【IFA2017】

「Xperia XZ1/XZ1 Compact」で目指した体験とは、ソニーモバイルのキーパーソンインタビュー

Xperia XZ

 IFAでは、「Xperia XZ1」と「Xperia XZ1 Compact」の2機種を発表したソニーモバイル。前者は5.2インチのディスプレイを搭載するフラッグシップモデルで、後者は約2年ぶりとなるハイエンドコンパクトモデルだ。サイズこそ違うが、主要な機能は最上位モデルとなる「Xperia XZ Premium」と同等。どちらもチップセットにはSnapdragon 835を搭載し、カメラはソニーのメモリ積層型CMOSセンサーとなる。

 この2機種のコンセプトや、開発経緯などを、ソニーモバイルのUX商品企画部門ヨーロッパでVP(ヴァイスプレジデント) を務める大澤斉氏と、UX商品企画部門 UX商品企画2部 統括部長の安達晃彦氏に聞いた。なお、大澤氏はイギリスが拠点で欧州の担当。安達氏は日本で開発をリードしている。その視点も踏まえ、日本だけでなく、グローバル、特に欧州での状況も語ってもらった。

どこよりもはやくAndroid 8.0を

ソニーモバイルの欧州拠点で活躍する大澤氏

――あらためて、Xperia XZ1とXperia XZ1 Compactの特徴を教えてください。

安達氏
 バルセロナで「Xperia XZ Premium」を発表しましたが、非常にいい反応で、セールス的にも好調です。ソニーのユニークなテクノロジーの4K HDRや、Motion Eyeと命名した動きに強いカメラ、高級感のあるデザインに加え、最大のネットワークスピードとパフォーマンスを誇るSnapdragon 835を使いこなせているところなど、多面的に評価をいただけました。

 この商品をより多くの方にお届けしたいということで、Xperia XZ1、XZ1 Compactを発表しています。(Premiumにあった)4K以外が搭載されているだけでなく、Motion Eyeについても、いくつかのアップグレードをさせていただきました。笑顔の検出や、連写時のオートフォーカスがそれです。さらに、Androidも最新の8.0 Oreoに対応しました。

 他社の動きは存じ上げませんが、Googleとの良好な関係があり、ソフトウェアの開発スピードが上がったことも掛け合わさり、このタイミングで搭載できました。おそらくですが、一番手になることを期待しています。

――1週間前にニューヨークでAndroid 8.0 Oreoが正式発表されたばかりだったので、このタイミングで搭載したのはサプライズでした。何か、従来とは違う動きがあったのでしょうか。

安達氏
 Androidはベースの機能がバージョンアップするごとに、提供できる価値が上がっています。最新のものは、いち早くお届けしたいという気持ちがあります。気持ちだけでなく、Googleからソフトウェアがリリースされてから、商品に取り込むまでの期間を短くできる体力もついてきました。その取り組みがうまく効いたところはあります。もちろん、我々だけでなく、Googleや通信事業者ともタイミングを合わせなければなりません。

大澤氏
 (PS3やPSPのソフトウェア開発、FeliCa部門の事業部門長を経た)川西(泉)が取締役に就任して以来、GoogleのAndroidチームとはきっちりコラボレーションしていきましょうという方針になっています。Androidにはメーカー各社がコントリビューション(貢献、ソフトウェアのコードをOS標準に反映させる仕組み)していますが、そこにどこまで開示するのか。なるべくやれるところはやることで、最新のOSが発表された後の開発量を減らすことにつながっています。何年もかけ、ここはソニーが独自でいじりたい、ここはコントリビューションするというバランスを取りながら、ようやくここまで来ました。

――Bluetoothでハイレゾの伝送をするLDACもコントリビューションされたと聞きましたが、それも今のお話の一環でしょうか。

大澤氏
 そうですね。

――確かにソニーグループ全体として見ると、対応スマートフォンが増えた方が、ヘッドホンの売上増につながる可能性はあります。

大澤氏
 音楽に関してはそれ(LDAC)以外にも我々が独自に積んでいるものがありますから、スマートフォンはそこで差別化しつつ、ヘッドホンはヘッドホンとして、より大きなパイを狙えるメリットがあります。

3モデルで挑む

――Xperia XZ1/XZ1 Compactの話に戻りますが、これは、Xperia XZ Premiumまで含めて3つで1つのシリーズと捉えていいのでしょうか。

大澤氏
 先ほど安達が申し上げたように、お客様へのチョイスを拡大したというのが、シンプルな捉え方だと思います。

――より多くの方にお届けしたいというのは、つまり、Xperia XZ Premiumよりも安価という意味でしょうか。

安達氏
 そこはご想像にお任せします(笑)。が、各社大小2モデルというふうになってきたように、1つのサイズですべての層をカバーするのは、なかなか難しくなってきているのは事実です。基本的なコアとなるユーザーエクスペリエンス(ユーザー体験)は共通化しつつ、3モデルでできるだけ幅広い層にリーチしたいという狙いがあります。

