法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

カジュアルに、カラフルに、持つうれしさと使う楽しさが拡がる「iPhone XR」

 9月12日(現地時間)、アップルは米国で新世代のiPhoneとして「iPhone XS」「iPhone XS Max」「iPhone XR」を発表した。これらの内、「iPhone XS」「iPhone XS Max」はすでに9月21日から販売が開始されているが、もうひとつの「iPhone XR(テン・アール)」がいよいよ10月26日に発売される。昨年のiPhone Xから続く新世代iPhoneのコンセプトを受け継ぎながら、他のモデルとは違った新しいテイストを持つ期待のモデルだ。ひと足早く実機を試すことができたので、レポートをお送りしよう。

アップル「iPhone XR」、約150.9mm(高さ)×75.7mm(幅)×8.3mm(厚さ)、約194g(重量)、ホワイト(写真)、イエロー、コーラル、ブラック、ブルー、(PRODUCT)REDをラインナップ

新世代iPhoneの中核を担うモデル

 初代iPhoneの登場から11年、国内向けのiPhone発売から10年を迎えた2018年。アップルのiPhoneは新しい世代へと歩みを進め、9月11日に「iPhone XS」「iPhone XS Max」「iPhone XR」を発表した。

 アップルは初代モデル以降、iPhone 5sまで、基本的に1つのモデルを中心に販売してきた。ところが、2014年発表のiPhone 6の世代では、4.7インチディスプレイを搭載した「iPhone 6」、5.5インチディスプレイを搭載した「iPhone 6 Plus」という2つのモデルをラインアップした。これはiPhoneが多くのユーザーに受け入れられ、さまざまなニーズが増えてきたことに対するアップルのひとつの回答だった。これ以降、iPhone 6s世代、iPhone 7世代、iPhone 8世代でも2つのモデルがラインアップされ、iPhone 5sと同サイズの後継モデル「iPhone SE」も加わったことで、幅広いユーザーのニーズをカバーするラインアップが構成された。

 こうしたラインアップに変化の兆しが見えたのが昨年のiPhone 8シリーズとiPhone Xになる。iPhone 8シリーズはiPhone 6世代から続くデザインを継承していたのに対し、iPhone Xはそれまでのデザインを一新し、次なる10年を考えてデザインされたモデルとして登場した。iPhoneの伝統とも言えるホームボタンを廃し、ホーム画面に戻る操作やタスクの切り替え操作もスワイプなどを中心としたタッチやプレスに変わり、新しいユーザビリティを実現した。

 そして、このiPhone Xを継承し、新世代のiPhoneとして、本格的にラインアップを展開することになったのが今回の「iPhone XS」「iPhone XS Max」「iPhone XR」になる。これまでのように、画面サイズが異なる2つのモデルというラインアップではなく、3つの画面サイズ、2つのディスプレイ方式とボディ素材、2種類のカメラモジュール、2つのグループのカラーバリエーションなどを組み合わせることにより、今まで以上に多様なニーズに応えるラインアップが構成された。

iPhone XS(左)、iPhone XR(中央)、iPhone XS Max(右)を並べた状態。長さは約7mmずつ違う。ボディ幅はiPhone XRとiPhone XS Maxが75mmオーバーで、ややワイド。厚さはわずか0.6mmの差なので、ほとんど変わらない
iPhone XR。筆者の手にはちょうどいいサイズ感で、iPhone XS Maxよりも扱いやすい印象

 また、2018年のiPhoneのラインアップがユニークなのは、一般的な他のスマートフォンのように、チップセットをはじめとしたスペックの違いなどによるクラス分けをせず、基本仕様はほぼ共通のまま、ディスプレイサイズや方式、カラーバリエーションによって、バリエーションを拡げている点だ。たとえば、カメラはデバイスの構成が違いながら、ポートレートなどの撮影機能は基本的に同じで、3つのiPhoneのどれを使っても機能的には同じようなユーザー体験が得られるように作り込まれている。ハードウェアの性能差でモデルを差別化するライバル機種とは、明確にアプローチが異なるアップルらしいラインアップ展開と言えるだろう。

