法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

Xperia XZ1、デュアルカメラ、ディスプレイ、AIチップ――「IFA 2017」で考えるスマートフォンの次なる展開

9月1日からドイツ・ベルリンのmesse Berlinで開催されていたIFA 2017

 9月1日からドイツ・ベルリンで開催されていた「IFA 2017」。世界最大の家電展示会として知られ、年末の商戦期へ向け、スマートフォンやウェアラブルデバイスなども数多く発表される。滞在期間は限られていたが、今年も現地で取材できた。そこから見えてきたスマートフォンの次なる方向性について考えてみよう。

スマートフォンを取り巻く環境

 国内外でスマートフォンが本格的に注目されるようになって、そろそろ10年が経つ。もっともよく知られている製品で言えば、アップルの「iPhone」は北米で初代モデルが発売されたのが2007年6月であり、今年はちょうど10年という節目の年に当たる。

 スマートフォンに限った話ではないが、よく製品やサービスは10年程度の周期で大きく変わることが多い。かつて、国内で圧倒的な隆盛を極めたiモードをはじめとするケータイも10年前後の時を経て、スマートフォンへ主役の座を譲り、昨年末にはiモードケータイの出荷終了もアナウンスされた。

 かくいうスマートフォンもこの10年でハードウェアはもちろん、プラットフォームとしても完成度が高められ、製品としては成熟の領域に入ったと言われることが多い。ここ数年は「この先、あまり大きなジャンプアップは期待できない」といった厳しい指摘も見かけるようになってきた。

 また、スマートフォンを取り巻く環境も大きく変わりつつある。当初はケータイからの置き換えのため、ケータイに搭載されている機能や対応するサービスなどをスマートフォンでも利用できるようにすることが主たる目的とされてきたが、ここ数年はSNSや音楽配信サービス、動画配信サービスなど、スマートフォンならではのサービスが増え、これらのサービスをいかに快適に楽しめるかといったことにフォーカスが当てられている。同時に、スマートフォンの自由度の高さを活かし、新しいジャンルの製品やサービスとの連携も増えつつある。

 毎年、この時期にドイツ・ベルリンで開催される「IFA」は、モバイル業界にとって、1月の「International CES」、2月の「MWC(Mobile World Congress)」と並ぶ重要なイベントのひとつとされている。各社が秋冬商戦へ向けた新製品を発表する一方、世界最大の家電展示会という位置付けもあり、ここ数年は家電製品との連携やウェアラブルデバイス、IoTなどの製品群も発表されることも多く、スマートフォンにとっても今後のゆくえを占ううえで注目度の高いイベントだ。

 今年のIFA 2017については、すでに本誌で現地からの速報記事が掲載されているが、ソニー、レノボ、モトローラ、LGエレクトロニクス、サムスンといった日本でもおなじみのメーカーが新製品を発表しており、基調講演ではファーウェイのリチャード・ユーCEOが最新のチップセット「Kirin 970」を紹介し、注目を集めた。個々の製品についての詳しい内容は、それぞれの速報記事をご覧いただきたいが、ここでは各製品の発表内容を踏まえ、今後の展開などについて、考えてみよう。

ディスプレイはワイドな「18:9」の時代へ

 現在、多くのスマートフォンは、板状のボディにディスプレイを搭載するデザインを採用している。過去にはいくつか違った形もトライされたが、現在の主流はこのデザインに落ち着いている。その半面、「スマートフォンのデザインはみんな同じ」と言われることも少なくないが、今後、スマートフォンの『見た目』は大きく変わることになるかもしれない。そのひとつがディスプレイのレイアウトだ。

 これまでスマートフォンに搭載されるディスプレイは、一般的に縦横比16:9のものが採用されてきた。ところが、今年のMWC 2017において、LGエレクトロニクスが縦横比18:9のディスプレイを搭載した「LG G6」を発表したのを皮切りに、3月にはサムスンが縦横比18.5:9のInfinity Displayを搭載した「Galaxy S8」「Galaxy S8+」、IFA 2017直前の今年8月には同じく縦横比18.5:9の6.3インチディスプレイを搭載した「Galaxy Note8」を発表しており、いずれの製品もこれまでの縦横比16:9のディスプレイを搭載したモデルとは、一線を画した存在感を発揮している。

