に適した「ポートレート」、人物を撮影して切り抜き、他の背景と合成できる「カットアウト」、特定のカラーのみを残して他をモノクロにする「スポットカラー」、動きのある被写体の一部をアニメーションにして、他を静止画で撮影する「Cinemagraph」、風景などをワイドに撮影するときに便利な「パノラマ」、撮影時にさまざまなテーマに基づいた色合いなどのフィルタを設定できる「ライブフィルタ」などが用意されている。動画も「スローモーション」や「タイムラプス」のほかに、「YouTubeライブ」「ARステッカー」も利用できる。
撮影時の機能としては「HDR」や「タイマー」といった標準的な機能に加え、2倍以上のデジタルズームでも画質劣化を抑えた「ハイレゾズーム」、AIを活かしたスマートな構図のガイドなども搭載される。
インカメラは1200万画素で画素ピッチ1.25μmのイメージセンサーにF2.0のレンズを組み合わせたものが搭載される。セルフィーには欠かせないエフェクト「フェイスビューティ」、画面内の被写体が笑顔になるとシャッターが切れる「自動スマイルキャプチャ」などの機能も搭載される。
また、モトローラ製スマートフォンは、従来から撮影後の編集機能にも配慮してきたことで知られるが、今回のmoto g7 plusでもポートレートで撮影した写真のピントの合う位置を変更したり、背景のボケ具合を調整したり、明るさやカラーを調整するといった編集機能を充実させている。
写真はGoogleの[フォト]アプリで管理するが、ポートレートで撮影した写真にはアイコンが追加され、編集ボタンをタップすれば、編集機能が利用できる。編集機能にはフィルタやボケ味の調整、切り抜き、回転なども用意されており、SNSで写真をシェアしたいときに活用できる。
実際の撮影については、いくつかの作例で確認していただきたいが、いつもの薄暗いバーでの撮影もこのクラスとしては十分な明るさを確保しており、屋外での撮影もクリアに撮影できている。ポートレートモードでの人物の撮影も自然な色合いで、背景のボケ具合もAIのみで処理する他機種に比べると、自然な印象に仕上がっている。
moto g7 plusはトリプルスロット&全キャリア対応で使える実力派
冒頭でも説明したように、国内のモバイル市場は今年、大きな転換期を迎えている。端末購入補助がなくなることで、今まで以上に各製品の価格と内容のバランスが重要視されるようになっていくと言われている。同時に、期間拘束のある契約も見直される可能性が高く、MVNO各社のサービスへの移行や併用するユーザーも増えてきそうな印象だ。
今回発売されたモトローラ製のmoto g7 plusは、こうした状況にも適したスマートフォンと言えそうだ。端末そのものはしっかりとした作り込みをしながら、手頃な価格を設定しており、モバイルネットワークについても幅広い環境に対応することで、ユーザーが利用しやすい環境を整えている。
なかでもトリプルスロットは各社のSIMフリースマートフォンの中でも数少ない仕様であり、幅広い環境を利用する可能性があるユーザーにとっては、大きなアドバンテージとなる。主要3社とMVNO各社を併用するユーザー、個人用とビジネス用の回線を併用するユーザー、海外などの渡航先でプリペイドSIMカードを併用したいユーザーなどにとっては、非常に便利な仕様のひとつと言えるだろう。
デュアルカメラは派手さこそないものの、編集機能も含め、実用的なレベルを確保しているほか、最新Androidプラットフォームとセキュリティへの対応についても十分な実績を持つ。ユーザーにとっては楽しみながら使うことができ、安心して付き合っていくことができる一台と言えるだろう。