 今回発表された新世代iPhoneの内、「iPhone XS」と「iPhone XS Max」は9月21日に主要3キャリアとアップルから販売が開始され、好調なスタートを切っている。今回、取り上げる「iPhone XR」は10月19日に予約が開始され、10月26日から販売が開始される。詳しい仕様などは後述するが、ディスプレイはiPhone XSの5.8インチ、iPhone XS Maxの6.5インチの中間となる6.1インチとなり、ボディ幅も中間の75.7mmで設計されている。価格については他の2機種に比べ、少し抑えられ、カラーバリエーションは他モデルの3色に対し、個性的な7色展開を採用しており、より幅広いユーザー層の期待に応えられる中核的な位置付けのモデルとなっている。

6.1インチのLiquid Retina HDディスプレイを搭載

 まず、iPhone XRの外観からチェックしてみよう。前述のように、iPhone XRは同時に発表されたiPhone XSとiPhone XS Maxの中間的なサイズになるが、ボディそのものは同じ構成ではなく、材質が異なる。

 ボディはiPhone XSとiPhone XS Maxがステンレスを採用していたのに対し、iPhone XRはiPhone 8/8 Plusなどでも採用されてきたアルミニウムが採用されており、ボディ側面のフレーム部分は酸化皮膜処理によって、仕上げられている。このフレーム部分は6つのボディカラーごとに異なる染色が施され、背面のボディカラーとのマッチングもよく考えられている。今回撮影したホワイトは薄いシルバーのフレームだが、ブルーやブラック、(PRODUCT)REDはボディカラーに近いカラーで仕上げられているのに対し、イエローはゴールド、コーラルはピンクゴールドに近いカラーで仕上げられており、それぞれに独特の雰囲気を演出している。

 これまでのiPhoneは一部を除き、シルバーやブラック、ゴールドなどの金属的なイメージのカラーバリエーションを展開してきたが、iPhone XRのカジュアルな6つのカラーバリエーションは、背面のガラス仕上げの効果とも相まって、とても上質感のある仕上がりとなっている。これまでのiPhoneとは違った存在感は、ユーザーがiPhone XRを持つうれしさや使う楽しさを演出してくれる印象だ。

左側面には音量キー、着信/サイレントスイッチを備える
右側面はサイドキー。電源を切るときは、左側面の音量キーといっしょに長押しする
下部にはLightning端子を備える
ボディカラーは背面のみに施される。アップルのロゴとiPhoneの文字はいずれもミラー処理

 ボディの大きさについては、前述の通り、iPhone XSとiPhone XS Maxの中間サイズで、薄さはわずかに0.6mmほど増えているが、実際に持った印象はiPhone XSやiPhone Xよりも少し大きい程度で、すぐに慣れるサイズと言えそうだ。ただ、重量は194gと少し重いため、持ちやすく軽いケースなどと組み合わせるのがおすすめだ。

 ボディ前面には1792×828ドット表示が可能な6.1インチのLiquid Retina HDディスプレイを搭載する。昨年のiPhone X、今年のiPhone XSとiPhone XS Maxは、いずれもOLED(有機ELディスプレイ)を採用していたのに対し、このLiquid Retina HDディスプレイはその名の通り、液晶ディスプレイだ。液晶ディスプレイは従来のiPhone 8シリーズまでの端末には採用してきた実績があるものの、新世代iPhoneでは初の採用であり、ディスプレイ上部に切り欠き(ノッチ)や四隅のラウンドしたデザインもiPhone XSやiPhone XS Maxと共通となっている。ディスプレイの方式が違いながら、表示が共通化されているのもユニークな点と言えるだろう。

ディスプレイの上部は液晶ディスプレイながら、OLEDと同じノッチ(切り欠き)があり、TrueDepthカメラを内蔵する

 ディスプレイの仕様としては、コントラスト比がOLEDの100万:1に対し、液晶ディスプレイは1400:1となっているが、これは方式の違いに起因するもので、実際の利用シーンではまったく遜色なく、楽しむことができる。液晶ディスプレイの表示の美しさのカギを握るバックライトも均一に拡がっており、視認性にも優れる。TrueToneディスプレイにも対応し、周囲の環境に合わせた表示ができるほか、最大輝度は同じ625cd/m2、色域も同じDCI-P3対応で、iTunes Storeなどで配信されている映画なども美しい映像で楽しむことが可能だ。