 この縦横比18:9以上のディスプレイは、16:9のディスプレイを搭載した製品に比べ、対角サイズが大きくなり、縦向きに持ったときは縦長、横向きに持ったときはワイドな表示で利用することができる。たとえば、ブラウザやSNSであれば、より多くの情報を表示することができ、横長の画面では映像コンテンツなどを視聴するときは、より大きな画面で迫力ある映像を楽しむことができる。しかも同じ対角サイズのディスプレイを搭載する場合、16:9よりもボディ幅をスリムにまとめることができるため、スマートフォン本体の持ちやすさも損なわれにくくなっている。

LGエレクトロニクスはMWC 2017で発表した「LG G6」に続き、新たに発表した「LG V30」でも縦横比18:9のディスプレイを搭載。今回はOLEDを採用
リーズナブルな価格帯にラインアップを展開するWikoでも縦横比18:9のディスプレイを搭載した「VIEW」シリーズを3機種発表。写真は5.99インチの「VIEW XL」

 そして、今回のIFA 2017ではLGエレクトロニクスが縦横比18:9のOLED(有機ELディスプレイ)を搭載した「LG V30」、Wikoが縦横比18:9の液晶ディスプレイを搭載した「VIEW」シリーズ3機種を発表してきた。「LG V30」については「LG G6」の流れを継承しているため、ある意味、予想された範囲とも言えるが、Wikoのように、リーズナブルな価格帯で幅広いユーザー層を狙う製品においても縦横比18:9のディスプレイを搭載した製品が登場してきたことは注目に値する。また、製品が発表されたわけではないが、『IFA出展のケースメーカーが語る「iPhone 8」』でも語られているように、次期iPhoneの内の1機種は縦横比18:9以上のディスプレイを搭載するのではないかと言われており、今後、幅広いレンジの製品群で従来の縦横比16:9を超えるディスプレイを搭載したスマートフォンが登場してくることが予想される。ただ、いずれの製品も対角サイズは6インチ前後とかなり大きいため、もう少しコンパクトな製品に、縦横比16:9を超えるディスプレイが搭載されるようになれば、全体的なトレンドになっていくのかもしれない。

ソニーの「Xperia XZ1」は縦横比16:9の5.2インチフルHD液晶ディスプレイを採用
ソニーの「Xperia XZ1 Compact」は縦横比16:9の4.6インチHD液晶ディスプレイを採用

 こうしたディスプレイサイズを軸とした新しいボディデザインの流れに対し、ある意味、非常に保守的なデザインでまとめてきたのがソニーの「Xperia XZ1」や「Xperia XZ1 Compact」だ。「Xperia XZ1」はフルHD、「Xperia XZ1 Compact」はHD表示が可能なディスプレイで、いずれも16:9の標準的な縦横比のものを搭載する。ボディもスクエアなデザインを踏襲しており、手堅くまとめてきた印象だ。縦横比18:9という新しいトレンドも気になるところだが、「ディスプレイは標準的な縦横比16:9がベター」というユーザーも存在するわけで、そういったユーザーの声に応えるモデルと言えそうだ。

デュアルカメラの拡大とインカメラの高画素化

 多くの人がスマートフォンを選ぶうえで、もっとも気にする機能のひとつ言えば、やはり、カメラだろう。特に、ここ数年はセルフィー(いわゆる「自撮り」)が人気なうえ、最近は「Instagram」も急速に拡大し、『インスタ映え』なる言葉まで生み出してしまうほど、人気ということもあり、カメラに対する注目度は一段と高まっている。

 そんな状況を反映して、今回のIFA 2017でも各社共、スマートフォンのカメラ機能にかなり注力してきている。

LGエレクトロニクスは「LG V20 Pro」に引き続き、「LG V30」でもデュアルカメラを搭載
LG V30のカメラにはF1.6のガラスレンズを採用。一般的なスマートフォンで採用されるプラスチック製に比べ、レンズが明るく、歪みや収差も少ない

