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消耗戦続くスマホ決済、加盟店手数料の水準も低く収益化の柱はローンにシフト

 スマホ決済最大手の「PayPay」が、加盟店手数料の有料化に踏み切ってから2カ月あまりが経過した。

 月額1980円の加盟店向けサービス「PayPayマイストア」に加入した場合の手数料を1.6%に抑えたことで、有料化発表後に解約を行った店舗の割合は0.1%(決済取扱高ベース)と軽微であると発表されたが、この発表自体、無料化を続ける他社との競争を強く意識したものであろう。

決済手数料1.6%では決済関連コストをまかなえず、焼け石に水?

 これまでシェア拡大に向けて巨額の赤字を計上し続けてきたが、トップシェアを確保したことで収益化にも目配せできるようになったとみられる。

 では、スマホ決済におけるコストはどの程度なのだろうか。ここでは、代表的な2つのコストである「顧客へのポイント付与」と「チャージ手数料」を見ていきたい。

ポイント付与

 まずはポイント付与だ。PayPayの場合、ポイントではなく、決済残高に「PayPayボーナス」が直接還元される方式となっており、基本的な還元率は決済額の0.5%となっている。

 しかし、1カ月間の決済回数および決済総額が一定基準を超えるなどの条件を満たせば、最大1.5%まで還元率が上昇する。この時点で、徴収した手数料をほぼほぼ使い果たしてしまう。

チャージ手数料

 もう1つが「チャージ手数料」だ。ヤフーカードやソフトバンクまとめて支払い、PayPayフリマ売上金など、自社グループ内で完結できる方法であればチャージ手数料をさほど意識せずに済むが、銀行口座やコンビニATMなど外部の手段を用いた場合は当然だがPayPay側が利用料を支払う必要がある。

注目すべきポイントは?

 ここで注目すべきは、スマホ決済の普及に伴ってチャージ回数も急増している点だ。

 PayPayのチャージにも対応しているセブン銀行によれば、7~9月期のATM総利用件数(ノンバンク等)は5900万件に達した。

 この件数には、スマホ決済チャージに加え、証券会社などノンバンクの件数も含まれるものの「ノンバンクの取引件数は以前から2000~2500万件で大きく変わっておらず、上乗せ分はPay事業者向けの現金チャージによるもの」とのことで、四半期単位で3000万回程度のチャージが行われている計算となる。

 同社によれば、Pay事業者向け手数料は、金融機関向けの手数料に比べて低く抑えられているそうだが、セブン銀行のATM手数料単価が109.8円であることを踏まえれば、1回あたり数円といったレベルではないことは想像に難くない。

 このほか、決済システムの運営にまつわるインフラ維持などのコストも必要で、冒頭の1.6%という手数料水準では、これらコストを回収できるか微妙なところだろう。

 ソフトバンクの宮川社長が決算会見で「費用をコントロールすれば黒字化が可能というところの『近くまで』来ている」と発言した通りの状況だ。

PayPay収益化の本丸は「ローン」に?

 クーポン発行による店舗への送客や決済データ分析など、加盟店向けサービスが収益のもう1つの柱と言われているが、本命は間違いなく「ローン」だろう。

 Zホールディングスも後払いサービスやローンなどの金融サービスを「マネタイズの柱」と決算会見で明記しており、準備を着々と進めているとみられる。ソフトバンクの宮川社長も、中国の「Alipay」について「後払いやローンなどのサービスが収益化の主力」との見方を示しており、期待の高さがうかがえる。

 この分野では、今年8月より「メルペイ」が20万円までの少額融資サービス「メルペイスマートマネー」の提供を開始するなど、マーケットが立ち上がりつつある。スマホ決済と金融サービスの融合が利用者にどう評価されるのかが、今後の収益化の鍵となりそうだ。

IT専門の調査・コンサルティング会社として、1993年に設立。 主に「個別プロジェクトの受託」「調査レポート」「コンサルティング」サービスを展開。 所属アナリストとの意見交換も無償で随時受け付けている。 https://www.mca.co.jp/company/analyst/analystinfo/