 ただし、ノッチ部分の処理についてはiPhone XSとiPhone XS Maxのレビューでも指摘した通り、全画面表示でもそのままの表示となるため、映像の一部が切り取られてしまう。おそらくプラットフォームで定義されている仕様なので、しかたない部分もあるが、将来的にもう少し自然な処理を期待したいところだ。

 ちなみに、iPhoneでは従来モデルから大画面モデル(iPhone 8 Plusなど)で文字やアイコン、グラフィックなどを拡大表示する機能が備えられている。この拡大表示はiPhone XSが非対応(大画面モデルではないという位置付け)だったのに対し、iPhone XS Maxは対応(大画面モデルという位置付け)していたが、iPhone XRは大画面モデルという扱いなのか、拡大表示に対応している。筆者のような世代のユーザーや文字の大きさを気にするユーザーにはうれしい配慮だ。

 本体のスピーカーはiPhone XSやiPhone XS Maxと同様で、拡がりのあるステレオスピーカーとなっており、本体が縦向きなのか、横向きなのかによって、鳴動する向きが変わる。本体はIP67準拠の防水防塵に対応しており、ワイヤレス充電にも対応する。

SIMトレイにはnanoSIMカードを1枚、装着可能。eSIMとのデュアルSIM構成だが、年内のアップデートで利用できるようになる

シングルカメラでもポートレートが楽しい

 今回取り上げているiPhone XRとiPhone XS/XS Maxは、ディスプレイの方式やサイズ以外に、もうひとつ大きく異なる点がある。背面に備えられたカメラだ。iPhone XSとiPhone XS Maxがいずれも広角と望遠のデュアルカメラを搭載しているのに対し、iPhone XRは12MPのイメージセンサーにF1.8のレンズを組み合わせたシングルカメラを搭載する。シングルカメラでありながら、光学手ぶれ補正や最大5倍のデジタルズーム、従来のiPhoneでもサポートされてきた動きにある写真が楽しめるLive Photosなどもサポートされ、実用面ではまったく遜色のない使い方ができる。

背面に備えられた12MPカメラ。シングルカメラだが、ボケ味の利いた写真も撮ることができる

 スマートフォンのカメラではデュアルカメラが急速に拡大し、iPhoneも従来モデルからデュアルカメラを搭載してきた。デュアルカメラは端末によって手法が異なり、iPhoneのように、広角と望遠という焦点距離の異なるカメラを搭載し、多様なシーンに対応できるようにしたスマートフォンもあれば、モノクロとカラーなど、異なる仕様のイメージセンサーを組み合わせた製品も販売されている。ただ、ほとんどの製品ではデュアルカメラを活かす撮影として、人物を撮影するポートレートなどに注力しており、背景をぼかして、被写体を際立たせる写真を撮りやすくしている。

 今回のiPhone XRのカメラはシングルカメラながら、ソフトウェア処理などにより、背景のボケ味を活かしたポートレート撮影を可能にしている。ポートレートで撮影した写真については、撮影後に被写界深度を変更することで、より被写体を自然に際立たせる写真も生成することもできる。かつては一眼レフカメラでなければ撮影できなかったような写真を誰でも手軽に撮影できるわけで、人物を撮ることが今までよりも格段に楽しくなる印象だ。

 ちなみに、背面のメインカメラでのポートレート撮影では、照明をあてたような効果を切り替えられるポートレートライティング機能が用意されているが、iPhone XSとiPhone XS Max、iPhone Xは自然光、スタジオ照明、輪郭強調照明、ステージ照明、ステージ照明(モノ)の5つのエフェクトを用意しているのに対し、iPhone XRは自然光、スタジオ照明、輪郭強調照明の3つのエフェクトに絞り込まれている。少なくなったことを残念と見るユーザーがいるかもしれないが、実際の利用シーンを考慮すると、使用頻度が高い3つに絞り込まれたという印象で、実用面では不満を感じることはなさそうだ。

 また、暗いところでの撮影については、イメージセンサーのサイズが大きくなっていることもあり、昨年までのモデルに比べると、明るく撮影できるようになっている。逆光や明暗差があるようなシーンでの撮影についてもHDRがしっかりと作用しており、雰囲気のある写真を撮ることができる。4Kビデオの撮影にも対応しており、動き回る子どもやペットなどの被写体を追いかけながら撮影するようなシーンにも適している。