 まず、デュアルカメラについては、LGエレクトロニクスが「LG V30」に搭載してきた。同社は元々、日本向けに展開したauの「isai Beat」とNTTドコモの「V20 Pro」でデュアルカメラを搭載した実績があり、その後継モデルとなる「LG V30」に搭載してきたのは自然な流れと言えるだろう。デュアルカメラは標準と望遠の2つのカメラで構成されているが、ハードウェア的に特筆すべきは標準側のレンズにF1.6という明るさのガラスレンズを採用したことが挙げられる。一般的に、スマートフォンのカメラのレンズはプラスチック製が採用されており、その結果、歪みや収差などの問題が起きやすいとされているが、ガラス製を採用することで、クリアで自然な写真を撮影できるようにしている。これに加え、「CINEMATIC VIDEOGRAPHY」と呼ばれるコンセプトを提案し、映画のような動画を撮影できる効果を搭載している。ズームについても画角内の特定の場所にズームする「Point Zoom」を搭載するなど、ユニークな機能も豊富で注目される。

モトローラの「Moto X4」は縦横比16:9の5.2インチフルHD液晶ディスプレイを採用
モトローラの「Moto X4」に搭載されるデュアルカメラは、LEDと共に、時計のベゼルのようなリングにまとめられている

 次に、レノボグループ傘下で国内向けにもスマートフォンを展開するモトローラもデュアルカメラを搭載した「Moto X4」を発表した。こちらは標準とワイドの2つのカメラで構成されており、カメラ部も時計のベゼルのようなリング内に収めるなど、デザイン的にも工夫されている。デュアルカメラの特性を活かし、ボケ味の利いた写真を撮れるようにするなどの機能も搭載されているが、被写体の服など、特定部分のみをカラーで撮影する「Selective B&W」など、他機種にはない新しい機能も搭載されている。インカメラもメインカメラを画素数的に上回る16Mピクセルのセンサーが採用されていることも注目に値する。

WikoのVIEWシリーズの最上位モデル「VIEW PRIME」では、フロントカメラもデュアルカメラが搭載される

 このインカメラの高性能化で、さらに一歩、踏み込んできたのがフランスWikoのVIEWシリーズだろう。VIEWシリーズ3機種の内、VIEWとVIEW XLはフロントカメラに16Mピクセルのセンサーを採用し、最上位モデルのVIEW PRIMEについては20Mピクセルと8Mピクセルのデュアルカメラを搭載している。VIEW PRIMEのデュアルカメラは20Mピクセルの標準と8Mピクセルのワイドカメラで構成されており、20Mピクセルカメラは撮影画素を倍増させて撮影する「SuperPixel」モードも搭載される。WikoはMWC 2017でもカラーとモノクロのセンサーを組み合わせたデュアルカメラ搭載のWIMシリーズを発表しており、他メーカー以上にデュアルカメラやセルフィーに対する積極的な取り組みをうかがわせる。

 こうした各社の動きに対し、カメラとしての王道を進んでいる感があるのがソニーの「Xperia XZ1」「Xperia XZ1 Compact」だろう。今年のMWC 2017で発表されたXperia XZ PremiumやXperia XZsに搭載されているメモリー積層型CMOSセンサー採用の「Motion Eye」をさらに進化させ、先読み撮影では人物撮影時に被写体の笑顔を検出して、シャッターチャンスを逃さないようにしたり、連写時に動く被写体にピントを合わせ続ける機能などが搭載され、一段と完成度を高めている。

 Xperia XZ1とXperia XZ1 Compactはこれらに加え、カメラを使って、人物の顔などをスキャンして取り込み、画面上にモデリングする「3Dクリエイター」という機能が搭載された。作成した3Dデータをアバターとして画面内で楽しんだり、アニメーションを付けて、SNSに投稿するといった楽しみ方を提案している。「カメラで写真を撮る」という王道の道を究めるだけでなく、新しい使い道も模索しようという構えだ。

