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九州から始まる「日本のキャッシュレス化」と「オープンループ」
2022年9月1日 00:00
少し前の話になるが、[路面電車では初となる「Visaのタッチ決済」を使った「オープンループ」乗車の取材で熊本まで訪問してきた。地方都市ではありがちだが、Suicaを含む「10カード」と呼ばれる全国共通の交通系ICカードが使えない乗り物が多く、例えば今年2022年前半に浜松市を2回訪問したが、地元のバス路線である遠鉄バスでは10カードが利用できず、ナイスパスと呼ばれる遠州鉄道のバスと鉄道向けの専用ICカードを利用する必要がある。そのため、移動にあたっては現金で支払った。
近年は小売店でのクレジットカードや電子マネー導入が進んでおり、特にPayPayなどのコード決済が普及を後押ししたことで、地方でもキャッシュレスによる買い物や飲食は容易になりつつある。一方で前述のように移動手段や入場料支払いなどで現金を要求されるケースはまだまだあり、スムーズな移動における障害になっているといえる。
熊本滞在中は一切現金を支払わず
熊本訪問で感心したのは、全国的に見てもキャッシュレスが進んでいる都市だと感じたことだ。熊本市交通局の人との話で、もともと観光客受け入れに積極的な都市という話だったが、滞在中一切現金を使わなかった。利用したのはクレジットカード、モバイルSuica、PayPayの3種類のみだが、筆者の行動範囲ではこの3つさえあれば事足りた。コンビニなどのチェーン店はいざ知らず、商業施設や個人店など、この3つのいずれかに対応していることが多いからだ。この3つであればすべて機能をスマートフォン内に格納できるので、実際に財布を取り出さずとも手持ちの端末を操作するだけで済むのは便利だ。
お土産の購入も空港や地元のお土産物屋ではなく、安土桃山時代創業とされる元祖園田屋という店舗で「朝鮮飴」を購入してみた。文禄・慶長の役で朝鮮出兵に際して加藤清正公が兵糧の1つとして携行したという話がある歴史ある銘菓だ。老舗ながらPayPayでの支払いにも対応しており、現金はここでも使っていない。
九州から始まる交通のキャッシュレス化
小売事情もさることながら、熊本で注目したいのが公共交通でのキャッシュレス対応だ。
タクシーではPayPayと楽天ペイ、空港と市内を往復する路線を含むバスと路面電車では交通系ICカードが利用できるため、現金を用意する必要はない。熊本電気鉄道(熊電)は「くまモンのICカード」を導入することでキャッシュレス対応したが、現在ではSuicaを含む10カードも問題なく利用できる。
鹿児島本線の走るJR熊本駅周辺もJR九州の「SUGOCA」対応エリアだが、現在JR九州では福岡市周辺で「オープンループ」乗車のテストを行っており、Visaのタッチ決済が今後沿線の佐賀や熊本、鹿児島エリアで利用できる日もそう遠くないかもしれない。これは路面電車も同様であり、現在はローリングストックの一部が対応するのみだが、今後実証実験を結果をみて順次拡大していくことになるだろう。
最近になり、日本全国をいろいろ巡ってみたが、やはり地域在住者ではない訪問客を想定したキャッシュレス対応では九州がかなり進んでいる。
移動においてまずネックとなるのが空港から市内へのバスだったりするが、ここで現金支払いを要求されるケースが少なくない。九州のケースでいえば福岡空港はアクセス路線として地下鉄があり、交通系ICカードのほか、Visaのタッチ決済が利用可能だ。
長崎空港についても交通系ICカード利用が可能で、比較的スムーズに移動できる。以前まで10カードの利用が不可能だった鹿児島空港のアクセスバスだが、現在はVisaのタッチ決済を導入して、域外からの旅行客のスムーズな支払いに対応する。
京都や沖縄など、観光客需要が多い地域はもともとキャッシュレス対応に熱心であり、九州全域でこうした積極的な観光誘致を実施する過程で、キャッシュレス対応が急速に進みつつある。
ある情報源によれば、こうした九州や、関西の南海電鉄でのVisaのタッチ決済導入の成功を受けて、現在「オープンループ乗車を導入できないか」という問い合わせが全国から相次いでいるという。2023年以降はVisa以外の国際ブランドでのオープンループ乗車がスタートするため、ある程度その動きを睨んで準備を始めているという話だ。実際、東京のある私鉄事業者でも導入に前向きな姿勢を見せているところが出てきているという話も聞いており、近い将来にはある程度決まったルートであれば「おサイフケータイなしのスマートフォンでもスムーズに交通乗車が可能」という時代が来るかもしれない。