東京の新宿駅南口の夕景を撮影。建物やイルミネーションなども含め、バランス良く撮影できている(リンク先は4032×3024ドット)
ポートレートモードで撮影。そのままパソコンに読み出すと、背景のボケが消えてしまうが、AirDropやiCloud経由で転送すると、このように背景がしっかりとボケた写真になる(リンク先は3024×4032ドット) モデル:るびぃ(ボンボンファミンプロダクション)

 一方、本体前面のノッチ部分には、Face IDの認証にも利用するTrueDepthカメラが内蔵される。カメラの仕様としては7MPのイメージセンサーに、F2.2のレンズを組み合わせており、自分撮りのときに画面を光らせ、顔色を整えるRetina Flashなど、撮影時の機能も含め、iPhone XSやiPhone XS Maxとまったく同じスペックとなっている。アニ文字やミー文字などのエンターテインメント性の高い機能もそのまま継承されている。

セルフィーで撮影すると、画面がフラッシュ代わりに光り、暗いところでも顔がしっかりと写る(リンク先は2316×3088ドット) モデル:るびぃ(ボンボンファミンプロダクション)
ポートレートモードで撮影後、[写真]アプリ内で[編集]を選ぶと、ライティングを変更したり、被写界深度を変更して、背景をぼかすことができる

 Face IDも同じように使うことができる。指紋センサーによるTouch IDを利用してきたユーザーにとっては、少し戸惑う部分があるかもしれないが、一度、使いはじめるとすぐに慣れてしまい、逆にTouch IDの指を当てる操作が面倒に感じてしまうくらいだ。ただ、端末の操作をはじめるときのロック解除などは便利である半面、Apple Payでロック解除が必要なときは、リーダーの向きによっては端末の向きが制限されるため、少し扱いにくく感じてしまうことがあるかもしれない。

カラフルな個性を演出できるiPhone XR

 9月12日(現地時間)に発表された2018年のiPhoneは、冒頭でも説明したように、iPhone 8シリーズ以前の従来デザインのiPhoneを離れ、新しい時代へ向けたiPhoneとして、本格的に展開してきたラインアップになる。発表された3モデルの内、iPhone XSは基本的に昨年のiPhone Xをほぼそのまま進化させたものであり、iPhone XS MaxはiPhone XSをベースに、より大きな画面のiPhoneが欲しいというユーザーのニーズに応えたモデルになる。

 これらに対し、iPhone XRは基本的にiPhone XSの仕様を受け継ぎながら、液晶ディスプレイの搭載やアルミニウム製フレームの採用など、従来モデルで積み重ねられてきたiPhoneのデザインなどを取り込み、もうひとつの新世代iPhoneとして、デザインされたモデルという位置付けだ。しかもボディカラーは6種類も用意されており、自分の好みに合わせたものを選ぶことができる。これまでのiPhoneが金属系のカラーが中心だったのに対し、iPhone XRのカラーは色鮮やかなものも用意されており、自分の好みに合わせて、カラフルな個性を演出することができる。

 気になる価格については、アップルが販売するモデルは64GBモデルで8万4800円(税抜、以下同)、128GBモデルで9万800円、256GBモデルで10万1800円に設定されており、iPhone XSやiPhone XS Maxに比べれば、ユーザーの負担も抑えられている。もし、少しでも割安に買いたいのであれば、NTTドコモ、au、ソフトバンクの月額割引が適用されるプラン、あるいはアップグレードプログラムEXや半額サポートなどのプランを積極的に活用したいところだ。

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法林 岳之

1963年神奈川県出身。携帯電話・スマートフォンをはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるゼロからはじめるiPhone X/8/8 Plus超入門」、「できるゼロからはじめるAndroidタブレット超入門」、「できるゼロからはじめるAndroidスマートフォン超入門 改訂2版」、「できるポケット HUAWEI P10 Plus/P10/P10 lite 基本&活用ワザ完全ガイド」、「できるWindows 10 改訂3版」(インプレス)など、著書も多数。ホームページはこちらImpress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。