大澤氏
 あとはマーケットの特性もありますね。私のいるヨーロッパも、ヨーロッパと一括りにできないほど、マーケットには多様性があり、1つ1つの国を注意深く見ていく必要があります。また、ヨーロッパの場合、パートナーであるオペレーター(通信事業者)の販売があることに加えて、ドイツだとメディアマルクトのようなリテールもあり、それぞれが選ぶ端末も変わってきます。

Xperia XZ1 Compact

 もちろん、我々としては3つ全部並べてくれればハッピーですが、3つの中からチョイスして2モデルだけ販売するというところもあります。そういう意味でも、3モデルあるのがいいのだと思います。

 ヨーロッパの観点でいうと、XZ1 Compactはチャレンジです。イギリスとドイツ、それにソニー・エリクソン時代の母体があった北欧では、非常にコンパクトの需要が高く、かつプレミアムな端末がほしいというニーズがあります。他社がミニと名づけた端末を出していますが、それとは違ったプレミアムへのデマンドが強く見えています。

――その意味では、日本もそうですよね。

安達氏
 そうですね。コンパクトシリーズは、手へのフィット感だけでなく、最新の機能が搭載されていることとの掛け算でご好評いただいています。そういった意味では、Xperia XZ1 Compactは期待に応えられると思います。

日本で開発を統括する安達氏

――「Xperia X Compact」では、チップセットのスペックを落としてしまいました。その反省も踏まえてのことなのでしょうか。

大澤氏
 それもマーケットによります。サイズでのデマンドはある一定のポーションがありますが、価格、スペックという要素が入ってくると、マーケットごとにそれが変わります。前回のトライアルはお届けしやすい価格ならどうかというものでした。これはあるマーケットで受け入れられた一方で、あるマーケットではなぜプレミアムではないのかというご意見もいただき、意図が伝えきれなかったところがあります。

 日本もそうですし、先ほど挙げた欧州の3マーケットが特にフィードバックが大きかったですね。今回はMotion Eyeも入り、その処理を考えなければいけないこともあったので、その最適なソリューションとして、Snapdragon 835がありました。

安達氏
 最新のチップセットを使えば省電力化も進んでいますし、Snapdragon 835はネットワーク対応も進んでいます。速くダウンロードしたいというニーズは、画面の大小とは関係ないですからね。結果としてですが、Xperia XZ1 Compactのバッテリーサイズは前と同じ2700mAhですが、Snapdragon 835のおかげで駆動時間そのものは上がっています。

――解像度も720pなので、より高解像度なものと比べても、電池が持ちそうです。

安達氏
 確かに、実はこれが一番いい可能性はありますね。

――逆に、Compactの解像度を上げるという選択肢はなかったのでしょうか。

安達氏
 実際のところをいうと、このサイズなので、PPI(ピクセル密度)は低くありません。プレミアムコンパクトというユニークなポジションを作れていたので、ここは勇気を持ってHDにステイできました。確かにフルHDを入れる選択肢もありましたが、精細とスタミナのバランスを考えてのことです。

――解像度という意味では、3モデルの中に、2Kがないですね。Xperia XZ1もフルHDです。

安達氏
 高精細化するときには、いたずらに上げるのではなく、ストーリーまでお届けしたい。Xperia XZ Premiumも、4K HDRのコンテンツを一緒に出せるという経緯があったので、ステップを1つ上げて4Kにしています。

フロントステレオスピーカー、h.earとのコラボ

――今回は、スピーカーの音量も上げています。これはなぜでしょうか。

安達氏
 動画コンテンツをしっかり視聴していただきたかったからです。ステレオスピーカーを搭載している機種でも、通常は底面にありますが、これをフロントに配置しています。これは、今まで他社と比べたときの弱点だったかもしれませんが、音圧もしっかり取ることができました。

 アルミの押し出し形状で、剛性が上がっているため、音の質もしっかりした形でお届けできるようになっています。ソニーとしては、絵と音、両方を常に進化させていきたい。その意味で、今回のタイミングでがんばらせていただきました。

大澤氏
 スピーカーは比較的シンプルで、サイズが大きければそれだけ音が大きくなりますが、モバイルの場合はどれだけスペースを確保できるのかという問題があります。そこで独自に開発を進め、それなりのサイズでいい音質が出せるものの準備が整ったという経緯もあります。

――発表会ではカラーイメージを、ヘッドホンの「h.ear」とそろえたという話もありましたが、こういった取り組みは初めてですよね。

安達氏
 お互いにオーディオを訴求していることもあり、何かやれば相乗効果があるのではと今回トライしました。よくよく見ると、h.earとXperiaでは色の数が違い、完全に合っているわけではありませんが、カラーハーモニーを取っていて、ほぼ同じ色に見えるようにしてあります。