ソニーのXperia XZ1はXperia XZsに搭載されたカメラ「Motion Eye」をさらに進化
Xperiaにはカメラを使い、人物の顔などをスキャンして、3Dモデリングができる「3Dクリエイター」を搭載

 ちなみに、Xperia XZ1については、今年のMWC 2017でMotion Eyeカメラを搭載したXperia XZsが発表され、国内でも5月に各社から発売されている。まだ正式な発表はないが、おそらくXperia XZ1とXperia XZ1 Compactも国内向けに発売されることが予想されるが、そうなると、またもや4~5カ月ほどで新機種が登場することになってしまう。こうした矢継ぎ早の新モデル投入は「ユーザーとして、買い時がわからない」という指摘をしてきたが、最近、筆者自身はこれがXperiaシリーズのスタイルであり、ユーザーとしてはそれを受け入れていくしかないと見ている。確かに、新機種を購入して、すぐ次のモデルが出ることはあまり気分のいいものではないが、裏を返せば、最新の技術が投入された新モデルが常にリリースされているわけで、買い時を気にせずとも発売直後の新モデルであれば、その時点での最新機能が搭載されていることになる。ユーザーとして不満がないわけではないが、これがXperiaシリーズのスタイルであり、ユーザーはそこに付いていくしかないわけだ。

スマートフォンを活かした取り組み

 今回のIFA 2017ではこの他にもスマートフォンに関連するもので、いくつも注目される発表があった。

 たとえば、レノボが発表した「Star Wars/ジェダイ・チャレンジ」は、MRのヘッドセットとライトセイバーのコントローラーを組み合わせたもので、これまでのVRやARを使ってきた製品と違い、かなりエンターテインメント性が強く、今までにないアプローチの商品として注目される。しかも対応する(装着する)スマートフォンをレノボグループ内のモトローラ製端末に限るのではなく、iPhoneをはじめ、他のAndroidスマートフォンにも対応できるようにするなど、幅広い環境で楽しめるのも見逃せないポイントだ。

レノボが発表した「Star Wars/ジェダイ・チャレンジ」はスマートフォンの新しいエンターテインメントを提案

 スマートフォンのゲームというと、端末のみで遊ぶゲームが広く楽しまれているが、「Star Wars/ジェダイ・チャレンジ」のように、新しいデバイスを追加することで、これまでのスマートフォンのゲームにはなかった新しい遊び方を体験できることは、スマートフォンのゲームの世界をさらに拡大できることになりそうだ。

 また、IFA 2017の基調講演ではファーウェイのリチャード・ユーCEOが登壇し、「スマートフォンをもっとスマートに進化させるために、もっとインテリジェントになる必要がある」と語り、AIに処理を特化させる機能を搭載したNPU(Neural Processing Unit)「Kirin 970」を発表した。詳しい内容は本誌の『ファーウェイ、AI特化型チップ搭載「Krin 970」を発表』を参照していただきたいが、このKirin970を搭載した新モデル「HUAWEI Mate 10」「Mate 10 Pro」を10月16日にドイツ・ミュンヘンで発表することも明らかにされている。今回は基調講演での発表だったため、どのような新機種なのか、どんな進化を遂げるのかはまだ何とも言えないが、このAIもまたスマートフォンが「通話やインターネットの道具」から踏み出す新しいカギになると見られている。

 IFA 2017では各社からさまざまな新製品が登場したが、今週はAppleの新機種発表を控えており、国内外のモバイル市場はますます目が離せない状況になりそうだ。今後の各社の発表などをしっかりとチェックしていきたい。

法林 岳之

1963年神奈川県出身。携帯電話・スマートフォンをはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるゼロからはじめる iPhone 7/7 Plus超入門」、「できるゼロからはじめるAndroidスマートフォン超入門」、「できるポケット HUAWEI P9/P9 lite基本&活用ワザ完全ガイド」、「できるWindows 10b」、「できるゼロからはじめる Windows タブレット超入門 ウィンドウズ 10 対応」(インプレス)など、著書も多数。ホームページはこちらImpress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。