大澤氏
 カラーレンジをそろえて、スマートフォンとウォークマンとヘッドホンでそろえています。ピッタリ合っているわけではありませんが、ヘッドホンが中間にあり、Xperiaとウォークマンが同じレンジだということが分かるカラーリングになっています。

安達氏
 現場としては、この見せ方を展示会だけでなく、売り場でどのくらい実現していけるかが重要になります。ビジュアルで見せるのは非常に効果的なので、各国でお店作りにはトライしていきたいですね。

大澤氏
 オペレーターさんのなかにも商材に困っているところがあるので、Xperiaとコラボレーションしているh.earはどうですかというお話をちょうどしているところです。

カメラで提供したい「WOW」とは

――カメラについては、3機種とも同じセンサーですよね。

安達氏
 そのとおりです。また、ソフトウェアに関しても、新たに発表した笑顔の先読み撮影や連写時のオートフォーカスは、Xperia XZ Premiumにも提供していきます。これは、次のOSアップデート時になります。タイミングはマーケットや通信事業者のスケジュールによりますが、そのタイミングでXperia XZ Premiumも2モデルと同等にアップデートされる予定です。

――先にすべて搭載というわけにはいかなかったのでしょうか。

安達氏
 初のメモリを使ったセンサーということもあり、最初からすべてをやりたかったのですが、一度に開発するのが難しかったこともあり、順を追ってのご提供になっています。

――ちなみに、IFAを見渡すと、デュアルカメラのオンパレードです。むしろ、シングルカメラはXperiaだけといったような状況にもなってきましたが、ここについてはどうお考えですか。

安達氏
 デュアルカメラにはデュアルカメラの特徴があり、メーカーごとに方式も違います。ソニーとしても、デュアルカメラでどういったものをご提供できるのか、ずっと検討している状況です。ただ、2017年という断面では、Motion Eyeを訴求し、ブラッシュアップさせていただく1年にさせていただきました。基本的なカメラとしての画質や、被写体の動きに強いところをしっかりお伝えしていきたいと思います。

大澤氏
 カメラでいうと、なぜMotion Eyeを始めたのかというのも重要です。どのメーカーもカメラ、カメラと言い始めていて、当然ながら、その結果としてクオリティ競争になります。ソニーとしても、当然クオリティを追うことはやりながらも、それにプラスして提供できる新しい体験はないのかということを模索しました。上期はそれがスーパースローモーションで、秋に関しては3Dクリエイターを提供することで、他社とは違った体験をお届けできると考えています。

 カメラは1個より2個の方がいいのではという、漠然とした印象はあるかもしれませんが、それよりもWOW(驚き、感動)がある体験をご提供したかった。奇しくも、それがXperia XZ Premiumのいいフィードバックにもつながっています。

インテリジェント機能について

――Xperia Xシリーズのときのコンセプトだった「インテリジェント」ということをあまり聞かなくなりましたが、何かソフトウェアでの工夫はあるのでしょうか。

安達氏
 端末の利用状況を解析して、適切なタイミングで次の行動を促す機能が搭載されています。夜になるとバックライトを減らして、朝上げるというシークエンスを組める機能がありますが、マニュアルで設定できるだけでなく、端末側が行動を検知して、このモードを使ったらどうかと提案するようになっています。

 一番お客様の近いところにあるデバイスとして、持ったときの行動パターンをデバイス側が検知できるのは、大きな強みです。これをうまく解析して、使い勝手に向上に役立つリコメンデーションの機能を、少しずつ改善しています。これはある日完璧なものができあがるというより、徐々にノウハウが蓄積されていき、段階的にベネフィットを得られるようになるものだと思います。

グラスファイバーを採用

――素材に関してですが、Xperia XZ1 Compactに関しては、金属を使うのは難しかったのでしょうか。

安達氏
 MIMOを搭載し、チップセットのネットワーク機能を使い切るという点を考えると、コンパクトなボディに同等の金属素材を提供するのは難しかったという理由があります。ただし、これは単純なプラスチックではなく、グラスファイバーの強化プラスチックを採用しています。たとえば、(高級)自転車もほとんどカーボン製になり、炭素繊維をプラスチックでくるむようになりましたが、それと同じようにグラスファイバーで基本構造を確保しながら樹脂をからめ、さらに高級感のある塗装を乗せるようにしています。

 単に塗装というと安っぽく聞こえてしまうかもしれませんが、表現の幅でいえば金属よりも自由度は高くなります。たとえば、ブラックのような暗めの色はアルマイトが得意ですが、明るめの色だとプラスチック塗装の方がキレイに出ます。スマートフォンというとガラスと金属をどう組み合わせるかだけになっていますが、そうではない、第三の表現も探索し続けなければいけないですからね。

――本日はありがとうございました。